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本質

今回も読んでいただきありがとうございます!

 



「新澤先生!」



 朝早く学校に登校すると、廊下を歩いていた新澤先生を発見してすぐに声を発した。

 そしてすぐに、先生の所まで小走りした。



「ん?あー、西宮さんか」



 先生は振り返ってそう答える。

 毎日遅くまで仕事をしているからか、とても眠そうだった。

 殆どの人が登校して来ていない朝早くに、先生に声をかけたのには訳がある。



「お話があるんですけど、今大丈夫ですか?」


「朝の会議は月曜日だけだから大丈夫。……月曜日だけで合ってたかな?」


「先生なんですからしっかりして下さいよ」



 私はそうツッコミを入れる。

 新澤先生は大人の見た目と違って忘れやすいのだ。



「立ち話も何だから、面接室にでも行こうか」


「はい」



 私は先生のあとに続いて面接室に向かった。




 会議室とは違い、ここ面接室は少々狭い。

 教室の半分くらいの広さで、大きな机一つと向かい合わせに椅子が二つずつ置いてある。

 そして壁際に置かれた二つの大きな本棚には、進路や勉強についての多くの本が置かれている。

 それ以外には、特に何も置かれておらずとてもシンプルな造りだ。


 私と先生は向かい合わせに椅子に座る。

 ふぅ、と先生が一呼吸入れた後に話を始めた。



「それで、聞きたいことでもあるの?」

「はい。ちょっとお尋ねしたいことがありまして」

「妙に怖い顔してるわね」



 怖い顔に見えるのは、とても真剣だからだ。

 私がそんな顔になるのは必然とも言えた。



「昨日、羽崎に会ったんですけど……」


「また羽崎?あなたも大変ね」



 妙に真剣な顔をしていたのは昨日のこと、つまり羽崎と下校中に話していたことについて聞こうとしたからである。

 話の内容がおそらく悪い方向のことであるため、自然と真剣な表情になるのだ。



「気になることを言っていたんです」


「どんなことを?」


「『あんたは私に対して敵対心とかそういうのはないの?』って私が聞いたら、『ないよ。今は』って何か含みのある言い方して来て」


「それで?」


「彼が言うには、友達思いの人にはショックな話とか、この話には信憑性が低いとかって……」


「なるほどね。多分彼はあの噂のことを言っているのよ」



 先生はこの話について知っているようだった。

 ずっと気になっていた事が漸く分かると思うと、早く聞きたい気持ちが一気に膨らんで、私を焦らせる。



「何のことか知っているんですか?」


「生徒の間で妙な噂が流れているって、先生の間でちょっとした話題になってるのよ」



 生徒間で流れているということは、このことについて知っている人は他にも大勢いるということになる。



「それって一体……」



 先生は一呼吸置いた。

 先生の表情が少し険しくなったように感じた。

 私はゴクリと唾を呑む。



「『実力至上主義制度』はまだ始まっていない」



 先生は噂の内容について話してくれたが、一言だけでは何のことか全く分からない。



「どういうことですか?」


「始まるのは六月。今は準備期間でしかない」



 私はその言葉を聞いて驚いた。

 なぜなら言っていることがまるで分からなかったからである。

 完全に矛盾しているのだ。



「もう既に『実力至上主義制度』は始まっているじゃないですか。それは先生の口から何度も聞きましたよ?」



 先生はいつかの授業中にこう言っていた。


『実力至上主義制度はもう始まっているのよ!グダグダしていると、落ちこぼれになるわよ!』


 と。



「これは噂よ?デタラメなこと言っているだけ」



 先生はイタズラっぽい微笑みでそういう言う。

 それを聞いて私は一安心した。


 

「ですよね。ビックリした……」



 私がそう言葉を漏らすと、なぜか先生の表情は再び真剣なものになった。



「でも同時に本当のことでもある」

「……えっ」



 安心したのも束の間。

 一瞬にして驚きに変わる。

 信憑性の低い噂が、本当だったのだ。

 しかしながら、これが本当なのだとすると、今までのは何だったのか分からなくなる。



「四月一日から今まで実施された『実力至上主義制度』はただの準備期間でしかない。本当の『実力至上主義制度』は六月一日施行よ」



 そう先生は説明した。

 これを聞いてもまだ言っていることがよく分からない。

 だから私は、更に細かな詳細を聞くことにした。



「ど、どういうことですか?」


「五月三十一日までの二ヶ月は欠片(チップ)の配布、階級の決定、『実力至上主義制度』の基本に慣れてもらうための期間なの。正直、実力至上主義っていう感じしないでしょう?」


「確かにそうですね。実力があるものは上に、ないものは下に行くっていう感じがないです。階級っていうのもただの肩書きでしかないというか……」



 階級という地位分けをされていた訳だが、別に階級事に何らかの差があるわけではなかった。

 あるとするとすれば低魔法士、高魔法士、最高魔法士には欠片(チップ)が与えられ、最高魔法士にだけ二枚与えられるということだけ。


 更には、完全にカースト制度のような階級であるのに一切の上下関係がない。

 実力至上主義であれば、何らかの上下関係が出てもおかしくないのだ。



「それはそうよ。本質的なところでは、まだ何も始まっていないのだから」



 先生はそう答えた。

 つまり今までの『実力至上主義制度』は、殆ど施行されていないということである。


 私は本当の『実力至上主義制度』が気になって、すぐさま先生に問う。



「それで、本当の『実力至上主義制度』ってどういうのが行われるんですか?」


「まだ公にはされてないわ。私たち教師や、お偉いさんしか知らないの」


「教えて下さい!」



 私は頭を下げてお願いした。

 何か疑問点があると、いてもたってもいられない性格の私は、知らないと気が済まないのだ。



「後悔しないのなら見せてあげるわ。その代わり施行されるまで絶対に秘密にすること。生徒に広まると面倒だから。いいわね?」



 先生は再びイタズラな笑みを浮かべる。



「もちろん分かってます」



 そう私がしっかりと言葉を返すと、先生は立ち上がり、本棚の前に移動する。



「じゃあ今から渡す紙を読んで」



 本棚に向かったまま先生はそう言うと、並んでいた大きなファイルから数枚の紙を取り出した。

 その紙はクリップで纏められている。

 先生は再び椅子に座ると、私の方にそれを差し出した。


 私は、緊張しながらも恐る恐る『実力至上主義制度』と書かれた表紙を捲った。

 そして最初のページをサラリと読む。


 すると私は大きなショックで胸を痛めた。

 そして、これから起こることを想像すると怖くなった。

 紙を持つ腕や足は震え、額には薄らと汗が滲み出る。



「……噂でしょ?」



 そこに書かれていたのは想像を絶する、最低なものだった。




次回に続きます。

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