67・精霊たちのいざない
アルガスは凄まじい怒気を込め、琥珀を津波のように放った。
それは槍のように鋭利な波でもあった。
「!」
琥珀の波に俺では打つ手がない。
【死】をぶつけても、殺す前に巻き込まれて死ぬ。
「任せんかい!」
ガングレーナが腕に纏った嵐を前方に解き放つ!
嵐と琥珀が激突し、押し合いになった。
だが、嵐のほうがじりじりと押し負けている。
「ぐっ……酒が足りへんわ」
ガングレーナは誤魔化しているが、先ほどの雷のダメージが確実に残っている。
常人なら即死していただろう攻撃だ。
多少防いだとはいえ、万全なはずがない。
「あああああああああああああああああああああああああ!!」
一方、アルガスは怒り狂って絶叫し、全力で押し込んでいる。
「助太刀しますわ!!」
ジゼロジゼロが右手に【ドリル】を生成する。
「駄目だ! 下手に動くな! 雷の精霊がいる!!」
「あっ! そうでしたわ!!」
やはり忘れていたか。
「ウフフ……ハハハ……」
雷の精霊は、こちらには興味を示している様子はない。
だが、ひとたび攻撃に転じれば、いつでも俺たちを殺せてしまうのだ。
「でも、どうしたらいいのでしょう? このままだと近づけませんわ」
「……そうだな」
確かに、打つ手がない。
雷の精霊であっても、おそらく【死】は効く。
どうやって近づけるかを無視すれば倒すことは出来るだろう。
だが、自然のバランスを司るという雷の精霊を殺して大丈夫なのか?
考えてみると、地球には精霊なんてものはいない。たぶんだが。
それでも、自然のバランスは、勝手に取れていた。
ならば、精霊を殺しても問題はない……?
いや、違ったら取り返しがつかない。
試してみるのはリスクがありすぎる。
「ジーロ?」
「すまん! いつも考えすぎだ!!」
「ですわね、慣れましたわ。でも、そこから打開策を見つけて下さるのでしょう?」
「買いかぶりすぎだよ……」
実際、まだ何も浮かんでいない。
こんなことでは、ゼフィーを救うことすら――
「いや、そうか」
「何か浮かびまして?」
「今なら、ゼフィーを助けられるかもしれない」
「たしかに!」
ゼフィーは琥珀の柱に埋め込まれ、気を失ったままだ。
アルガスの意図はわからないが、今はガングレーナに気を取られている。
「俺が注意を引く! そのドリルで助けてやってくれ!」
「がってんですわ!」
アルガスは柱を背にしている位置関係になるが、その正面では嵐と琥珀が激突している。
回り込むしかない。
その隙を、俺が作るのだ。
「【バナナ園】!!」
そういうスキルとして発現したわけじゃないが、バナナの木を次々生やすコツがつかめたので、便宜上、そう名付けたものだ。
塔の中にどんどんバナナの木を生やし、身を隠すポイントを作り出す。
雷の攻撃の恐ろしさは、白骨公主との戦いでも身に染みている。
側撃雷には気を付けなければならないが、適当な攻撃はアルガスにも危険なはずだ。
まずは視認性を下げるだけでもいい。
「なんや、ジブンすごいな!?」
そう言えば、ガングレーナも初見か。
ぶつかり合う二人の斜め横にバナナの木々を生やしたので、彼女の位置からだと、俺たちの姿は見える。
なので、視線で彼女に合図を送る。
自分たちは、ゼフィーを救いに行くと。
「!」
目を見開いたのは伝わったという証だろう。
俺たちはバナナの木々の中に飛び込んだ。
「【バナナ園】!」
どんどんバナナの木を生成し、狙いを散らす。
柱に向かうのをアルガスに読まれないようにしないと――
と、木々の陰から見えたアルガスの表情は、困惑しているように見えた。
あれほど怒り狂っていたのに。
なぜだ……?
「どういうことだ……」
アルガスは、琥珀の押し合いを続けながら、また指を鳴らした。
どうやら、雷の精霊を呼び寄せたらしい。
「サンデラ……あれは……【Eスキル】じゃあないのかい……?」
「!」
奴は【Eスキル】を知っている!?
「キットソウネ」
「馬鹿な……彼は……認められているというのか……」
頭をぶんぶんと振るアルガス。
「あり得ない!! 精霊たちに選ばれたのならば!! まず彼女を救いに動いているはずだ!! なぜ!! なぜだ! 精霊たちは、彼女はどうでもいいというのか……!?」
「ワカラナイ……」
「どうでもええけど、うちを前に流石に油断しすぎじゃボケェ!!」
「!」
風の勢いで加速したガングレーナは琥珀の波を飛び越え、一瞬のうちにアルガスの懐に潜り込んでいた。
そして、竜巻を纏わせた拳を、アルガスの腹に叩き込んだ――!




