大家姫川玲子
■大家姫川玲子
私、姫川 玲子はとんでもない失敗をしてしまったかもしれない。
人ひとり・・・いや、二人の人生を狂わせてしまったかもしれない。
祖母から受け継いだアパート。
ここの大家兼管理人をしていれば、とりあえず食べていける。
就職活動も思うようにいかなくて家事手伝い(ニート)として家にいたから、世間の体裁を整えるのには都合がよかった。
ちょっとアルバイトをしていたが・・・色々あった。
不倫のような事になってしまって・・・それは今はいい。
アイツとはもう会わないのだから。
家賃未払いの部屋は1部屋のみ。
3か月も滞納して、ご本人も不在ということで祖母がリタイヤ前に引き払ってくれた。
不良債権の無いアパート。
私にとっては十分すぎる資産だった。
ただ、田舎から出てきた分、友達が全くいない。
知り合いもいない。
何かあったときに助けてくれる人もいない・・・
そんな時に、目の前に1人の天使が現れた。
それは、うちのアパートの住人だった。
浮世離れしたきれいな銀髪。
真っ白な肌。
大きな目。
かわいい声。
あれ?羽根が見えませんよ?
天使ですよね!?
そんな天使には、イケメンの神様がセットだった。
ただ、その天使には頬や首、手首にも火傷の跡があった。
生まれつきの痣かもと思って聞けなかった。
ただ、お友達になりたい。
一緒にお茶を飲んで、彼女の声を聴きたい・・・
そんな思いから、何かきっかけをと思った。
『お裾分け』・・・知らない人の手作りは怖いかしら?
念のためにお菓子も持っていけば・・・
■■■
その天使とは何とかお友達になれた。
なったよね!?
お友達は天使のシロちゃんで大丈夫。
でも、困ったときに相談できるような方は・・・と思っていたら、祖母から一ノ清夫妻を紹介された。
地元のお金持ちらしい。
資産家でアパートやマンションも持っておられて、困ったときは相談に乗ってもらえるらしい。
昔、少し世話をしたからと、おばあちゃんが言っていた。
実際、お宅に訪問させていただいて挨拶させていただくと、とても良い方たち。
旦那さんは日本人。
奥様は・・・どこか海外の方かしら、ハーフ?
きれいな銀髪。
美男美女の感じの良いご夫婦なのだけれど、どこか影があるのが気になった。
その理由は、リビングでお茶をいただいているときに分かった。
「あれ?これ娘さんの写真ですか?」
リビングに飾られた写真。
ご夫婦に手をつながれて嬉しそうにしている写真。
10歳くらいかな?
すごくいい写真。
この子さんもお母さんの血を受け継いで美人だ。
「ああ・・・娘です」
「今、おいくつなんですか?」
この家には娘さんがいたかしら・・・?
ご夫婦だけで暮らしていると聞いていたのだけれど・・・
「実は・・・娘は5年前に誘拐されたまま・・・」
旦那さんが渋い顔で教えてくれた。
「あなた!そのことは・・・」
奥さんが止めに入る。
「ああ・・・すまない。公開捜査の番組の話もあったから・・・つい・・・」
ご夫婦とも苦しそうな顔・・・
「あの・・・差し出がましいようですが、もしよかったら・・・お話伺えませんか?」
お話を聞けば、5年前に娘さんは誘拐されたらしい。
最初はあった電話も連絡がこなくなり、結局娘さんは帰ってこなかった。
それから5年間、探偵を雇ったりして娘さんの行方を探し続けている。
5年も前に・・・お気の毒だけど、もしかしたらもう・・・
話しながらご夫婦は泣いておられた。
5年前のことだけど、ご夫婦にとっては今の話なのだ・・・
ご夫婦の活動が、どこからかテレビの耳に入ったのか、コネクションで番組に出るようになったのかは分からないけれど、公開捜査の全国放送に出演されるらしい。
何か私にもできることがあれば・・・
■■■
後日、ご夫婦が出演されたテレビを見た。
『10歳の時に誘拐されて5年が経過しています。見た目の印象も変わっているかもしれません』
『普通に生活していれば名前を変えて、あなたのごく近くで普通に暮らしているかもしれませんよ』
『未成年なので一見、普通の生活をしている可能性があります』
『何らかの方法で逃げられないようにしている可能性もあります。慎重にこちらまでご連絡を・・・』
『特徴は、銀髪・・・これは染めているかもしれません。顔立ちは奥様似で美人系・・・』
『あなたの連絡だけが頼りです』
年齢や名前が変わっていたら、分かりっこない・・・
でも、奥様の顔とあの子の顔・・・シロちゃんの顔立ち・・・
顔や首の火傷・・・もしかしたら全身かもしれない。
自分のことを『神様』と呼ばせていた。
ずっと部屋から出ないのは・・・
明らかに異常者だ。
奥様に写真を・・・シロちゃんの写真を見てもらおう・・・
■■■
シロちゃんの写真を見てご夫婦が泣いていた。
娘さんの面影があったのだろう。
そこからは話が早かった。
テレビ番組にも話が行って、警察が動いてくれることになった。
ちゃんと裏付け捜査が行われるらしい。
アパートからも書類などがごっそり持っていかれた。
間違いならば間違いの方がいい。
でも、可能性があるのならば・・・
しばらくしてシロちゃんが保護された。
DNA鑑定もされて、間違いなくご夫婦のお子さんであることが証明された。
私のひらめきが一つの事件を解決させた。
一組のご夫婦とお子さんの命を救った。
誇らしい気持ちにもなった。
約1か月して『あの人』が帰ってきた。
5年間も少女を監禁していた人・・・正直怖い。
でも、最後まで付き合うのも私の中のけじめなのかもしれない。
ただ、聞いた話は、テレビ関係の方の話や、警察の方の話と少し違った。
私は騙されているのかもしれない。
この男性の話が本当ならば、誘拐犯は他にいて、シロちゃんを救ったのはこの人・・・
そして、あのシロちゃんの安心しきった顔を思い浮かべたら・・・もしかして、この人は本当のことを言っている!?
それとも、警察の方が言われるように洗脳しているから?
私には分からない・・・
■■■
あの人の家からガラスが割れる音がした。
慌てて駆けつけると、家の鍵は開いている。
家の中は・・・ひどい。
めちゃくちゃ・・・警察の方が帰った後と何も変わっていない。
あの人は床に寝ている。
起きているけれど、目は開いているけれど、生気がない目・・・希望を奪われた目・・・
こんなことが演技でできるものだろうか・・・
もし・・・私があの2人を引き裂いたとしたら・・・私は加害者?
確かめる方法は!?
何か方法はないの!?
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多分、自己ベストです。
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