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第九投「ポジション決め」

 翌日の放課後、第六練習場 ──


 ホームルームが終わり、わたしと響ちゃんがいつものようにジャージに着替えてから第六練習場に訪れると、そこには上はティーシャツ、下はジャージ姿の藤原さんが立っていた。


「あっ、藤原さんだ! 来てくれたんだ!」

「……約束ですから」


 藤原さんは照れてしまったのか、そう言ってそっぽを向いてしまった。わたしは嬉しくなって藤原さんに抱きついた。


「それでも嬉しい! ねぇ、(さくら)ちゃんって呼んでいい? わたしのことは寧々って呼んでいいから」

「きゅ……急に馴れ馴れしすぎです! 離れなさいっ!」


 慌てて振り解こうとする櫻ちゃんだったけど、わたしはガッチリ掴んで離さなかった。呆れた響ちゃんがわたしの奥襟を掴むと櫻ちゃんから引き剥がした。


「寧々、藤原さんが困ってるから」

「ブゥゥゥ~~」


 わたしは小猫のようにプラーンと持ち上げられながら頬を膨らませる。櫻ちゃんは明るい顔になって、響ちゃんに軽くお辞儀をする。


「ありがとう、貴女はしっかりしてそうね。確か、隣のクラスの……」

「一年B組の三壁響子、これからよろしくね」


 響ちゃんはわたしを降ろすと、櫻ちゃんに手を差し伸べた。櫻ちゃんは微笑みながら


「私はA組の藤原櫻子よ。こちらこそ、よろしくね」


 と握手を交わした。


 そこにお姉ちゃんが練習場に入ってくると、響ちゃんと櫻ちゃんが握手しているのを見て、嬉しそうに駆け寄ってきた。


「櫻子ちゃん、やっぱり枕投部に入ってくれるのね!」

「はい、紫音先輩……約束ですから」


 お姉ちゃんは、やや恥かしそうに答えた櫻ちゃんの頭を撫ではじめた。さらに顔を赤くする櫻ちゃん。可愛い! お姉ちゃんはわたしたちの顔を見回してから、改めて宣言した。


「これで四人揃ったわ。まずは全国大会に向けて頑張りましょう」

「目標は全国制覇! お~!」


 わたしは手を天高く掲げながら叫んだ。



◇◇◆◇◇



 旅館ステージ 練習モード ──


 お姉ちゃんがリングギアを操作すると、BACEからいつもの旅館ステージが展開された。全員がユニフォームのオレンジ色の浴衣に着用している。さっそく練習の開始か!? とワクワクしていると、お姉ちゃんが何故かリングギアから半透明のボードを取り出した。そして、どこからかペンのような物を取りだして、それを振りながら口を開いた。


「初心者さんが二人いるので練習を始める前に、まずは基本的なルールのお勉強をします」

「えぇ~」


 突然始まった勉強会にわたしは抗議をするが、響ちゃんは女の子座りで聞く体勢になっていた。相変わらず勉強好きだなぁ、響ちゃんは……仕方ないので、わたしも同じように体育座りで座ることにした。




 お姉ちゃんはペンでボードに何かを書いていく。まず長方形を描いて二本の横ラインを引いて三等分にした。それぞれのエリアにリベロエリア【LA】、ハーフエリア【HA】、ジェネラルエリア【GA】と書き込んでいく。


挿絵(By みてみん)


 そして、わたしを指しながら尋ねてきた。


「はい、寧々ちゃん。枕投げの基本的な三つのポジションは?」

「大将、リベロ……アタッカー?」


 わたしは、ちょっと自信がなかったので首を傾げながら答えた。お姉ちゃんは少し笑いながら頷く。


「そうね、その三種類が基本ポジションよ。国際ルール上では大将のことはジェネラル【G】、壁役のことをリベロ【L】、アタッカーは大まかに二種類、ディフェンシブアタッカー【DA】 と、シューティングアタッカー【SA】 になるわ」

「ふむふむ……」


 わたしは、コクコクと頷く。


「ジェネラル、いわゆる大将以外はポジションは、どのポジションが何人いてもいいの。極端なチームだと三人リベロなんてチームもあるみたい」


 お姉ちゃんの言葉に、さすがの響ちゃんも「それでどう戦うのか?」と思ったのか首を傾げている。


「とりあえず、私たちは基本の四ポジションでいこうと思うの。まずは守りの要であるリベロだけど……」

「はい、私ですね!」


 響ちゃんは軽く手を上げた。お姉ちゃんは頷きながら、リベロエリアに『リベロ』の文字を書き込んだ。


「まずリベロは、このリベロエリアから出ることができないの。あとは、この前映像を見せたときに話したよね?」

「はい、ちゃんと予習してきました。大丈夫です!」


 響ちゃんの答えに、お姉ちゃんはウンウンっと頷いてから、今度は櫻ちゃんの方を見た。


「櫻子ちゃんは、中学と一緒でシューティングアタッカーよね?」

「はい、出来ればその方が助かります」


 シューティングアタッカー【SA】 ──

 基本的に防御に参加せず、攻撃だけするポジション。とにかく早く正確に枕を投げる技量が求められるポジションである。攻撃寄りの選手が便宜上そう呼ばれているだけで、アタッカーは枕を持った状態でジェネラルエリアに入れない以外の制限は基本的にはない。リスポーン権があり、セット前半二分までは当たっても三十秒で復活する。


