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死人の花嫁  作者: 黒井雛
33/33

おまけ‐ifエンド集‐

 ※これは、本作品がもしノベルゲームだったらと仮定して作成した、別のエンディング集です。本編をトゥルーエンドだと思ってお楽しみください。

 ※まともなハッピーエンドは、多分ありません。



【窓に血が付いた掌の痕が。窓を開ける?開けない?】

 →窓を開ける。


 早苗は思い切って、窓を開けた。

 外は暗闇で、誰がいるのかもわからない。

 次の瞬間。


「…っ!!」


 心臓の所に食い込むナイフ。目の前が真っ赤に染まり、早苗はその場に崩れ落ちる。

 意識を失う瞬間、誰かが笑う声が聞こえた気がした。

『バッドエンド‐用心が足りません‐』




【線路で聞こえた翔太の声。心が揺れる?心が動かない?】

 →心が動かない。


「そんな誘惑に私は乗らない…!!」


 不思議なくらいに、早苗の心は動じなかった。


「死んで、あんたの元へ行くことなんか考えたら、虫唾が走るわ…!!」


 死の甘さより、翔太への嫌悪感の方がずっと強かった。

 嫌いだ。嫌いだ。あんたなんて、大嫌いだ。

 湧き上がる嫌悪感のまま罵倒を繰り返す、早苗の言葉に脳裏に響いていた声が不意にやんだ。

 どうやら諦めて、去っていったらしい。幽霊になっても、気が弱い男だ。

 早苗が勝ち誇ったように、ふんと鼻を鳴らした瞬間。


「…っ!!」


 背中を思い切り突きとばされ、早苗の体は宙を浮く。

 落ちていくその先は――電車が迫る線路の、上。


『…さっちゃんが、そだい俺を否定するなら、無理やり連れて行くしかないでない』


 脳裏に響いた翔太の声は、自身の喉から漏れる絶叫によってかき消された。

『バッドエンド‐頑な過ぎると霊を怒らせます‐』




【犬小屋の絆創膏。拾う?拾わない?】

 →拾わない

 →啓介犯人エンド発生せず。啓介と茶の間で寝ている間に、優子から襲われる

 →啓介と優子の格闘の結果、啓介死亡。天井が降り注いで早苗のみ助かる。


「――これで、いいわ」


 早苗は自身が書けた絵馬を見て、にっこりと満足そうに笑った。

 これで絵馬が正しくなった。間違いは、正されなければならない。

 今日は、早苗の結婚式。早苗は今、母から譲り受けた白無垢を身に纏っている。母が祖母から譲り受けたというそれは、まるであつらえたかのように早苗にぴったりだった。

 神社を出た早苗は、そのまま隣接した山の中へと入って言った。伸びた枝木や、湿った土のせいで真っ白な白無垢は汚れて行くが、今の早苗には気にならなかった。

 鬱蒼とした木々の間を縫って、出る場所は、幼い頃「探検」をした早苗が見つけた秘密の場所。神社の石段よりも、ずっとずっと高い位置から、街を一望出来る切り立った崖の上。

 早苗は懐かしい郷里を見渡して、少しだけ泣いた。


「ごめんね。お母ちゃん。…私だけでも助かってけて嬉しいって言ってけたのに」


 そして、さようなら。故郷。

 覚悟を決めた早苗は、そのまま真っ直ぐに柵がない崖の淵へと駆けていく。


「啓介…今、私、貴方の花嫁になるの」


 微笑みながら宙を浮いた瞬間、微笑み返してくれた啓介の姿を見た気がした。


 誰もいない神社の中、結婚の衣装を身に纏った啓介と早苗の絵馬が、ひっそり風で揺れていた。

『はっぴーえんど?‐ぶっちゃけ最後までどっちにしようか迷った案でした‐』




【「俺以外要らないって、そう言ってよ」啓介の懇願。受ける?受けない?】

 →受ける


 あまりにも衝撃的な啓介の言葉に、早苗は唇を震わせた。

 脳天を殴られたような、目の前が弾け飛ぶような、激しい衝撃が早苗を襲った。

 なんてことだ。

 知らなかった。

 知りたくなかった。


「――分かった」


 気が付けば、口は勝手に動いていた。

 震える手を、ゆっくりと啓介の背に回す。


 知らなかった。

 知りたくなかった。


「啓介以外、要らないよ」


 ――自分がこんなにも、啓介に狂っていただなんて。


 啓介の言葉を聞いた瞬間、早苗の心に湧き上がった感情は、どうしようもない程の歓喜だった。

 リュウが殺されたのに。父親を重体まで追いやった憎むべき男であるのに。

 自分は今、啓介の凶行を、彼の愛の表明だとして、心の底から喜んでいる…!!

