30話 港町にある2つ目のゲート
ヘスティアが南の森でモンスター達と戦っていた頃 賢者たちは王国軍第一師団長のフォーグから港町の状況を聞いた後、団長の居るテントから少し離れた位置にある二つのテントへと案内された。
「こちらになります。」
「ありがとうございます。ところで、負傷した兵士の皆さまの所へ案内していただくことはできますか?うちの仲間が負傷者の方々のことを気にかけているようでして、お役に立てるかと思いますので。」
「本当ですか⁉で、ではこちらへどうぞ。」
ヘスティアの急な提案に兵士は驚いていた。
すると横に居たアルスがヘスティアに話しかけてきた。
「本当にいいんですか?」
「ええ、アルスだったら負傷者の方々の助けになりたいって言うと思ったの。この後の事は私たちに任せておけばいいから、アルスはここにいる兵士さんたちの事をお願いするわ。」
ここに来てからずっとアルスは負傷者のことを気にしており、同時に何か悩んでいる様子だった。
アルスは多分ここに居る兵士の傷を癒すか、この後にある戦いに備え魔力を温存するかを悩んでいる。
確かにこの後の戦闘にアルスがいてくれると助かるのだが、いま回復魔法を使えば助けられる人もいるだろうと考えると、アルスの魔力は負傷者達に使った方がいいはず。
実際アルスは、ここに居る者たちを救いたいという思いの方が強かったのだがまだ悩んでおり、ヘスティアが言うまで意思が固まっていなかった。
「ヘスティアさん、ありがとうございます。」
「私も手伝うわ。あと、エリスにはここで休んでいてもらいましょうか。」
「え~私も行く~。」
エリスは眠そうにふらつきながらそう言ったが、アルスによってテント内に運ばれると、そのまま目を瞑り眠った。
「じゃあ私も手伝いに行ってくるね。ゼータ、兄さんと二人っきりだからって変なことしないでね。」
「~♪」
...今はここの人たちを助けるのを優先したいし、私はこの間お兄ちゃんと二人っきりになったばっかりだし、ここは譲っておくのがフェアだよね。
そうしてアルス、ヘスティア、シエルの3人は負傷者の居るテント群の方へと向かい、残ったソイルとゼータは2つあるテントのうちエリスが寝ていない方のテントに入った。
「そういえば王都の方で戦闘を終えてからからメンテナンスしてなかったな」
「ん」
そう言ってソイルは空間から道具をいくつか取り出していると、ゼータは裸になり目を瞑った。
ゼータがスリープモードに入ったことを確認したソイルは淡々とメンテナンスを進めていった。
王都で起きた戦闘は直接見てなかったが、内部部品がいくつか変形してる。
破損している物もあるが、このくらいなら博士からもらった部品だけで何とかなりそうだな。
順調に作業を進めて行ったソイルは最後に5mm程度のチップのようなものをゼータに気づかれないような位置に取り付け、作業を終えた。
ゼータが自動で感知しスリープ状態から戻ると、ソイルの方をじっと見つめた。
「どうかしたか?」
「ジー」
ソイルにはゼータがこちらを見ている理由は分からなかったが、不機嫌そうなことだけは分かった。
もしかしてあれを取り付けたのがばれたのか?
魔力感知にもかからないって博士は言ってたが…
「...ソイル、ゼータってそんな魅力ない?」
座っているソイルににじり寄り、顔を赤らめながら聞いた。
確かにゼータはシエルやヘスティアのように胸もお尻も大きくない。
でもソイルと婚約しているイリスも同じ様なスタイルならばむしろシエルよりゼータの方がソイルの好みに近いのかも。
だけど裸でこんなに近くに居るっていうのに、少しも動揺してる感じがしない。
ゼータは少し自信を無くしつつあったが、その雰囲気を感じ取ってか取らずかソイルは褒めようとした。
「いや、そんなことないぞ。充分可愛いとおもっ...んぐっ..⁈」
ソイルの話を遮り、自分が可愛いと思われていると知ったところで押し倒し、ソイルの体にまたがって顔を近づけキスをした。
今ここには自分とソイルしか居ないという状況で、ソイルに好かれていると確信したことによる嬉しさを抑えることが出来なかった。
ソイルはゼータのこと可愛いって思ってるんだ。
それから十数秒経った後、ゼータはソイルの唇から自身の唇を離した。
「良かった。ゼータに興味ないのかと思ったけど...顔、赤くなってる。照れてる~♪びっくりさせちゃった?でもソイルが悪いんだよ。ゼータを不安にさせるような態度をするから。」
ゼータは恍惚な表情を浮かべながら舌舐めずりをした。
…もしかしたらこのままもう少し先へ進めるのでは?
