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ラスト・ワン・デイ

「夏休みの課題を見せろ」


「……はい?」


「忘れていたんだ。見せろ」


 八月三十一日、夏休み最終日。色々あった夏休みの終わりは、静かに優雅に過ごそうと思っていた岡本光輝。しかしその思惑は、突然のインターホンにより無残にも崩れ去るのだった。


 インターホンが鳴り響く光輝の家、光輝は苛立ちを感じながらも母は仕事で家に居ないので対応した。玄関のドアを開けると、そこには顔面蒼白の黒咲夜千代が居た。それは、非常に珍しい光景だった。

 黒咲夜千代。光輝の知ってのとおり、根暗系乱暴少女。そんな夜千代が一人で光輝宅に来るという事態。一体、何が起こったのかなんて思ってしまった。しかし、その理由は直ぐに判明した。


 なるほど、夏休みに遊びすぎて課題に手を付けなかった訳か。馬鹿だ、馬鹿もいいとこである。


「クッ……クククッ、アッハハハ……」


「笑うのはこの際構わん。見せてくれ……いや、見せてください!」


 夜千代を嘲笑する光輝に、しかし懇願する夜千代。軽く煽ってやったが、どうやら怒る余裕も無いようだ。

 ちなみに、光輝はしっかりと夏休みの課題を順当なペースで終わらせていた。モチベーションの維持調整として、ペース配分は大事だ。


「えー、どうしよっかなー?迷っちゃうなー」


 光輝が夜千代に対して上に立てることなどそうそうなく、今はその状況だ。故に、光輝はもっと楽しみたかった。黒咲夜千代を言葉でボコれる、この状況。煽れるだけ煽ってやる。

 しかし、夜千代も無手で来たわけじゃない。夜千代も、光輝に対してノーガードで出るわけがなかった。


「……仮面」


 ボソりと呟く夜千代、ピクりとする光輝。


「結局、キャンプん時から返してもらってねーんだよなー。この前、私は出てねーのに民間から「仮面」の目撃情報があったんだよなー。だーれのし・わ・ざ、かなー」


「……」


 得意げなその言葉に瞬間顔を俯かせ、一気に赤面させる光輝。まずい、そんな核兵器を持ってこられたら岡本光輝の心のシェルターはただではすまない。

 あの日、光輝が一宮星姫と会った日。光輝は夜千代の仮面を付け、星姫を助けた。結局彼女に正体はバれ、しかし星姫への口止めにより正体はしっかりと伏せられたようだが、本来の仮面の所有者は黒咲夜千代だ。

 光輝は夜千代の素性をしっかりと知らないが、夜千代にも夜千代の事情があるはずだ。光輝が仮面で行動したという事は、そのまま夜千代が行動したという結果に繋がってしまうはずだ。

