第14話 渇きの巨人は、水を飲んでいなかった
第14話です。
第13話から、第2部「砂漠再生編」が始まりました。
澪たちは内陸砂漠ヘックスへ移動し、井戸を失ったハディル村の人々と出会います。
村の井戸は、ただ枯れたのではありませんでした。
地下水は都市国家オルドアの方向へ引かれ、地盤には空洞が生まれ、地表には塩が残り、雨が降っても水を受け止められない土地へ変わっていました。
そして枯れた井戸から現れた、巨大な土の腕。
システムは、それを《渇きの巨人》と識別し、討伐を推奨しました。
しかし、怪物が水を奪っているとは限りません。
水を奪われた大地の苦しみが、怪物の形を取った可能性もあります。
今回は、澪たちが《渇きの巨人》を倒す前に、その正体を調べる回です。
枯れた井戸から、巨大な腕が伸びていた。
人間の腕に似ている。
けれど、皮膚はない。
乾いてひび割れた土。
白く浮き出た塩。
枯れた根。
砕けた石。
それらが絡み合い、一つの巨大な腕の形を作っている。
五本の指らしきものが、ハディル村の中央広場へ食い込んだ。
指が動くたびに、石畳が割れる。
井戸の縁が崩れ、乾いた砂が底へ落ちていく。
ごおおおおん――。
地面の奥から、低い声が響いた。
咆哮というより、巨大な空洞が軋んだ音に近い。
澪の胸元で、調律核が赤く明滅する。
《未知大型反応:地表接近》
《暫定識別名:渇きの巨人》
《推奨対応:討伐》
《警告:地下水脈と接続中》
「全員、井戸から離れて!」
澪が叫ぶ。
案内役のサディクが、崩れかけた家の方へ走る。
フィリアはネレイアを両手で包み、ミルカは地盤杭を持ったまま後退した。
ライカは姿勢を低くし、いつでも飛び出せるように構える。
前線にいるのは三人。
ミルカ。
フィリア。
ライカ。
戦闘だけを考えれば、偏った編成だ。
アオイのように正面から巨大な攻撃を受け止められる者はいない。
ルシェリアの大規模制御魔法もない。
セラフィナの光剣防壁もない。
だが、この場所で必要なのは、敵を倒す力とは限らない。
「ミオ!」
ライカが井戸の東側を指した。
「腕、私たちを狙ってない!」
巨大な腕は、澪たちへ伸びているのではなかった。
指は何度も地面を掻いている。
東へ。
都市国家オルドアの方角へ。
土の指が、乾いた地面へ爪を立てる。
けれど、身体の大部分は井戸の底に埋まったままだ。
まるで地下に引き戻されているように、腕だけが何度も震えている。
「水を探してる……?」
澪が呟く。
「油断するな!」
サディクが叫んだ。
「そいつが村の下を壊しているんだろう!」
地面がまた揺れた。
井戸の近くに残っていた家の壁が崩れる。
砂埃が舞い上がる。
確かに、このまま放置すれば村は壊れる。
敵意がなくても、危険であることに変わりはない。
澪は調律核の表示を見る。
《討伐ルート:実行可能》
《推奨攻撃部位:露出腕部》
《腕部破壊による地表侵出阻止率:高》
《警告:地下水脈接続への影響不明》
最後の一行。
地下水脈接続への影響不明。
澪は、第1部のアビス・リヴァイアを思い出した。
怪物を倒せば、目の前の危険は止められる。
だが、身体が循環装置や水脈につながっていた場合、破壊は別の場所へ痛みを広げる。
「攻撃しないで」
澪は言った。
ライカが振り向く。
「でも、村が崩れるよ!」
「止める。でも腕は壊さない」
「どうやって?」
「今考えてる!」
「まだ考えてなかったんだ!」
「状況を見ないと考えられないの!」
言い返しながら、澪は巨大な腕を観察する。
腕が動くたびに、東側の地面が沈む。
逆に、西側は少し盛り上がる。
ただ暴れているのではない。
地下にある何かへ引っ張られている。
「ミルカ!」
澪は叫んだ。
「地盤の動き、どうなってる?」
ミルカは地面へ地盤杭を突き立て、耳を当てた。
一か所。
二か所。
三か所。
杭を打つ位置を変えながら、返ってくる音を聞く。
「腕の下が空洞になってる。でも、巨人が掘った空洞じゃない」
「わかるの?」
「空洞の壁が古い。砂の崩れ方も、一日や二日じゃない。地下水が抜けて、少しずつ地層が沈んだ跡」
