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きれいになって、気持ちいいよ

ルッカ→シュー視点です。

「そういうのはね、幸福って言わないのよ。」

 派手な赤毛の男が頬杖をつきながら呆れたようにそう言った。金色の瞳に切れ長の目、スッと整った鼻筋に薄めの唇。誰もが振り返るほどの美形なのにボサボサの頭のせいで台無しだ。

「ま、そんな目にあってきたのなら、勘違いしちゃってもおかしくないわよね。」

そう言って立ち上がるとガタガタと椅子をしまう。

「そろそろ私たちの番よ。お風呂行きましょ。」

「いや、あの……。」

口ごもるぼくに彼は仕方ないなという風に笑った。

「話はお風呂でも聞けるから。とりあえず、今は身体を綺麗にすることからはじめましょ。」

ぼくの手をひく大きな手はちょっと冷たくて意外なほど優しい。


 あの夜、ヴィーに言われた通り、真っ黒のブドウの実みたいな玉を窓の外に投げ捨てて、ぼくは部屋の隅でうずくまっていた。すると金髪の天使みたいな男の子が窓からひょっこり顔を出した。迎えに来たという。ヴィーといつも一緒にいるから見たことがある。ヴィーのお兄ちゃんだ。「ヴィーを助けて」とお願いすると、彼は大きく頷いた。けれど、ヴィーのいる部屋には向かわずにぼくを連れて建物を出た。2階では男の叫び声がしていて、ぼくは気が気じゃなかったけれど「あっちは大丈夫」と説得されて、言われるがままに路地を走った。

 きっと警邏隊に突き出されるんだと思った。そんなつもり無かったけれど、ぼくは人攫いの片棒を担いでいて、奴らの仕事の手伝いもしてしまっていて、それは許される事じゃないから。逃げようとは思わなかった。逃げたってどうなるというんだろう。逃げてどうにかなるのならとうの昔に人攫いから逃げている。食うに困って自分の意思で犯罪者になるくらいなら、ちゃんと捕まった方がいい。

 でも、赤毛の男に抱き上げられて泣きながら謝り続けているヴィーと合流すると、連れて行かれたのはヴィーの家だった。女の人向けの雑貨屋をしているあの店の2階。

 ヴィーの家にはけが人――いつもヴィーと一緒にいるおじさん――がいて、

「いろいろ大変だからあんたの話はまた後ね。」

と言われて、フワフワの毛布にくるまれた。移動している間に眠ってしまったヴィーはさらに上にある寝床に運ばれて姿は見えない。心配と不安と色んなものがない交ぜになって目を見開いていたぼくは、ヴィーのお兄ちゃんにポンポンと頭を撫でられて、座らされた。ゆっくり頭を撫でられて、その心地よさに瞼を閉じたところまでは覚えている。


 気がついたら、ヴィーがぼくの顔を覗きこんでいた。

「良かった。目が覚めた?」

「ふぇ……。」

 ニッコリとほほ笑みかけられて変な声が出た。ヴィーだけどヴィーじゃない。目の色は青りんごみたいな黄緑色で、茶色かったはずの髪は黒くて短い。

「ヴィー?」

「そうだ。」

 ヴィーだった。声とか仕草とか紛れもなくヴィーで、色彩と話し方はいつもと違うけど、ちゃんとヴィーだとわかった。起き上がると真っ白いシーツのかかったベッドの上に寝かしてもらっていたことに気付く。埃まみれのぼくが寝るには上等すぎる場所だ。「のむか?」と差し出された水をうけとって、そろりと飲むとビックリするくらいおいしい。一口のつもりがごくごくとコップ一杯飲み干してしまった。

「1日半くらい寝ていたんだ。」

 ぼくの使ったコップを受けとりながらそう言われて辺りを見回す。明るい木漏れ日が降り注ぐ部屋は、全く見知らぬ場所だった。少なくとも眠った場所とは違う。

「ここ、どこ?」

「ここ?ここは森の家。」

「森の家?」

「そう、レニアスの森の家。」

「レニアス?」

「そう、私がレニアス。」

 おでこをぴとっと触られて、急に声をかけられてビックリする。さっき見まわした時には居なかったのに、赤毛の男がベッドの脇に立っていた。ヴィーは「片付けてくる」とコップをもってどこかに行ってしまう。

