【おしまい】嗤う魔女
「────とまぁ、これが君らのお父さんお母さんの情けなくもクッソ面白い恋物語だよ。笑えるだろう?」
「よくもまぁそこまで面白おかしく語れましたね!」
「ねぇお母さま! このひと本当にお母さまのお友だちなのですか!? 軽薄にも程があります!」
「エラトマさまったら語り手の才もございますのね!」
「なんでこんなので好感度が上昇するの!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ友人の子らをケラケラと嗤いながら見遣って、視線を彼女に戻す。
「元気そうで何よりだ。先輩は相変わらずヘタレかい」
「今でも泣き顔の可愛らしい御方ですわ」
「結婚してからも泣かすとか鬼かよ!」
ひぃひぃ笑いながら重い腰を上げる。
「もう行かれますの?」
「《悪》は長居できない生きものだからね」
フードを深く被り直し、数十年変わらない顔を仮面で覆い隠す。
「お変わりないようで安心いたしました。どうか、お気を付けて」
「うん。先輩によろしく言っておいて」
「エラトマさん、さようなら!」
「また旅のお話聞かせてね!」
「その時まで生きていたら語ってやるよ」
スィエラが学院を卒業してすぐ、彼女とヴノスは式を上げた。
スィエラの心臓の病だが────それなりに愉しめたと満足した、ひとりの奇怪な魔女が施した魔術により、いつの間にか完治していた。
────まあその魔女が私、エラトマなのだが。
見目が変わらないことを良いことに年齢を詐称して学院に潜り込んだ。
そして何やら面白そうな二人がいるなと観察をして、私はひとり爆笑した。
────なんだ、この二人! 救いようがない阿呆だな!
悪戯心が働いてスィエラに近付き、少し身の上話をしてやると、簡単に彼女は私の虜となった。
『ご利用なさって』
その目は死に場所を求めていた。
私は嗤った。何もしないまま、私に利用されて死ぬ道に逃げるのかと。
スィエラは構わないと言った。
だから、私は自分が愉しむためのゲームをすることにしたのだ。
ヴノスがスィエラの思惑に気付いて彼女を救えたのなら、脆弱な心臓を造り変えてやろう。
それができなければ、彼女の望むまま利用するだけ利用して殺してやろう。
────結果は大団円。
人心を弄ぶ魔女としては、過程を愉しめたので良しとする。
ちなみに後日、私のゲームの内容と結果を聞かされた使い魔の竜は首を傾げた。
「その内容で、お前が得することなど特に無いのでは?」
「バカ。こういうシチュエーションを愉しむのがイイんだろうが!」




