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血罪エスペランザ  作者: 鈴木一郎
一章.“英雄”殺し
9/9

序.ハルウララ

「拙者ハルと申す。まだ修行中の身。実力不足は重々承知。故に腕を磨く為に是非そちらで奉公させていただきたいのだが如何か? 是非ともお願い申し上げる!」


 後ろで結われた髪を翻させ、ハルは丁寧にお辞儀をした。氷を彫刻したのかと言うほどの凄絶な美貌からは想像できない熱意の感じる言葉である。釣り目がちな、攻撃的に見える眼差しには気炎が灯され、幾多の修羅場を経験してきた男も一歩退くほどだ。

 此処はシャンパール。迷宮から持ち帰った魔道具による商売が活発な都市だ。つまり、迷宮は儲かるのである。とは言え一人で迷宮に潜る馬鹿はおらず、自然と会社という形で人々は手を取り合い、迷宮に挑んでいくことになったのだ。

 男は運良く、いや運悪くか。たまたま今日は迷宮探索の非番だったので木造建築の自社の受付で新聞を読みながら酒を舐めていたのだが、突如顕れた美貌に声を掛けられ、心底戸惑っていた。

 まず見えたのは机の上に置かれた細く長いしなやかな指先。続いて華奢ではあるが引き締まった腕と肩。けれども女性特有の丸みを帯びた身体は何処か蠱惑的である。着物の上から胸元の膨らみが見て取れる。腰に刀を差していて、身に纏う衣装が"侍"のものでなければ道行く男が放ってはおかないだろう。

 ごくり、と生唾を飲み込む音が自分の口から聞こえるも、自制する為に深く息を吐く。


「如何なされた?」


 女にしては声質が低く、落ち着いた声。理知的な少年を思わせる耳心地の良いものだ。

 心配するように男の顔を覗き込む様は心臓への刺激が強すぎるが、マニュアルを思い出す。マニュアルなど簡単なもので、二通りしかないのだ。"迷宮希望の男は腕試しをしろ。女は追い返せ"。

 迷宮に潜りたがる女など外見的な意味で碌な女がいないのだ。大体にして男勝りな図体を持つ者が大半で、少数くらいは引き締まった身体の者もいるが、顔が残念な場合が多い。だから女を排除する制度に男は疑問を持っていたが、ようやく得心がいった。 


「あー、うちは女の働き手は募集してねえんだ。掃除洗濯とかの雑用くらいならやらせてやれるが、迷宮には潜らせられんぜ? 男と女が迷宮なんざ入ったら揉める種だからな」


 この女が入れば間違いなく揉めるだろう。武器を取り合い切り結ぶ男たちの姿が容易に浮かぶ。その中に自分の姿が映っているのも妙に現実味があり、辟易とさせる理由としては十分と言えた。 

 けれど女はそうではないようで、唇を噛み締め、細長い釣り目をより一層細めて男を睨み付けている。耐え難き屈辱に耐えている。そんな表情だ。男は心臓を鷲掴みにされたような錯覚に陥る。


「――それはどういう意味なのだろうか」


 振り絞ったか細く震える声は悲しみに満ち溢れていた。


「恋は盲目って言うだろ。あんたは恋をしないかもしれねえ。だけど別嬪だからな。他の男があんたを求めて争うかもしれねえ。そんなの後免なんだよ」

「腕試しすらさせてもらえぬのか……?」

「悪いな。迷宮は男社会なんだ。どうしても潜りたいってんなら違う国へ行きな。少なくとも、シャンパールじゃ絶対に無理だからよ」


 無理なものは無理なのである。

 狂う前に捨てる。危険なものはそもそも拾わない。

 迷宮で生活の糧を取る男はとても冷静に判断をすると女を追い払い、酒を口にした。




 ◆◇◆



 

 シャンパールは大きい。

 中心地は区画整理がされているが、たびたび改築されたおかげで外に行けば行くほど道が混雑し、迷路のようになっている。町を守るように造られている外壁は何度も改修され、その度に迷路は増えていくようだ。

