入院~あーくんの優しさ~
明日から、甲子園の予選が始まってしまう。
なのに、僕はまだベッドの上だ。
「あーくん。野球の予選観に行きたい」と、あーくんに頼んだ。なのに、あーくんから返ってきた答えは、
「ごめんな、ここで見よう?」で、やっぱりだめって言われた。
あーくんはいつもだめって言う。僕の気持ちを分かったふりして…
「嫌だ。あーくん、僕の気持ち分かってないくせに…」
「えっひな君?」あーくんは困った顔をしていた。でも、言い始めたら止まらなくなって、
「野球したいのを我慢しているんだから…観に行くくらいいいじゃない?」
「ごめんな」
「ごめんっていつも言うけど、僕は謝って欲しい訳じゃない。
もうあーくんなんて…」大嫌い。その言葉は、かろうじて飲み込んだ。
「ひな君?」あーくんが申し訳なさそうに僕を覗きこんでくる。
あーくんの優しさが分からない。
あーくんの優しさなんて嫌いだ。嫌い。大嫌い。
僕の目からは涙が溢れた。
あーくんは僕の頬をそっと拭って、優しく抱きしめた。
「あーくん…」
僕はあーくんの優しさなんて嫌い…
なのに、その優しさに安心してしまう自分がいた。
「ひな君はいつも我慢してて、させてあげたいと思うよ。でも、お兄ちゃんはひな君に苦しい思いはさせたく無いんだ。だから…」
「ごめん。あーくん、いつもわがままで。あーくんの言ってること分かる。でも分からないふりしてて…」
「予選はここで見よう?で、もし甲子園行ったら、甲子園まで応援に行こう?」
「ごめんね。それでいい?」
「うん。ありがとう」
あーくんの優しさは嫌い。だけど…
あーくんの優しさは世界で一番大好きだ。
だってあーくんの優しさに偽りなんて無いのだから…