そう考えたゼータは自分の思う“次の展開”へ進めようとした。
「次は...」
そういってゼータはニヤリと笑みを浮かべながらソイルのズボンに手を掛けようとした時、二人の居るテントの出入り口が開かれると、そこにはシエルが立っていた。
「ねぇ、私たちが兵士さんたちの手当てと看病をしている間、2人は何していたのかな?」
「…ごちそうさま。」
明らかに怒っているシエルに対し、煽るかのように微笑を浮かべながらゼータが返答した。
2人の間の空気が悪くなっている中、ソイルは今起きたことの状況整理に頭を使っていた。
俺は今ゼータにキスをされた?ゼータが俺の事を好いてくれているのは分かっていたが、イリスと婚約する話をしたその場にゼータも居たはずだよな。
だがイリスと前にキスしたことに関しては話していないし、雰囲気に流されて抵抗しなかった俺も悪いが、どうして今なんだ?
いくら二人きりとはいえ、いつ誰が来てもおかしくない状況でこういうことをするとは思わなかった。
…まぁ起きたてしまったことは仕方ない、今後は気を付けることにしよう。
取り敢えず今は2人を収めた方がよさそうだしな。
「2人とも一旦落ち着け。俺はゼータに変なことをされたわけじゃないから。」
「…お兄ちゃんがそういうなら、仕方ないけど今回は許してあげる。」
「確かに変なことはしていない。それは事実。」
「ふ~ん、どうだか…ってそうだ!こっちの方は落ち着いたから、二人を連れてくるように言われてたんだった。ヘスティアが作戦会議するって言ってたから、ほら兄さんもゼータも行こ。」
ソイルとゼータがキスをしたことを知らないシエルは、実際に見たわけじゃなかったというのもあり、一先ずはこの事をおいておいて、二人を連れて白以外の賢者達とフォーグ団長たちの居るテントへと向かった。
「シエル、ご苦労様。それじゃあ全員揃ったことだし、今から作戦会議を始めるわ。まずは現状、モンスターたちが現れそうなのは町の沿岸部と南の森、そして西側に出現するゲートの三ヶ所。その内ゲートの破壊はシエルにしかできないから任せるわ。後ゼータ、シエルに付いてゲートから現れるモンスターの対処を任せるわ。」
「...わかった。」
なんで私がゼータと一緒にやんなきゃならないの?せっかくお兄ちゃんと一緒に居れる時間が確保できると思ったのに。
「...了解。」
なんでゼータがシエルと一緒なの?ゲートの破壊は一人でも...あ、そういえば能力を使った後は動けなくなるんだっけ。はぁ...めんどくさい。
二人は同じような事を考えながら嫌な顔をしつつ、渋々返事をした。
「それからソイルは町の沿岸部の対処を副団長のガルフさんと一緒にお願いするわ。町長のポールさんは住民の避難を頼みます。アルスとエリスはこのままここを守って頂戴。私は森の方に向かうわ。」
「了解。」
「承知いたしました。」
シエルとゼータだけでなく、その場に居る全員に対して的確な指示を出していったヘスティアに対し、ソイルはいつものように、町長のポールも普通に返答したが、副団長のガルフにはある疑問が浮かんでいた。
「それはいいのですが、ソイル殿が居て下されば私達が沿岸部の対処に向かう必要はないのではないでしょうか?」
「ソイル1人で沿岸部全体を対処するより効率的に対応できるようにするためにガルフさん達には行ってもらおうと思ったのだけれど、そうね...ではガルフさんの部隊の半分はポールさんと一緒に住民の避難と保護を、もう半分の方達はソイルの指示に従って沿岸部の対処をしてもらえないかしら。」
「なるほど、了解しました。」
「では、作戦中何かあったらすぐに他の人に連絡を入れてください。皆でこの町の問題を解決し、平和な日々を取り戻しましょう。」
「「「おー!」」」
その場に居た兵士たちはその言葉と賢者達がいることに対する安心感を感じ、戦意が上がりやる気に満ちていた。
こうして全員に指示を出し終えると、それぞれが指示された場所へと向かい、作戦を実行し始めた。
ヘスティアは南の森へと来ており、やがて夜になるとモンスターたちが現れ始めた。
「来たようね。」
ゴブリンが大体10体くらいとあれは…フラッドバイパー⁉あいつって確かBランクの中でもAランクに近いモンスターよね、まさかあんなやつまでいるとは。