「じゃあ、巨人が地面を空洞にしたわけじゃない」
「たぶん逆」
ミルカは巨大な腕を見上げた。
「空洞になった土と、切れた根と、沈んだ地層が集まって、あれの身体になってる」
サディクが信じられないものを見るように言う。
「大地が、巨人になったというのか」
「正確には、壊れた地盤に虚無が入り込んで形を持ったんだと思う」
ミルカの言葉に、澪は調律核へ意識を向ける。
《構造解析:進行》
《構成物:乾燥土壌》
《構成物:塩類集積層》
《構成物:枯死根群》
《構成物:崩壊地盤》
《虚無含有率:中》
《Another Route Seed反応:微弱》
怪物の身体は、大地そのものだった。
フィリアが両膝を地面につき、手のひらを土へ触れる。
ネレイアが青い光となり、ひび割れの中へ入っていく。
「フィリア?」
澪が呼ぶ。
「聞こえます」
フィリアの顔が苦しげに歪む。
「何て言ってる?」
「返して、と」
サディクが息を呑んだ。
フィリアは目を閉じたまま続ける。
「水を返して。根を返して。重さを返して。何も支えられない。空っぽになった。落ちる。崩れる……」
「水を奪ってる声じゃない」
澪は呟いた。
「奪われた側の声だ」
渇きの巨人は、水を飲んでいなかった。
むしろ、水を失った土地が、崩れないようにしがみついている。
地下水が抜かれ、地層が空洞化し、植物の根も消えた。
支えを失った大地の一部が、虚無をまとい、巨大な腕となって水を追いかけている。
だが、事情がわかったからといって安全になったわけではない。
巨大な腕が再び動く。
東へ爪を立てる。
地面に新しいひびが走り、村の外れにある家が傾いた。
「止めないと!」
ライカが叫ぶ。
「うん。でも叩いたら駄目」
澪は頭を働かせる。
巨人は地下水脈へ接続している。
身体は空洞化した地盤。
今、腕を破壊すれば、まとまっていた土が崩れ、空洞へ流れ込む可能性がある。
村全体が陥没するかもしれない。
逆に、無理やり地面へ戻しても、その下に支えがなければ同じだ。
必要なのは、巨人を倒すことではない。
地面の荷重を分散し、これ以上空洞が広がらないようにすること。
そして、巨人が水を追って動かなくて済む状態を作ること。
「ミルカ、井戸の周囲を支えられる?」
「今ある材料だけじゃ無理。家の梁を外せば仮設支柱は作れるけど、地下の空洞が広すぎる」
「全部を支えなくていい。巨人の腕が動いた時に、地表へひびが広がるのを止めるだけ」
「だったら、六角形に荷重を逃がす」
ミルカは広場を見回す。
「井戸を中心に六か所。地盤杭を深く打って、梁でつなぐ。完全な補強じゃないけど、少しは持つ」
サディクが険しい顔をする。
「家を壊すのか」
「もう傾いてる家の梁を使う」
ミルカは答えた。
「残しておいても、次の揺れで崩れる。村へ戻るつもりなら、まず広場と井戸を守る方がいい」
サディクは歯を食いしばった。
家はただの材料ではない。
誰かが住んでいた場所だ。
思い出もある。
だが、このままではすべて崩れる。
「……東側の三軒を使え」
サディクは言った。
「あそこは、もう屋根が落ちている」
「ありがとう」
ミルカはすぐに走り出した。
「ライカ! 使える梁を見つけて運んで!」
「任せて!」
ライカも飛び出す。
澪はフィリアを見る。
「巨人に、少しだけ待ってって伝えられる?」
「言葉が届くか、わかりません」
「水を返すとは言えない。まだ方法がないから。でも、壊さないと伝えて」
フィリアはネレイアを見た。
青い精霊は、乾いた空気の中で弱く揺れている。
「ネレイアにも負担が大きい?」
「はい。この土地には、水が少なすぎます」
フィリアは自分の水筒を見た。
「この水を使えば」
「全部は使わないで」
澪は言った。
「私たちの飲み水だから、というだけじゃない。巨人へ水をかけても、一瞬で土に吸われるか蒸発する。必要なのは量じゃなくて、届く道」
フィリアは少し考え、頷いた。
「では、ほんの少しだけ」
水筒の蓋へ、わずかな水を注ぐ。
ネレイアがその一滴へ触れた。
