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このスキルさえあればなんとかなります

「助かったぞ、悠人!よく来てくれた」


「あはは、わざわざごめんねぇ悠人くん」


 そこそこに広めで人も少なくないこの海岸を歩き、辿り着いた先で待っていた進と三上。


 進は黒と青の普通の水着を履いていて……強いて特徴を挙げると、色合いがどこか『小学生の頃のプールの時に使うドラゴン柄のタオル』みたいで懐かしい気持ちになる。


 対する三上は白いビキニ。そうとしか言いようがないんだけど、三上特有のデカい胸を邪魔しない良い塩梅。本人が持つふわふわ感というか、穏やかさというか、端的にいうと馬鹿っぽさもあって完成されている雰囲気だ。


「で、なんだっけ?ナンパされるんだっけか」


「そう、俺も春もうんざりしちゃってな」


「二人で一緒にいるならナンパなんてされるわけなくね?」


「あはは、わたしもそう思ってたんだけどさぁ……」


 ……三上の言いたい事は分かる。


 周囲からの不自然な目線が─────この二人に異様なまでに注がれている。進もさっきから神妙な顔つきだし、困っているのは本当っぽい。


「さっきとか、俺が海に顔付けた瞬間の隙を狙って春に話しかけてくる奴もいたし」


「モテモテじゃん」


「いやいやぁ、わたしが空を見上げた隙に進くんを囲んでくる女の子達とかいたんだよぉ」


「それは短すぎてもはや隙とは呼べないだろ」


 しかしまぁ、こいつらをそれほどまでに魅力的に感じてしまうのも仕方ない。


 進は絵に描いたような都合の良い細マッチョ体型だし、三上は絵に描いたような都合の良い巨乳。


 そんな奴らが海で肌晒してんだから……ナンパとかしちゃう輩は当然飛び込むだろうな。


「で、それを回避しようってのか──────俺の力で」


「久しぶりに頼むぞ」


「ドク●ーペッパー2本」


「2本か……仕方ない、今日の帰りに買って渡す」


 2本の条件を呑むとは……よほど困っているのか、ナンパに。


 一度で良いから俺もそんな体験をしてみたい──────いや、さっきまで女に囲まれておいて今更そんな事を抜かすのは少しとぼけすぎか。


「でも良いのか?確かに波動が無い場所は案内出来ると思うけど……俺が一人増えたところでナンパ避けになんてならないだろ」


「え?悠人くんだけじゃないじゃん」


「……」


 三上の目線が──────俺の右耳を通り、()()()()背後を貫いていた。


「やァ、びっくりしt─────」


「ん?誰もいないけど……」


「うぇ?」


「三上、誰の事言ってんの?」


「え、ちょ……え?」


 確かに、俺の背後には見慣れた顔があった。無言で付いてきていた彼女は忍者と勘違いしてしまうほどに音を出さなかった。


 入り混じる金髪、量は少ないが存在を主張するピアス、その二つが醸し出す雰囲気にそぐわなすぎるスクール水着。


 灰崎廻は、俺の背後に立っていた。


 ──────が、この俺が気付かないわけがない。率直に言って馬鹿な行動だと思う。


「ぷっ、ははは……いや、見えてないわけないじゃないですか」


「……は?」


「波動でバレバレなんですよ、馬鹿だなぁ」


「……ま、マジかよォ……『それっぽい事』はなんもしてねェのに……」


 恥ずかしそうに、というよりは悔しそうに表情を歪める灰崎先輩。


 確かに、俺はこの人に能力の詳細は言っていない。『ラブコメの波動を感じる能力』と勘づいているとしても、ラブコメをしなくても波動を感じる事が出来るのは分かるはずもないか。


「ってか、進と三上はなんで黙ってたんだよ」


「いや、当たり前のようにいたから一緒に来たのかと」


「わたしもぉ」


「クソォ、キミに能力が無ければ完璧だったのに……」


「力の無い俺なんて、それもう俺じゃないっすよ」


 ここに向かっている途中は何故か付いてきた先輩にどうしようかと思っていたけど、この人がいるならナンパは大丈夫だろうな。あの豪火君が一緒にいるのを躊躇うレベルだ……そこら辺の一般男性一般女性が無理矢理出来るとは思えない。


「でも普通に、なんで来たんすか」


「面白そうだから」


「あー……」


「ふはは、ワタシの行動原理と言えばそれしかないでしょうが。この海は心なしか、日常が薄い気がしてさァ……結構期待してんだよねェ。来栖クンといれば良い感じの非日常に出会える事間違い無し!」


「付いてくるのは良いですが、勝手な事はしないでくださいよ。悠人の邪魔をするのなら……」


「はいはい、分かってるってェ。ワタシも楽しみなんだ、来栖クンが力を使うのを見るのは──────」


 ……そう言えば、灰崎先輩の前で能力を使ったのは朝見から逃げ出した時くらいか?


 この人にとっては、俺の力は『ラブコメが出来ないだけ』だろうけど、今まで俺は『ラブコメから逃げる』事が出来るこの力に助けられてきた。


 自分自身がラブコメの中にいる事で、俺は段々と適応してきた。だがそうでなかった時、この力が無ければ……他人の恋愛を見るだけで嫌気が差していたあの頃、俺は外に出る事が出来なくなっていたかもしれない。


 俺を助けたのも、俺を縛るのもこの力。もはや来栖悠人という存在はこの力無しには語れないってやつだ。


「さてと、じゃあ行くか──────」


 意識を集中させ……この海に蔓延するラブコメの波動を細かく感知する。


 やはり海という浮ついた雰囲気に包まれた空間なだけあって、普段よりラブコメの波動は強めな場所だ。そこら辺の男女に加えて、俺の側にいる灰崎先輩の強烈な波動もある。


 だが……この力を使い続けてきた二年間という歳月が、俺に的確なルートを導き出させる───────。

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