でも逃げたってことは ルナ が対応したって事、こちらに現れた夜陰教団員のモルセーゴがディアより弱かったとしても、そいつと対峙してさらにBランク上位のモンスターを退けるなんて…
「さて、あの子の頑張りを無駄になんてできないし、さっさと片付けましょうか。」
それにアルスに教えてもらった アレ も試してみたいし、ちょうどいいわね。
「フラム、アクセラシオン。」
炎の加護と加速魔法を使ったヘスティアは短剣を構え、モンスターの群れへと突っ込んでいった。
フラッドバイパーはまだゴブリンたちの後ろの方におり、こちらの様子をうかがっていた。
その間にヘスティアはゴブリンたちを相手にし、10体ほどいたゴブリンたちは何もできないまま次々に倒されていった。
ゴブリンはFランクのモンスター、油断は禁物だけど問題ない。
あとはフラッドバイパーだけなのだけなのだけど、さっきから動いていないし左目を開けていない。
もしかしてルナに左目を攻撃されたことによってこの森に逃げて来たってことなのかしら。
動かないのは体力の温存?それとも左目が見えていないことで私の位置がうまくわかっていない?
「どちらにせよ、私のやることは変わらないわ。魔法付与。」
距離を詰め攻撃をしようとするヘスティアに対し、フラッドバイパーは口を開け水弾を数発放ち攻撃をしてきた。
「私を近づけないつもりでしょうけど、その程度じゃ止められないわよ。」
フラッドバイパーの放った水弾を素早く避けつつ接近してきたヘスティアに尻尾による物理攻撃を行ったものの、それすらも回避され跳び上がったヘスティアは上から首辺りに短剣を突き刺した。
そしてヘスティアが短剣に込めた魔法の発動を意識すると、突き刺された短剣から4位階魔法である“スパイラルフレア”が発動し、内側からフラッドバイパーを焼きながら貫いた。
「上手くいったようね。」
フラッドバイパーには炎属性が効きづらい鱗がある。
私の攻撃なら外側からでも倒せなくはないけど、無駄な力を消費してしまう。
あの時、戦術の幅を広げたいと思ってアルスと話しておいて正解だった。
そう思ったヘスティアは、王都でのアルスとの会話を思い出していた。
———
王都付近のゲート破壊が済み、城に戻ってきた賢者たちは少し話した後、寝ることにしたのだが、その前にヘスティアはアルスに話しかけた。
「アルス、ちょっといいかしら?」
「ヘスティアさん、どうしました?」
ヘスティアさんが自分にのみ話しかけてくることはあまりない。
もしかしたら何かミスをしてしまったのだろうか。
不安な気持ちを抱えながらも、ヘスティアの話を聞き始めた。
「SCって聞いたことある?」
「え⁉なんでヘスティアさんがそれを?」
思ってた話とは違ったが、ヘスティアの口から出てきた“SC”という言葉に、アルスは驚きを隠せなかった。
ヘスティアは単純に疑問に思っており、さらに話を進めた。
「私たちが戦ったディアって夜陰教団員が居たんだけど、彼女が使ってたのよ。魔法に詳しいアルスなら何か知ってるんじゃないかと思って。」
「知識としてはあります。SCとは同属性かつ、低位階から高位階の魔法を使う際に発動できる技術の事なのですが、使う魔法は“マスタリー”という魔法を極めた状態でなければ使用できなかったはずです。」
SCの事についてアルスの解説を聞いていたヘスティアは、ディアの事を思い出していた。
ディアはそんな高度な技術を何故使えたのだろうか、SCはいつでも使えるのだろうか。
戦闘の始めに使っていれば私やゼータに勝てた可能性もありそうなのに、最後の方まで一切使ってこなかった。
もしかして魔力消費が多いとか、すごく集中力が必要だとか、何か条件のようなものがあったのかしら。
色々考えていると、ヘスティアはふと気になることがあった。
「そんな高度な技術だったのね。アルスはSCを使えるの?」
「僕はまだ使えないですね。然精族の中でも今は僕の母親以外で使える方はいなかったと思います。旧賢者様でしたら使えると思いますが。」
なるほど、魔法の扱いが得意な然精族ですら限られた使い手しかいないのね。
そうなるとディアがSCを扱えた理由がより知りたくなってきたわ。
まぁ、でも...