青い光が水を包み、細い糸となって地面のひび割れへ入っていく。
水そのものを大量に与えるのではない。
水の気配を届ける。
こちらが奪う側ではないと伝えるための、小さな一滴。
フィリアは土へ手を置いた。
「聞いてください」
巨大な腕が、また動こうとする。
「私たちは、あなたを壊しません」
指が止まりかける。
「でも、動くと村が崩れます。あなた自身も、もっと崩れてしまいます」
ネレイアの青い光が、地中へ広がる。
「水を探します。水が戻る道も探します。だから、少しだけ待ってください」
巨大な腕が震えた。
止まったわけではない。
だが、動きが遅くなった。
「届いてる?」
澪が聞く。
フィリアは苦しそうに答える。
「わかりません。でも、聞こうとしています」
その時、調律核に表示が浮かぶ。
《渇きの巨人:敵対値低下》
《地表侵出速度:低下》
《討伐推奨:継続》
《代替ルート条件:解析中》
敵対値。
やはり、敵意は完全ではなかった。
「ミオ!」
ライカの声がする。
彼女は自分よりも長い梁を肩に担いで戻ってきた。
「これ使える?」
ミルカが確認する。
「使える! でも一人で三本持ってくるのやめて! 落としたら地面に穴が開く!」
「早い方がいいと思って!」
「速さと雑さは違う!」
二人のやり取りを聞きながら、澪は広場の外を見る。
村の周囲には、かつて畑だった段々の地形がある。
不自然に整った低い土手。
崩れかけているが、一定の間隔で並んでいる。
「サディクさん」
澪は尋ねた。
「あの土手は?」
サディクは振り返る。
「あれか。昔の畑の境だ」
「ただの境?」
「年寄りは、水を止める段だと言っていた。雨が降った時、一気に村へ流れ込まないようにするものだったらしい」
澪は目を凝らす。
畑の上流側に浅い窪地。
それを囲う低い土手。
さらにその先へ続く細い溝。
雨水を減速させ、畑へ広げ、地面に染み込ませる構造。
小さな堰。
浸透溝。
段状の集水地。
「今は使ってないんですか」
「大きな水路ができてから使わなくなった」
「大きな水路?」
「オルドアから来る灌漑水路だ。昔は都市から水を買っていた。水路が壊れ、料金が上がり、最後には止まった」
ミルカが作業の手を止める。
「待って。村は昔、雨水を地面へ戻してた。でも都市の灌漑水が来たから、その仕組みを使わなくなった?」
サディクは頷く。
「水路の方が畑へ直接水を入れられた。雨を待つ必要がなかった」
「その水を大量にまいて、蒸発して、塩が残った」
ミルカが白い畑を見る。
「しかも雨水を染み込ませる段々を手入れしなくなったから、地下水の補充も減った」
澪の中で、構造がつながった。
都市だけが一方的に水を奪ったわけではない。
都市から供給された灌漑水によって、村も一時的には作物を増やした。
便利だった。
安定していた。
雨に頼らず生産できた。
だが、その代わりに、土地が本来持っていた雨水を受け止める仕組みが失われた。
水路が止まった時、村には自分で水を蓄える力が残っていなかった。
海洋異変と同じだ。
便利さそのものが悪いわけではない。
しかし、便利さに一本化し、他の循環を捨てると、その一本が止まった時にすべてが崩れる。
「水路があった頃、井戸は?」
澪が聞く。
「少しずつ浅くなった」
サディクが答える。
「だが水路があったから、誰も深く考えなかった」
「水が届いていたから、地下水が減っていることに気づかなかった」
「そういうことだろうな」
サディクの声には、自分たちへの苦さも混じっていた。
誰か一人が悪いわけではない。
都市は水を売った。
村は水を買った。
畑は広がった。
人口も増えた。
雨水設備は忘れられた。
そして、水路が止まり、深井戸が増え、地下水位が下がり、土地は崩れ始めた。
「ミオ、見て!」
ライカが村の北側を指した。
畑の外れに、枯れた低木が並んでいる。
その中に一本だけ、わずかに葉を残した木があった。
「水の匂い、あそこからする!」
一行は慎重に近づく。
木の根元には、半分砂に埋もれた石組みがあった。
円ではない。
長方形の浅い窪地。
