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Case 08:八月の吹雪 "A bolt from the blue"

 夏休みに入った7月下旬のある日。隆太は、新青森駅のホームに立っていた。






 そう。今日、かつての恋人であった、友加里が帰って来る…。





 3月に彼女と離れ離れになって以来、何の連絡も取り合っていない。いま、友加里がどんな心境で、どんなことをしているのかも判然としないまま、新幹線の到着を迎えた。








 列車から降りて来た、少し背が高く、メガネをかけてファッションも小奇麗にしている女性が、その姉と思しき者と一緒に隆太のもとへと駆け寄って来た。








 「隆太…!!やっぱり来てくれたんだね!!…ああ…!!グスン…。。。隆太…会いたかった…。」








 隆太もその気持ちは同じで、つい、人目も憚らず彼女を即刻抱きしめて…。








 「僕もだよ…。友加里…。あれから、友加里のことを考えない日はなかったよ。メールも電話もしたかったけど、友加里の夢を邪魔できないと思って、ずっとずっと、我慢してた…。辛かったかい?東京の学校は…?」








 雑踏の駅のホームに、二人の涙と声が消えていく…。つもる話はいくらでも出て来そうだ。








 友加里「お姉ちゃん!あの…私、隆太と少し話がしたい。夕方までには家に戻るから、お姉ちゃんだけ先に家に帰ってて。」











 ちなみに、友加里の姉は、浅倉由美といい、現在22歳。現役音大生で、友加里とは異なる音楽への感心、興味、思考を持っているが、音楽に関わるあらゆる勉強をする一方で、幼稚園児などが通う音楽教室の講師も担っている。もちろんそれは、自らのスキルアップと学費稼ぎの両面の意味がある。


 なお、友加里の高校とは無縁だが、由美もまた、東京の音大に通っている。夏休みということもあり、姉妹揃って帰青(青森では帰省をこう表現することもあります)した。








 由美は、別れ際に隆太に少し微笑みかけ、こう話した。








 「小野隆太くんだったね。いつもこんな、がさつでワガママな妹と絡んでくれてありがとう。あなたのことは、友加里が東京に来てから、色々なお話を聞かせてもらったわ。友加里がワガママなことをいうおかげで、隆太くんにはすっかり迷惑かけちゃったようで、何だか申し訳ないわ…。でも、友加里はこう見えて淋しがり屋だから、お相手してくれる優しい男の子がいてくれて、本当に感謝しているわ。」








 隆太は、少し恥ずかしそうに…








 「は…あ、いえ、、、こちらこそ…、友加里には、、、いつもお世話になって…」











 由美は、一足先に外ヶ浜の実家へと向かう列車へと乗り換えた。そして友加里は、隆太の手を取って、一目散に向かった先は、彼らが初めてデートをした思い出の場所、青い海公園だった。








 夏とはいえ海風は涼やかで、友加里にしてみれば東京の悪夢のような猛暑を忘れるには十分だった。同時に、この思い出の場所で、3年前のウブだった頃を思い出し、二人きりの時間を過ごしたいと提案してきたのだった。








 隆太も、反対する権限も要素もなかったので、黙って彼女に連れていかれた。




 友加里「懐かしい…。あの頃と変わってないね。やっぱり、海が見えない場所は気分が出ないよ。隆太も、そう思わない?」






 隆太「えっ…!?それって、やっぱり水泳魂があるからってこと?」





 友加里「いや、そういうんじゃないけどさ…。ウチら…あ、いや、、、あたし達、元々、海の見える場所に生まれて育ってきたでしょう。いま思えば、海ってある意味、パワースポットだったんだろうな…ってね。中学の頃、あれだけ隆太に夢中になれたのって、やっぱり水泳とか、海とか、何かしらの接点があったからじゃないかなって…、ずっと、思ってた。」








 隆太は、少し友加里の手を強く握って…








 隆太「な、、、なぁ友加里…?お前さ、いつの間に、CDデビューしたんだよ…?この前、僕のお姉ちゃんが、浅倉友加里っていうアーティストのアルバムを、彼氏から貰ったっていってて、それを車で流してて…」











