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代償は全て 【バッドエンド】

バッドエンドです。グロイ表現が出てきます。ご注意ください。

 アルテナは久方ぶりに感じる海の波に、荒んだ心が癒されました。もしかしたら王子がアルテナのために船を出してくれたと考えたからです。しかし王子はアルテナが人魚であることも気がついていないはずです。

「おうじ」

 そこに誰かが訪ねてきました。振り返ったアルテナは大きく目を見開きます。そこには修道女がいました。

 改めて修道女を見ると確かに美しい顔をしています。モノクロの修道服がよく似合う透き通るような肌と、まるでアルテナの鱗のような美しい淡い赤の瞳、そして綺麗に結われた髪は珍しい銀色でした。

 修道女はアルテナをじっと見ると、警戒しているような顔つきで、口を開きました。

「昨日は、名前すら名乗れなかったから後悔していたのよ。私の名前はアナミ。あなたはアルテナちゃんね」

 アルテナは、どうしても睨み付けることを止めることは出来ませんでした。だって彼女が居なければ、すんなりと王子と結ばれたと考えていたからです。

「ねぇ、アルテナちゃんはどうやって海から上がってきたの?」

「えっ?」

 アルテナはアナミの顔をぽかんとした顔で見ます。今彼女の口から出た言葉が理解できなかったからです。

「いま、なんて」

「だから、どうやって海から上がって人のふりをしているの?」

 アナミはにっこりと頰笑んで、アルテナが答えるのを待っています。アルテナはまるで水の中で溺れたかのように、酸素を求めて喘ぎました。

「わ、わたしは、にんげん」

「そんな嘘はいいの。わかってるから、答えて」

 じっとこちらを見つめる彼女の瞳には、暗い炎が見えたような気がしました。アルテナは怯えを含んだ声で聞きます。

「おうじに、いわない?」

 アナミはにっこりと頰笑むだけです。

「私は、魔女と取引をしたの。その魔女から人間になれる薬をもらったの」

「魔女。そう、わかったわ。ありがとう、アルテナちゃん」

 アナミはアルテナにお礼言うと、部屋から出て行こうとします。アルテナは、慌てて彼女を呼び止めました。

「ちょっと、まって! 私だけじゃ、不公平」

 アナミは足を止めました。

「それもそうね。じゃあ、良いことを教えてあげる。さっき扉の向こうには王子がいたよ」

「えっ」

 アルテナは絶望を帯びた顔になりました。その顔をみてアナミは声をあげて笑いました。

「いやだ、面白い顔ね。じゃあね。私は王子に会ってくるから、バケモノさん」

「ばけもの……」

 王子もそう思っただろうか。やはり人魚が人間と結ばれることはないのだろうか。ふらふらとアナミが出て行った扉を明けて、デッキに出ました。

 アルテナのいる場所の上にも同じような海に面したデッキがあります。そこに王子とアナミがいました。王子はこちらに背を向けていました。

 二人を見上げるアルテナのことを、王子は気がついていません。こちらを向いているアナミは、挑戦的に瞳を光らせました。

「まさか、アルテナが」

「私は嘘はつきません。確かにあの時の発言は不用意であったと思います。しかし驚いてしまって…… こんなんじゃ、王子に相応しくないのも当然ですね」

 悲しげに笑うアナミの顔は、アルテナから見ても抱きしめたくなるような美しく儚い顔でした。王子もアナミを抱きしめると、優しくアナミの頭を撫でます。

「いや、いや、いやだ」

 王子の次の言葉で全てが決まるとアルテナは感じ取りました。しかし耳を塞ぐことも出来ずに、アルテナは全てを聞きました。

「アナミ! そんなことを言うな! 私はお前を嫁として迎える。あの時、私はお前があの娘を陥れるために嘘を吐いたのだと思ったのだ。しかしお前の心は私が恋した通り美しい。あの嘘つきの娘のことは気にするな。あいつにも聞きたいことがある」

 アナミは王子の胸から身を起こして、王子と向かい合います。

「ああ、神よ。お許し下さい。私、アナミは王子、アンジェを愛してしまいました。この身をアンジュに捧げます」

 アナミは美しい涙を流しながら王子に囁きます。王子もにっこりと笑うと言いました。

「神よ。許せ。このアナミは私が娶る。アナミ、愛している。我が身を救ってくれたあの日から、こうなることは決まっていたかもしれないな。永遠にお前を幸せにしよう」

 二人の影が近づきました。その瞬間に花火が揚がりました。光の花を背景に二人は幸せそうに頰笑みました。

「ああ、あ、い、し、て、る」

 アルテナは震える声で絞り出しました。その瞬間に胸元の貝のペンダントが熱くなり、アルテナの声は出なくなりました。

 アルテナはその言葉がどういう意味を持つ言葉かを知って絶望しました。王子と結ばれることは最初から無理だったのです。

 アルテナは、今まで大事に持っていた王子の指輪を海に向かって投げました。そして、よろよろと舳先に向かって歩きます。どうしてか、そこに呼ばれている気がしたからです。不思議なことに、誰にも会わずにたどり着くとそこには、ローブを纏った影がいました。

「ああ、来たか。アルテナ」

 『エスパーニャさん!』とアルテナは口を動かしました。しかし声は出ません。魔女の声は、アルテナの声そのままでした。

「ああ、アルテナは王子と結ばれなかったのか」

 アルテナは慌てて首を横に振ります。

『まだ、チャンスはある!』そう口を動かします。

「いいや、もうない。契約を覚えているね?」

 アルテナは顔を真っ青にし、魔女から逃げるように後ずさりました。その瞬間、体中が中から溶けていきます。まるで腐った果実のようにどんどん自分の体中の皮がずる剥けていきます。醜い水ぶくれがブクブクと現れ、気が狂うような痛みがアルテナを襲います。

 もうアルテナは痛みだけが、生きてる証でした。

 瞳はとうに転がり落ちていて暗闇しかない世界にいます。どこからから、アルテナの声で魔女は言いました。

「あそこで声を大人しく捧げていたならこんな苦しみを味わうことはなかったのにね。アルテナ、お前の姿は確かに貰った。これで私も外に出ることが出来る。ありがとうね」

 魔女が何をしたのかはわかりません。

 ただアルテナは王子を乗せた船の船首像なっていました。動くことは出来なくなったアルテナでしたが、この船が壊れて使われなくなるまで、後悔の涙を流しながら家族が泳ぐ海を眺めていました。

 アルテナには後悔しか残りませんでした。どうして私はあの王子に恋をしてしまったのだろう。

 彼女の船が使われると必ず海は荒れ狂いました。しかし嵐で船が壊れることはありませんでした。

 王子と修道女は末永く幸せに暮らしたそうです。

次の話は【ハッピーエンド】です。

最後のあとがきに、作者のあとがきがございますので、よろしければ、お読みください。


バッドエンドをお読みいただきありがとうございました。


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