 お姉ちゃんは、ハーフエリアに『SA』と書き込んだ。その時点で、わたしは自分がSAになると思っていたのでボソッと呟いた。


「じゃ、わたしはディフェンシブアタッカーか~」


 それに対して、お姉ちゃんが首を横に振って答えた。


「ダメよ~ディフェンシブアタッカーは私のポジションなんだから、寧々ちゃんは別」

「貴女にディフェンシブなんて出来るわけないじゃない」


 お姉ちゃんに否定された上に、さらに櫻ちゃんが追い討ちを掛けてくる。言葉の端々にトゲがある気がするよ。まだ昨日負けたことを根に持っているみたいだなぁ。


 ディフェンシブアタッカー【DA】 ──

 攻撃以外にも枕を使って防御や囮になるテクニカルなアタッカー。リベロが塞いでないサイドを守るのが基本になる。チームのまとめ役であるキャプテンがなることが多いポジションだけど、ルール的にはアタッカーになるので【SA】と区別はない。


「別って言ったって、残ってるの……大将じゃん!」

「そう、寧々ちゃんは大将をやってもらうつもりだから」


 ジェネラル【G】 ──

 日本では大将と呼ばれることが多い。セット開始二分はジェネラルエリアから出ることは出来ず、出ると一度目は警告、二度目は負けになる。大将にはリスポーン権がなく、当たった瞬間、そのチームの負けになりゲームセットである。


 初心者のわたしが大将なんて、本当にいいのかな? そんなに自信のない顔をしていたのか、お姉ちゃんと櫻ちゃんが励ましの言葉を掛けてくれた。


「大丈夫、寧々ちゃん避けるの得意だし!」

「安心して大将が一番弱い人がやるのは、よくある作戦よ」


 お姉ちゃんはともかく、トゲのある櫻ちゃんの言葉にわたしは頬を膨らませてから、ボソッと呟く。


「……櫻ちゃん、わたしに当てられたくせに」

「なんですって!?」


 櫻ちゃんが一歩こちらに踏み出すと、お姉ちゃんが慌てて間に入って仲裁する。


「ほらほらケンカしないっ! それぞれポジションも決まったことだし、さっそく練習をしましょう! 私は響子ちゃんにリベロを教えるから、櫻子ちゃんは寧々ちゃんに投げ方を教えてあげてね」


 櫻ちゃんは頷いてから、こちらを一瞥して


「わかりました、紫音先輩。では小鈴さん(・・・・)、こちらに」


 すたすたと歩いて行ってしまった櫻ちゃんのあとを、わたしは慌てて追いかけていった。



◇◇◆◇◇



 お姉ちゃんと響ちゃんと離れてジェネラルラインの辺りまで来ると、わたしは櫻ちゃんと投げる練習を開始することになった。櫻ちゃんはリングギアを操作している。


「何してるの、櫻ちゃん?」

「的を出しているのよ」


 櫻ちゃんが、そう言い終わると大体十メートル先ぐらいに半透明の人形のようなものが現れた。


「結構遠いね?」

「とりあえず投げてみなさい。助走できるのは、そのラインの後方三メートルだけでラインは越えたらダメ」


 わたしは頷いてから枕を拾うと、助走を思いっきり付けてから枕を的に向かって投げた。


 ふわっと浮いた枕が、的に全然届かず自陣のリベロエリアあたりで落ちた。櫻ちゃんはため息をつくと口を開く。


「無様な投げ方ね。やっぱり作戦でも何でもなく、単純に投げるのが下手なだけだったのね……だいたい、わかったわ」

「へ……下手で悪かったね! 仕方ないじゃない、始めたばかりなんだからっ!」


 わたしの抗議に、櫻ちゃんは首を横に振った。


「別に馬鹿にしたわけじゃない。いい? 貴女の投げ方では力が分散してしまっていて、手投げになっての。こうよ……」


 櫻ちゃんは、その場で助走もつけずに、ゆっくりしたモーションで踏み出して、腰を捻り腕をしならせて枕を投げる。飛んでいった枕は、見事に的に命中し『ヒット』の文字が浮かんでいた。


「さすが櫻ちゃん! たいして力を入れてない感じなのに凄い飛ぶね!」

「全身の力を枕に伝えて投げるイメージよ。さぁ、どんどん投げて」


 わたしは枕を拾いあげると両手で掲げて


「おぉぉー!」


 と気合いの雄叫びを上げた。


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