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魔女は微笑む 【ハッピーエンド】

この話はハッピーエンドです。

 アルテナは久方ぶりに感じる海の波に、荒んだ心が癒されました。もしかしたら王子がアルテナのために船を出してくれたと考えたからです。しかし王子はアルテナが人魚であることも気がついていないはずです。

「おうじ」

 そこに誰かが訪ねてきました。振り返ったアルテナは大きく目を見開きます。そこには王子が立っていました。

「おうじ!」

 アルテナは王子に飛びつきました。王子は少し警戒しているような顔つきでアルテナを見ます。そして迷うように、口を何度か開けたり閉じたりしました。

 アルテナは首を傾げました。

「おうじ?」

「お前は、バケモノなのか?」

「ばけもの…… わたし?」

 王子は辛そうにアルテナを見ました。その言葉は王子が好んで使っているわけではないと、アルテナには伝わってきました。

 アルテナはこの部屋にある机と椅子がある場所に、王子の手を引いて連れて行きました。

 王子は大人しくアルテナの後をついてきます。

「すわって、ながくなる」

 王子はアルテナの顔を辛そうに見つめてきます。その様子にアルテナはため息を吐きました。

「王子様。あるところに夢見がちな人魚がおりました。その人魚は海の外の世界に行くことを夢に見ていました。そして、人魚が成人を迎えると、海面に上がり世界に感動しました。海面には大きな船があり、中に王子様がいました。人魚は一目で王子に恋をしました。そして、魔女に頼んで人間にして貰いました。人魚は王子に会いに行きましたとさ」

 アルテナは今までのたどたどしい喋り方ではなく、すらすらと喋りました。

「では、お前は人魚なのか?」

「私は一度あなたの命を救っています。あなたは覚えてはいないですが」

「命を救っただと?」

「嵐の中、投げ出された王子を陸まで運んだのです」

「そうだったのか」

 王子は机の上で頭を抱えました。あまりにも現実離れな話です。しかし王子は知っていました。王妃から人魚の話は何度も聞いていたからです。しかしそれは不老不死の薬としての話でした。

