episode23
「走れ走れ!まっすぐ走れ!」
一瞬外の安全を確保したシャーレが子供達を送り出していく
走れる元気のある子供が体の弱っている子や走る気力のない子供たちの手を引っ張って走る、引っ張られている方も最初は全く足が動いていなかったがすぐに引っ張られて走る意思が生まれたのか自分の意思で、自分の力で走り始めた
「ガキが逃げたぞ!捕まえろ!射ってもいいから絶対に逃すな!」
「僕が許すとでも!?」
子供達を打つ前にシャーレは兵士を射ってそれを阻止する、そして自分も走り出そうとしたが裾を引かれる感覚が走った、振り返ると天幕の中で一人だけ誰にも手を引かれずに走る意思も自分で持てない翼が小さいのが特徴の子供がそこにいた
(一人…!?ていうか一人だけ!?いやこの状況になって走れないなら無理だ!)
走れないなら助けることができない、シャーレは自分と自分が抱えている子供を危険に晒すなんて馬鹿だ、それに右腕が射たれたせいで動かせないのだ、左手で抱えているからもう無理だ、走るのが最適だと考えた
けれどそこまで合理的にシャーレは生きれなかった
「––あぁ、本当に馬鹿野郎だよお前、けど僕は大馬鹿野郎だ、走るぞ!」
痛みと痺れでろくに力の入らない右手を無理やり動かして力いっぱい手を握り引っ張る、それを見てその子は驚いたような表情をし、なぜ自分の手を引っ張るのかと不思議そうにした
「な、なんで…?」
(そんなの僕が聞きたい、足を踏み出すたびに、手を引っ張るたびに射たれたところが痛むのになんでわざわざ…!)
いくら考えても自分を納得させる言葉が出てこないシャーレ
そもそもシャーレは自分に縁もゆかりもない人間を命を張ってまで助けるというのが理解できないのだ、自分を傷つけるかもしれない、信用のできない相手を助けるのはいずれ自分の首を絞めるのだから
なぜリスクを増やしてまで助けたのか、認めたくないが小さな仮説が建った
『見てみろブラッティローズ、新しいおもちゃが手に入ったんだ、ジャガイモの皮を綺麗に剥く道具に発想を得た人間の皮膚を綺麗に剥ぐ道具だ、だからなんだと思ったろ?薄皮一枚どうしたと?けどこれは下準備の段階だ、こうやって皮を剥いだ部分に塩を塗りこんだり鞭で軽く叩いたりして遊ぶんだ、––ほらほら!痛いだろ!?今日は一日中遊んでやるよ!』
一瞬過去の自分と重ねてしまったのかもしれない、人生がぐちゃぐちゃになって、それでも生きていくしかない過去の自分に、一歩間違えれば自分もこうなっていたのかもしれないと
けどシャーレのプライドがその仮説を否定する
「––あぁもう!こんな良い天気の日に死なれたら困るんだよ!日光浴するたびに君の世界で一番自分が不幸みたいな顔を思い出したくないんだよ!」
子供を、そして自分を言い聞かせるように喋るシャーレ
咄嗟に熱を感じて顔を逸らすとスバルが森の方から顔を出した
「シャーレ!」
「銃が持てないからこいつ連れてけ!」
手ぶらだったスバルに抱えていた病気の子供を預ける、すぐに加速して先頭に付き先導を始めたスバルを見送り、空いた左手で腰の銃を持つのではなく翼の小さな子供を抱えて走り出した
おおよそ無限にも思えるほどの距離を走り、ついに川が見えてきたシャーレたち
川幅が十はある大きさの川で異能で宙に浮けるスバルと翼のある有翼種以外には渡るのが非常に難しい川、つまりここさえ超えることができれば人質に救出は成功したも同然なのだ
「僕はやることがあるから飛んで渡れ」
そう言って子供を下ろし川に触れる、シャーレは異能で全員が渡りきった後の川の水を操って時間を稼ぐ作戦なのだ、しかしいくら待っても少女は飛ばない
「わ、私混血で…、と、飛べないんです」
「あぁ、もう!」
飛べない、そんな子がいることを族長から聞かなかったのにと悪態をつきつつシャーレはすぐに川の水に触れた、一瞬波紋のようなものが広がり波が消えまるで湖のように静まり返った
「水の表面張力を弄った、今なら水の上を歩けるぞお姫様」
「で、でも……」
それでも一歩が踏み出せない小さな翼の少女、いくらスバルが足止めをしてくれていたから追手がまだ来ないとはいえぐずぐずしているとすぐに来てしまう、シャーレはそっと彼女の背中に触れる
「最初の一歩分の勇気が出ないなら僕が背中を押してやる、だから君は一歩半分を踏み出すんだ」
そう言って背中を押す、少女は走り出した
けれど直後にスバルの声が響いた、急げとせかす声、シャーレの肩に衝撃が走った
一瞬にして意識が遠くなる、スバルの声、アンダーソンが何かを叫ぶ、背後から近づく銃声、そして腕のあたりにまた熱が走る、右腕の感覚が完全になくなった
唯一聴こえるのは自分の血が地面に滴る音だけ、けれど命が削れるほどシャーレの集中力が増していく
(……死ぬのか?……血の役目を果たす前に?––ここで死んだらさっきの子供に一生覚えられるのは最悪か)
「––血汐を泳ぐ」
川の水がシャーレの周りに渦を巻く、そして勢いよく飛び出し針のようになった圧縮された水の刃が兵士の切り刻む、その間に川を渡り切ったシャーレはもし無理やり渡ったのなら川底に引き摺り込まれるような渦の道を作り出した
「––––ィア!–––……!」
千切れそうな右腕を固定しよう必死に抑えるスバル、シャーレはそれを見てやってやったとばかりにニヤリと笑って意識を手放した