「アルスで無理なら私には使えなさそうね。SCを覚えて戦闘に使うことが出来ればよかったのだけど...」
「SCは難しくても、“エンチャントスペル”であれば使えると思いますよ?」
僅かに悔しそうな表情を見せたヘスティアに対してアルスがとある案を出した。
聞いた事はないけど、アルスの提案であれば私にとって良いものでしょう。
おそらく“魔法を付与すること”であるという事は理解できるけど...
「エンチャントスペル?」
「エンチャントスペルは武器などに属性ではなく魔法を付与する技術でして、ある程度魔力操作のできる人であれば誰でも出来ます。ですが魔法を発動させる際に武器に負担がかかること、それにより壊れてしまうと上手く魔法が発動せず暴発の恐れがあること。あとは範囲系魔法だと、自分も巻き込まれてしまうというデメリットもあります…ってすみません、一気に話しすぎてしまって。」
「うふふ、大丈夫よ。アルスがこんなに熱心に話してくれて嬉しかったわ。“エンチャントスペル”、練習してみるわ。」
アルスは自分の悪い所が出てしまったと焦っていたが、ヘスティアはそんなアルスの頭をやさしく撫でた。
こうしてると弟を思い出すわね、あの子アルスより年上なのに精神年齢は下に見えるのよね。
次に会う時には流石にもう少し大人になってくれていると思うけど。
「ちょっ、ヘスティアさん、急に何ですか。」
「アルスがお利口さんだと思ってね。寝る前に時間を取ってしまってごめんなさい、それじゃおやすみアルス。」
「いえ、全然大丈夫ですよ。おやすみなさいヘスティアさん。」
―――
「後でアルスにはお礼をしておきましょう。とりあえずこちらは片付いたし、町の方に戻りましょうか。」
ヘスティアは前回のゲート出現時に逃げ出した残党を無事倒し終えると、港町へ戻っていった。
、港町の西側に出現したゲート付近にはシエルとゼータが居た。
「なんで私がゼータと一緒なの?この前はお兄ちゃんと一緒だったのに。それに相性的にもゼータが沿岸部に行った方がよかったでしょ。」
「いつまで言ってるの?そんな小さなことを気にするめんどくさい性格だからソイルに相手にされないんじゃない。」
「は?お兄ちゃんはいつでも私にやさしくしてくれますけど?なに?ここでゼータを動けなくしてもいいんだけど?」
「そうしたらソイルにも皆にも迷惑がかかる。それも考えられないの?鳥頭。」
愚痴をこぼしていたシエルに対して、ゼータは煽るような口ぶりで返していた。
やっぱりお兄ちゃんと一緒がよかったなぁ...っていうか鳥頭って何、本当にやったら迷惑がかかるくらいのことわかってますけど!
「ほら、出てきたよ。」
ゼータが指した方向にはゲートから出てくるモンスターたちが居り、その中に一際大きい亀の形をしたモンスターも居た。
雑魚とゲートはシエルに任せるとして、あのカメを倒すのはゼータの役目。
その役目をしっかりこなしてソイルに...えへへ///
「…ねぇ、ちゃんとやってよ?あのコバルトタートルは多分ディメンションブレイクじゃ倒せないから。」
「わかってる...へへへ///」
「…」
ゼータが何考えてるかわ何となくわかるけど、お兄ちゃんとはまだ“そういう事”させないから。
っていうかこの役回りの私地味すぎるんだけど。
一発技撃って後はゼータに任せるって、なんか釈然としないんだよね。
頼まれたからやるけどさ...
「ラオムディテクション、ディメンショナルクレアール」
シエルがゲートを含むエリアを展開し、ゼータの目の前から多くのモンスターやゲートと共に消えた。
そしてシエルは再びゼータの目の前に戻って来ると、もう一つの特異能力を発動した。
「ディメンションブレイク」
どっと倦怠感に襲われたシエルはその場にへたり込み、ゼータに向けてアイコンタクトをした。
ねぇゼータ、私動けないからね。こっちに攻撃が来ても避けれないからね。
いい所を譲るんだからそれくらい分かってるよね?