底には、黒っぽい土がわずかに残っている。
フィリアがしゃがみ込む。
「ここだけ、小さな命の声があります」
ミルカが石組みを調べる。
「集水槽だ。雨が降った時、上の斜面から水を集めて、ここへ溜める。底は完全防水じゃなくて、ゆっくり地面へ染み込ませる構造」
「雨水を貯めながら、地下水も補充してた」
澪は言った。
「たぶん」
ミルカは周囲の溝を追う。
「でも入口が砂と塩で詰まってる。上流の土手も切れてる。これじゃ雨が降っても、ここへ来ない」
ライカが木へ近づく。
「この木だけ生きてるのは、下に少し水が残ってるから?」
フィリアが頷く。
「深い根が、最後の湿り気に届いています」
ネレイアが木の周囲を飛ぶ。
その青い光に呼応するように、地中からかすかな水の気配が返ってきた。
大量ではない。
井戸を満たすほどでもない。
それでも、完全な無ではない。
「雨だけ降らせても駄目」
澪は呟く。
「でも、降った雨を受け止める場所を直せば、少しずつ地下へ戻せる」
サディクは枯れた畑を見た。
「次の雨がいつ来るかわからん」
「だから、それだけでは足りません」
澪は答えた。
「今ある水をどう配るか。都市の揚水をどう減らすか。漏れている水がないか。塩が上がった畑をどう戻すか。土が水を抱えられるようにするには何が必要か。全部必要です」
「そんなに多くを、できるのか」
サディクの問いに、澪はすぐ答えられなかった。
全部を一度にはできない。
時間も、人も、資材も足りない。
けれど、だからこそ順番が必要だった。
「まず、巨人がこれ以上動かないようにする」
澪は言った。
「次に、難民の人たちが今日と明日を越えられる水を確保する。それからオルドアへ行って、地下水の使い方を調べる。同時に、村の雨水を受け止める仕組みを戻す」
ミルカが仮設支柱を組みながら言う。
「あと地盤調査。空洞の上に人を戻したら危ない」
フィリアが続ける。
「土へ命を戻す方法も必要です」
ライカが言う。
「水が残ってる場所をもっと探す!」
澪は頷いた。
「全部、つなげる」
その時、広場の方から大きな音がした。
巨大な腕が、再び動いた。
フィリアが立ち上がる。
「待ってください!」
ネレイアの青い糸が地中へ伸びる。
だが今度は、巨人の指が東ではなく北へ向いた。
生き残った一本の木。
古い集水槽。
そこに残る、わずかな水の気配へ反応している。
「こっちへ来る!」
ライカが構える。
「攻撃しない!」
澪は叫んだ。
「でも集水槽を壊されたら、最後の湿り気が消える!」
ミルカが仮設支柱を固定しながら叫ぶ。
「巨人の腕を井戸の周りに戻せる?」
「戻すってどうやって!」
「腕が地面を掴める場所を作る! 支えがないから水を追って動くんだよ!」
ミルカは六本の地盤杭を指した。
井戸を囲むように打たれた杭。
その間を、家から外した梁がつないでいる。
まだ完成ではない。
だが、井戸の縁に仮の骨組みができていた。
「巨人の身体は崩れた地盤そのもの。なら、こっちに荷重を預けさせる!」
澪は意味を理解した。
渇きの巨人を地面へ押し戻すのではない。
巨大な腕がしがみつける支えを作る。
空洞化した大地に、仮の骨を入れる。
「フィリア!」
澪は言った。
「巨人に、こっちへ手を置いてって伝えて!」
「やってみます!」
フィリアが井戸と仮設骨組みの間に立つ。
「ここです!」
巨大な腕へ向けて、青い光を伸ばす。
「水はここにはありません。でも、支えがあります。もう少し待つための場所があります!」
巨人の指は、生き残った木へ伸びかけている。
水の匂いに引かれている。
ライカが木と巨人の間へ飛び出した。
「こっちじゃないよ!」
「ライカ、近づきすぎ!」
澪が叫ぶ。
ライカは巨人を攻撃しない。
代わりに、木の周囲を高速で走る。
砂を巻き上げ、水の匂いを薄める。
そして井戸側へ走り、ネレイアの青い光を追うように道を作る。
「こっち! 足場あるよ!」
「手だけど!」
澪の突っ込みは届いていない。
巨大な指が、ゆっくりと向きを変える。
井戸へ。
仮設骨組みへ。
ミルカが叫ぶ。