「おうじ、これ、しょうこ」

 アルテナは悲しげな顔でソレらを王子に渡しました。ソレは今まで大事に持っていた王子の指輪と、昨日の晩に流した涙が鱗になったものでした。

 アルテナの手の大きさほどあるその鱗は、魚にはあり得ないサイズでした。そのキラキラと輝く淡い赤の鱗と指輪を、王子は受け取りました。

「これは…… そうか、お前が助けてくれたのだな。お前は私が好きか?」

「ええ! すき! 家族よりも、故郷よりも!」

 王子は疑うようにアルテナの瞳を覗き込みます。しかしアルテナの瞳は海の底のように澄んでいました。

「そうか、お前は故郷を捨てて私の元に来たのだな」

 絞り出すような声でした。その声を聞いたとき、アルテナは再び涙を流しました。

 そこに修道女が入ってきました。

「えっ、なにこの浮気現場を問い詰められているみたいな空気。えっと、王子? あの、誤解をときにきました」

 修道女はアルテナを睨むと、アルテナに指をさして名探偵さながらに言いました。

「彼女は人魚なのです! ご覧の通り、涙が鱗になっています。気持ち悪い、バケモノなのです!」

「だまれ! アルテナのことをバケモノだと言うな! 彼女は私の命の恩人なのだ」

「えっ?」

 修道女の勝ち誇った顔が固まります。そして、鬼のような形相でアルテナのことを見ました。

 王子は迷いを断ち切った顔で修道女を睨みます。

「お前は心が汚い! お前を娶ることはない。私が娶るのはアルテナだ」

「そいつはバケモノですよ?」

 修道女はそう言いましたが、その声に力はありませんでした。

「かまわない。私が選んだのが、アルテナという事実以外関係ない」

 アルテナは突然のことに理解が追いつきません。だって昨日まで良い雰囲気だった二人が言い争っているのです。

「おうじ?」

「アルテナ、誓おう。私、アンジュはアルテナを永遠に愛し、慈しむ。さあ」

「私は……」

 修道女は呆然としているだけで、ぴくとも動きません。

 アルテナは『愛してる』と返せないことに気がつきました。

「私、アルテナは王子……」

 王子はアルテナを抱き寄せて耳元で囁きました。

「アンジュだ」

「私、アルテナは王子アンジュを永遠に、あいしてる」

 その瞬間、喉の奥が熱くなり胸元の貝のペンダントも熱くなりました。そしてアルテナは声を出せなくなったのです。

「これで、二人は結ばれた」

 窓の外では花火が揚がりました。王子はアルテナの顔を上向かせると、口づけを落としました。

 その瞬間体の痛みや、違和感がキスによって流されていきます。まるでもう一度体が人間として上書きされていくようです。

 最後に胸元の貝のペンダントが割れました。

 アルテナがいつの間にか瞑っていた目を開けると、王子は幸せそうに笑って固まっていました。

 慌てて部屋を見渡すと、ローブを纏った影がいました。

「アルテナ、良かったな」

「エスパーニャさん!」

 魔女の声は海の底で聞いたような醜い声でした。アルテナは魔女に走り寄りました。

「お前の望みが正しく叶った。だからお前は人間になった。これで王子とも結ばれることが出来る。そして、アナミ」

 アルテナは修道女を見ました。修道女は悔しそうな顔でアルテナを見ていました。

「はい」

「お前は賭けに負けたな」

「まさかあなたと話してる最中に、王子に話を聞かれちゃうなんてミスね。はぁ、私は囲う方が好きなのに」

 修道女は修道服を脱ぎ捨てました。真っ白な美しい裸体が闇の中でぼんやりと光ります。

「修道女さん?」

「アルテナさん。私はアナミよ。以後よろしくね、義妹ちゃん」

 先ほどまでとは態度が変わりすぎて、アルテナには訳がわかりません。なぜ脱いだのかもわかりません。

「アナミさん? 義妹って?」

 アルテナがようやく聞き返した時、部屋にはもう一つの影がありました。

「そのままの意味よ! アナミ、ようやくあなたを永久に手に入れられる。もう離さないよ。人魚の一生は長いからね。あと、久しぶりね、アルテナ!」

 プカプカ浮いているのは魔女のお陰でしょう。そこにいたのは一つ上のお姉様でした。

「は?」

「さあ、始めるよ。アナミはこの人魚との賭けに負けた。その代償としてその体は人魚となる。またお前達二人は永久のパートナーとなる。おめでとう」

 魔女はアルテナの混乱など放置して、物事は進んでいきます。あっという間にアナミさんは人魚になっていました。

「アナミさん? どうゆうこと!?」

「理解が遅い。つまり、私は王子と結婚したら恋人である彼女をこっそり城で飼うつもりだったのよ。王子と結婚したらね」

「逆に、アルテナが王子の心を掴んで、アナミが捨てられたら人魚になってっていう賭けだったの」

 二人は同じ水の球に入って答えてくれます。

「つまり皆ハッピーエンドと言うことだ。そろそろ疲れたから帰る」

 魔女は気怠げに言うと歩き出しました。それに合わせて人魚が入った水の球が着いていきます。

「お姉様! 家族にアルテナは幸せになります! って伝えて下さい!」

「はーい。王子にアナミを振った罪はアナミを攫うことで許してやるって言っておいて! と、アルテナ大好きよー!」

 水の球が海に入ったのが見えた瞬間に、時間が動き出しました。

 王子は腕の中にいたはずのアルテナが移動していたことと、アナミさんが居なくなっていることに驚きましたが、理由を話すと首を傾げながらも納得してくれたようです。


 二人は人間の寿命が尽きるまで幸せに上の世界で暮らしました。そして寿命が尽きる前に海に迎え入れられました。

 今でも幸せに海の中で暮らしているのではないでしょうか。

 神楽 斎歌です。この物語は沢山の友の協力によって産まれました。

 最初に人魚姫を読んだ感想は、こんなに幼い日の思い出を壊すものかというものでした。

 王子は修道女の身代わりとして、人魚姫を傍に置き、人魚姫は魂が欲しいがために結婚したいという物だったからです。もちろん解釈によっては違う読み方になるのかもしれません。それでも私は、人魚姫の登場人物が嫌いになりました。

 この気持ちを書いたのがバッドエンドです。王子は望みの通り偽物の命の恩人と結ばれます。しかしその修道女には、人魚の恋人がいます。修道女が望んでいるのは、人魚を自分で飼うお金だったのです。魔女との取引は、言及しないことにします。彼女が支払う代償は何だったのでしょうね。

 そしてハッピーエンドには全ての結末を書きました。魔女をいいやつにしたかったのです。愛した者同士結ばれるエンドになったので、満足しました。

 ここまでお読みいただいた皆様、ありがとうございます。

 よろしければ、また覗きに来てくださいね!

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