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第十投「ソーセージの誓い」

 翌日の放課後、第六練習場 ──


 櫻ちゃんと練習を始めて三十分ほどが経過していた。まだ名前で呼んでくれないし、櫻ちゃんとの間には壁がある気がする。チームメイトになったんだから、もう少し愛想を良くしてくれてもいいと思うんだけどなぁ。


 そんなことを考えながらも、わたしは枕をひたすら投げ続け、櫻ちゃんはその都度フォームの確認と指摘をしてくれていた。


「もっと左腕を伸ばして空を掻くように! リリースポイントが早いっ! それじゃ砲丸投げよ」

「ぐぬぬ……」


 櫻ちゃんの的確なアドバイスのお陰で、わたしのフォームもだいぶ様になってきている……と思う。だけど、やっぱり何かが足りないのか、的には全然届いていなかった。


 櫻ちゃんは、真剣な表情で首を傾げながら呟く。


「なにかいけないのかしら? ……身長?」

「身長はどうしようもないでしょ!」


 わたしは馬鹿にされたと思って怒鳴ると、櫻ちゃんは軽く流して微笑みながら


「冗談よ。フォームは良くなって来たから、たぶん単純に筋力不足だと思う。下半身は大丈夫そうだから、上半身の筋トレが必要ね。そうなると……小鈴さん、サッカーの経験は?」


 と尋ねてきた。わたしは不思議に思いながら首を傾げて答える。


「中学の頃にちょっとやってたよ。途中からフットサルにチェンジしたけど」

「そう、じゃこれは出来る?」


 櫻ちゃんは枕を一個拾うと、両手で頭の上に乗せて右足を少し上げてから、そのまま一歩踏み出して全身を使って両手で枕を敵陣に向けて投げた。山なりに飛んでいった枕は人形の後ろに落ちる。


「なんだかサッカーのスローインみたいな感じだね?」

「小鈴さんも、ちょっとやってみて」


 わたしも枕を拾うと、櫻ちゃんと同じように全身の力で枕を投げる。わたしが投げた枕は、山なりに飛んでいき人形の右側あたりに落ちた。


「届いた! ……けど、あんなゆっくりじゃ誰も当たらないよ」

「まぁ、普通は当たらないでしょうね」

「それじゃ意味ないじゃん!」


 わたしの苦情に櫻ちゃんは少し考えると、敵陣の方を指差しながら


「論より証拠と言うし、実際に体験してみればわかると思う。小鈴さん、ちょっと人形(ドール)がある辺りまで行ってくれる?」


 と言ってきた。私は意味がわからず首を傾げながらも、素直に人形がある位置まで歩き出す。



◇◇◆◇◇



 わたしが先ほどまで人形があったところまで来ると、いつの間にか消えていて櫻ちゃんの後ろあたりに同じような人形が現れていた。櫻ちゃん自体はジェネラルラインからリベロライン辺りまで前に出てきている。


「いったい、何を始めるの?」

「これから私と後ろの人形(ドール)が枕を投げるから、ちょっと避けてみて」


 櫻ちゃんはそう言うと、わりと弱めに枕を投げてくる。よくわからなかったけど、わたしは櫻ちゃんが言ったとおりに枕を避けはじめた。


「こんなの余裕だよっ!」


 わたしが飛んでくる枕を余裕で避けていたら、いきなり視界の端に上から下に枕が映り込んだ。不意に現れた枕に反応して、思わず体が硬直してしまう。そこに飛んできた枕が肩に当たり、わたしの上に『ヒット』の文字が現れた。


 櫻ちゃんは勝ち誇った顔で聞いてくる。


「わかったかしら?」

「ぐぬぬ……直接飛んでくる枕ばかり見ちゃって、真上から降ってくる枕まで意識がまわらない?」

「正解、思ったより頭が良かったのね」


 そこっ心底不思議そうな顔をしないっ! 確かに勉強はあんまり得意じゃないけど!


「小鈴さんは、筋トレをしつつオーバースローの練習、あとさっきのトゥハンド・オーバースローの練習、その辺りをみっちりやればいいと思う。私もやるからには負けるつもりはないから、しっかり付いて来なさい」

「う……うんっ!」


 こうして、わたしは櫻ちゃんの考えたメニューをこなしていくことになった。



◇◇◆◇◇



 間倉高等学校 女子部室棟 更衣室 ──


 間倉の女子部室等にはシャワー室が何個かあり、わたしたちは練習が終ったあと汗だくの身体を流してから髪を乾かしていた。BACEで作り出した空間とはいえ動いているのはわたしたち自身であり、当然疲れもするし汗もかくのだ。