と憤りを感じながら、視線で圧を掛けていた。
それに対して満面の笑みで返したゼータは、コバルトタートルの方へと向かっていった。
あ、絶対こっちに攻撃来るわ。この状態でも一応魔法は使えると思うけど、大丈夫かな。
ってそうじゃなくて、え?嘘だよねゼータ、流石にそんなことしないよねぇ!
そんなシエルの思いをよそに、ゼータは敢えて相手がシエルの方を向くような位置から近づくと、近づいてきた自分を迎撃するために放たれた水属性のビームを防ぐことなく普通によけた。
「あ、ごめんw」
「ねぇぇぇ!絶対やると思ったよこのスクラップがぁぁぁ!!ヴェントチュラトリー!!!」
シエルは杖を取り出して何とか防御壁を張ることで、水属性ビームを防ぐことが出来たものの、より一層疲れがたまっていった。
今仕返ししてやりたいところだけど、これ以上魔力を使ったら多分気絶する。
そしたらゼータがお兄ちゃんと“ナニ”をしようとするかなんて簡単に分かる。
それが狙いだろうけど...でも絶対そんなことさせないから。
シエルが色々と考えている間にゼータはコバルトタートルと戦っていた。
「戦術展開:第一式」
ゼータはディアと戦った時に出した剣を使い、コバルトタートルの足に攻撃をしていった。
甲羅は鋼鉄のように固いのは知ってたけど、皮膚も岩みたいに硬い。
ただの攻撃じゃ無理そうだし、いっそのこと全力でやれば、甲羅諸共このカメを倒せるかな。
少し距離を取ったゼータに向け、コバルトタートルは大量の水弾を放って攻撃をした。
「サンダーディセミネイション。__テレポート。」
それに対して無数の雷弾を放ち相殺させると、転移魔法でコバルトタートルの上空へと転移した。
先程まで持っていた剣は槍へと変わっており、ゼータはその槍の狙いをコバルトタートルの甲羅へと定めていた。
「魔法付与:ライトニングアクセル。」
雷属性₊加速の合成魔法を付与した槍を、コバルトタートルに向け力を込めて投げた。
投げられた槍は一瞬にして甲羅を貫くと、その衝撃でコバルトタートルの体は弾け、やがて一部を残して消え、その跡にはクレーターが出来ていた。
槍はゼータによって回収されていた為、その場には残っていなかった。
そうして無事コバルトタートルを撃破したゼータはシエルの元へと近づいた。
「...ねぇゼータ、そんなことが出来るなら最初っからやってくれないかな?」
「できるだけ楽に倒したいと思ってた。魔力を可能な限り消費せず倒せるならその方がいい。」
「でも結局使ってるじゃん。絶対わざとだよね?」
「ただ倒すだけなら簡単だけど、あの甲羅を貫いてみたいと思った。30%くらいh」
「じゃあ残りの70%は私の魔力とか体力を削りたかったってことだよねぇ?!......はぁ、もう今日はいいや。疲れたし。」
少し言い合いをしたのち、ゼータは渋々シエルを背負って歩き出した。
モンスターは居なさそうだし、ここに置いていって後で回収した方が楽なんだけど、それでソイルに怒られるのも嫌だし...。
「なんだかんだこうやって運んでくれるんだから、ゼータって意外と優しいところあるよね。だからってさっきのを許すわけじゃないけど。」
「意外は余計。ゼータは常に優しい。すぐに怒るどこぞの羽女とは違う。」
「...私が気絶しない程度に魔力が残ってたら、今すぐにでも鉄屑にしてあげたのに、残念だよ。」
「どうせできない。そんなことしようとしたら埋めるから。」
「ふふっ、私はゼータより優しいから、先に忠告しといてあげる。次またもし一緒に戦うことがあったら、背中には気を付けておいた方がいいよ。」
「臨むところ。」
ヒリついた雰囲気を纏いながら、二人は港町の外北部にある駐屯地へと向かった。
2人が駐屯地に着いた時には既に他の賢者達がおり、休んでいた。
だが、ヘスティアが2人に気が付くと、こちらに歩いてきた。
「2人ともお疲れ様。...ところで、なんで喧嘩みたいになってるのかしら?」
「聞いてよヘスティア〜ゼータがさ、敵の攻撃が私の方に来るように敢えて誘導してきて...なんとか防げたけど、危なかったんだよ。」
シエルは疲れた様子でこうなった理由をヘスティアに話した。
シエルとゼータってよく一緒に居るし、仲の良い2人だと思ったのだけど、悪いのかしら。
ソイルを取り合ってるみたいだったし、それを考えると喧嘩になっても仕方ないのかもしれないわね。
でも“喧嘩するほど...”って言うし、やっぱり仲はいいのかしら?