 友加里は少し俯いた。そして…











 「聴いちゃったんだ…。ってか、そういう偶然で、CDのこと、教えてもいないのに隆太にも聴かれてたんだ…。」








 隆太「な、、、なんでそんなにがっかりするんだよ…!?CDデビューなんてすごくね!?僕にしてみれば、自分の曲がCDになるとか考えたこともないし、出来るとも思えないよ…! あ!もしかして、青森に帰ったらサプライズでみんなに教えようとして、それで黙ってたとか?」








 友加里「…そんなんじゃ、ないよ…。はぁ…。この際だから正直に話すわ。っていうより、あんた以外の人に、あまり事を詳しく話したくないんだけどね。」











 友加里は、波の音響く青い海公園のベンチに腰かけて、隆太にCDのことを語った。何だか、友加里の表情がさえないのが気がかりだったが…。











 「あのCDは、悠月さん(※悠月あゆみ。友加里が師事する音楽バンド「あゆみ'sすて~しょん♪」のリーダーで、友加里の将来性を嘱望し、彼女を東京の学校へ進学させて、その片手間で音楽活動や指導を行っている女性。)が、”とりあえず”って意味で、出来る範囲で作った音源をCDにして、同人ソフトっていうジャンルでほんのちょっとだけ販売したんだよ。中身的には、既存のアニソンとかゲーム音楽のアレンジがメインで、一部にオリジナル曲があるって感じ…。」








 「…で、CDを売ったり売れたりした分については、悠月さんが管理してくれていて、売り上げに応じて、私も若干のお小遣いを頂けたの。だけどね…、まだまだ自分は力不足だってわかっていたのに、CDを出すって、正直言うと、暴挙でしかないように思えてね…」





 


 「ネットで検索しても出て来ないような”浅倉友加里”っていうアーティストを誰が注目するわけもないし、ましてや、単にMIDIの流し込みとか、DTMの打ち込みで作っただけの曲…。悠月さんは、最初はそういうところからスタートするのが順序だって言われてて、それは親心だってのがわかったんだけど、なんていうか…、それって、自分らしくないんじゃないかって思って…ね。」








 「しかもよ!同人ソフトの即売会に1度だけ行ったんだけど、そこでファンの人に何て言われたと思う? MIDI流し込みなんて誰でもできるとか、女の子が平面的な興味だけで作った曲に金出せるかよ!とか、下手すりゃ、ハグしてくれたら買ってやるとかセクハラ同然のこと言って来る…。辛くて辛くて…。私、その日はずっと泣いて泣いて、眠れなかった。セクハラも嫌だったけど、何より、自分の作品は絶対に面白いです!ってこと、堂々と言えないくせに、お金を払って買ってもらうCD売ってたんだもん…。身分不相応にも程があるわよ…。そりゃ、ファンは金額の高い安いに関係なく、絶対的な本物を求めるものだから…って、悠月さんには言われたんだけど…。」








 「私は、何て言うか、もっと技術がアップしてからCD出すものだって思ってた。今みたいな幼稚な作曲、正直誰にも聴かれたくなかった…。けど、聴かれないと憶えてもらえないし、自分の反省点も向上心も見えてこないって、悠月さんが言ってた。だから、CDはその辺を覚悟した上で売り出したんだよ。東京で即売会した他は、仙台とか大阪とか大都市圏のごく一部のショップでしか扱わないっていうから、隆太には聴かれないって思ってたんだけど、…そう言えば、愛莉のお兄ちゃん、仙台に住んでるんだったね…。そういう偶然も、あるってことだよね。」











 訥々と胸の内を語る友加里。かつての勝気な彼女はどこか影を潜め、作曲への情熱こそ窺えるが、まだ自分の未熟さに失望を隠し切れない様子だった。








 隆太は、そっと友加里の肩を抱いて、こう言った。ポケットから取り出したハンカチで、友加里の涙を拭きながら…








 「友加里…。そんなに、音楽の世界って大変だったなんて…僕、全然知らなかったよ。…で、でも、、、友加里のCDは、僕も後からじっくり聴かせてもらったけど、お世辞抜きでカッコイイし、すごい才能があるって実感できたよ!その…僕は正直、音楽の専門的なところはわからないんだけど、いちリスナーとして何も考えないで聴いたら、とっても胸が躍って、ドキドキしたり、時間を忘れて聴き入ったり…。」