「慎重に! 一気に乗ったら全部折れる!」
「巨人に慎重って伝わるの!?」
「フィリアに任せる!」
フィリアは汗を流しながら、地面の声を聞いている。
「ゆっくりです」
彼女は言った。
「急がなくていい。水は今すぐ戻りません。でも、壊しません。置いていきません。だから、ゆっくり」
巨大な腕が下がる。
土の指が、ミルカの作った梁へ触れた。
ぎし、と木が軋む。
地盤杭が沈む。
「持って!」
ミルカが金色の構造線を伸ばす。
六本の杭と梁が、ひとつの構造としてつながる。
土の腕の重さが、一か所ではなく六方向へ分散される。
地面が揺れる。
梁が悲鳴を上げる。
一本が割れかける。
ライカが身体を入れ、梁を支える。
「重い!」
「当たり前!」
ミルカが叫ぶ。
「巨人なんだから!」
「先に言って!」
「見ればわかる!」
澪も反射的に手を伸ばしかけた。
だが、自分が加わっても支えにならない。
戦闘適性最低。
筋力もない。
それでも、できることはある。
全体を見る。
「右奥の杭が沈んでる!」
澪が叫ぶ。
「ミルカ、右奥!」
「見えてる!」
「ライカ、左じゃなく右へ!」
「了解!」
ライカが移動する。
荷重が変わる。
フィリアが巨人の動きを抑え、ミルカが構造を支え、ライカが崩れかけた場所へ走る。
三人の理が、完全ではないがつながっている。
循環。
構造。
流動。
巨大な腕は、ついに仮設骨組みへ重さを預けた。
動きが止まる。
井戸の周囲へ走っていたひびも、広がるのをやめた。
調律核が光る。
《渇きの巨人:地表侵出停止》
《仮設地盤支持:成立》
《ハディル村陥没危険度:低下》
《討伐ルート:保留》
《代替ルート条件:一部達成》
《条件名:地脈支持》
《条件名:水循環追跡》
《条件名:都市揚水構造確認》
「止まった……」
サディクが呆然と呟く。
巨大な腕は消えていない。
倒れてもいない。
井戸から半分だけ出たまま、仮設骨組みを握っている。
不気味な姿ではある。
だが、先ほどまでのように地面を掻き、村を壊そうとはしていない。
フィリアが膝をついた。
ネレイアの光も弱くなっている。
澪が駆け寄る。
「大丈夫?」
「はい。でも、この子も疲れています」
フィリアはネレイアを両手で包む。
青い精霊は、小さく震えた。
「巨人は?」
「待っています」
「いつまで?」
フィリアは悲しそうに首を振る。
「長くは待てません。水が戻らなければ、また動きます」
仮設骨組みも永遠には持たない。
乾いた梁。
不安定な地盤。
空洞化した地下。
時間を稼いだだけだ。
だが、その時間が必要だった。
「オルドアへ行く」
澪は言った。
「地下水がどこへ、どれだけ引かれているのかを確認する。都市の人たちが何に使っているのかも見る」
サディクが巨大な腕を見つめる。
「村の者には、何と説明すればいい」
澪は少し考えた。
「怪物を封じたとは言わないでください」
「では、何と」
「大地が崩れないように、支えを入れたと」
サディクは苦い顔をした。
「それで納得する者がいるか」
「納得しない人もいると思います。でも、怪物を倒せば水が戻ると誤解させるよりいい」
澪は渇きの巨人を見る。
「この巨人は、水を飲んでいたんじゃない。水を奪われて、崩れた土地が形になったものです」
調律核に新たな表示が浮かぶ。
《暫定識別名を再評価》
《旧識別:渇きの巨人》
《新規候補:乾土地脈体》
《分類確定:保留》
名前すら、まだ確定していない。
敵か。
守り手か。
ただの現象か。
おそらく、そのすべてが少しずつ混ざっている。
「戻ろう」
澪は言った。
「難民の人たちへ状況を伝える。それからオルドアへ向かう」
「今から?」
ライカが聞く。
澪は空を見る。
日差しはまだ強い。
砂漠を移動するには危険な時間帯だ。
「夕方まで調律門で休む。夜間に移動する」
セラフィナなら、そう判断するだろう。
砂漠では、昼の熱を避ける必要がある。
水を守るためにも。
「珍しく安全な判断」
ミルカが言う。
「私だって毎回無茶するわけじゃないよ」
「さっき巨人の前に立ってたけど」
「距離は取ってた」
