32話 白と人魚と海底王国(前編)
ー某所ー
「モルセーゴに続いてディアまでやられただと!?」
「はい。王都に居た者によると、“賢者”達によって討たれたとの事です。」
部下による報告が行われると、男は怒号を響かせた。
ディアには俺の後を継がせるつもりだった...あいつを倒せるやつが王都に居ただと?
それよりも部下を殺すようなやつを放ってはおけない。
「俺が直接行って賢者共を殺してやる。居場所を教えろ。」
「お待ちいただけますかな、リャンフール殿。」
「オックス、俺を止めるとはどういう了見だ?」
リャンフールが共同者であるオックスに制止されると、苛立ちをあらわにしながらオックスを睨みつけた。
「部下を殺されて復習したい気持ちは分かります。私も賢者に仲間を殺されていますから...。ですが、一時の感情による行動は、本来の目的から遠ざかってしまう原因になりえます。しかし安心してください、私とあなたの目的は違いますが、共同者となった以上私もできるだけあなたの目的のために動くことを約束いたします。ですので、あなたも私の目的のために、少し待っていただけないでしょうか。」
賢者たちが集まった場所に“アレ”を投入したところですぐに処理されてしまうでしょうし、戦力を分散させなければいけないという時にリャンフール殿に死なれてしまっては、私の目的を達成することは難しくなる。
くたばるのは私の目的が達成された後にしてもらいたいですしね。
「…チッ。」
賢者共は必ず殺す。だが共同者としての約束を反故にしたら殱誓天との関係が悪化し、俺の復習もあの方に命じられた“賢者の抹殺”という任も達成できなくなる。
あいつら殱誓天と協力せず俺たち夜陰教団だけでやるべきだったか。
いや、今はあの方への報告が先か。
「私の方の準備が整えば、自由に動いてかまいませんよ。」
賢者たちに対する怒りはあるものの、冷静になってきたリャンフールの退室際にオックスは静かにそう言った。
―————
ウォードルス王国の王都を離れた白と星水は海底王国レムトーラにやってきた。
白は水中であるはずなのにもかかわらず地上と同じように呼吸が出来ていることに疑問を抱きつつ、辺りを見回していた。
「ここ海底なんだよね?息もできるし、ちょっと浮遊感がある気がするだけで地上にいる時と変わんないんだけど、星水が何かしたの?」
「そ~、ここに転移するときに私が加護を付与したんだよね。ま、そんな大したことじゃないんだけど、褒めたいなら褒めたたえてくれてもいいんだよ♪」
なるほど、“流石竜王!”...と言いたいところだけど、あのドヤ顔がなぁ...。
なんかムカつくし適当に返しとけばいっか、今はそれよりこの国を救うことが重要だし、細かいことは気にしない感じで行こう。
「竜王ならこれくらい出来て当然だよね。」
「白ちゃんひど〜い。確かに事実だけどさ...。っと、まずはここの女王に会ってもらおうかな。詳しい話は女王から聞いてね。」
ただ説明がめんどくさいだけじゃ...。
まぁこれ以上触れて話が進まなくなっても困るし、ここはスルーでいっか。
そうして星水に案内されてレムトーラ城にある玉座の間へとたどり着いた。
玉座に居た女王は、ここに来るまでに見て来た人魚族達よりも大きな人魚族であった。
そして周りにも幾人かの人魚族が居るが、どうやらこちらの様子をうかがっているようだった。
いくら竜王の星水に連れてこられたとはいえ、急に獣人が来たらやっぱり警戒されるよね。
もしかして女王様にしか言ってなかったとか?...さすがにそんなことないよね。
「お越しいただきありがとうございます、賢者白様。私はここレムトーラを治めている、“カエルレア・エフティヒア”と申します。ぜひ“エルレア”とお呼びください。本来であれば丁重にもてなすべきところなのですが、今のレムトーラは不安に満ちており、心からのおもてなしをすることが出来ない状況なのです。すでに星水様から聞いておられるかもしれませんが、今回白様には我が国からの依頼、率直に申しますと魔物の討伐をお願い申し上げたいのです。」
かなり丁寧な人だなぁ、女王様だし当然っちゃあ当然か。
あれ?ていうか私星水からなんも聞いてないんだけど...