 「僕は、音楽に対する知識なんて全然ないよ。…けど、だからこそ、変な先入観を持たないで音楽を聴けるだろうから、友加里の曲を聴いた時には、普通にすごいいい曲だって思ったさ。そ、そりゃあ、全部が全部頭に残っているわけじゃないんだけど、友加里は、作曲家としての名に恥じない、素質を十分に持ってるって確信したさ!嘘じゃないよ!友加里!ほ、、、ほら、、、こうしてスマホにも、友加里のアルバムが入ってるんだから…」





 友加里「えっ…うっそ…!?」











 隆太のスマホには、友加里のアルバムの曲が入っていた。その場で再生した隆太は、いまや”友達”という領域から、”アーティスト”(の卵)へと成長した彼女を羨望の眼差しで見ていた。











 友加里「ありがとう…。嬉しい…。悩みも聞いてもらえたし、音楽も聴いてもらえてたなんて…。」








 隆太「このアルバム、名前が"Virgin Trip"って言うんだろ? だったら、このアルバムこそが、作曲家としての浅倉友加里の第一歩じゃないか!何をこんな目出度い時に泣いたり落ち込んだりしてるんだよ!いきなりバカ売れするようなアイドルでもアーティストでもいるもんか!さっき友加里が言ってたように、技術不足だっていうなら、次はもっとレベル高い作品作ればいいじゃんか!今は大物と言われてるミュージシャンでも、最初の最初は、みんなこうだと思う。友加里!」





 「挫けるなよ!未来へ歩けよ♪ 悠月さんとか、由美さんとか、友加里の味方…ってか、心を支えてくれる人はいっぱいいる。もちろん、僕だってできる限り友加里を支えるよ!もう泣くなよ。あきら達にも、このアルバム聴かせてあげようぜ。」








 友加里は、少し微笑みながら、メガネをかけなおした。








 「うん…。そうだよね。 隆太、ありがとう…。」











 次の瞬間、一瞬ではあるが、友加里は隆太の唇に、キスをした…。








 隆太は当惑したが、友加里の心境を思うと、男としての強さを見せねばならない。本心としては、少し友加里とデレてみたいと思ったが、あえて表情を変えず淡々と立ち上がった。ここは隆太が、心友しんゆうとしての面目を保ったまでである。











 やがて日が暮れる頃、隆太も友加里も、実家に帰る電車に乗った。そして、友加里は校風や規律の厳しい学校生活に耐えていることも話した一方で、学校で新たな友達ができて、都会での生活も徐々に慣れて来たことも語った。











 その翌日は、あきら、愛莉も帰青して、隆太の家でささやかな同窓会(?)が催された。お互いに別々の道を歩んでいることに、淋しさも浮かんだが、こうして再会できたことには、大きな喜びを素直に示していた。








 あきら「すげぇ…友加里ってアーティストかよ…!な、、、なぁ、、、友加里?俺もそのCD買うから、サインしてくれないか…?」





 友加里「ばーかwwただであげるっての。。。悠月さんに、青森帰ったらお友達に差し上げなさいって、何枚か貰って来たんだよ。あ、でもサインなんて、練習もしてないから、単に名前書くだけになるよ…?そもそもあたし、サインするような身分じゃないし…?」





 あきら「いいっていいって。どっかのアイドルグループとかと違ってオープンでいいじゃん!あ、できれば、余白にキスマークでも…」








 …すかさず、友加里の平手打ちが飛んだ。 バチィーーーーン!!!!








