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神殺しの英雄  作者: ポンズイッキ
第五章 『最後の英雄』
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第六十三話 「そっくり」

「剣を教えてほしい?」

思いもよらない頼みに、ルクシスは眉をひそめた。

「いや、ほら……俺って鎖しか使えないだろ?」

フェルギアは苦笑しながら頭を掻く。

「鎖だけじゃ火力不足になることもありそうだしさ。頼むよ」

両手を擦り合わせ、そのまま深々と頭を下げる。

ルクシスは困ったように頭を掻いた。

「そんなこと言われたってな……。第一、お前、剣持ってないだろ」

「それは……俺の剣技が上達した頃に買うよ」

フェルギアは人差し指を立てる。

「それまでは、お前の剣を貸してくれ」

「無理」

「即答かよ」

間髪入れない返事に、フェルギアが大げさに肩を落とした。

「……お前の言う俺の剣ってさ」

ルクシスは収納魔法を発動する。

淡い光とともに、二本の剣が現れた。

黄金に輝く剣。

そして、漆黒の剣。

腰の鞘へ静かに収めると、それぞれの柄へ手を添える。

「これのことだよな?」

「あぁ……そうだが」

「じゃあ無理だ」

「いや、相棒を貸すのは気が引けるっていうのは分かるけどさぁ……」

フェルギアが苦笑すると、ルクシスは小さく首を横に振った。

「そういう話じゃない」

「……え?」

「ええとな……五聖剣って知ってるか?」

「五聖剣……? いや、知らないな」

フェルギアが首を傾げる。

「五聖剣っていうのは、神々が人類に授けた祝福の一つだ」

ルクシスは腰の剣へ視線を落とした。

「剣の中でも頂点に立つ存在…というか、まぁ簡単に言えば――最強の剣だ」

「あぁ……。」

フェルギアは頷きかけ、

すぐにその動きを止めた。

「……え?」

何かに気付いたように目を見開く。

「ちょ、ちょっと待て」

震える指が、ルクシスの腰にある二本の剣を指した。

「もしかして……そんな凄い剣が……」

「そう」

ルクシスはあっさり頷く。

「俺が使ってるこの二本も、五聖剣のうちの二振りだ」

「…………。」

フェルギアは固まった。

「……マジで言ってるのか?」

「大マジ」

ルクシスは苦笑しながら肩をすくめる。

「それで、五聖剣には所有者マスター以外扱えないって特徴があんの」

黄金の剣の柄を軽く叩く。

「つまり、お前が持っても振れないってことだ」

「……なるほどね」

フェルギアは大きくため息をついた。

能力は四つ持ち。

魔法も使える。

剣も使える。

そのうえ最強クラスの剣を二本持ち。

呆れ半分、感心半分でルクシスを見つめる。

「なんでもありだな、お前」

「よく言われる」

ルクシスは悪びれる様子もなく笑った。

「はぁ……まさか、お前の使う剣が五聖剣だったせいで、俺の剣士ルートが閉ざされるとは……」

フェルギアは肩を落とし、大げさにため息をつく。

「……?」

ルクシスは不思議そうに首を傾げた。

「なんで閉ざされるんだ?」

「いや、だって……お前の剣、俺じゃ使えないんだろ?」

「別に、この剣じゃなきゃ駄目なわけじゃないだろ」

「……え?」

ルクシスは収納魔法を発動し、手のひらほどの石を一つ取り出す。

それを軽く握り、魔力を流し込んだ。

石が淡く輝き始める。

次の瞬間。

光が形を変え、一振りの剣となって姿を現した。

「それは……」

武器変換クラスチェンジ

ルクシスは当然のように言うと、その剣をフェルギアへ放り投げる。

「ほい」

「うわっ!」

フェルギアは慌てて両手を伸ばし、危なっかしく受け止めた。

ずしり、と手に重みが伝わる。

ルクシスは腰の黄金の剣を軽く叩き、口角を上げる。

「いくぞ」