「勿論その依頼は引き受けさせていただきますが、実は具体的な事をまだ星水...様から伺っていないのです。」
「星水様...分かりました、私から説明いたします。まず、ここレムトーラには国を守る結界と、その結界を保護する保護層があり、そのどちらにも維持する為の水晶があるのです。そして数か月前、結界の外にある保護層を維持する為のマリンクリスタルの置かれている祠が突如魔物による襲撃を受け、占拠されてしまったのです。祠には常に守衛を付けていたのですが魔物に太刀打ちできず、現在は離れた位置から監視することしかできていないのです。守衛に就いていたものによると、“人語を話す鮫型の魔物”とのことで、おそらくはレクスガレオスだと思われます。」
エルレアは星水が白に何も伝えていないことに少し呆れた表情を見せながらも、今回の件について詳しく説明した。
レクスガレオスって確かAランクモンスターだったような...
それなら一般的な兵士たちで相手にならないのもしょうがないか。
Aランクモンスターなんてそうそう現れないし、それより人同士のトラブルとかの方が多いから、肉体的な強さよりも精神的な強さが優先される...ってソイルが言ってたなぁ。
と前にソイルと話した時の事を思い出していると、ある疑問が浮かんだ。
「お聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょうか。」
「そのマリンクリスタルは結界内で管理することはできないのでしょうか?」
クリスタルが2つとも結界内で管理できれば、外のモンスターによる影響を受けることもなければ、管理自体も楽なはず。
結界内での管理ができないとしても、その理由が気になる...
「そうですね、結界を維持する水晶アクアクリスタルと同じように結界内であるこの城で管理できれば良かったのですが、結界によってマリンクリスタルから保護層へのエネルギー供給が阻害されてしまい、保護層の維持が出来なくなってしまうため、結界の祖手で管理しなくてはならないのです。白様、賢者という重大な使命がある中で我が国のために歩みを止めてしまうことを大変心苦しく思いますが、どうか人魚族のためにその力をお貸しください。」
「頭を上げてください、エルレア様。私たち賢者は暗黒神を討つだけでなく、困っている方々を救うという役目もあります、ぜひ私にお任せください。」
結界内で管理できない理由は分かった。っていうかこの人、腰が低いなぁ。
女王様がこんなに頭を下げるって、あんまやらない方がいいと思うんだけど。
でもそれだけの状況って事か…いやこの人だったらいつもこんな感じっぽいな。
「では白様にはこちらから一人...彼女を使用人としてお使いください。」
「初めまして白様。私は“レイン”と言います。レムトーラに居る間、白様にお仕えさせていただきたく思います。」
「分かりました。よろしくお願いします、レインさん。」
「私のような者に敬語だなんてそんな...身分の低い者に対する言葉遣いで構いません。」
そんなこと言われても、話し方のレパートリーってあと一つしかないんだけど。
あーでも女王様と同じ感じ話し方とかすると、部下としては重く感じるのかなぁ。
「ん~じゃあ仲間と話す感じでいいかな、レイン。」
「そのようにしていただき光栄です。」
「女王様、何かありましたでしょうか。」
「へ?あ、いえ、何でもありません。白様、改めてよろしくお願いします。」
私も彼女のように砕けた感じで話してほしいなど、上に立つ者としてよくない考えですよね。
…でもやっぱりうらやましいです。ってなんですか星水、その顔は。もしかして私の考えがバレているのですか⁉…しっかりしなくては。
星水がにやけている理由も女王の考えを知る由もなく、白はレインと共に行動することとなった。