「名前は?」

「……ルッカ。」

「年は?」

「分からない。」

「……そう。自分のことで覚えていることは?」

 そう聞かれて孤児院の院長室からこの間の夜のことまでを話した。長い時間かかった話をレニアスは時々相槌を打ちながら全部聞いてくれた。途中で椅子を持ってきてそれに座ったり、お風呂に行ってくると声をかけにきたヴィーに返事をしたりしていたけれど、それ以外はぼくの目を真っすぐみて真剣な顔で聞いてくれた。そして聞き終わった時彼が一番最初に行ったのが冒頭の言葉だ。そうか、幸福って言わないのか……レニアスの指摘にぼくはひどくホッとした。



ザーっとと音を立ててお湯が流れる。裸になって腰にタオルを巻いたレニアスがぼくに次々にお湯をかけていく。

「しみる?」

 背中をそっと撫でられる。ヒリヒリする場所もあるが、我慢出来ないほどじゃない。それを伝えるとレニアスは少し考える様な仕草をしてからお風呂場の端に立てかけてあった大きなタライを持ってきた。さっと一度お湯で流すとタライにお湯を移し、そこにぼくを座らせた。そしてお湯に少しだけ何かいい香りのするものを混ぜた。

「汚れを一気に落とそうとすると痛いだろうから、ゆっくりにしましょ。」

そう言ってタライの中でそっと体をこすってくれる。大きな傷を避けながらタオルでゆっくり全身をこするとタオルとタライのお湯は黒ずんだ。

「汚して、ごめんなさい。」

 ぼくが謝るとレニアスは汚れたお湯を流しながら困った顔をした。

「違うでしょ。『きれいになって気持ちいよ。』でしょ?」

「きれいになって、気持ちいいよ……?」

「そうそう。ほら、今日はもういいから浸かりなさい。」

 オウム返しのぼくに満足そうに頷いてから、湯船を指す。

「でも……。」

「もし、どこか傷が痛いなら無理しなくていいけれど、身体を温めた方がいいわ。」

 お湯を汚してしまいそうで躊躇していると、ほらほらと体を持ち上げられてゆっくり湯船に浸けられる。

 その後も、髪を洗ってもらったり、傷に障らないようにそうっとタオルで拭いてくれたり、大きな傷には軟膏を塗ってくれたり、レニアスはビックリするくらい大事にぼくを扱ってくれた。

「わぁ、きれいになったね。」

 お風呂小屋から家に戻るとヴィーのお兄ちゃんがよしよしと頭を撫でてくれる。言われるがままに椅子に座ると目の前に白っぽいスープが置かれた。

「ジャガイモのポタージュだよ。ゆっくり食べてね。」

 そう言われてぼく用のスープなのだと気づく。

「これ、あの……ぼくの?」

「ん?うん。食べて。」

 あっさりと頷かれて目を見開く。ポタージュスープなんて手間のかかる高級品は孤児院にいる時でも、感謝祭とか降臨祭とか年に1、2度の特別な日にしか食べられなかった。本当に食べていいのだろうか?

「どうしたルッカ。食べさせてやろうか?」

 ヴィーがそういうので少し考えてから首を横に振った。いくらなんでも同じくらいの年の女の子に食べさせてもらうなんて恥ずかしすぎる。ぼくは意を決してスプーンをもち、ゆっくりと口に入れる。

「アルフレッドよりも優秀ね。」

「自分で食べているもんね。」

 レニアスとヴィーのお兄ちゃんがそう言ってぼくを撫でた。けがをしているおじさんが恥ずかしそうに頭を掻いているから、彼がアルフレッドなのかもしれない。

「おかわりもあるからね。」

 今日は何度驚けばいいのかわからない。


 ぼくがスープを飲み終えると4人の人がダイニングテーブルに集まって座ってた。食べるのを見守られていたと気づいて少し恥ずかしくなる。「これからのことを決めましょう」というレニアスに、ぼくは唇を引き結んで頷いた。警邏隊に行くのでも、奴隷として売られるのでも、なんでもいう事を聞こうという気持ちになっていた。それが、ヴィーとヴィーの家族に対してぼくができる罪滅ぼしだと思ったから。そう覚悟を決めたぼくに向かって、みんなは自己紹介をし始めた。


