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ヴァルに、謝られた。
落ち込んでいたのは、商品を渡した客に酷く罵倒されたからだと話してくれた。
高価なものも取り扱うと聞いているから、嫌な金持ちが相手だったのかも知れない。
俺の前で泣きそうになるほど、追い詰めるなんてどんな酷いことを言われたのか。聞き出して氷漬けに、してやろうかと思ったけれど止められた。
―― もしかして権力者か
この世界には、身分制度がある。攻略キャラの第一王子は王族だし貴族もいる。騎士Aは、全く見えないけど貴族らしい。
―― 関わりたくない
俺は王族とか貴族とかに、関わりたくない。ザッ平民が、権力者に関わっても良い事なんてないだろう。実際、碌な事になってない。
ヴァルも、権力者を嫌っている。けど仕事で関わらないと、いけなかったのかもしれない。
――仕事だと難しいな
俺の場合は店を出しているところが、庶民が使う市場だから貴族なんて来な……騎士Aは、来てたけれど例外だ。あいつを除けば権力者が来ている所なんて、見たことがない。だから関わる事もないだろうけど、ヴァルの仕事はそうもいかないのかもしれない。
―― 本当に、もう騎士Aの顔は見たくな……なんだ
目の前の景色が、ぶれた。目の前に移る景色が変わる。
―― バグだ
足下から這い上がってくる感覚に、漠然と思う。
甲冑に身を包んだ奴らが見える。でも全体的にぼやけていて、はっきりとは見えない。何人いるのか。大勢いるのは分かるけど、全体が分からない。
―― 嫌な音だ
甲冑のこすれる音だろうか。騎士のような連中が、移動を始めて聞こえてくる。
―― 嫌なにおいがする
鉄の臭い。広がる赤のせいかもしれない。
―― 赤、赤い、どす黒い赤だ
小さい痛みが頭を、抜ける。まるで警告されているみたいだ。
―― 鮮やかな赤もある
明る色だけれど、好きじゃない。なんだろう思考が、鈍っている気がする。上手く考えが、まとまらない。
―― 誰か、倒れている
赤に染まっている人がいるのに、誰一人として見向きもしてない。
何をしているのだろうか。人が倒れてるんだ。
―― 助けないと……思い出さないと
ノイズが走って考えたはずのことが、四散していく。今俺は、何を考えたんだ。
いやそれより早く助けよう。バグだと分かっているのに、放っておけなくて足を一歩踏み出す。心臓が跳ねたように、感じた。また一歩、やたらと重い足を、前に動かす度に心臓がうるさくなっていく。
―― あと少し
やっと手が届く、そんな距離まで来た。
そのとき後ろから殴られたような痛みが走って、景色が大きく歪んだ。




