奴隷とおでかけ
風呂上がりにシロと2人でテレビを見ていた。
最近は、シロがテレビを見るので、俺も見るようになってきた。
床に座ってベッドを背もたれにして見るのが常だ。
シロはベッドに寝転がって、俺の首に抱きついてテレビを見ている。
ベッドの上だと俺の肩と高さが合わないので、俺の枕を胸の辺りに敷いて高さを調整しつつ首に抱きついている。
この体勢を、密かに『好き好きスリーパーホールド』と名付けた。
見ている番組は正直どうでもいいのだ。
シロと一緒に何かをしているのが大事。
ちなみに、今は福岡のラーメン特集の番組だ。
博多ラーメンVS長浜ラーメン的な内容。
今日は、大家さんが来た時に色々考えた。
シロの将来・・・と、2人の将来についてだ。
一人の時は変わろうなんて思ったことがなかった。
誰にも会いたくないと逃げた。
でも、今、俺は変わりたい。
シロのために、俺のために、2人のために。
「シロ」
「はい、かみさま。なんですか?」
だから、まずは簡単なところから。
シロにコンビニスイーツ、ヨーグルトのケーキを食べさせるのだ。
「明日、コンビニ行くぞ」
「コンビニ?」
「そ、ヨーグルトのケーキ売ってるとこ」
「はー↑はいっ!」
既にテンション高めだ。
ベッドから起き上がった。
「もうすぐ販売終了だから、いっぱい買っとくか」
「いいんですか!?」
「おうよ。他の物もかってよし」
「かみさま素敵!」
「おう、ありがとよ」
どこかの遊園地に行くかのように盛り上がっているが、実際に行くのは家から650m離れたコンビニだ。
コンビニ行ってスイーツを買ってくる・・・ただそれだけの話だ。
それでも、俺とシロのペースはこれでいい。
***
翌日は朝から大変だった。
まずは、シロが外に出るための服がない。
服を買ってから・・・と思ったが、昨日既にシロにコンビニに行くと伝えてしまっていた。
今日行かないと、がっかりさせてしまう。
今、家にあるシロの服は、『ピンクのセーラー服』『ブラウンのセーラー服』『メイド服』。
どれも外を出歩くのには適していない。
ただ、部屋着で行くのも・・・
「シロ、そのブラウンのセーラー服着てみてくれ」
俺が後ろを向いているうちに着替えてもらう。
「はい!着ました」
振り返ると、今日はちゃんと着ていた。
良かった。
セーラー服は長袖なので、シロの腕の火傷の跡は隠れる。
凸凹はしていないけれど、赤くなっているのだ。
シロは肌が本当に白いので、火傷の跡が目立つ。
長袖なら隠れるから問題ない。
俺がじーっと見ていると、シロが何だかもじもじしている。
どうしたのだろうか。
あと、ちゃんとしているようで、やっぱり、コスプレ感が否めない。
そこで考えたのが、『ブラウンのセーラー服』に俺のニットのカーディガンを羽織る作戦。
何となくセーラー服の制服の女の子がニットのカーディガンをゆるふわで着ているように見える。
セーラー服は、ほとんど隠れるのでどこの学校とかは分からない。
ただ、スカートは短いので、脚の火傷が目立つ。
「シロ、ニーソも履いてみて」
「はい。でも、長いからかみさま手伝ってください」
「ああ、いいよ」
2人がかりでニーソを履く。
これで脚の火傷が隠れる。
シロを立たせていろんな角度から見るが、とてもかわいい。
服も悪くない感じ。
ただ、頬と首のやけどの跡はやっぱり分かる。
首はマフラーで隠せるが、頬までは隠せない。
まあ、他人の顔ってじろじろは見ていないだろう。
コンビニ行って帰ってくるだけだ。
まあ何とかなるだろう。
これでどこからどう見ても美少女だ。
なんだか、シロがまたもじもじしている。
どうしたどうした。
***
次の問題だが、シロの靴がない。
普段は、ごみ捨てに行ってもらうだけなので、サンダルでいいけど、コンビニにサンダルはちょっと・・・
そこで、ちょっと大きいけど、俺の革靴を貸すことにした。
セーラー服なら革靴だろう。