人選がダメだったのか?と考えつつも、結局2人の仲は良好という考えに落ち着いたヘスティアの後ろから、ソイルが現れた。
「ほぅ...ゼータ、シエルにそんなことしてたのか。」
「あ、これはそのーえっと...ごめんなさい。」
「謝るならシエルに対してだろ?」
「っ...シエル、ごめん。」
ソイルにおびえ、悔しさを感じつつもゼータはシエルに謝罪した。
対してシエルは満足げな顔をしながらも、不敵な笑みを浮かべていた。
「え~どうしようかな~...ねぇ兄さん。ゼータに罰を与えてくれないかな?私からより兄さんからの方がよさそうだし。」
「分かった、考えとく。」
「んじゃあしょうがないから許してあげる♪」
シエルは心の中でゼータを嘲笑していた。
ふっふ〜ん♪私に嫌がらせをするからこうなるんだよ。
兄さんはいつでも私の味方をしてくれるって訳、ゼータマジざまぁw
「ま、まぁ皆生還できた訳だしいいじゃない。それよりこれからの事を話しておきたいんだけど...」
「賢者の皆さま方、この度はこの町の危機を救ってくださり、誠に感謝申し上げます。そこで皆様に何かお礼をしたいと思うのですが、この町に滞在している間は私の屋敷を自由に使っていただくというのはどうでしょうか?」
ヘスティアが今後の話をしようとしていた所に町長のポールが話しかけてきた。
確かに拠点にさせてもらえるのはありがたいけど、この町を守ったのは私達だけじゃない。
ここに居る兵士たちも力を尽くしてくれたわけだし...
「...私達だけ特別扱いしていただかなくてもいいですよ。それに他地域との交易を停止していた分の復興もあるでしょうし_」
色々と考え、ヘスティアがポールの提案を遠慮しようとしていた時、王国軍第一師団長のフォーグがやってきた。
「いや、あなた方はそれだけのことをやってのけた。我々では物資を消耗するだけで、ゲートの問題を解決することはできなかった。我々の事は気になさらなくていいのだが...重症でありながらもこの町のために戦っていたルナ殿だけは、賢者の皆さまと同じ扱いをしていただきたい。」
「えぇ、賢者の皆さまは遠慮なさらなくてもよいのです。それとルナ殿の件、私は構いません。というより、私から提案しようかと思っていたところです。賢者の皆さまはそれでも構わないでしょうか?」
遠慮しようと思っていたヘスティアは、ポールからもフォーグからも相応な扱いを受けるべきだと促された。
ここで断るのも悪いし、提案を受け入れるべきなのだろうけど、私一人の判断で決定していいのかしら...
そう考えながらヘスティア仲間の方を見ると、アルスとエリスは2人で話しており、ソイルとシエルとゼータは3人で話しており、“全てヘスティアに任せる”といった雰囲気であった。
…まぁ、いいってことなのでしょう。
「えぇ、こちらも大丈夫です。ではお言葉に甘えて、屋敷を利用させていただきます。」
「ヘスティア殿に一つお願いがあるのですが、ルナ殿を頼めますか?こちらに来られた時に話を聞かせていただきましたが、ルナ殿を助けたのはヘスティア殿とのこと。それならばルナ殿が目を覚ました時、ヘスティア殿が近くに居た方が安心するのではないかと思ったのです。」
「分かりました。ルナさんが目を覚ましたら、ここに来るように伝えておきますね。」
そしてヘスティアは仲間に町長の屋敷を利用できる事と、ルナを一緒に連れていく事を伝え、移動の準備をさせた。
「ゲート問題の解決に続き、ありがとうございます。」
「私からも今一度感謝申し上げます。それでは、こちらです。」
準備が終わり賢者たちが集まると、ポールによって屋敷へと案内された。




