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新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺―  作者: 里奈方路灯
満月の夜のパーティー、吹きすさぶ奇術の疾風
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離反

「光輝……私じゃ駄目ですか」


 自宅の玄関にて、不安げな瞳で光輝を見るクリス。


「誤魔化さずに、答えてください」


 クリスのこんな顔は、態度は初めて見た。心の底へと触れるような、思い切った感情。

 やめてくれ。俺は、強い人間じゃない。心に触れられてまともでいられるほど出来た人間じゃない。


 なぜだ、何故こんな事になってしまった--


--イクシーズ市街。中央駅内の大きな時計にて、光輝は人を待っていた。今日は休日。学校はなく、いわゆる遊びの予定を入れていた。

 本来ならこんな人ごみ、大嫌いだ。しかし、今は耐えるしかない。なぜなら、俺は彼女に逆らうことが出来ない。弱みを握られているのだ。


「やっほー!」


 行き交う人々の中から待ち人が光輝を見つけ、声をかけながら近付いてくる。あまり大きな声を出さないでくれ、恥ずかしい。視線を受けるということは全く慣れていないんだ、お前と違って。つか、遅刻してんぞ。


「遅いぞ、一宮いちのみや


「えへへ、ごめんごめん。ちょっと寝坊しちゃった」


 待ち合わせから五分過ぎて現れた人物は一宮いちのみや星姫さき。光輝と同い年にして俳優と歌手を兼ねる芸能人であり、その容姿・演技力・歌唱力のどれをとってもなんとも高スペックだ。そんな人物とふとしたことから光輝は知り合いになってしまった。変装の為か、今はサングラスをかけている。

 そしてその隣に見かけた事のある人物が一人。ポニーテールの黒髪に、キリッとした表情。星姫の友人だ。


「一人じゃなかったんだな」


 光輝がそう言うと、星姫は顔をプクっと膨らませる。これら全ての行動が計算づけられた演技かもしれないと思うとなんとも怖いが、まあ、素直に受け取っておこうか。怒ってるんだよな。


「君がそれ言う?既に女の子侍らせて」


「侍らせるとは人聞きの悪い」


 そういう物言いは良くないぞ。ただ、勝手についてきただけだ。


「……どうも」


 何故か、光輝の隣には既に一人の少女が居心地の悪そうな様子で佇んでいた。クリス・ド・レイ。家から一緒にここまでやって来た。光輝の了承を得ずにだ。まあ、彼女を否定する理由も無く。


 今日は、星姫に誘われてしまったので市街で遊ぶ、というだけの話だった。別に二人きりのデートなんて設定は聞いていなかったので問題ない筈だ。


「まあ、いいけどね。こっちもハクが勝手についてきちゃったし。ほら、自己紹介しなよ」


 星姫が促すと、ポニーテールの少女は光輝とクリスに向かって手を差し出し、名乗る。


「申し遅れました。それがし、名を天領てんりょう白鶴はくつると申します。以後、よろしくお願いします」


「ああ。俺の名前は岡本光輝だ。よろしく」


「クリス・ド・レイです。よろしくお願いしますね」


 こちらもまた自己紹介をし、そして光輝、クリスの順に握手をしていく白鶴。

 なんというか、前にも聞いたことはあったが……時代錯誤な喋り方だ。まあ、個性的でいいとは思うが。ただ、聞きなれない言葉を使うもので、少し理解に時間を要する。


「しかし、困ったなー。ホントは光輝君と一緒に映画館でラブストーリーものでも観ようかと思ったのに、四人かー。どうしようかなー」


 うむむ、と唸る星姫。お前、俺と二人きりだったらそんなプラン立ててたのか。コイツはどこまで本気なのだろうか。ラブストーリーって、確実にそういう事だよな?

 そもそも、今日のプランを光輝は知らされてない。ただ一方的に星姫から「本と仮面を返すついでに遊ぼう」と誘われた以外には、何も聞いていない。勿論、こちらが決める気も無かった。そこまでの立ち回りがついこの間まで録に友達も居なかった俺に出来る訳もなく。

 まあ、今は星姫に任せればいいだろう。そう思っていた矢先、クリスが手を挙げる。


「あの……カラオケ、なんてどうでしょうか?」


 それはまさかの提案だった。クリスからカラオケという単語を聞くこと自体想像していなかった為、驚く……が、よく考えれば彼女も年頃の少女だ。クリスはいいとこのお嬢様だと色眼鏡で見ていただけで、どうやら偏った判断をしていたようだ。