 友加里「あきら、お前なぁwwwその性格変わってねーな。愛莉にフラれても知らねえよ??」





 愛莉「ホントだよwwwついこの前は浮気されるしねぇ…。ま、誤解だったけど。それよりも友加里…、CDデビューできるほどになれたなんてすごいわ。後でこの音源、元スイチョコの由真さんにも聴いてもらうわ。きっと、喜んでもらえると思うから…」





 友加里は、愛莉の言葉にかつての音楽活動で体験した数々の場面を回想し、少し涙目になりながら、首を縦に振った。














 そして8月。ねぶた祭りや花火大会を楽しんだ後のある日、隆太の恋人である涼子の計らいで、彼女の実家である旅館へ隆太たちみんなを招いて、パーティーを開こうという話になった。





 招かれたのは、隆太、友加里、あきら、愛莉に加え、隆太の姉の流美、そして流美の彼氏である、愛希(まなき。愛莉の兄、24歳)も…。ただし愛希は、スケジュールの都合で夜になってからここへ来ることが既に知らされていた。








 当日、流美は久々に対面することになる愛希のことで頭がいっぱいで、どこか、話しかけても上の空だった。











 「愛希…。会いたい…。何だか、胸騒ぎがする…。」














 会場である涼子の旅館「いそくら」へとたどり着いた一行は、まずはお風呂に入って汗を流してくるよう彼女に言われた。旅館の温泉など滅多に入る機会がない皆なので、喜び勇んで入浴した。…混浴じゃないけど。。。








 宿泊客がチェックインする前だったので、お風呂は男女とも貸し切り状態。程よい湯加減と泉質が、何だか優しさを感じさせてくれた。








 あきら「なぁ隆太?お前って、やっぱり涼子さんのこと…?」





 隆太「うん。好きだよ。高校卒業したら、プロポーズしたい…。」





 あきら「ちょwwwそりゃ早すぎだってwww18歳じゃ親のOK貰わないといけないんだし、そもそも女性一人と対等に生活できるお金も能力もあるのかよ…?」





 隆太「そ、、、それは…。」





 あきら「だろう?だったら、そう焦るんじゃねぇよ。俺だって愛莉とは将来結婚したいって思ってるけど、俺が大学を出て、就職するまではプロポーズできないって思ってる。愛莉のこと、しっかり守ってやれる自分になれない限り、愛莉を、がっかりさせちゃうだろ…?」





 隆太「そう…だよね。。。」





 あきら「だから隆太もさ、確かに、涼子さんは年上だけど、すっごく上品で優しくて、隆太と上手くやっていける気はするよ。けど、隆太もちゃんと、男子として彼女と平等になれること、最初に目指さなきゃって、俺は思うんだ。お節介かもしれないけど、隆太には絶対、結婚で後悔してほしくないし、涼子さんの尻に敷かれるようなことも、ないでいてもらいたいんだ。友達として…。」








 隆太は、少し胸の鼓動が高鳴った。確かに、あきらの言うことにも一理ある。今でこそ涼子は、彼女というよりは「保護者」だが、いずれは、男女として等しい立場を築く必要がある。いまそれを考え込むのは時期尚早だが、心のどこかには書き留めておきたいと思った。











 そんな話をしていると、女湯の方から、友加里と愛莉、そして流美の声が聞こえて来た。





 友加里「わぁ~!温泉温泉♪久しぶり~♪」





 愛莉「そりゃ!友加里っ!お湯かけちゃえ~!バチャバチャ!!」





 流美「ちょっ…二人ともやめなさいな。いくら人がいないとはいえ、公共の場でこんなこと…」





 愛莉「えへへ…。でも、友加里も身長伸びたねぇ…。しかも地味に、胸も大きくなってない?」





 友加里「それはあたしの台詞だわよ。愛莉だって、中学の頃に比べたら確実に膨らんでるじゃん。」





 流美「はぁ…あんたら。。。アタシはツルペタだから羨ましい…見てよこのショボい胸板…ってか、まな板…」





 友加里「流美さん!牛乳いっぱい飲んで、彼氏にいっぱいもんで貰えば…」





 流美「ちょっと友加里ちゃん…!恥ずかしいっ…!!」











 壁一枚を隔てた向こう側に、一糸纏わぬ友加里達がいる。











 あきら「な、、、なぁ…、愛莉達も、フロ入ってるんだよな…。裸…なんだよな…。胸、見せっこしてるみたいだな…」





 隆太「……。。。うん。。。友加里も、お姉ちゃんも、、、裸だよ。。。服着てお風呂入らないだろ…?」











 二人は、つい、彼女達のあらぬ姿を想像してしまい、疚しい気持ちを抱いたことを少し反省したが、悶々とした気持ちは、拭いきれなかった。








 二人は、のぼせる前にあがろうぜ!ということで、本心としては、もう少し女湯から聞こえる女子トークに耳を傾けたかったが、あまりのドキドキ感に押し負けて、逃げるように脱衣場へと退散してきた。

















