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仕方ありませんね、コンティニューです

「悠人くんっ!!」


「ッ!」


 三上春の絶叫と同時に、灰崎廻は飛び込んだ。


(……届く!)


 沈んでいくその手のひらを掴み、近くの岩を蹴りながら上昇する。桟橋を強く握り、自分と悠人の顔を浮上させた廻が呼吸を整える。


「ぷはっ!はァ……引き上げて……!」


「は、はい!」


 春と共に悠人を足場の上に寝かせてから、廻は彼の横に座り込み……悠人の意識が無いことに気付く。


「どっ、どうすればぁ─────」


「救急車呼んで。ライフセーバーも、呼べたら。ワタシは……水を吐かせなきゃ」


 ぐったりとして動かない悠人の身体を横に傾け、その口元から海水が溢れる。そこに悠人の意思は存在せず、ただ物理的に溢れる角度だったから海水が溢れ、口の中から海水がなくなったからそれが止まる。


 ただそれだけの動作に生命力が感じられず、廻の瞼が狭まる。


「確か、人工呼吸が先だったよね」


 悠人の顎を上げて気道を確保し、鼻をつまみ、そして─────


「んっ……ふ」


 口で口を覆う。呼吸を送り込み、それを二回繰り返す。


(あの波動の見え方……どこかおかしいと思ったんだ)


 灰崎廻はこの非常事態の中、一周回って冷静に……というより、焦るための気力がほとんど目の前の状況の理解に使われていたため、その余裕は無かった。


 そして悲しみに向かおうとする感情の行手を阻むように、無理矢理この非日常の考察に当てる。


(割れた足場の、来栖クンが踏んだ一点にだけ波動がなかった。あまりにもピンポイントすぎて、それに気付けなかった……!)


 後悔に苛まれたまま廻は口を悠人の口から離し、、両手を合わせて彼の胸に押し当て心臓マッサージを始める。


「ふっ、ふっ、ッ!」


 生気を失った来栖悠人の身体は、酷く冷たかった。


「ふっ、はっ、はっ……!」


「は、はいっ、人が溺れて……場所は──────」


 人間の肌ではなく、大福のアイスの外側に触れているような感覚。


「こんなッ、ふっ、ところで──────」


 意識を失っている悠人ではなく、心配蘇生を行なっている廻の顔が苦悶に歪んでいく。


 腕を突き出すたびに、さっきまで当たり前に話していた彼の身体が『生命』ではなく『物体』として認識し始めてしまう。


「んっ……」


 再び唇を覆うたびに、嗅ぐための鼻も聞くための耳も食べるための口も、全てただの穴にしか見えなくなっていく。


「はぁっ、はぁっ、ふっ、うぅっ──────」


 彼は動かない。


 だからと言って灰崎廻は諦める事は出来なかった。救急隊員が来るまでは、病院に運ばれるまでは、まだ分からない。


 例えその肉の塊が死体にしか見えなくとも。


「ゆ、うと、くん……」


 三上春はそのすぐ側で見ている事しか出来なかった。


 大切な幼馴染が体温を失っていく光景を、何も出来ないまま見続けている。


「……悠人」


 線堂進は───────ようやく一歩を踏み出し、木の板を踏み締めたところだった。


 大切な親友が息絶えたのを、その目で見届けた。














 ー ー ー ー ー ー ー























「……うーわ、マジか」


 漣の音。砂浜を走る若者の声。皮膚を焼く日光。久しぶりに着た水着の感触。


「……」


 突如放り出された海岸で、俺は顎に垂れた汗を拭う。


 ジリジリと身体を焼く太陽に、その光を映し出す海。絶景と言えるほどではないけども、ここは海であるとすぐに分かる光景が、何度のアニメで見た情景が、まさに今目の前に広がっている事への感動がある。


「おーい!来栖君!早く来てくださいよ!」


 声が前方から響く。海岸にいたのは、腕を大きく振る荒川だ。側には藍木やら河邑やら桜塚までいる。


「どしたの?進くん」


「ッ!あ、えっと─────」


 海岸へと向かっていく進と三上。進は不自然に周りをキョロキョロと見渡しながら、三上と話していた。


「欲を言うなら灰崎先輩の水着が見たーい……なんてな」




 ─────さて、こんなところで状況の整理は終わっちゃおう。


「うーん……俺、溺れたよね?」


 過去の記憶がどこで終わっているかと言うと、海水のしょっぱさと耳に入ってくる海水の不快さと眼球の痛さだ。


 それと─────無力感。何も出来ず身体と意識が沈んでいく恐怖。


 俺は確かに溺れた。多分意識を失ったんだろうけど、その後……どういう経緯でこの場所に戻ってきたのか。


「……とりあえず、時間か」


 俺はポケットからスマホを取り出し─────いやまぁ、荷物置き場に置いていたはずのスマホがポケットに入ってる時点で……お察しだけども。


「あぁ……やっぱりね」


 予想通りの時刻、午前11時。


 俺がこの海に飛ばされてきた、7月26日の午前11時だった。


「約1時間半、か」


 俺は7月22日から4日分未来の7月26日に飛んだ。


 ──────もちろん、それだけで終わるとは思っていなかったけど……そうか、こういう形で来るか。


「何のつもりだよ、影山」


 スマホを握りしめ、意味も無く空を見上げ……眩しさに負けて俯いた。


 ──────俺は過去に戻っている。


 7月26日の12時半から11時へ、1時間半過去に……飛ばされた。

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