 突然始まった自己紹介に、ぼくはただ小さく頷くしかできない。

「私の名前はヴィティ。ヴィーっていうのは偽名?愛称?だな。帝都では変装していたが、コレが素顔だ。よろしくな。」

 偽名?変装?なんで?しゃべり方もなんだか偉い男の人みたい。それが妙に似合っていて不思議だ。

「私はレニアス。この家の持ち主で、この森の魔女よ。」

 魔女?あの、孤児院にいる時に習った魔力を持つ邪悪な存在?男なのに魔女?ここって森なの?と疑問があとからあとから湧いてきて、何から尋ねたらいいのかわからない。

「僕はシュー。魔女の弟子だよ。ヴィティと血のつながりは無いよ。兄弟子だからお兄ちゃんでいいとは思うけど。料理が得意だから、何か食べたい物があったら遠慮なく言って。」

 本当の兄弟で無かったことに納得する。二人とも整った顔をしているが、パーツの形がバラバラだから。魔女って言葉がまた出てきた。嘘じゃないのかな?

「私はアルフレッドだ。姫の騎士だ。この間は助けに行けなくてすまない。」

 姫ってヴィティ?騎士って、あの剣とかもって戦う人?お城とかで王様とか守っている?助けに行けなくてって……ぼくは謝ってもらえるような立場じゃない。

 全員が名を名乗って、ヴィーがヴィティで、ヴィーのお兄ちゃんはシューで、ケガしたおじさんがアルフレッドで、レニアスは魔女だと理解する。その時、期待の眼差しで見られていることに気が付いた。4人ともが「ルッカの番」と言いたげな顔をしている。

「ぼくは……ルッカ。」

 それだけ言うと4人ともに満面の笑みで頷かれた。


「ルッカ。ここに住みなさい。」

レニアスが言うとみんながうんうんと首を縦にふった。

「でも、ぼくは犯罪者……」

「人攫いの片棒を担いでたって?私には良いように使われてたって風にしか思えないわ。」

「言うこと聞かなきゃ生きていけなかったんだろう。」

 レニアスもアルフレッドもそろって眉間にしわを寄せている。

「それでも、ぼくのせいで人攫いは収入が増えて……」

「それで、さらに被害者が増えたの?」

「えっ?」

「あぁいうのはバレちゃいけない仕事だから、売れるからって攫う人数増やしたりしないのよ。ルッカが手伝うようになって被害者が怪我をしないで済むようになっただけじゃない。」

 ぼくは混乱した。悪いことする奴らとずっと一緒にいたんだから、ぼくも悪い奴になってしまったんだと思っていた。泣いていた子も、怖がっていた子も、ひどく殴られて弱ってしまった子も、誰ひとり助けてあげられなかった。

「ルッカ、君を帝都の警邏に引き渡して、君が洗いざらいしゃべったとして、どうなると思う?」

 シューがぼくに問いかける。

「処刑とか?良くて奴隷とか?」

 ぼくの答えにレニアスとアルフレッドは目を丸くした。

「それが、勘違いのもとだね。」

「違うの?」

「普通なら病院で治療をされて孤児院行きかな。悪くても保護観察がついて、出入りできる街を制限されるくらい。強制労働も罰金も、ましてや死刑なんてありえない。」

 今度はぼくが目を丸くした。

「どうして?」

「君が10歳になってないからだよ。女神様も10歳までの行動は不問にすると言われているだろう。聖ノルニエラ教会の影響が強い帝国では刑事罰が与えられるのは10歳を超えてからと決まってる。子どものしたことは周りの大人の責任になるんだよ。君がもし何か違法なことをしていたって、人攫い達の責任ってことになる。」

 ぼくは自分のことは自分で後始末をしなきゃいけないんだと思ってた。人攫いの稼いだお金で生きながらえることを選んだのはぼくだから、その罪は償わなくてはって。でもぼくはあのご飯を食べて良かったんだろうか?人攫いに()()()()()()()良かったんだろうか?気づけばポロポロと目から涙がこぼれていて、人攫いにしこたま殴られた頬にしみる。そっと頭を撫でられた。