「お、おう!」

フェルギアはぎこちなく剣を握り直し、その後を追った。


◇◇◇


二人がやって来たのは、リベリオンのある街から少し離れた平原だった。

どこまでも続く緑の草原。

風が草を揺らし、遠くでは鳥の鳴き声だけが静かに響いている。

人影はない。

修行をするには、うってつけの場所だった。

「……なぁ」

「どうした?」

「お前の剣、五聖剣って言ってたけどさ」

フェルギアはルクシスの腰に差された二本の剣へ視線を向ける。

「五聖剣なら、他にもあるんだろ? それらは持ってないのか?」

「あのなぁ」

ルクシスは呆れたようにため息をつく。

「持ってる持ってない以前の話だ」

「……?」

「そもそも、まだ見つかってないんだよ」

「そうなのか?」

「あぁ」

ルクシスは黄金の剣と漆黒の剣、それぞれの柄へ手を添えた。

「現在確認されてる五聖剣は、この純天剣と混血剣だけだ」

「……へぇ」

フェルギアは思わず剣を見比べる。

「そんなに見つからないものなのか?」

「当たり前だ」

ルクシスは苦笑する。

「そもそも五聖剣は、人を選ぶ」

「仮に見つけたとしても、選ばれなきゃただの抜けない剣だ」

「選ばれなかったからって、そのまま放置するやつだっているだろうしな」

「人を選ぶ、か……」

フェルギアは腕を組み、改めてルクシスを見る。

「ってことは、お前」

「世界に五本しかない最強の剣のうち、二本に認められたってことかよ」

「まぁ……そうなるな」

あまりにもあっさりと答えるルクシスに、フェルギアは呆れたように笑う。

「マジかよ……」

「本当になんでもありだな、お前」

「……」

ルクシスは二本の剣へ目を落とす。

「この二本に関しては……例外だと思うがね」

誰にも聞こえないほど小さく呟いた。

「……?」

「なんか言ったか?」

「いや」

ルクシスはいつものように肩をすくめる。

「なんでもない」

そう言って話を打ち切ると、フェルギアは首を傾げながらも、それ以上は追及しなかった。

「それよりも。」

ルクシスは話を切り替えると、腰に差した二本の剣のうち一本だけを抜いた。

陽光を受け、刀身が鈍く輝く。

「やるぞ。」

「……片方だけでいいのか?」

フェルギアが首を傾げる。

「お前が片手剣タイプだから、それに合わせてるだけだ。」

「あぁ……そういうことか。」

フェルギアも武器変換で生み出した剣を握り直す。

二人は十メートルほど距離を取り、それぞれ剣を構えた。

平原を風が吹き抜ける。

草が静かに揺れ、辺りを包む空気が一変した。

「まずは、お前の好きなように攻撃してみろ。」

ルクシスは剣を肩へ軽く担ぎながら言う。

「俺は回避と防御しかしない。」

「そういうことなら……遠慮なく!」

フェルギアは勢いよく地面を蹴った。

一直線に間合いを詰め、頭上へ大きく剣を振りかぶる。

力任せの振り下ろし。

だが。

ルクシスは半歩だけ横へずれる。

剣は空を切り、地面へ叩きつけられた。

「まだ!」

フェルギアはすぐに剣を引き戻し、横薙ぎへ繋げる。

それも。

斜め斬りも。

突きも。

すべて、ルクシスは最小限の動きだけで躱していく。

まるで剣が当たる未来を最初から知っているかのようだった。

フェルギアは意地になって剣を振り続ける。

しかし結果は同じだった。

何十回と剣を振るう頃には、息は完全に上がっていた。

「はぁっ……!」

最後の一振りを空振りした勢いで身体がふらつく。

視界がぐるりと回る。

そのまま尻もちをつき、勢い余って仰向けに倒れ込んだ。

「へばるのが早ぇな」

ルクシスは苦笑しながら歩み寄り、仰向けになったフェルギアの顔を覗き込む。

「はぁ……はぁ……」

フェルギアは肩で大きく息をしながら空を見上げる。

「思ってたより……体力、なかった……」