 …そして夜。久々の友達みんなの再会を祝し、かつ、これからもそれぞれの未来に幸せあれ!ということで、祝杯があげられた。








 大広間を貸し切り状態にして行われたパーティーには、涼子の兄、涼一と彼の恋人、夕子。そして涼子の友である鮎美の姿もあった。お互い、そんなに顔を合わせる機会はないものの、気心の知れた仲なので、すぐに場の雰囲気に同調できた。








 …だがそんな中、唯一浮かない顔をしているのは、流美だった。








 隆太「お姉ちゃん…?どうしたの?元気なくね?」








 流美「うん…。愛希、、、遅いなぁ…って思って…」











 そう思っていたところに、部屋をノックする音が聞こえた。ようやく愛希が到着したのだ。





 愛希「ごめんごめん。道路が渋滞しててすっかり遅くなっちゃった。」





 





 流美が愛希に駆け寄ろうとしたが、それよりも先に、涼子がこう言った。








 


 「えー、みなさん、ようやく全員集合となりましたので、改めてみんなの再会を祝して乾杯しましょう!」








 皆がグラスを持ち、乾杯の合図をした。すると涼子は、流美を広間のステージへと招いた。そして…








 「みなさーん!実は本日は、こちらにいらっしゃいます、小野流美さんのお誕生日なのですよ~♪今回のパーティーは、流美さんの記念すべき1日をお祝いしようということもありまして、大々的に皆さんをお呼びしていました。では、みなさんご一緒に~♪」








 ♪ Happy birthday to you. Happy birthday to you. Happy birthday dear RYUMI. Happy birthday to you... ♪








 流美は、まさか自分の誕生日を覚えている人などいないと思っていたので、はじめから今日が誕生日であることを誰にも打ち明けていなかった。しかし、涼子は以前、彼女から聞いていた誕生日のことを忘れないでいたのだった。








 会場のみんなから、流美に歓声と拍手が送られた。流美は、戸惑いつつも深々と会釈した。








 涼子「ごめんなさいね驚かせちゃって。でも、何とかお友達を喜ばせたいっずっと思ってて♪ どうぞ♪この花束は、私達みんなからのプレゼントです!ささやかではありますが…」