「そうなのね。罪を償うつもりでいたのね?」

 顔をのぞき込まれて肯いた。

「なかなかどうして、しっかりしている。」

 アルフレッドは腕を組んで感心したように頷いた。いつの間にかヴィティがぼくの隣に立っていて、ふんわりと抱きしめてくれた。

「もし、ルッカが罪を犯していたとしても、私はルッカが生きてくれていたことが嬉しい。償いの方法は一緒に考えよう。」

 その言葉をきいて涙が量を増す。どうして彼女はいつもぼくの欲しい言葉をくれるのだろう。「君は悪くないよ」なんて言われるよりもずっとずっと信用できる。

「あきらめなよ、ルッカ。君は人攫いから引き離され、国によって保護され治療され、孤児院で生活できるはずだったのを森の魔女に攫われたんだ。もう、ここで僕たちと暮らすしかないよ。」

シューはそう言ってパチリときれいなウインクをした。






 ルッカはレニアスの弟子になった。森での生活は案外やることが多くて忙しい。いっぱい勉強して、働いて、食べて、眠って、遊んで……そうしているうちに、だんだん傷も癒えてきたみたい。青く痣になっていた顔も腫れていた腕もレニアスの薬で良くなっている。レニアスはルッカを1週間かけてきれいに磨いた。毎日薬湯に浸けて、傷が癒えたら石けんも使って。髪も見違えるほどきれいになった。汚れが落ちて、香油や蜂蜜で丁寧に磨かれた髪は灰色というより銀色で、全く癖もなくサラサラだ。それをあごのラインで切ってもらっていた。ルッカが動くたびサラサラ揺れてきれいだ。

 ルッカは結局一度、帝都の警邏隊に人攫いのことを話に行った。南区の顔なじみのいる駐在所にはレニアスと僕が着き添った。ヴィティは眼鏡をなくしていたし、アルフレッドはまだ少し足を引きずっているから森の家でお留守番だ。


 祭の日から2週間ほど経っていた。帝都の街は平常に戻っていて、徐々に暑くなるこの季節、人々の装いはだんだんと軽やかになっていく。

 ルッカはお祭の夜に街で倒れているのを僕が見つけて、レニアスが保護したということにした。傷だらけでやせ細っていたので体力の回復を優先し田舎の家で療養させていたが、体力が回復して話を聞くと犯罪に巻き込まれていたことが分かり、慌てて警邏に話に来たという筋書きだ。2週間前にくらべると格段に顔色もよくなり身なりも整っていたが、まだまだやせ細っている。弱々しい彼の様子は彼の話が嘘じゃないという証拠にもなったように思う。

 はじめは、にこやかに「何かお困りごとでも?」と話を聞き始めた警邏のお兄さんは途中から顔色を悪くして偉い人を呼びに行った。周りの慌てように比べてルッカが淡々としゃべるものだから、かえって痛々しさが増すようだった。3人に増えた警邏隊の人達はみんな真っ赤な目をして涙を耐えながら話を聞いていた。

「よく、生きていてくれた。少し確認をしているので待ってくれ。」

ルッカが話し終わると隊長っぽいおじさんはそう言ってルッカの手をそっとにぎった。隊長さんに指示されて数人の隊員が部屋を出入りしている。行方不明者届を確認しているらしい。

 隊長さんは人攫いについても心当たりがあるようだ。なんでも西区の裏通りで捕まった不審な男3人について西区の隊長から相談されていたらしい。曰く、祭の夜に馬車の路上駐車の通報を受けて出動してみると、空き家のはずの建物にけがをした男が3人いた。持ち物などに不審な点が多く、不法占拠で捕まえて怪我の治療をしてから取り調べをしているが、決定的なことは言わない。他にも違法な事をしているに違いないが口を割らないので困っているとのこと。