 東部の商業の中心地とされていたシャンパールが発展したのは当然だ。商人達が店を出す場合、通常は国に対して許可証を求めて対価として税を差し出す。けれどシャンパールは税が格段に安く、おかげで日に日に商人達が集うようになる。商人が集えば商品を求める者達も増え、それらに対する歓楽街が出来上がり、さらにはそこに美味しい料理店が出来、移住してくる者も増えたのだ。おかげでシャンパールにいる人種はとても多く、人狼や猫人や爬虫人などの亜人やエルフと呼ばれる森人、果てには半人半妖の製鉄大好きなドワーフなどもいる。一種異様な光景が日常と化していた。

 そんな中、更に発展を遂げたのだ。迷宮という突発的に起こった災害によって。

 迷宮は災厄を齎す。放置しすぎれば魔物が迷宮の入り口からあふれ出し、封鎖すれば新たな入り口が近くに生まれる。代わりに迷宮の中には魔道具と呼ばれる遺産が眠っていた。

 その強力さ故か、魔道具を市井に流さないように国は一般人の立入を禁止するものなのだが、シャンパールはむしろ推奨した。魔道具も初めて発見された物には国に対して献上する義務があるが、その代りに莫大な報奨金が払われる事となる。勿論献上せずに隠した場合は極刑に処されるのだが。

 つまりは商業と迷宮の二つを用いてシャンパールは育ったのだ。


 シャンパールの中でも最も探索者が集う酒場がある。そこでは様々な探索者がいた。

 迷宮での武勇を語る者。持ち帰った魔道具の分配を相談する者。次の日程について計画する者。独り酒を嗜む者。酒場の中にある掲示板を見てどんな依頼があるかを調べている者。求人募集のチラシを熟読している者。探索者に関わらないようにひっそりと陰に融け込んでいる者。トランプを用いてのギャンブルに明け暮れる者。賭け事をしている者。

 多くの客人がいるが、治安の悪い此処の殆どが無骨な武器を傍らに置いた屈強な戦士ばかりだ。そんな中に女がいれば至極目立つ。その女が侍の格好をしていて、腰には刀を差し、酒を飲んでくだを巻いているとなれば尚更だ。カウンターの一席を占領し、漬物を肴にして麦酒を呷る姿は目立って仕方ない。


「ぬう! 何故だ! 女と言うだけで迷宮に潜れんとは! あまりに理不尽ではないか。拙者に至らぬところがあるのならわかる。だが性別だけで区別されるのはあんまりではないか……!」


 ハルは求人募集を見て迷宮探索の業務を専門とする会社に訪問した。それこそ何社回ったのかわからないくらいに足を使ったのだが、全て不採用。いや、不採用どころか門前払いと言うべきか。全ては"女"という理由一つでの結果である。努力で覆しようのない部分であるからどうしようもなく、ハルはただただ酒に酔って憤慨するしかない。

 思い出しただけでも腹が立ち、麦酒が並並と注がれた木で出来たジョッキを一気に傾けて飲み干した。

 人形のように整った顔立ち。酒によって朱に染まった柔らかそうな頬。生意気そうな目も今は酔っているせいで目尻が緩み、怜悧な眼差しも心なしか潤んでいる。そんな女が酒を一気飲みしているものだから、周囲の男達が「おお」と感嘆の吐息を漏らしている。んぐ、んぐ、と喉を震わせる度に男たちの視線の絡み付き具合は濃くなるが、本人は気付かない。