 …すると、突如、愛希が声を上げた。











 「流美っ!!」











 「み、、、みんなごめんなさい。今日、流美の誕生日だから、俺、プレゼントを持って来てたんです。いま、それを差し出してもいいですか?」








 涼子「えっ…!?ええ…どうぞどうぞ。」











 愛希は、流美の瞳をじっと見つめながら、ゆっくりと彼女に近づいた。








 そして、流美が場の静寂に耐えきれなくなり、「愛希ぃ!」と叫んだ刹那、彼は流美のもとへ駆け寄り、彼女を強く抱きしめた。

















 「流美への誕生日プレゼント…。。。 それは、、、   俺だ。。。  俺を、、、  受け取ってくれ…!!」








 「流美!!結婚してくれ…!!」








 「それと、これはほんのオマケの品物だ…。」











 愛希は流美の左手を手に取ると、その薬指にはめたのは「エンゲージリング」だった…。




 …凍り付くような静けさが会場を包む…。 誰が、ここで愛希のプロポーズを目の当たりにすると想像しただろうか…。









 流美は心臓がはちきれそうな程にドキドキしている。何だか気を失ってしまいそうだった。








 同時に、会場にいた隆太達だって、この状況にどうリアクションを取ればいいか…。














 愛希は語った。








 「俺、青森で就職先見つけたんだ。青森に帰って、一緒に住もう。男手があったほうが何かといいはずだ。それに、大切な友達も、すぐに会おうと思えば会える距離にいる。」








 「何より俺は…、流美と一緒の未来じゃなきゃ嫌だ!! 流美!! 織畑流美になってくれ!! 俺とお前の未来、はじめようぜ…!!」














 流美は、大粒の涙を流した。結婚の話など打診されたこともなかっただけに、これだけ突然のプロポーズは、まさに”八月の吹雪”と言ってもいいくらい、青天の霹靂である。











 静けさに凍る会場。誰もが流美の返事を待っている。流美はあふれ出る涙と共に号泣した。











 「愛希…。喜んであなたと一緒の未来を作ります…。私からもお願いします。 結婚してください…!!」

















 するとその瞬間、大歓声と大拍手が巻き起こった!! 涙が止め処なく流れる流美を、愛希はしっかりと抱きしめている。そして、彼女の瞳を、ずっと見つめている…。











 涼子「うわぁーーー!!おめでとう!!おめでとう!!愛希さん!!流美さん!!どうか、お幸せに!!」





 隆太「えええええーーーっ…!?!? ぼ、、、僕、お姉ちゃんがプロポーズされるのを、この目で見ちゃったの…!?!?僕、、、弟なのに…!?!?」





 友加里「うっひゃーーー!!チョー大胆っ!!みんなが見ている前で、堂々の公開プロポーズとかすっごいーーー!!!!」





 あきら「ちょ…!!なにこれ…!?何だかすごい場面を見ちゃったんですけど…!?!?!」





 愛莉「うそでしょーーー!?…お兄ちゃん…こんな時にこんなプロポーズとか、、、ありえなーい!!!!」














 他の面々も、二人に惜しみない拍手を贈り続けた。そして、宴は予定していた時間を大幅に超えて続き、隆太達が朝起きる頃にようやくお開きになったのだった…。








 隆太達は思った。ひとつの幸せが実を結んだ瞬間。自分達はその場面に立ち会った。いつか自分達も、祝福する側からされる側になろうと…。














 それから数日後、夏休みも終わりを迎え、隆太の親友達はそれぞれの県へと戻った。








 愛希と流美が婚姻届を提出したのも、ちょうどその頃だった。きっと冬の便りが届く頃には、二人からの結婚式の招待状も届くだろう。








 そんな楽しみを胸に、それぞれは人生の旅を続けるのであった。














 隆太は夏休み最後の日、友加里と由美を見送るため、新青森駅のホームに立っていた。隆太と久々に過ごした夏。愛希と流美の、人生の転機に立ち会った強烈なインパクト…。止め処なく話は続きそうだったが、列車の発車メロディは、その会話に終止符を打たせた。








 友加里「また会おうね!メールとかできなくてごめんね。でも、あたし、ずっと隆太のことは、心友だからね!!」





 隆太「もちろんさ!!友加里も、身体壊さないように気を付けて、頑張って!!」





 由美「隆太くん。ありがとう。友加里もきっと、これからはどんどん強くなっていけるはずだから、心配しないでね。」














 発車メロディが途切れる寸前、一瞬だけ抱き合った隆太と友加里。そして二人を新幹線のドアが寸断し、友加里と由美は東京へと戻った。








 隆太も友加里も、お互いが見えなくなるまで手を振っていた。でも、今回はかつてのような、悲しい別れとは何か違う。次はまた大きな喜びに出会えるかのような、不思議な期待感がお互いにあっての別れだった。








 そして、隆太は名残惜しさを感じながら、自宅へと帰る電車に独りで乗った…。








 うっすらと、涼子と自分の青写真を脳内に描きながら…。




















 その頃、友加里は新幹線の中で五線譜ノートを開いて、何やら書きこんでいた。





 由美は、「なに、それ?」と尋ねると、友加里はクスクスと笑いながら、こう答えたのだった。














 「うん♪ 今度の作曲のアイディアをメモってたんだよ。 タイトルは、”八月の吹雪・幸せ色のプレゼント”ね。」













-つづく-


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