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獣達の世界  作者: ペリック
獣人達の領域
22/28

踏み込み


「確かに、()()()の最後の時にあいつの感情図が砂嵐のように荒ぶって消え去った」


何とも言えない雰囲気の中で十数分の熟考後にジークは呟く。


以前にも人間を拷問で壊した際にも似たような現象が起きた。


その後の人間は抜け殻であり、一切の感情が消え、殺される最後の瞬間まで()()は一切変化なく終わる。


「これは肉体よりも先に精神が死んだものとして考えていたが……」


「あいつの反応は違った。感情が消えるどころか、()()? いや、()()? 2つの相反ーーいや矛盾ともとれる感情が反発する事なく混ざり合い今のあいつの根底として有り続けている」


あいつの感情に生じた変化を追っていくが、


「壊した精神が変化し蘇ったと?」


ロドリゴに端的にまとめられるが、あながち間違いではない。


「大まかには間違ってねぇ、感情図の変化の過程はこんなもんだが、問題はその理由だ。何故こうなったのかの説明がつかん」


謎が増えるが、多重人格や鬱などの精神疾患に馴染みのない、ジークがこの先の説明に踏み込むにはサンプルとも呼べる事象が余りに少ない為であった。


「直接、踏み込むか……?」


麻生の得体の知れなさに楽しみと嬉しさを覚えるが、同時にそれに直接踏み込むのを無意識に避けていた事に気づく。


いや、気付いてはいたが、だが、どうしても……か


小声で自分が無意識に隠していた感情を確認し、何とも言えない不快感が募る。


人間に対する差別意識が根底にあるからか、踏み込む事を躊躇う感情に無意識に蓋をしていた事に苛立ち、それが麻生を深く知る妨げに繋がっていく。


誰しも、人の人格の深淵に踏み込み覗くことには躊躇いと恐怖が生まれる、人の感情を読めるジークにもそれは例外ではなかった。



**************************************************



「さて、ちっとばかし面貸して貰おうか?」


この後に「兄ちゃん」とつけばカツアゲ等のステレオタイプな口上になるのだが、それを言っているジークの迫力はそいつらの比でない。


人格が混ざった後の拷問ルーチン2日目が終わり明日は休日という名の拘束が待っていて一段落していた矢先にこれである。


普段、この時間は班員で飲みに行っている時間じゃないのか? と疑問に思う麻生。


時刻は21時、食事も入浴もジーク達は済んでいる。では何を……?


「なんだよ、夜間訓練か?」


「違ぇよ、面談……みたいなもんか?」


ジークの予想外な発言に呆気になる。久しぶりに訓練外で声を掛けられたと思ったが、まさかここに来て面談とは。


「尋問か?」


思わず感想が零れるが、


「そいつは、テメェ次第だ」 


間をおかず発せられる意味深な発言に更に疑問が募る。


「まぁ、取って食いやしねぇよ。ーー多分な」


疑問と警戒を察してかのジークの言葉に僅かに違和感が生じる。

さっきの間と言い何かを躊躇っている様にも取れる。


「らしくないな……」


3週間ちょっとの間柄であるが、掴みかけていたジークの性格とは食い違う様子に思わず零れる本音。



**************************************************



面談の場所はかつての尋問部屋もとい、俺が1週間とちょっとを共に過ごした倉庫であった。


「懐かしい倉庫だ」


まだ、3週間前の話なのに偉く懐かしく感じてまう。


「倉庫ってもあんま使わねぇけどな」


ぶっきらぼうに告げるジークはランタンに火を付ける。


温白色の明かりが灯り、薄暗く炎の灯りだけとなる室内の雰囲気はさながら面談ではなく、尋問に近い感覚になる。


「さて、これで誰にも聞かれねぇな」


揺らめく陽炎のような光源に炙られ無気味さを感じるジークの誰に向けた訳でもなく独り言のように呟く言葉に一抹の不安を感じるが、


「まぁ、取りあえず座れやアソー、お互いに言いてぇ事あんだろ?」


最初の尋問と似たような口上で着席を促しながらにやつくジーク。


しかしながらこの時のジークは表面上、軽薄を装っているようにも見えた。

















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