「あ~さっぱりした~」


 わたしが首を振って髪についていた水分を振り払っていると、響ちゃんに頭の上からタオルを乗せられた。


「うわっ……何するの!?」

「何するのじゃないよ。まったく子犬じゃないんだから水を飛ばさないでよ」


 響ちゃんは、そのまま丁寧に髪を拭いてくれる。なんだか気持ちよくて大人しくしていると、お姉ちゃんと櫻ちゃんが呆れた表情を浮かべながら言ってきた。


「あらあら、本当に仲がいいわね~二人とも」

「貴女たち……まるで母娘(おやこ)のようね」


 櫻ちゃんのわたしと響ちゃんは一斉にツッコミを入れる。


「誰が母娘(おやこ)よ!」


 声が揃ったことが面白かったので、わたしと響ちゃんはお互いに目を合わせて笑い出した。一頻り笑いあったあと、ふと下着姿の響ちゃんの胸の目にいく。ぐぬぬ……いいなぁ。


 わたしの視線に気が付いたのか、響ちゃんは赤い顔をして両手で胸を隠しつつ文句を言ってくる。


「ちょっと寧々、どこ見ているの!」

「響ちゃんのおっぱ……いたたたたたた!」


 わたしが言い終るまえに、響ちゃんのアイアンクローがわたしの頭蓋骨を締め上げていた。痛い! 絵の時より全然力が入っているよ!?


 痛みに耐えながらジタバタと暴れていると、お姉ちゃんが窘めるように響ちゃんを止めてくれた。


「ほらほら、二人ともジャレてないで、早く着替えないと風邪を引いちゃうわよ?」

「わかりました」


 響ちゃんは、わたしから手を離すと立ち上がり、畳んであった制服を着はじめている。わたしも何とか立ち直ると制服に着替えるのだった。



◇◇◆◇◇



 放課後 通学路 ──


 更衣室を後にしたわたしたちは、家の方角が同じということで四人で帰ることになった。丁度見えてきたコンビニを見ながら


「コンビニ寄ってく~?」


 と尋ねてみる。やっぱり部活帰りの買い食いは正義である。食べすぎて夕飯が食べれなくなると母さんが怖いけど……響ちゃんとお姉ちゃんは賛成してくれたけど、櫻ちゃんは「私は結構」と言いながら、スタスタと先に行こうとしたので慌てて捕まえて、お姉ちゃんと一緒に説得した。


「紫音先輩がそこまで言うなら、仕方ありませんね……」

「やった~!」




 わたしたちはコンビニでジャンボソーセージを購入した。粗引きのソーセージはとても美味しいから、わたしは大好きだ。コンビニの前で早速袋から取り出すと、とあることを思いつき空高く掲げて呟く。


「一人はみんなのために みんなは一人のために!」


 響ちゃんは、微妙な表情を浮かべながら同じように袋からソーセージを取り出して、わたしのソーセージに当ててくれた。


「確か……三銃士? 寧々、食べ物で遊ぶと怒られるよ?」

「あらあら……」


 お姉ちゃんも若干呆れ気味だったけど、わたしたちに合わせて同じようにソーセージを掲げてくれた。呆れながらもちゃんと乗ってきてくれる二人が大好き!


 そんなことを考えながら、じーっと櫻ちゃんを見る。つられるように響ちゃんとお姉ちゃんも櫻ちゃんに視線を向けた。三人の視線に若干たじろぐ櫻ちゃん。


「わ……わたしは、やりませんよ!? そんな滑稽なこと」

「えぇ~いいじゃん、ちょっとだけ、ちょっとだけだから~」




 その後、結局しつこいわたしの説得とお姉ちゃんの一言に負けた櫻ちゃんも加わり、わたしたちは改めて宣言する。


「一人はみんなのために みんなは一人のために! 皆で頑張ってこ~」

「お~!」


 宣言も終ってソーセージを食べていると、お姉ちゃんのリングギアから通知音が聞こえてきた。お姉ちゃんがぎこちない手つきで操作すると、Colle(コッレ)が起動した。


「真さんからだ……えっと、あらあら……またあのお誘い」


 お姉ちゃんがColle(コッレ)に届いたメッセージを見ながら難しい顔をしていたので、わたしは尋ねてみる。


「どうしたの、紫音姉ちゃん? 真さんって、ひょっとして彼氏!?」

「いやね……寧々ちゃん、そんな人いないよ。えっとね、他校の人から練習試合の申し込みがあったの。いつもは『部員不足』って断ってたんだけど……」


 わたしは練習試合ということでワクワクと期待が高まっていったが、櫻ちゃんは冴えない表情を浮かべると、お姉ちゃんに尋ねる。


「真さんって桜橋高の如月 真(きさらぎ まこと)さんですか?」

「さすが櫻子ちゃんね、よく知ってるね」

「誰、それ?」


 わたしが首を傾げながら尋ねると、櫻ちゃんが答えてくれた。


「桜橋の如月真先輩、三年のエースSA、桜橋高は去年の県大会優勝高で全国でもベストエイトの強豪よ」

「そうなの、間倉(うち)は去年二回戦で当たって負けちゃったのよ」


 櫻ちゃんの説明に、お姉ちゃんが付け加えてくれた。そんな強豪校が、なんで間倉(うち)に練習試合を申し込むんだろ?


 わたしはそんなことを考えながら、手にしたソーセージを頬張るのだった。

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