魔女の最高傑作 2
「・・・・・普通の森」それが目の前の光景に対しての素直な感想だった。確かに青々とした木々がびっしり並ぶ様子は宝を守る砦のようで圧倒されたが、あくまで巨大な森にしか見えなかった。ここがシオンの言う通り本当に聖地なのだろうか思っていると、その思考を断ち切るように朱牙が大きく吠えた。そして早くしろとい言わんばかりに、黙って翠玲葉達をじっと見上げてきた。
「ぼうっとしていてすみません」しかし朱牙はその言葉を拒否するように首を横にふり、苛立っているかの前足でこつこつと地面を叩き始めた。
「・・・行きましょう」翠玲葉は申し訳ないと思いながら優しく声をかけたが、全く反応を示さなかった。
「メイ、お願いします」諦めずにゆっくりと手綱を引き続けると、何度目かに渋々といった様子でメイは動き出した。
「無理をさせてごめんなさい。でもあともう少しだ、けお願いします」そう申し訳無ないと思いながら優しく鬣を撫でると、メイは少し離れた場所にいた朱牙をじっとを見つめ不満げに鼻を鳴らした。
「すみません。目的地までは、あとどれぐらいかかるのですか」そう声をかけると、全身の毛がふわりと逆立ち姿が一瞬だけ歪んだ。そして視線をこちらに向けることなく口を開いた。
「1時間半。いや、2時間ぐらいだ」
「まだそんなにかかるのですか」
「遠いって言ってただろう」
「半日もかかるとは聞いていません」
「最短ルートならもう着いてる。今回は開けた道だから時間がかかってる」
「それはつまり、私達のせいだと言っているのですか」
「さっさと回復させてやれ」朱牙は否定も肯定もしなかったが少し苛立ったように言い切ると、顔をそむけて黙ってしまった。翠玲葉はやれやれと眉をひそめながらも気を取り直すと、メイに手をかざし両目を閉じると細かな口の動した。するとそれに合わせて、辺りにガラス玉をぶつけあったような澄んだ高い音が鳴った。
「・・・・・どういうことだ?」翠玲葉が我に返ったように目を開き困惑しながら呟くと、朱牙もしっかり反応して不審げにこちらを見つめていた。
「すみません。少し回復に時間が掛かりそうです」
「そうか」その言葉は素っ気なかったが相変わらず苛立っており、まずいと思いながら翠玲葉は再び目を閉じて集中した。
「あの・・・。この森の主が、エルフの魔術師というのは本当なのですか」回復が終わってもピリピリした雰囲気はまだ続いており、それをどうにかしなければと問いかけると朱牙は思い切り不可解そうに首を捻った。
「そう聞いてる」
「どのような方なのですか」
「知らない。俺は会ったことはない。対応するのはいつも弟子だ」
「それでは弟子の方も、エルフなのですか」
「あいつは人間だ」先程とは違い即答したことを翠玲葉が不思議に感じていると、それを読み取ったように朱牙は何処か渋々といった様子で口を開いた。
「毎回会ってる。匂いは人間。間違いない」
「それでは・・・彼は、どういう経緯で弟子入りしたのでしょうか」
「生まれつき魔力があり拾われたらしい」そう苛立ったように言い切った朱牙を見て、翠玲葉は慌てて引き止めた。
「あ、あの・・・。それでは、『手土産』というのは何ですか」朱牙はそれに呆れたような表情を浮かべ渋々といった様子で再び口を開いた。
「魔女は人間の酒と小説を好んでる。だからいつも代金として渡している」
「何故そこまで、外部との接触を避けるのでしょうか」
「さあな」
「『さあな』って、そんな言いないだろう!気にならないのか?」
「・・・・・わざわざ首を突っ込む必要はない」翠玲葉は納得出来なかったがその冷たく何処かさみしげな言葉にこれ以上は何を言っても無駄だと悟り、がっかりしてため息を付いた。
「そんなに気になるなら、後は自分で聞け」
「え?・・・・・あ、待て!」
「これから言うことよく聞け。奴を引きずり出す。協力しろ」




