熱中症
この一週間、キャッチボールをした後、部活が終わるまで木陰でぼーっとたたずんでいた。
いつもは作戦だてをしているのだが、今日は何も考えずに、みんなの練習を見ていた。
1時間くらいたったころ、急に頭がクラクラしてきた。
周りを見ると、今まで木陰だった所がひなたになっていた。
(あーやばい。薬のせいで体の適応能力が落ちてるから、熱中症には気をつけろって言われてたのに…)
僕は日陰にいこうと歩き出したが、足がふらついて、壁にもたれかかってしまった。
大宮先生が僕の様子に気づいて駆け寄ってくれて、
「神谷!大丈夫か?」と言った。僕は
「大丈夫です」と言ったが、壁に手をつきながら、地面に膝をついてしまった。
「神谷、保健室行ってこい。なんなら俺が一緒にいこうか?」と言ってくれたので、
「分かりました。でも一人で行けるので…」そう言って僕はふらふらとした足取りで保健室に向かった。
僕は保健室に着くと、「失礼します」なんていう保健室に入る前の順序なんか飛ばして、保健室のドアを開けた。
「もう野球部の方?ちゃんとノックして、入ってよ」なんて言う保健室の先生の声を聞きながら、僕は床に倒れ込んだ。
「大丈夫!?熱中症かしら?ベッドに運ぶから…って私じゃ運べないし…」保健室の先生で女の人だから、僕をベッドまで抱えるなんてことは出来ない。
「大丈夫です。ベッド借ります」そう言って僕はベッドまで行って、うつ伏せに倒れ込んだ。
幸い発作はおこらず、熱中症っぽかったので、ベッドの上で部活が終わるまで待つことにした。
「家の人に連絡する?お母さんとか家にいる?」と先生に聞かれた。
「大丈夫です。親、居ないんで…」
僕の親は、友ちゃんが産まれてすぐに、この家を出て行った。
僕は小学生だったけど、親の記憶はそこだけ抜け落ちたように全くない。
「仕事かなんか?」
「まーそんな所です…」僕にとって、「親、今家にいる?」なんて言う質問は、結構辛いものだったりする…
そんなことを考えている間に、睡魔に負けて、僕は夢の世界に入っていた。
「陽斗~。朝日さんに連絡しといたから、起きて」
「えっ…圭?僕寝てたんだ」
「うん。もう朝日さん来る見たいだけど起きれる?」そう言われて起きようとしたけど、体に力が入らなくて無理だった。
「無理っぽい…」
「もー木陰に居なかったからだろ?気を付けないと…」
「ごめんごめん」僕はそう言って笑った。
「ひな君。迎えにきたよ!」とあーくんが保健室に入ってきて、僕は家に帰った。