 なるほど、その場合、光輝側に不利がつく。そして。


 光輝はその事件で思い出す。唇と舌にしっかりと刻み込まれた、あの感触を。

 光輝は意識しないように、しかしどうしてもむず痒い思いが脳内を駆け抜け、その唇を噛む。


「……入れ」


「恩に着る。お邪魔します」


 ギブアップ。仕方なく光輝は夜千代を家に招き入れる。つっても、減るもんでも無いし、まあいいか。どうせ、課題を見せるだけだし。


 と、夜千代が家に上がった瞬間に光輝はある事に気付く。まずい。ひじょーに不味い。


「あ、夜千代、ちょっとまっ」


「光輝、どうしたんですか?誰が来ました?」


「……えっ」


「って--」


 ドアを開け、部屋から出てきたクリスと夜千代は顔を合わせる。その夜千代の顔はまるで豆鉄砲を食らったかのように、目をぱちくりとさせて。


 なんか感覚が麻痺してたけど、女子が男子の家に留学って、普通に考えて大問題だよなコレ--


--黙々と課題を写しながら、光輝に冷たい言葉を向けてくる夜千代。


「つまり岡本光輝は本物の変態さんだった、と。よし、もうお前二度とウチの敷居を跨ぐな」


「だから違うんだって。俺は断ったんだがな、クリスが」


「光輝、もしかしてあの日泊まった友達の家ってもしかして夜千代の家では……」


「勘が良いな、アンタ。そうだ、この変態は夜中に女子の家に上がり込むド変態だ」


 ああ、どんどん俺のシェルターに核ミサイルが飛んでくる。どうしよう、コレ。防ぎきれない。


「岡本クンはてっきり枯れてるとばかり……。私も気をつけねばな」


「誰がお前みたいな戦闘馬鹿にさかるか。つーかお前のせいでもあんだぞ」


「こ、光輝さん……その、そういう事は、よろしくないかと……」


「コーちゃんが俺の知らないところでハーレム作ってるとか裏切られた気分だぜ。畜生、羨ましい」


 いや、ハーレムでもなんでもねーし。そういう事じゃないし。瀧みたいな奴に性的感情を持てないし。そもそもお前が了承出すからなんだよな。というよりだな。


「つかなんでお前らもちゃっかり居るんだよ!」


 今、岡本光輝の家には光輝・クリス・夜千代の三人に加え、瀧・ホリィ・後藤の計六人が集まっていた。流石に光輝の部屋だけで収まる人数ではなく、居間と直結させてなんとかやりくりできていた。


「いやー、姉さんに課題を見せてもらおうと思ったら「自分でやれ」の一点張りでさ。優しい岡本クンに見せてもらおうと思ってね」


「俺っちも瀧に同じく」


「あ、あの、私は折角の最終日だから遊びに……」


「はいはい、お好きにどーぞ」


 半ばヤケクソになっている光輝。結局の所、このメンバーの内半分はペース配分が出来ない奴らの集まりって事か。なんとも情けない事だ。人生を円滑に進めるために日頃からの積み重ねは大事だぞ。


 光輝の課題は今夜千代と後藤がせっせと写している為、瀧には待ってもらっている。というか、お前勉強やらない人間だっけか?


「いやー、夏休みの最後に課題を全部やるという学生の内に、しかも年に一回しかない極上の状況……まさか今回は姉さんが見せてくれないとはね。はっは、参った参った」


 そうだった、瀧は変人だった。天才と馬鹿は本当に紙一重だな。そんな状況、何が楽しいのやら。


「うし、コーちゃん、終わったー!トランプしよう、トランプ!」


「はえーな、オイ」


 先に課題を写していた夜千代よりも、課題を先に写し終えた後藤。なるほど、「速度上昇」の能力か。しかし、本当に写しただけのようだ。自分で考えてやらないと課題なんてのは意味の無いものなのに。


「ふむ、では私も写させてもらうとしよう。「風より速く(ハイマックス)」!」


「チィッ、化物共が!「速度上昇」!」


 遂に課題に手を付けだした瀧も、あろう事か能力を使って課題を片付けに来た。そしてそれに釣られるように夜千代もまた、後藤の能力を「過去オー遺物パーツ」により劣化コピーさせて速さを上げる。

 ……そんな急いでやることも無いんだぞ。まだお昼だから。


「皆さん、もうすぐお昼ご飯出来ますから食べていってくださいなー」


 ふわり、と良い匂いが漂ってきてクリスから声がかけられた。そうか、もう昼時か。

 その言葉を聞いて、さらに瀧と夜千代は手を動かす速度を速める。お前ら食い意地張ってんな。


 まあ、やる気があるのは、いい事か。


 その後10分程して課題を終わらせた二人に合わせるかのように、クリスはお昼ご飯を持ってきた。それは、特盛の野菜炒め。健康的かつ、ご飯のおかずになるように濃い目の味付けをしてある。

 クリスが家に居る事の一番の利点は、ご飯がうまい事だと思うんだ、俺--


--昼ごはんを食べた後、トランプやら駄弁やらで時間を過ごしていった光輝達は、光輝の母親が帰って来たことで外が暗くなっている事に気付いた。既に空に月が上り、無数の星々が見える。光輝が昔住んでいた伊勢市とは違ってイクシーズは都会であり、光源があるためそこまではっきりとは視えない。この辺り、住宅地は市街地よりは暗いが、この時間帯はまだ明るい方だ。光輝の超視力でも、夏の大三角を捉えることはできるが後はそこまで分からない。まあ、こればっかりは仕方がないか。


 玄関の外で、それぞれは散り散りになる。


「それじゃ、光輝さん。また明日、学校で」


 畏まって礼をするホリィ。


「じゃあね、岡本クン」


 右手の人差し指と中指を揃えてこめかみに当て、それを別れの言葉と共に空中に放る瀧。なんともキザったい。


「今日はありがとな」


 なんだかんだで礼を言う夜千代。


「そんじゃね、コーちゃん」


 いつも通りの後藤。


「おう。じゃあな」


「さようなら、皆さん」


 夏休みももう終わり、明日からはまた学校が始まる。なんか、ここ一ヶ月間程で人との交流が一気に増えた気がする。

 めんどくさいし、疲れるけど……こういうのも、悪くないな。


 光輝は学校をめんどくさそうにしつつ、少し楽しみでもあった。

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