俺の成人式用に買ったが、まるで履いていない。
シロが履くには大きすぎるので、つま先とかかとに詰め物をして何とか履くことに成功。
「シロ、歩いてみてくれ」
ほぼ新品なので、家の中を着くで歩いてもらう。
(ずるっ)
「かみさま、すぐ脱げます」
全然ダメだった。
しょうがないので、ハイカットのスニーカーを貸すことにした。
これなら何とか・・・
靴は近々買わないとな。
***
最後は、俺の問題。
どうにもドアから外に出られない。
玄関の鍵は開けた。
ドアノブは握っている。
でも、そこまでだ。
身体が外に行くのを拒否している。
「かみさま?シロが手を握りましょうか?」
シロにかっこ悪い姿を見せるのは情けないが、やっぱりダメなものはダメだった。
手を握ってもらって、シロの次に玄関のドアを出る。
ここまで来て、やっとスタートだ。
アパートの階段を降りたところで声をかけられた。
「あら、こんにちは!」
(びくっ)顔を上げてみると、大家さんだ。
1階の廊下の掃除をしていたみたいだ。
「シロちゃんの服、かわいいわね!」
「えへへ、かみさまに買ってもらったの」
袖から指しか出ていないが、指で袖を押さえてくるりと1周回って見せる。
「それって高校の制服?シロちゃん高校生?何それ!?尊い!!」
シロはなんて言っていいか分からなかったようで、俺の方を見て視線で助けを求めた。
「コスプレ・・・的な?」
「最高!ごちそうさまでした!」
何だかよく分からないけれど、大家さんは納得したみたいなので良しとしよう。
年の瀬で空気は冷たい。
でも、その分空気が澄んでいるような気もする。
初っ端から大家さんに声をかけられたので、何となく緊張も和らいだ。
何よりシロが一緒にいてくれる。
手を握っていてくれる。
2人でコンビニまでの道を歩き始めた。
ふと、シロの方を見たら、微笑み返してくれた。
俺は今笑っているのか?
シロの顔を見たら自然と笑っていた。
いいな、こういうの。
散歩なのか、買い物なのか、デートなのか分からないが。
「シロ、制服かわいいな」
「ほんとですか!?えへへ~」
何だか蕩けそうになっている。
さっきもじもじしていたのは、褒めてほしかったのかな?
『かわいい』と思ってはいたが、言ってはいなかった。
こういうのは口に出して言わないといけないな。
一人暮らしの引きこもりだと、ついついしゃべらない癖がある。
気を付けないとな。
シロが横の植え込みの上に上がる。
俺よりも目線が上になったのが嬉しいのか、ご機嫌みたいだ。
ただ、坂を下るうちに歩道と植え込みの高さの差はだんだん広がり1.5mを超えた。
手もつないだままでは歩きにくいし、シロは飛び降りられる高さを超えてしまったようだ。
「かみさま~」
立ち止まったシロが助けを求める。
子供だろ、これ。
子供の時にやるやつ。
自分が飛び降りれる高さが分からないんだな。
木に登って降りられなくなる猫もこの類なのだろうか。
「んーと、手を離してそのまま行くか、戻って降りるかだな」
「・・・」
シロが飛び降りれる高さのところまで一緒に少し戻る。
戻るんか~い。
かわいいやつだ。
また二人で歩道を歩き始めた。
色々トラブルがあったから、結局家を出たのはお昼の3時を過ぎていた。
平日の昼間だから人は少なく、俺的には助かった。
「〽かみさまと~コンビニいく~かみさまと~うれしいな~♪」
シロが訳の分からない歌を歌う。
まあ誰もいないし、いいか。
途中、ちょっとした公園が見えた。
桜の木がたくさん植えられている公園だ。
今の時期、木には花はもちろん、葉も無くて寒々しい。
春にはシロと一緒に桜が見れるのだろうか。
総アクセス2.5万超えました!
ありがとうございます♪
紙のヘリで指を切っても、気持ちは全然へこんでいません(汗)
1日4回更新になりました。
朝6時、昼12時、夕方は18時、夜は21時です。
よろしくお願いします。