「お、いいねそれ!クリスちゃん、ナイスアイディア!」


「カラオケですか。某もこう見えて歌唱には自身があるのですよ」


「そうだな、カラオケにしようか」


 光輝を含めて乗り気な三人。よくよく考えて、現役歌手の星姫の生歌が聴けるとは。これは意外と約得かもしれん--


--そしてイクシーズ市街の、少し割高のカラオケボックスに入る光輝達。市街から少し外れれば、本当はもう少し安いのだが流石にそんな野暮な事はせず。


「月のォ、かぁけェ、らぁをォ集めえてェ」


 ……なんとも変わった歌い方をするクリス。原曲とは違う、奇々怪々な手法だった。


 演奏が終わって拍手をする他3人。いや、まあ、上手いことは上手いんだが。


「……なんで演歌調だ?」


 疑問をぶつける光輝。お前、日本人じゃないだろうに。


「えっ!?日本人男性は演歌で落とせと文献に載っていたので得意な歌を仕上げてみたのですが!」


「毎度思うがお前が読んでいる文献はなんだ」


 個人的には、まあ……悪くはないが、普通でいいと思うぞ。別に特別な事なんて求めてないし。


「いや、でも上手いねクリス!私も負けてられないなー、これは」


「いやはや、クリス殿。貴女の歌いっぷり、しかと見届けました。では不肖ながら某、二番手を務めさせていただきます」


 他の二人には好評のようだが。良かったのか、これ--


--「また君ーにーぃー、恋してる 今まぁーでよーりもふーかく」


 ……なんで男性キーバージョンなんだ。いや、まあ、よく捉えてるな。器用だと思うし、彼女……天領白鶴らしい曲選だとは思う。女性キーバージョンより侘しくて俺は好きだよ。


「白、それ好きだよねー。思い入れでもあるの?」


「水と間違えて飲んだのが切っ掛けです。あれ以来ハマってしまいまして」


 ハマるって、CMか?曲のほうか。そうだよな、そうだと言ってくれ。アンタの父親、警察官だろ。天領なんて苗字、そうそうあってたまるか--


--「春を告げ、踊りだすsunshine……夏を見る宇治、野原唐草乾くわ……」


 自分で歌っといてなんだと思うけど……この曲選は間違った。確実に間違った。

 聞く分にはいいが、盛り上げるにはイマイチだ。男が歌うならなおさら。素直にワンナイトカーニバルかアゲアゲエブリナイトでも行くべきだったな。


「しみじみして素敵ですよ、光輝!」


 ああ、フォローありがとなクリス。大丈夫、自分の間違いは自分がよく分かってるんだ。


「光輝君、そういうの歌うんだ?」


「ああ、もっと盛り上がるの歌えば良かったと後悔している」


「じゃあさ……これ、一緒に歌える?私、メイン担当するから」


 と、カラオケの備え付けの端末を操作して画面を見せる星姫。なるほど、知っている曲だ。こういうのも歌うのか。


「……問題ないが」


 と、星姫が挽回のチャンスをくれて……って、まて。これをデュエットでやってお前がメインって事は--


--「ぶっちゃけチューしてギューッと抱きしめたい!」


LOVEラブLOVEラブ!」


「全て、全てを投げ出したァい!」


「ドッきゅん!」


 ……合いの手は俺が担当する事になるんだよな。


 サビ前では、マイクを片手に持っている為にもう片方の手でハートの半分を作らされ、それを星姫の手と合わせて一つのハートを作ったりして原曲PVの再現をしたりして。……これ、クソ恥ずかしいぞ。


「だけど大きな、夢がある!NO.1!ヨロシクゥ!」


 思いのほか熱唱する星姫、そこには熱い感情が込められている。そして気付く。なるほど、これは星姫の覚悟を表している曲選でもあるのか。顔を見てみれば、そこには楽しくも凛々しい表情が。歌っていて、とても気持ちよさそうだ。


「すごい!星姫ちゃん、すごいよ!」


 まるで子供のような感想を出すクリス。しかし、目の輝きからそれがただ単に素直な感想なんだなと分かる。俺もそう思う、星姫は努力をしてきたのだろう、歌唱力では群を抜いている。……俺は恥ずかしかったけど。


「あはは、そう?ありがとね!」


 その声を掛けられた星姫も、満更でもなさそうで。素直なその姿には、好感を覚える。


 ……いや、あくまで、友達として、か。挽回のチャンスもくれたし、まあ、出だしとしては非常に良い印象だった。


 そして皆、それぞれ歌を歌ったりして、備え付けのフロントへの電話で料理を注文したりして。……ロシアンルーレットたこ焼きとかいう悪魔の風習をカラオケに持ってきたのはどこのどいつだ。喉が痛くて歌えやしないだろ、馬鹿か。食らったのは俺だ。

 尚、星姫がさらっとカシスオレンジカクテルを頼もうとしてたのには釘を刺しておいた。お前、未成年だろ。「ちえっ、ケチ」と言われたが駄目なもんは駄目だ。


 そして、皆の歌がある程度で終わって、少し休憩。雑談タイムに移行しだした。そこで、星姫からのまさかの質問が出る。


「ねー、光輝君とクリスって、どんな関係?」


「え……っ」


「……」


 いや、なんとなく、予想はしてたんだ、星姫がその質問をするのは。


 さて、どうするかな……。

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