「ぷはあ――おぬしはどう思うか!?」


 ジョッキをカウンターに叩き付けての問いかけ。

 怒声に近いそれを受けた酒場の店主は濃い顎髭を手で摩ると暫し考えるような仕草を見せる。

 ハルは何故かはらはらとした気持ちで店主の言葉を待った。判決を待つ囚人のような気持ちで、だ。


「はは。あっしのような馬鹿にはそういう難しい事はわかりませんわな。まあ仮に自分の娘が迷宮くんだり行こうもんなら命張ってでも止めますがね」


 野太い声で返って来たのはある種ハルに対する批判のように感じた。

 囚人の気持ちは何処かへ消え去り、反骨心剥き出しの凄みのある相貌を店主に向けるが、酒のせいでいまいち表情に緊張感が無く、何処か間抜けである。


「女は子供を産み、育てるのが仕事でさあ。事実身体がそういうふうにできてやす。そういった自然の摂理ってやつに逆らうのは間違ってるんじゃないですかね?」

「むむ、それはわかるのだが、如何にもな……」


 女は子供を産むものだ。おかげで脂肪がつきやすく、男には無い機構が多く造られている。更には月の日などで体調の変化も著しく、およそ戦闘に向いている身体ではない。

 比べて男は骨格に恵まれ、筋肉もつきやすく、さらには安定して能力を発揮する事ができる。同じ才能で同じ努力をした場合はほぼ間違いなく男が勝つだろう。

 理解しているが故にハルは煩悶するが、どうしても退けない理由もあるのだ。それを察した店主が問いかける。「やりたい事でもあるんですかい?」と。

 ハルは顎に指先を添えて暫し考え込むが、照れ隠しをするように首を振った。


「――人に話せるような恰好良いものではないのだ。むしろ恥ずべき事だと思う。だが、捨てれぬのだよなあ……」


 腰に差した刀に優しく触れる。まるで何かを愛おしむようだった。

 瞬間、どっかとカウンターの座り込む音。そちらを見れば如何にも柄の悪そうな大柄の禿頭の男が麦酒を片手ににやにやとハルを見下ろしていた。

 むっとして睨み返すと、禿頭の男は大きな身体を揺するように笑い、ハルの頭に手を置こうとする。すかさずその手を払いのけたが、ハルの気分は最悪だった。


「くっくっ、ふははは! 面白い事言ってんなあ。このお嬢ちゃん、女の癖に迷宮に潜りたいんだってよ! 聖杯の賞金にでも目が暗んだかあ? 帰れ帰れ。女の分際で迷宮なんか行けるわけもねえって。そんな細っこい身体で何が出来るってんだ! 家に帰ってママのおっぱいでも吸ってな、糞餓鬼」


 どれくらい最悪かと言えば地獄の釜に放り投げられたような気分と言えばいいのだろうか。

 腸煮えくり返っていたのだ。

 禿頭の男の格好はハルと同じような侍衣装。腰にはハルの刀とは比べ物にならないほど長大な大太刀が差されている。

 想いを侮辱された気がして、ささくれる。


「腰に刀を差しているな。侍か?」

「応よ。知る人ぞ知る名門。周防迷宮探索所に奉公している侍だあ。奉公先の見つからんお前と違って俺は拾ってもらってるのよ」


 下品で野卑た声。

「ま、ここが違うわな?」と膨れ上がった腕に力こぶを造って自慢げにハルを見下ろして来る。

 身体のサイズは歴然としている。筋力も違い、持っている武器の威力も違う。

 男はおそらく酔った勢いで若い女にちょっと声を掛けている程度なのだろうが、相手を見誤ったと言うべきか。

 ハルは腰に差した刀を鞘ごと引き抜くと、酒を飲む男の大太刀の鞘にぶつけた。


「てめえ。鞘を当てるって意味をわかってんのか?」


 鞘当てと言う。

 決闘に発展してもおかしくないくらいの最大限の侮辱である。

 もちろんハルは全て知っていて行っている。

 つまりは喧嘩を売っているのだ。


「言葉は無粋。抜け」


 再び腰に刀を差せば、ハルはゆらりと立ち上がる。

 酔いは醒め、緩んだ表情も引き締まり、凛とした空気を纏っている。

 一触即発の空気に禿頭の男も刺激されたか、木張りの床にを強かに踏み付けた。

 踏み込みは強く、地震が起きたのかと錯覚するような地響きだ。酒を楽しんでいた酔っ払いも何事かとハルと男の方を向き、どちらも刀に手を遣って睨み合っているのを確認した時、煽り始めた。

