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第十一投「基礎練習」

 翌日の放課後、旅館ステージ 練習モード ──


 桜橋高との練習試合は、翌日お姉ちゃんが顧問の先生と相談して受けることに決まった。顧問と言ってもどこかの部活と掛け持ちらしく、わたしは未だに一度も見たことがない。


 試合も決まり、わたしのテンションも上がってきたけど、今日も櫻ちゃんと基本スローの練習である。


「桜橋との練習試合は十日後の土曜日、時間がないから、ビシビシいきます!」

「お~!」


 しかし、このお嬢様ノリノリだなぁ。こんなにやる気があるのに、なんであんなに枕投げするの嫌がってたんだろ? わたしがそんなことを考えていると、櫻ちゃんがポンッと手を叩いて


「まず三分間オーバースロー、一分休んで、トゥハンド・オーバースローを三分、休憩を一分……これを一セットで八セット」


 と今日のメニューを発表した。約一時間投げっぱなしか~、よーしやるぞぉ! でも何で三分刻みなんだろ?


「櫻ちゃん、何で三分で休憩するの? わたし、たぶんもっとやれるよ?」

「それは枕投げの一セットが三分だからよ」

「あ~なるほどね」


 つまり三分刻みで練習することで、感覚を覚えさせるのが目的ってことね。


 櫻ちゃんはリングギアを操作して、敵陣に半透明の人形が現れた。あの人形はドールという名前で、ただの的じゃなくて色々な動きの設定ができるらしい。


「それじゃ、あのドールに向かって投げてみて、オーバースローはLラインから、トゥハンドはGラインから」

「オーケー!」


 わたしは返事をして、ドールに向かって投げはじめた。



◇◇◆◇◇



 約一時間後 ──


 わたしは大の字で寝転んでいた。腕はパンパンで動かないし、大量にかいた汗で浴衣が張り付いて気持ちが悪い! 汗を吸い込むのまで再現しなくてもいいと思う。この練習、思ってた以上にキツイなぁ。櫻ちゃんも同じメニューで練習しているのに、まだまだ余裕みたいだった。


「小鈴さん、もう限界?」

「はぁ……はぁ、櫻ちゃんは全然大丈夫そうだね……」


 櫻ちゃんは髪と一緒に頬を伝う汗を払うと、自慢げに答えた。


「当然よ、中学時代はずっとやってたもの」


 わたしも体力はあるほうだと思ってたけど、いつもと違う力を使ってるみたいで結構しんどい。


「少し休んだら、今度は避ける練習をしましょう」

「りょーかーい」


 わたしが顔を横に向けると、響ちゃんとお姉ちゃんが練習をしていた。響ちゃんは両手で布団を広げて自分の後ろに配置されたドールを守り、お姉ちゃんは別のドールと連携しながら敵陣から枕を投げていた。


 左サイドからのドールの攻撃に合わせて響ちゃんが移動すると、タイミングを少し外してお姉ちゃんが、右サイドから枕を響ちゃんの後方の的に投げようとする。響ちゃんは慌ててお姉ちゃんを押さえようとするが、今度は左サイドから狙われてしまっていた。


 なるほど、あんな感じでリベロを誘導して逆サイドから枕を通すのか……後の的になっているドールもリベロの動きに合わせて当たり難い位置に移動してる。


 わたしが感心したように響ちゃんたちの練習を眺めていると、櫻ちゃんがパンッと手を打ち鳴らした。


「はい、休憩終わりよ。さっさと立つ! 続いて、避ける練習よ」

「よっと!」


 わたしは寝ている状態から、跳ね起きで立ち上がる。よし、まだまだ元気! 起き上がったあと、ふと櫻ちゃんの顔を見ると微妙な表情を浮かべていたので、わたしは首を傾げながら尋ねる。


「どうしたの?」

「そんな起き方すると下着が……」


 わたしは慌てて裾を押さえる。どうも、この浴衣って慣れないなぁ……。




「まずは一対一で避ける練習からだけど、まずはドールが投げる枕を避けてみて」

「わかった」


 櫻ちゃんがリングギアを操作すると、少し離れたところにドールが現れた。そのドールは足元に転がっている枕を拾うと、さっそく投げてはじめた。


 枕なんてそんなに速度でないし、集中さえしていればそうそう当たるものじゃない。よほど接近して投げられない限り避けるのなんて簡単だ。


「よっ! ほっ!」


 わたしはドールが投げてくる枕を易々と避けていく。しかし、飛んでくる枕に緩急がつくようになると、徐々に避けにくくなってきた。なるほど……緩急が付けられると、タイミングが取り難くなって避けにくくなるんだ。


「それでも、わたしには当たらないよっ」


 動体視力と瞬発力には自信がある。多少緩急を付けられても問題なく避けられる。そんなわたしを見ながら、櫻ちゃんは感心するように頷いている。


「やっぱり小鈴さん、猿みたいね」

「誰が猿よ! って、うわっ!?」


 危ない! 櫻ちゃんの発言に気を取られて当たるところだった。それにしても猿はないでしょ、後で引っ掻いてやる!