「本人基準では、だね」
澪は言い返そうとして、やめた。
たぶん、ミルカの方が正しい。
***
夕暮れ。
調律門の周囲には、簡易避難所ができていた。
セラフィナが水の配分表を作り、アオイが弱った人々へ順番に水を運び、ルシェリアが熱気を逃がす穏やかな風を作っている。
フィリアとネレイアが集めた水分で、布がわずかに湿らされ、熱を持った子どもたちの額へ当てられていた。
大量の水は作れない。
だが、少しでも身体を冷やせれば、水分の消耗を抑えられる。
澪たちが戻ると、人々が一斉に立ち上がった。
「井戸は?」
「水はあったのか?」
「あの音は何だった?」
「村へ戻れるのか?」
質問が重なる。
サディクが人々の前へ出た。
「井戸に水は戻っていない」
落胆の声が広がる。
「だが、井戸が枯れただけではなかった。村の下の地盤が崩れている。水は東、オルドアの方向へ流れている」
誰かが怒鳴った。
「やはり都市が奪ったんだ!」
「まだ決めつけないでください」
澪が言う。
人々の視線が集まる。
「都市の深井戸が影響している可能性は高いです。でも、それだけではありません。昔使っていた雨水の集水槽と段々畑が壊れ、地下水へ戻る水も減っています。灌漑で塩が地表へ残り、土が水を抱えられなくなっています」
「都市をかばうのか!」
別の男が叫ぶ。
「かばっていません」
澪は答えた。
「原因を一つにすると、そこだけ止めれば救えると思ってしまう。でも、都市の井戸を止めても、村の土と集水路が壊れたままなら、次の雨は流れて終わります」
人々は黙った。
怒りが消えたわけではない。
だが、サディクが続けた。
「村の畑に、昔の集水槽が残っていた。俺も忘れていた。水路が来てから、誰も手入れしなくなった」
年老いた女性が呟く。
「昔は、雨の前に皆で溝を掘り直した」
別の老人も頷く。
「土手が切れたら、村総出で積み直した」
「なぜやめたんだ」
若い男が聞く。
老人は苦く笑う。
「都市の水の方が、早くて楽だった」
それを責める者はいなかった。
楽な方法を選ぶことは悪ではない。
水が安定して届くなら、誰だって使う。
問題は、それしか残さなかったことだった。
「ハディル村には、巨大な土の腕が出ています」
澪は言った。
人々がざわめく。
「やはり怪物か!」
「村はもう駄目だ!」
「今は止まっています」
澪は声を張った。
「腕を壊してはいません。地盤の一部として支えています」
「なぜ倒さない!」
「倒すと、村の下が崩れる可能性があるからです」
人々の声が止まる。
澪は続けた。
「渇きの巨人は、水を飲んでいませんでした。水を失った土地が、崩れながら水を追っている。少なくとも、今はそう見えます」
一度では、伝わらないかもしれない。
それでも言葉にする。
怪物が原因ではなく、結果かもしれない。
倒すだけでは戻らない。
それを最初から共有しておく必要がある。
「私たちはオルドアへ行きます」
澪は言った。
「地下水の揚水量、水路の漏れ、都市の使用先、配給制度を確認します。そして、村へ戻す水と、雨水を地面へ戻す方法を探します」
「都市が聞くものか」
誰かが言う。
「聞かないかもしれません」
澪は正直に答えた。
「門も開かないかもしれない。でも、行かないと始まりません」
セラフィナが澪の横へ立つ。
「避難民の皆さんは、今夜ここに残ってください。配給所まで移動するより、体力と水を温存できます。明朝までの水量は計算しました」
「足りるのか」
「十分ではありません。しかし、移動を止め、遮光と冷却を行えば、消費を抑えられます」
アオイが言う。
「私とルシェリアが、しばらくここに残ります」
澪は驚いてアオイを見る。
「アオイ?」
「全員で都市へ行く必要はありません。ここには守る人が必要です」
ルシェリアも穏やかに頷く。
「人々の不安も、まだ強いままです。水の配分を巡って争いが起きないよう、私はここにいた方がよいでしょう」
セラフィナは少し考える。
「都市へ入るには、交渉と秩序確認が必要です。私は同行します」
ミルカが言う。