 退くには退けない現状で、もはや取り得る選択肢は一つしか残っていない。


「おい、店主。立会を頼めるかい? 俺らみたいな奴相手に商売してんだ。慣れたもんだろ?」

「そいつはいけねえ。ここは酒を楽しむところですぜ、旦那。お互いに一歩退いて頭を下げれば万事解決。それでいいじゃないですかい?」

「無理に決まってんだろ。こいつは俺に喧嘩売ってんだよ」


 禿頭の男の据わった眼差しを受けようとも、ハルは鼻息を鳴らして受け流す。見下すような侮蔑の視線が怜悧な美貌によく似合っていた。


「売ったのはおぬしからだろう。木偶」

「――ぬかしやがったな、おい、逃がすなよお前ら」


 禿頭の男の取り巻きだろうか。

 複数の男に囲まれてハルは酒場の表へと出た。

 さすがは大都市シャンパールの繁華街と言うべきか。夜になろうとも人は絶える事無く人生を謳歌している。ほぼ全員が酒を飲み、酒に呑まれ、実に楽しげだ。

 そんな中に男に囲まれた女が出てくるのだから何事かと周囲の視線を集めるのも無理はない。如何にも下っ端といった風情の男達に囲まれ、相対するのは大きな太刀を腰に差した禿頭の男。その間には酒場の店主が嫌そうに立っている。

 野次馬など好奇心の権化である。一度関心を向ければそれは多くの者に伝播し、何時の間にやら舞台の中心から少し離れたところには人だかりが出来ていた。


「店主、頼むよ。立会人は中立じゃねえとよ?」

「血沙汰は勘弁ですぜ……」

「そいつを決めるのはこの女次第よ。なあ?」

「うむ。手加減する故、生死に関わるような事はせぬよ」


 街灯の光を反射する禿頭に青筋が浮かんだ。


「大口叩きもそれまでだぜ? 合図を頼む、店主」

「あっしは知りませんよっ!」


 店主は始めのの合図をする為にコインを上へ放り投げた。

 夜に舞うコインは光を反射してくすんだ黄色を輝かせている。

 決闘で相対するのは男と女。

 男の背丈は巨人じみた大きさで、がたいと良さは女と比べる必要もない程に太い。すらりと抜き放った鈍色に輝く太刀は男の背丈よりもなお高く、それに触れれば何者でも断ち切られるだろう。

 女はといえば身長は女にしては少し高い程度。半着と袴のゆったりとした衣装のせいで体格はほとんどわからないが、決して太くはない事は着物の上からでもわかるというものだ。しかも腰に差した刀は平均的な二尺六寸くらいの代物。長大な大太刀に比べればどうしても脆弱に見えがちだ。

 観衆は思う。女に勝てる筈も無し、と。美しい女のだからせめて怪我はさせないでくれ、と。

 剥き出しに地面にコインが乾いた音を立てて沈んだ時、観衆は目を手で覆う者や絶叫を上げるものなど、実に様々な対応をしたものだ。

 彼らの想像では一太刀の下に斬り払われる女の姿だったのだろう。

 現実はそうならなかったが。

 コインが落ちたと同時にハルは跳躍し、禿頭の男の頭上から刀を振り下ろしていた。

「ぐ、ぬ……っ!」


 禿頭の男は大地を踏みしめて大太刀で受け止めるが、視界の外から放たれた攻撃には気付かない。

 米神を狙った蹴足。斬撃を受け止められたと同時にその衝撃を利用し腰の回転を利用したそれは決して軽くはないが、意識を刈り取るほどの重さは無い。せいぜいが蹈鞴を踏ませる程度の効果しかない。意識の間隙を縫うように音もなく着地し、縺れた脚を蹴り飛ばす。すると禿頭の男の体勢は崩れ、軸足となった残った足を掬い上げる。