 なんて悍ましい事なのだろう。自分は人でなしだ。

 そう思うのに、緩む口元は止められなかった。

 そんな早苗に、啓介もまた幸福そうに微笑みを浮かべた。


 血塗れの死体の脇で、燃え盛る炎を背に、微笑み合う男女。

 それはどこまでも狂った光景だった。


「さっちゃん…愛している」


 炎の中で交わす口づけは、血と煤の味がした。



 翌日、ニュースでは放火された家の中から見つかった一体の死体と、消えた男女の話題で持ちきりだった。

 発見された女性は町内に住む中年女性で、放火された家の住人ではなく、また彼女が用意したらしき放火の道具も見つかった。

 しかし中年女性の死因は焼死ではなく、鋭利な刃物に複数回刺されたことよる出血死。そして本来家にいたはずだった二名の男女の失踪。一体この家で何が起こっていたのか。

 また、家が焼け落ちたすぐ後に、無人の神社で小規模の火災も発生していたと報告されている。

 警察の必死の捜索にも関わらず、男女の行方は判明せず、未解決な事件として今も警察は情報提供を呼び掛けている。

『はっぴーえんど?‐地獄の果てまで共に行く‐』




【最後の選択。母親を選ぶ?翔太を選ぶ?啓介を選ぶ?】

 →翔太を選ぶ


「もう…疲れたは…」


 生きることに、疲れた。

 誰かに振り回されることに、疲れた。

 考えることに、疲れた。


「翔ちゃん…私ば連れっててけて」


 もう、何も考えたくない。ただ静かに眠りたい。

 誰かに対する罪悪感も、全て忘れて、ただ赤子のように誰かに身を任せてしまいたかった。

 例え、その相手が、けして好きだとはいえない翔太だとしても。


「…いいよ。さっちゃん」


 全身の力を抜いて翔太にもたれる早苗の髪を、翔太は優しく撫でた。


「俺がちゃんと連れてってけるから…今は、ゆっくりお休み。起きたらそこは安息の地だよ」


 翔太の言葉が本当か嘘かですら、最早どうでも良くなっていた。

 人の肉を纏っていない筈なのに、一緒に行くと口にしてからの翔太の体は不思議と熱を持っているように感じた。

 温かい。――このまま眠ってしまおう。

 翔太の胸の温かさに包まれながら、早苗は瞼を閉じた。


「愛しているよ。さっちゃん」


 優しい口づけを感じながら、早苗は目が醒めるかもわからない深い眠りへと落ちて行った。

『はっぴーえんど?‐全てを忘れて眠りたい‐』




【最後の選択。母親を選ぶ?翔太を選ぶ?啓介を選ぶ?】

 →啓介を選ぶ


 早苗は自身を呼ぶ、啓介へと視線を向けた。

 愛犬を殺して、父を重体にまで追いやった、本当ならば憎むべき男。

 ――けれど。


(一人になんか、させられない)


 ああ、自分はなんて愚かなんだろう。

 良いことなぞ、まるで無い選択なのに。

 どう考えても、間違った行為であるのに。


「さよなら。翔ちゃん…お母ちゃん」


 それでも、孤独で泣く啓介を置いて行くことなんて、早苗に出来ない。

 愛した人だから。――否、今でも愛している人だから。


 翔太の腕から抜け出した早苗は、脇目も振らずに啓介の元へ駆けよって、その体に巻き込む鎖ごと啓介を抱きしめた。


『…さっちゃん…?』


 幻影を見ているかのように、焦点が定まっていなかった啓介の視線が、正気に返ったかのように見開かれ早苗の方に向いた。

 そんな啓介に、早苗は泣きながら笑いかける。


「――傍に、いるよ」


 例え、啓介が罪人でも。

 一人何もないこの地で、孤独に苛まれることこそが罪の罰であったとしても。


「私がずっと傍にいるから…だから啓介は一人じゃないよ」


 傍にいることが共に罪を負うことだとしても、きっと啓介を孤独のままにしていくことの方が辛いから。

 透明な鎖がどこからか現れ、早苗の身にも降りかかるが、早苗は抵抗しなかった。


『…ありがとう。さっちゃん』


 啓介の目から大粒の涙が零れ落ちた。

 震える手が、早苗の背に回される。


『愛してる…ただ一人、さっちゃんだけを』


 早苗は微笑みながら、その胸に体を預けた。


「…私も愛しているよ」



 何もない白いばかりの世界で二人。

 いつ終わるやもしれない果てしない年月を、啓介と早苗はただ互いだけを見て二人だけで過ごす。

 かつての孤独の記憶を、何度も何度も繰り返し脳内に反芻させられながら。


 それは、利己的な理由で、罪もない動物や人を傷つけた罰。

 罪人を愛し、その男の傍にいる為に大切な人を捨てた罰。


 彼らは途方もない年月の末にいつか許しが与えられるその日まで、けして天国の門を潜ることはできない。

 ――けれどもその罰はもしかしたら、互いしか要らない彼らにとっては、天国に行くことよりも幸せなものなのかもしれない。


『はっぴーえんど?‐透明な鎖に縛られて‐』



 いかがでしたでしょうか?

 実は「真犯人は、優子に愛されていない翔太の弟」的な第三者犯人エンドとかも案にありましたが、設定が練れなかったので没にしました。

 気に入ったエンディングはありましたでしょうか?あった方は教えて下さると嬉しいです。

 それでは、おまけまでお付き合い頂きありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初から最後まで面白かったです。 [一言] ifを読むと、やっぱり本編の完結の仕方が完璧だなと思いました。逆にこの完結だからこそ、ifがすごく活きているなと思いました。
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