 しばらくして全てを避けきったわたしは、ドヤ顔を櫻ちゃんに向ける。ふふんっ、どうよ、わたしの回避力は!


「避けるだけなら、櫻ちゃんの枕にだって当たらないんだからっ!」

「へぇ、言いますね。では、一投勝負!」

「おーけー」


 櫻ちゃんは枕を拾って、先ほどまでドールがいた位置より少し離れた。そして、枕をわたしに突きつけて、これから投げることを示した。


 来るっ! 集中、集中!


 櫻ちゃんの左足が上げると腰を捻り力を溜め、右足で地面を蹴ると飛ぶように前に出る。そして左足で地面を踏みしめて、大きくしなった右腕から枕が放たれた。


「投げた! フェイントはない……って!」


 パカーン!


 その瞬間、わたしの顔に枕がめり込んで倒れていた。確かにフェイントを警戒してギリギリまで見ていたけど、避ける動作にすら入れないなんて……。


「まだまだですね、小鈴さん」

「ぐぬぬ……」


 櫻ちゃんは、わたしに手を差し伸べながらドヤ顔をしていた。おかしい、何で避けれなかったんだろ? 疲れていたからかな?


「いたた……」

「マッチアップで私が当てれなかったのは、今まで二人しかいないから」


 わたしは櫻ちゃんの手を取って立たせてもらった。


「ねぇ、その当てれなかったのって誰なの?」

「えっ?」

「だって、これから続けてくなら対戦するかもしれないでしょ?」


 今後ライバルになるかもしれない人の情報は知っておいて損はない。櫻ちゃんは言いにくそうにしていたけど、お姉ちゃんの方を見ながらゆっくりと口を開いた。


「一人は紫音先輩、枕投げを始めて数ヶ月って聞いたときはショックだったな」

「紫音姉ちゃんか~……それは仕方がない。わたしも小学生のころ散々な目に……それで、もう一人は?」

「もう一人は……」


 とそこまで言ったとき、お姉ちゃんが櫻ちゃんを呼んでる声が聞こえてきた。


「櫻子ちゃん、ちょっとこっちを手伝ってくれる~?」

「えっ、あ、はい! 小鈴さん、この話はまた今度」


 櫻ちゃんはそう言い残すと、そのままお姉ちゃんの方へ小走りで行ってしまった。あの枕を避けきれる、もう一人の人って誰なんだろ?



◇◇◆◇◇



 十日後、第六練習場 ──


 練習試合が決まってから、ルールも覚えたし、ずっと基礎練習を重ねてきた! 気力も十分、いつでも来い桜橋!


 わたしが気合を入れていると、お姉ちゃんが何人か引き連れて第六練習場に入ってきた。お姉ちゃんの横には、短髪長身のいかにもキャプテンって感じの人がいて、その後ろに八名のジャージ姿の女学生が続いていた。


 彼女たちは一列に並ぶと、お辞儀をして挨拶する。


「今日はよろしくお願いしますっ!」


 それに合わせて、わたしたちも同じように挨拶をした。先ほどのキャプテンっぽい人がお姉ちゃんに近付くと握手をしながら


「改めて今日はよろしく頼むぜ、風祭」

「はい、こちらこそ真さん」


 やっぱりあの人が如月 真(きさらぎ まこと)先輩か~。身長はさすがに響ちゃんほどじゃないけど、全身のバランスが凄く良さそう、なるほどアレは強いだろうなぁ。


 続いて如月先輩は、櫻ちゃんの方へ近付き声を掛けてきた。


「お前が藤原櫻子か? 直接対戦したことはないが強いらしいな。今日は楽しみにしている」

「はい、藤原です。よろしくお願いします、如月先輩」


 そのまま握手を交わすと、如月先輩は響ちゃんを見て、驚いた表情を浮かべる。


「お……お前、背が高いな。一年生? 本当に!?」

「はじめまして、一年の三壁です。よろしくお願いします」


 響ちゃんとの挨拶が終った如月先輩は、キョロキョロと周りを見回している。何を探しているんだろ?


「もう一人の間倉の選手はどこだ?」

「ここだよっ!」


 探していたのはわたしかっ! 如月先輩はわたしを見ると微妙な表情を浮かべている。


「お前が? 子供じゃないか、誰かの妹か何かか?」

「高校一年だよ!」

「えぇ、高一!? マジで!」


 如月先輩は驚きの声を上げて、何を思ったのかわたしの頭にポンポンっと叩きはじめた。


「まぁよろしくな、おチビちゃん」


 そう言って去っていく如月先輩を睨みつけながら、わたしのやる気はさらに高まるのだった。

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