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「オオカミとあなたの身体を切り離すのは二週間後になるわ。正直なところ絶対に上手くいくとは言えない。五分五分、でも言い過ぎかもしれない」
処置の方法が確定したらしく切り離すこととなった。しかし難しいのだろう、彼女の言い方から察するに。
「それだけじゃないわ。上手くいかなかった場合のことだけど、オオカミが刺激されて最悪の場合、君は噛まれて死ぬ」
彼女でも自信に満ちているとは言い難い方法。さらには失敗のリスク。不安が無いと言えばそれも嘘だけれど、胸中で対立するものはいなかった。
「いいよそれでも。全身をあなたに預ける。僕は、あなたを信じてるから」
ありがとう、と彼女が言い終わる前だった。
「お前は人を殺す気なのか!」
激しい怒鳴りと共に男性が部屋に入ってきた。
「そんなわけないでしょう、私はやるわよ」
どうやら彼女の知り合いみたいだ。
「話を聞けば成功の確率が高いわけでもない、しかもリスキーじゃないか!」
「落ち着きなさい」
場が静まる。
「外で話しましょう、あなたの声に彼のオオカミが刺激されたら困るわ」
扉の閉まる音を残して、部屋に一人だけになってしまった。
隣にいたい、そう言った。付き合うとか結婚とか、そう言うことではないと。でも彼女はそれも断った。連絡を交わすのは良い、会うのは良い。それ以上の関係になることは許されないことなのだ。
僕に悲しみは無かった。その証拠に涙は欠片も地面に落ちていかなかった。想像していた通りだったから。彼女はそういう人間だ。優しくて、強くて、人を心から信じる。だから自身も信頼される。
やっぱり好きなんだ。
彼女に対する気持ちが幻影でないことを奥歯で噛み締める。長きを共にしたわけでもない僕の矢を射るような告白に彼女が答えてくれただけで、僕は。
今日は少し暑い。空の向こうに大きく背伸びをした入道雲。飛んできた小鳥。
鳥は白い窓の前に降りた。手のひらも無いくらいの大きさ。しかし頼り無さは微塵も感じられなかった。羽の色が特段美しいわけでもない、他を圧倒するような力強さがあるわけでもない、それでもその風鈴が揺れるような鳴き声は夏の到来を予感させた。
この輝きを、どんな言葉を使えばあなたに伝えられるのだろう。