 禿頭の男は完全に重心を操作されてしまい、土埃を上げて禿頭の男が尻餅をついた。そしてハルは禿頭の男の鳩尾を狙って鞘に入れた刀を思い切り突き入れ、胃袋の中身とともに意識を吐き出させる。


「おお! すげえ!」

「あの姉ちゃん強いぞ! かっけえ!」


 野次馬達が熱狂の歓声を上げ、後に店主が勝者の腕を取った。

 ハルははにかんで頬を赤めるが、緩んだ意識を引き締める頬に平手を打ち、凛とした空気を纏い直す。

 敵はまだ残っているのだから。


「てめえ、やりやがったな!」

「ぶっ殺してやる!」

「侍同士の決闘で当身など下劣極まりない!」


 取り巻きの男達の咆哮が重なる。

 その数実に六。

 知れずに笑みが零れてしまう。


「滾るなあ。この感覚はたまらぬよ」


 冷たい美貌の女が歯を剥き出しにして笑うのは凄絶の一言である。

 独特の凄みに男達は一瞬怯みかけた。

 自分たちの頭目を白刃を用いる事なく、ほぼ打撃のみで打倒した相手である。恐怖を覚えるのは仕方ない。

 ハルは顎を上げて見下すように、手招きをして好戦的に挑発した。


「来るなら来い。まとめて相手してやる」


 一触即発である。

 男達は全員各々の武器を持ち、じりじりと距離を詰めている。

「はああっ!!」と怒号をあげて男の一人が突貫し、ハルがそれに対して反応しようとした時の事だ。


「ちょぉっと待ったあ!」


 攻めた男は突然の乱入者に背中から蹴り倒され、壁まで吹き飛ばされてしまった。攻撃を受けた時には蛙が潰れたような音を口腔からもらし、泡を噴いて失神している。胸が上下しているおかげで辛うじて生きているがわかるが、まさしく虫の息だ。

 あまりの瀕死っぷりに周囲の野次馬も介抱をするかどうか迷っているが、やはり野次馬は野次馬。好奇心が勝ってしまうものだ。

 好奇心の向く先は乱入者である。


「さすがに大人数で掛かるのは卑怯なんじゃない? よくわかんないけど、決闘なんだろ、これ。じゃあ君たちの負けで勝負はついてるじゃないか」


 背後から奇襲した乱入者は毅然と言い放つ――特徴的な容姿の少女だった。

 肩ほどまで伸ばした髪から生えている耳――如何にも犬といった感じのふさふさの耳だ。人懐っこそうなくりくりとしたつぶらな瞳に尖った鼻、唇の隙間から覗く伸びた犬歯でさらに犬っぽさが増している。

 服は道場生が着るような濃紺の道着だ。分厚い生地で出来ているおかげで頑丈なのだろう。ところどころ解れの跡が見えるが、刺繍で直しているようだ。

 そして、何よりも目立つのはお尻から生えた尻尾である。今も楽しそうにぶんぶんと振られている。真面目な顔をして男達を諌めようとしているが、内心は戦いを前にしてうずうずしているのが見て取れる。典型的な暴れん坊だ。

 そんな輩が突如として現れたのだから男達も多少動揺しても仕方のない事か。


「誰だ、この犬っころ!」

「犬じゃない。狼だ!」


 尻尾をぴんと立て、ぐるると犬歯を剥き出しにして唸るが、少女の童顔故に迫力に欠けた。

 ハルも目を点にして犬耳の少女の事を見やっていたが、一度溜め息を吐くと彼女を無視するように前に立った。


「助太刀感謝するが手出し無用。これは拙者の戦でござる」


 けれど犬耳の少女――クオーツは前に立ち塞がるハルを追い越すと、拳で戦う者の構えを取った。


「そうは言うけど、見捨てたら寝覚めが悪いじゃない。それに僕は強いんだ」


 こうして少女が二人、残った対戦相手の五人をぶちのめす事になったのである。

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