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雪華街にて小雨師匠と

 12月25日、クリスマス当日。イエス様の誕生日としてそりゃまあ有名な日ではあるが。事、俺っち「後藤征四郎」には、別に「なんて無い日だ」。正確には、「だった」。

 神様に祈りを捧げるでもなく、ただ親から貰えるプレゼントを楽しみにして……なんて、そんな浮かれた話は小学生まで。中学にあがってからはそんな事も無く。妹と弟が居たりしたせいか、親は結構けちんぼで、そして高校生になって、これまでこの日に特別な感情を抱く気は一切無く、これからも無いだろうと思っていた。そんならそれもありなんだろう、精々お年玉でも楽しみにして冬休みをゆっくり過ごすさ、と。お年玉なら親戚からも貰えるし。


 ……その楽観とも落胆とも思える気兼は、思ったよりもあっさり打ち砕かれた。


「んっっめーーー!!こいつよ、コレなんだよ!やっぱ(たら)の白子は刺身なんだよなーーー!」


「いや、師匠。マッジうまいっすこれ!生まれて初めて食いました!……あっ、茹でた白身も、口の中でほろっと崩れて……!」


「ククク……!都会の料亭で食ったら諭吉が何枚飛ぶかぁ分からない……圧倒的鱈づくし……!寒さも吹っ飛ぶ起死回生の鱈鍋パーティよ……!」


 オータムパーティーの優勝、かつ大聖霊祭への出場という事で後藤征四郎は師匠「三嶋小雨」とイクシーズの外、岐阜の奥地「雪華街(せっかがい)」へと旅行に来ていた。

 街の有名な温泉宿にて、一泊二日の贅沢な旅。旅費はまさかの、師匠全部持ち。なんというかもう、頭が上がらない。ちなみに聖夜祭の実況をイクシーズから依頼されていたのだが、これは親友であるコーちゃんこと岡本光輝に丸投げしてきた。後は頼んだぜ、お前の勇姿は忘れない……!


 まあそんな訳で、今の時刻は夜。雪降る夜の中で征四郎は小雨と一緒に旅先の宿で鱈鍋をつついていた。魚に雪と書いて鱈というだけあって、冬に食べるには本当に美味い。鍋で茹った白身は勿論の事、まさかの白子の刺身というのはこの上なく最高で。紅葉おろしに薬味葱を突っ込んだポン酢に付けて、食べるのだ。ポン酢に浮いた白い膜を名残惜しく思いつつ、頬張る。……やばい。形容がし難いが、もし一言だけ言えるなら、こうだろう。「(とろ)ける。」


 この世の全てに感謝をしたくなる一時。幸福に降伏する。「謝りたいと感じている」……ならば、感謝と言えるんだろう。これを感謝と言うんだろう。とか、そんな感情が込み上げてくる。

 三年ぶりに、12月25日(クリスマス)という日が幸せである事を思い出した。


「あ、女将さーん、熱燗おねがいしまーす!せーしろーも飲むー?」


「あ、いえ、大丈夫です。お気持ちだけでも……」


 そういえば師匠、もう20歳なんだっけ。見た目はとても幼く見えてしまうが。お酒かー……あと、4年もかかるんだよなぁ――


――ふーーっ、ああ、ここが楽園か。


 宿泊部屋に個々に備え付けられた露天風呂。その白い濁り湯に征四郎は肩までを沈めて、唸った。空には延々と降り注ぐ雪が、闇を白く染め上げ白夜を創り出している。夜だというのに、その空は明るいと思うように錯覚してしまうほどだ。

 浴場の(はし)ではこんなに寒いというのに木が花を咲かせていた。「雪華街」の名は伊達ではなく、見て分かるように名前がそれを体現していた。この街はどうやら、特殊なパワースポットなんだそうだ。雪と華が両立する街。故に、この街は冬季に観光客が多い。


「……いや、風情っすなぁ……」


 幸せだ。こんな出来事、これまで味わえるとすら思っていなかった。それが今はどうさ。まるで夢のようで。

 それもこれも全て、小雨さんのお陰だ。彼女に全て教えてもらっている。あれもこれも、今も全て。小雨さんが居なければオータムパーティーも優勝できなかったし、こんな風においしい物を食べていい風呂に入ってなんて事も絶対無かった。


 ……あれ、俺、ヒモじゃね……?いや、違う、断じて違うぞー!


 ガラッ。


 そんな事を考えていたその瞬間、場が凍りついた。まるで、大寒波のように。


 浴場へ繋がる更衣室のドアが開いたのだ。


「お風呂一緒に……入っても……」


「……え……ッ!?」


 青ざめる顔を必至に動かしつつ、征四郎は後ろを、更衣室の方向を振り向いた。


「いいかなぁ~~っ?「征四郎」!?お姉ちゃんとたまには……」


「ちょっ……「小雨」師匠ッ!?何故、何故此処にッ!つかなんですかその設定!!?」


 ドドドドド、とそんな感じのオーラを纏いつつ露天風呂にはいって来た三嶋小雨。その右手にかけられたタオルと湯気によって大事な所は見えないが、まあ、全裸だ。膨らみかけの胸だとか、柔らかそうなお腹だとか、筋肉と脂肪が押し込められたコンパクトに細い脚だとか、そりゃもう危ない。


 いや、まずいって!見えますって!


「戦闘開始だ!とうッ!」


 ザボンッ!と、湯船に飛び込んだ小雨。征四郎は顔を瞬時にそっぽ向かせたものの、小雨は追いすがる。征四郎を捉えんと手を伸ばす。


「い、いや、師匠!?なんで入ってきてんですか?あっ、触っちゃ駄目っ!!」


「気分!!なんかそういう気分だった!!」


「っっっ、喰らえッ!目潰しッ!」


「あがっ、目がっ、目がーーッッ!??」


 酔っ払っているのか引っ付いてくる小雨に征四郎は危ない物を感じ、右手の人差し指と中指を折り曲げて小雨の目元へと目潰しを放った。それをまともに食らった小雨は眼をおさえつつ仰け反り、征四郎から離れる。


「痛いぞ~、征四郎~~。危ないじゃないか~~」


「いや、師匠の方が色々と危ないっすよ……何処触ろうとしてたんですか……」


「まあ、それは置いといて」


「置いとけませんよッ!?」


 よくも分からず、師匠と混浴をするハメになってしまった。……絶対この人酔っ払ってるって……。

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