プロローグ これからと
(作者の意向によりあらすじは割愛します)
・縦書き ニ段組 A5サイズ
・27文字×21行
・文字サイズ9ポイント
・余白 上下11mm 16mm
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どれくらい時間が経っただろうか。
様々な話を聞く中で、なんとも理解できないことがある。
お母さんに酷いことをされてしまった人が、どうして今ではこんなにも親しく、そして、大切な関係になれたのか。
「どうやって、お母さんと仲直りできたんですか?」
「誰が?」
先程と同じくしらを切る。ややあって、私は口を開く。
「あなた。梓さんが、です」
梓さんの名前を呼ぶのにはどうしても抵抗がある。
私の名前も否応なしに意識してしまうからだ。
「やっと名前を呼んでくれたね。亜月ちゃん」
あずき。
お母さんの名前の『あきこ』と、この人の名前である『あずさ』から二文字ずつ取って、あずき。漢字の意味を聞いたら「亜月に好きな人ができたらね」と教えてくれなかった。
意味はどうであれ、私のような愛想のない人間に、漢字こそは違うけれど、小豆だなんて可愛いらしい名前は似合わない。どうしても体中がむず痒くなってしまう。
「それで、何があってお母さんを許せたんですか?」
「違うよ。私が彰子を許すんじゃない」
「じゃあ、誰が?」
梓さんが伏し目がちになる。それがとても綺麗に見えた。
「彰子が、私を許してくれるかどうか。だよ」
それ以上は語らなかった。けれど、私には梓さんの気持ちがなんとなく理解できる。差し伸べられた手を拒んでしまった。そのことに対する罪悪感めいたものなのだろう。
許される側が怖いのは当たり前だけど、同時に、許す側もきっと、怖い。どうしようもない気持ちとの葛藤がある。
他にもいっぱい聞きたいことがあった。どうしてお母さんの写真が貼ってあるのか。どうしてあやとりが上手いのか。どうして郁さんのギターを梓さんが持っているのか。
聞きたいことは、本当に、本当にいっぱいあった。
「どうしてお父さんは郁さんと結婚しなかったんですか?」
「亜月ちゃんは彰子達から何も聞いてないんだね」
「両親が『私達のことは梓に聞きなさい』」と言うので」
「要するに馴れ初めを話すのが恥ずかしいだけでしょ」
的を射ていた。二人の出会いを聞くといつも照れくさそうに微笑んで涙を溜める。じんわりと顔が赤らむのがわかった。お互いに愛しているのだと、心がくすぐったくなる。
「また今度ね。その時に、それからの話をしてあげる」
梓さんは純真無垢に笑った。私も微笑む。
物語は続く。私の物語も、まだ、これからだった。
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