「そりゃ毎回大技ばっか撃ってたら、すぐ体力なくなるわな」

「えぇ……?」

フェルギアは納得できないというように眉をひそめた。

「ワンパターンだって言ってんだよ」

ルクシスは呆れたように言い捨てると、その場へどかっと腰を下ろした。

草を一本引き抜き、それを指先でくるくると回す。

「別に一撃で仕留める必要はない」

「魔物相手なら、なおさらだ」

「そう……なのか?」

「あぁ」

ルクシスは頷く。

「二級以上の魔物になると、一撃で倒せる奴なんてそうそういない」

「だから時間をかけて削る」

「それが基本だ」

「……覚えることが多すぎて、頭に入ってこねぇ……」

フェルギアは頭を抱え、大きくため息をつく。

その時だった。

ほんの一瞬だけ。

ルクシスの表情が陰った気がした。

「……ルクシス?」

「……あぁ」

ルクシスは我に返ったように顔を上げる。

「いや、なんでもない」

そう答える。

だが、その横顔には先ほどまでの軽さがなかった。

どこか遠くを見るような目。

何かを思い出したような、そんな表情だった。

フェルギアは少し迷ったものの、無理に聞き出すことはしなかった。

代わりに、別の話題を振る。

「……そういやさ」

「お前、魔法も使えるのに、なんで剣技まで習得したんだ?」

ルクシスは少しだけ空を見上げる。

風が前髪を揺らした。

「……魔法はな」

静かに口を開く。

「学校で無理やり習わされただけだった」

「正直、最初は好きでもなんでもなかった」

苦笑が漏れる。

「でも、なんだかんだ使う場面が多くてさ」

「気付いたら、自然と覚えてた」

そこで一度言葉を切り、

腰に差した黄金の剣へ視線を落とす。

「剣に関しては」

その声だけは、少しだけ柔らかかった。

「元々、俺が好きだったってだけだ」

「……前にさ」

フェルギアは剣を肩へ担ぎながら、ぽつりと呟く。

「俺も魔法を使いたいって言ったよな」

「あぁ……そうだな」

ルクシスは短く頷く。

「でもさ」

フェルギアはゆっくりと身体を起こし、草を払った。

「なんか、覚える気失せちまったわ」

「……?」

ルクシスが不思議そうに眉を上げる。

「お前が過去の話する時さ」

フェルギアは苦笑する。

「いっつも暗い顔するからな」

その言葉に、ルクシスは少しだけ目を伏せた。

「……あんまり、いい思い出がないもんでな」

苦笑している。

だが、その笑顔はどこか寂しかった。

「なんでもありな奴にも、それなりの苦労があるって解釈させてもらうぞ」

「……あぁ」

ルクシスは小さく頷く。

「それでいいよ」

短い返事だった。

それ以上、過去を語るつもりはない。

フェルギアも、それ以上は聞かなかった。

聞けば話してくれるかもしれない。

それでも今は、聞くべきではない気がした。

しばらくの沈黙の後。

二人は同時に立ち上がる。

ルクシスは剣を軽く回し、肩へ担いだ。

「もう休憩は終わりでいいのか?」

「あぁ」

フェルギアは何度か肩を回し、拳を握ったり開いたりする。

「体力はもうフルになってる」

その返事を聞いた瞬間。

ルクシスの頬が、ふっと緩んだ。

脳裏に、懐かしい声が蘇る。

『うぐっ……覚えることが多すぎて、頭に入りませんよ……』

『そういや師匠って、なんで魔法が使えるのに剣技まで習得したんですか?』

『師匠にも、師匠なりの苦労があったんですねぇ……』

「ほんと……そっくりだ」

「は?」

フェルギアが首を傾げる。

「何がだよ」

「いや」

ルクシスは首を横に振る。

「なんでもない」

その笑顔は。

少し前まで浮かべていた、どこか寂しげなものではなかった。

ほんの少しだけ。

昔を懐かしむような、穏やかな笑みだった。

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