金曜 2:10
僕は走っていた。猫柳さんの向かったポイントへ。
「もっと……」
彼女が向かってから、かなりの時間が経っている。早く到着しなければならない。
「もっとだ!」
全身に空気の壁がまとわりつく。
「邪魔だ!」
僕は、空気を突き抜ける。
聞いた場所は高速道路だった。週末でも深夜は車も少なく、道の脇に電灯がたたずんでいるだけ。来た方も行く方も静か過ぎて、まるで世界には僕だけが取り残されてしまっているみたいだ。
「ブルー! どこだ!」
人の姿は無い。彼女は、一体どこに行ってしまったんだ。
「ブルー!」
その時、赤い光線が僕に向けられた。細い一本の光線が、胸元をユラユラと舞っている。
ジジジと音が鳴った。
線のたどる胸元から煙が立ち、あのスーツが。
焼けている!
「避けなさい!」
ヘルメットの中に響き渡る大きな声に反応し、とっさに飛び退いて光線を避けた。瞬間、僕が居た場所に別の光線が伸びる。二本の光線は触れると膨れ上がり、黒い球体となって消えた。
「五本先! 電灯の影に走って!」
もう一度ヘルメットに声が聞こえる。これは猫柳さんの声だ。僕は反応し、その場所へ走る。
「無事だったのか!」
火花を散らしながら電灯の影に滑り込むと、そこには変身した猫柳さんがいた。腰に大きいベルトを巻き、紺色のスーツを身にまとっている。見たところ、まだ傷は無い。途端に安心し、気が緩んでしまう。
「一度、会ったよね?」
「マンションの屋上以外で変身したのに、人に見られてしまうとは思いませんでした」
人に見られたからって、何も攻撃しなくたっていいじゃないか。
「だから辞めましたよ、まったく。あなたという人は、まったく」
どうやら彼女は、精神が昂ると言葉を繰り返すみたいだ。しかし逆ギレとは困ったもんだな。
「加えて言うなら、ワタシはダークブルーです。ダークブルー」
それが本音ですか。
しかも戦隊にしてはビミョーな色ですよ、ええ。
「……それで、今は何を?」
「膠着状態です。相手は遠距離兵器を使っています」
「さっきの武器だね」
「強い熱量を衝突させると、そこにマイクロブラックホールが出現する。大気中では形を維持できず消滅してしまいますが、それを人体の近くで出現させれば話は別。発生した瞬間に人を飲み込み、ブラックホールも消える」
「そうやって人を消していたのか」
「あなたは加速能力があると聞きました。戦った感覚、相手は熱反応追尾で照準をつけている。あなたなら追尾を抜け切れるかもしれません」
「できるかな」
「できるかではなく、やるのがワタシ達なのです」
「なるほど、言うね」
その時、車が遠くからやって来た。大きなトラックだ。
「おい、いいかげん観念しろ!」
遠くから声が聞こえる。
「出てこなきゃ、あの車を撃つぞ!」
どうする。このまま出たら的だ。
「止めておきなさい」
隣で猫柳さんが言う。
「見捨てて下さい、お願いします。見捨てるのです。見捨てなさい」
言葉を繰り返したな。
彼女は気が動転している。
当たり前だ。
彼女は僕が来るまで、長時間に渡り緊張を一人で味わっている。
ここは僕が『流れ』を変えなくてはならない。
「やるぞ。僕が……やるんだ」
「撃つ!」
相手の声と共に、僕は道路に飛び出した。
「電子轟音」
背後から押される感覚。おそらく、猫柳さんが背中に衝撃を加えている。僕は、それを初速として一気にギアを上げた。
「出てきたな!」
「うおぉぉ!」
僕は迫る車を駆け上がり、そのまま跳び箱の要領で背後に突き飛ばした。
「天地鳴動」
後ろで猫柳さんが車を受け止め、なんとか通過。
「早く逃げて!」
ヘルメットに声が響いた。僕は反射的に振り返り、全力で走り出す。
「遅い!」
背後からジリジリとした音が聞こえる。
「早く! 早く!」
スーツを着ているのに背中が熱い。すでに照射を受けている。
どうする。
二本目の光線が――来る!
「よく乗り切った」




