episode19
「どうする?少尉に報告するか?」
部屋に案内された後、シャーレは独断で里の中を調べていた
見つかったのは乳飲み子のみ、五歳ほどから上の子供は見当たらなかった、森の中にでも行っているのかと思い子供のいるであろう家庭をくまなく調べたが今日の夕食に子供の分であろうものは作られていなかった
「いや、いないだけなら……報告しても無駄か」
(子供がいない理由……獣人族は群れ全体で子供を育てるような種族だ、それは有翼種でも変わりない、そんな奴らがわざわざ自分の手元から離れた場所に子供を置くか…?そもそも里内の緊張感、里外からの人間が来るからの緊張かと思ったけど違うのか?……子供がいないなら人質に取られることもなく、そして戦いやすい、とかか?)
おそらく報告してもだからなんだで終わる、なら報告しても無駄だ、むしろ神経質な奴だと信頼を失うのなら黙っていたほうが賢明だ、そこまで考えたシャーレは抜け出したことがバレないうちに帰ろうとする
部屋割りは少尉の一人部屋、そして残りは男女割だ、当然シャーレはスバルと相部屋、何事もなく部屋に戻ったシャーレが目にしたのは椅子で眠っているスバルだった
「……隣にベッドがあるのだから使えば良いものを、体を壊されると困るのに」
そう言いながらスバルにベッドから適当に取った毛布をかけようとすると地面に割れているティーカっプが落ちているのに気づいた、一部だけ変色していることから中身が残ってる状態で落としたのだろう、嫌な予感がしたシャーレが隣のノア達の部屋に向かう
「––時間を空けて順番に飲めと言ったのに…!」
明らかに自分の意思で眠ったようには見えない二人、すぐに揺らして起こそうとしたがなかなか起きない二人をひとまず自分の部屋に運びスバルの近くに移動させておく
目に入ったおそらく自分の分であろう飲み物の匂いを嗅ぎ、指につけ少し口に含む
「よかった、植物性の睡眠剤だ、耐性がある」
ひとまず命の危険がないことを確認したシャーレは入口を椅子で開かないように固定してから窓から外に飛び出て上の階にいるアンダーソンの安否を確認しに行った
(少尉が危ない!)
しかしそれは杞憂で終わった、窓から勢いよく飛び入ったシャーレを迎えたのは優雅に足を組み、ゆっくりと本を読むアンダーソンだった
出されたお茶には全く手を付けておらずお茶菓子なども出された状態から動かした形跡はない
「夜這い…にしては随分と大胆だしまだ明るいな」
「……夜這いにならなくてよかったですよ」
シャーレを笑顔で迎えるアンダーソン、それに呆れた顔でシャーレが返す
どうやらシャーレが違和感を感じ警戒していたようにアンダーソンも気を許したように見せながらも警戒していたらしい
「どうやら君以外はやられたらしいね、表情から察して命に別状はない
いや良かったよ、全員が飲んでたら流石の私も困ったじゃすまなかったからな
……さぁ行こうか」
本を置き、立ち上がるアンダーソンに疑問の目を向けるシャーレ、どこに行こうと言っているのかと、しかしそんなシャーレの疑問には答えずただ継いてくるように促す
シャーレも小銃を構えながら黙ってその後ろをついていく、アンダーソンが進むにつれてシャーレにもだいたい彼の向かっている先がわかってきた
「中に三か四、制圧しますか?」
「いや、発砲は許可しない」
アンダーソンが止まったのは族長が何か聞きたいことがあったらここに来てくださいと紹介していた族長の執務室、小銃を構え直し扉を蹴り破ろうとするシャーレを手で制してアンダーソンはその扉を手で丁寧に開けた
「やぁ、失礼するよ」
「––アンダーソン少尉ッ!?ど、どうかしましたか?」
自分たちに睡眠薬を盛った相手に無防備に体を晒したアンダーソン、発砲許可は降りていないもののアンダーソンの命が危ぶまれる状況なら殺しすら意にかけないと殺気を飛ばしながら彼の斜め後ろに待機するシャーレ、そしてその殺気は部屋の中にいた族長のミガでもその娘のアジェでもなく唯一翼の生えていない、そしてエリーシェ王国では見慣れない軍服をきた男の一身に注がれていた
「いえ、ウルガ自治区…というよりこの大森林はどの国にも属していないいわば数十を超える多種多様な獣人族の国のようなものです、しかしそうは言っても我がエリーシェ王国とは精霊史からの付き合い、だから確認しますけどそこの男はなんですか?」
アンダーソンが厳しく睨みつけるのは当然彼らとは違う軍服……エウルガ大森林に接するエリーシェ王国、その北側に位置し大森林を包むようにエリーシェと囲むもう一つの国、オルガ王国の軍人だ
「そ、それは……その…」
異常なほど汗をかき言いよどむ族長、それを見てアジェの顔もみるみる青くなっている、それと対照的に隣の軍人だけは余裕のある顔をしている
(……ん?)
先ほど会った時には気づかなかった、室内に入って匂いが残るようになったからようやくシャーレが気づいた、その部屋に漂う独特な匂いに
「あ、あの…」
「––おい、わかってるよな?二つに一つだ、さっさと仕事をしろ」
ようやく何か意味のある言葉を口にしようとした族長を隣の軍人が睨みつけて阻止する、沈黙が流れ膠着したと思われた状況をシャーレが破った
「少尉、魔法のインクの匂いがします、おそらく誓約を結ばされています」
その言葉を聞いて一瞬、オルガ王国の軍人が驚きを見せた
シャーレにとっても確証のない言わば揺さぶりをかけただけ、しかしアンダーソンはその反応を見逃さなかった、最後のピースが揃ったことによって一瞬で一つのシナリオが完成した
「子供を人質にされてるのか…!」
「––チッ!」
どうやら正解だったらしくすぐに切り替え拳銃をアンダーソンに向け引き金を引く、
しかしそれよりも早くシャーレが飛び出して小銃を使い顎を砕いて床に落ちた拳銃をアンダーソンの方に蹴り飛ばす、そして銃口を突きつけようとするシャーレにそれを銃身を掴んで逸らすことで防ぎ、素手で殴りかかるオルガ軍人
それをを避け机の上にあった万年筆を手に取ってその腕に突き刺し髪を掴んで机の角に思いっきり叩きつける
「他の仲間は?まさか一人じゃ無いだろ」
「……ペッ!」
舌を切ったのか、返事の代わりにその血をシャーレの顔に吐き答える
それを期待していたのかとアンダーソンが疑うほどにほとんどノータイムで地面に叩きつけその指の付け根を足で踏み固定し捻りながら反対方向に無理やり折る
小さい噛み殺したような悲鳴がうっすらと聞こえた
「あいにく効率良く痛みを与える方法は身に染みててね、けど君は幸運だ、なんせ情報を吐けば終わるんだから、世の中には遊び感覚で人の体を削るやつがいるんだよ」
そう言ってナイフを使って皮膚を薄く削ろうとするシャーレをアンダーソンが止めた、なぜ止めたのかと思い不満げに振り向いたらそこに血を見て気分が悪くなったらしいアジェの姿があった
「妹と大して歳の変わらない娘に拷問を見せるのは抵抗があるんだ、勝手で悪いな」
「……すみません、そこまで気が回らなかった」
シャーレはひとまず身動きが取れないように拘束することで穏便にその場を終わらせた