「きっと、ぼくが言っている人攫いの男たちだと思います。」

 とルッカが言うと隊長さんは神妙に頷いた。


「ぼくは、どんな罰をうけますか?」

 ルッカが尋ねると隊長さんは唖然と目を見開いた。報告に来ていた若い隊員も驚いた顔でルッカをみて、それから二人ともクシャリと顔をゆがませた。

「君が犯した罪があるとすれば、それは君を痛めつけた人攫いと、君を助けられなかった私達が償うべきものだ。君は罰せられたりしないよ。」

 そうハッキリと断言され、ルッカは安心したようにため息をついた。

「ぼくは隊長さんたちが罰を受けることを望みません。助けてって言えなかったのはぼくだから。でもひとつお願いがあって、奴隷にされた子たちを助けてあげて欲しいんです。」

隊長さんは真剣な顔でコクリと頷いた。若い隊員はこらえきれなかったのか口元を押さえて涙を流しいている。わかるよと言いたくなる。悲惨な体験をしてきたにも係わらず、ルッカはちっともスレてない。その奇跡のような純粋さは、こう、心にグッとくるものがある。

「もちろんだ。そこで君に力をかしてほしい。どこでどんな子が売られていったか教えてくれないか?もちろん覚えているかぎりのことでいい。」

「はい。よろしくお願いします。」

 ルッカはこくりとうなずいた。


 新しい紙とペンを用意して隊長さんが「頼む」という。ルッカはもう一度頷く、天井の端を眺めるように少し顔を上げた。

「ぼくが攫われたのがカララント王国のファースの街。その時檻の中にいたのはぼくも入れて8人。はじめて売り場に立ったのはそれから1週間後でカンド領だと人攫いが言っていた。売られたのは3人、ぼくより少し大きいその時に10歳くらいの茶色い髪に茶色の瞳の男の子は農家風のおじさんが買っていった。一番大きいお姉さん……たぶんその時13、14歳のだった茶色の髪と濃い青色の瞳の女の子はお金持ちそうなでっぷりと太った商人風のおじさんに買われた。もうひとり、ぼくと同い年くらいの黒い髪に黒い瞳の男の子は貴族風の女の子がお父さんにねだって買ってもらってた。

 次の売り場はサドー領。買われたのは2人で、男の子と女の子。二人ともこげ茶の髪にこげ茶の目で年は5、6歳。買ったのは痩せた白髪のおじさん。杖に鷲のマークがついてた。このあとに2人増えて、売り場じゃないところで金髪の男の子が檻から出された。この子を買った人は見ていないけれど、男の人の声が聞こえた。

 その次はフォスス領でその時は誰も売れなかった。その領は飢饉だったみたい。つぎの領に行くまでに5人の子が入ってきた。次のフィスス領では3人。金髪で青い瞳の6歳くらいの女の子が商人風の黒髪のおじさんに、茶色い髪で青い瞳の男の子が金髪で緑の目の貴族風のおばさんに、灰色の髪で青い瞳の男の子が農家風の白髪のおじいさんに買われていった。それから……」

「ちょ、ちょっとまて。」

 止まらないルッカの説明に隊長さんが慌てている。

「全部、覚えているのか?」

「いえ、全部では無いです。たぶん。……ぼくの記憶じゃ役にたちませんか?」

 しゅんと落ち込んで小さくなったルッカに隊長さんが慌てて首を振っている。

「いやいや、逆だ。すごく役に立つ。よくこんなに詳細に覚えているものだと感心しているんだ。」

「そうですか。では、覚えている限りでお話します。」

「……あぁ、頼む。」

 それからルッカが話終わるまで、ペンが紙の上で滑る音とルッカの声だけだ聞こえていた。



 それからルッカは正式に帝国で戸籍をもらい、レニアス――つまり商人のニアさん――が養育者として登録された。南区の隊長さんたちは帝都の孤児院も勧めてくれていたけれど、ルッカ本人が強く希望したことでニアさんの(もと)で暮らすことになった。戸籍の住所は帝都の店だけれども、行商であちこち旅しているニアさんについて回るので帝都にいないことも多いという設定だから、森の家で暮らしても不思議じゃない。一連の手続きが終わって森の家に帰った時、ルッカは晴れやかな笑顔でこういった。


「ただいまぁ。」


ヴィティとアルフレッドが満面の笑みで「おかえり」と迎えてくれる。

更新スピード落ちていますが、のんびりお付き合いいただけると嬉しいです。

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