金曜 1:45
任務を終えて変身を解いたメンバーは、再び街の中心に集まった。
「ネネのヤツ、まだ戻ってきてねえぞ」
言われてみれば、猫柳さんの姿が見えない。
「……どうやら、犯人がいたようだ」
まさか消失事件の犯人と、今まさに戦っているのか?
「早く行きましょう!」
「長谷川先輩、今夜も一人消えます。後始末の準備を」
「了解した」
「棗さん、フォローを頼みます」
「はい」
言いながら二人は街に消えた。
「何やってるんですか! 早く行きましょうよ!」
「君に何ができる?」
残るは僕と楔先輩、冷子先輩。確かに僕が行ったところで、なんの役にも立たない。
「僕は……」
「バカかリク! オメーも行くンだよ!」
「でも、僕は変身できません。完全に足手まといです」
そりゃ僕だって助けたい。でも事実が足を縫い留めて、ただ立ちすくむしかないんだ。
「仲間一人助けねえで、ナニが正義の味方だ!」
「そんなの分かってる!」
思わず叫んだ。
叫んでしまった。
真一の時だって何もできなかった。
今の自分が憎い。
自分の無力さが、どうしようもなく憎い。
「――だから、僕は一人で行きます」
「別行動だと! ザケんな!」
「ふざけてないです」
僕は背を向け、ストレッチを始める。
「止めろ! 生身で行ったら……」
「止めません。まだ若いんだから、無茶してもいいじゃないですか」
「オイ!」
「武井 陸」
楔先輩に肩を叩かれた。
「なんですか?」
彼が眼鏡を外す。
前髪を上げた。
「せ……」
灰色の虹彩に、紅い瞳。
女性とも男性とも、幼くも大人びても見える。
全てにおいて中性的で、美しい顔立ち。
「――見ての通り、人とは呼べない身体だ」
真っ直ぐ僕を見つめている。
「それでも戦う意味がある。誰しも、何かと戦っている」
僕の根底まで見透かすような、透明で貫くような視線だった。
「再び君に問う。もしこの世界にヒーローがいなかったら、君はどうする?」
ヒーローなんていない。
誰も世界を救えない。
僕だって、誰も助けれないほど無力だ。
それでも助けたい。
世界とは言わない、今の彼女を救いたい。
それが僕のすべて。
僕の戦う理由は、それで十分だ。
「ヒーローがいないのなら……」
僕は腕のブレスレットを握った。
「僕が救う者になればいい!」
「正解、それが君のキーワードだ」
光りがあふれ、全身を包み込む。