「地下水と水路を見るなら、私も行く」
フィリアはネレイアを見つめた。
「私も、水の行き先を追います」
ライカが手を挙げる。
「道案内は?」
前線へ出られるのは三人。
都市へ向かうなら、誰を連れていくか。
ミルカは必要だ。
フィリアも必要。
セラフィナは都市の門と配分秩序を確認するうえで有効。
ライカの索敵も捨てがたい。
澪は少し考えた。
「都市への前線は、ミルカ、フィリア、セラフィナ」
ライカの耳が少し下がる。
「私は?」
「アオイとルシェリアの支援。避難所とハディル村の間を走って、巨人と仮設骨組みの状態を確認して」
ライカの耳が戻った。
「走る役!」
「うん。水の匂いに変化があったら、すぐ知らせて」
「任せて!」
アオイが澪を見る。
「気をつけてください」
「うん」
「都市の人を、最初から敵だと思わないでください」
澪は少し驚いた。
アオイは続ける。
「海洋異変の時、工業都市にも事情がありました。今回も、オルドアの人たちは水を奪いたくて奪っているとは限りません」
「わかってる」
澪は頷いた。
「だから確かめに行く」
***
日が沈んだあと、澪、フィリア、ミルカ、セラフィナはオルドアへ向かった。
砂漠の夜は、昼とはまるで違っていた。
熱が急速に消え、冷たい風が吹く。
頭上には、無数の星。
遮る雲も、都市の明かりもない場所では、空が落ちてきそうなほど近い。
だが、美しさに見とれている余裕はなかった。
砂に半分埋もれた道を進む。
フィリアのネレイアが地下水の気配を追い、ミルカが地盤の危険を確認し、セラフィナの光剣が足元を照らす。
澪は、その三人について歩く。
第1部の海洋異変から休む時間はあった。
それでも、体力は相変わらず低い。
「砂、歩きにくい……」
澪が息を切らす。
セラフィナが振り向く。
「歩幅を小さくしてください。踵から強く踏み込むと、余計に沈みます」
「砂漠歩行まで知ってるの?」
「秩序だった移動は基本です」
「何でも秩序で説明するね」
「便利な概念です」
ミルカが笑う。
「転ばないうちに言うこと聞いた方がいいよ」
「もう二回くらい転びそうになってる」
フィリアが心配そうに澪の腕を取る。
「少し休みますか」
「まだ大丈夫」
「大丈夫は禁止では?」
「……少し疲れてるけど進める」
「それなら正しいです」
アオイの教えが、フィリアにも広がっていた。
しばらく歩くと、地平線の向こうに光が見えた。
最初は星かと思った。
だが、光は低い位置に並んでいる。
一つ。
二つ。
何十。
都市の灯り。
さらに近づくと、高い城壁が見えた。
砂漠の中に立つ、巨大な石の都市。
都市国家オルドア。
壁の上には見張り塔。
その背後には、何本もの細い塔が立っている。
塔の先端から、白い蒸気のようなものが空へ上がっていた。
「水蒸気?」
澪が呟く。
ミルカが目を細める。
「たぶん冷却塔。地下から汲み上げた水を、都市の熱を逃がすためにも使ってる」
都市の外壁には、水路が沿っていた。
澄んだ水ではない。
だが確かに水が流れている。
砂漠の夜気に触れ、少しずつ蒸発しながら都市を冷やしている。
ハディル村の井戸は枯れた。
難民たちは一口の水を分け合っていた。
その一方で、都市の壁には水が流れている。
セラフィナが静かに言う。
「これだけを見れば、奪っているように見えます」
「でも、都市の中に何人いるかわからない」
澪は答えた。
「この水が飲料水なのか、再生水なのかもわからない。冷却が止まれば、都市で人が死ぬ可能性もある」
すぐに断罪しない。
だが、見逃しもしない。
そのために来た。
城門へ近づく。
門の前には、大勢の人が座り込んでいた。
別の村から来た難民たちだ。
門は閉じている。
上から兵士が叫ぶ。
「本日の受け入れ枠は終了した! 北の配給所へ向かえ!」
「子どもがいるんだ!」
「水だけでもくれ!」
「昨日も同じことを言っただろう!」
「都市内の貯水量が危険域だ! これ以上は入れられない!」
難民たちの声と、兵士の声がぶつかる。
澪たちが近づくと、門の上の兵士が警戒した。
「止まれ!」
セラフィナが一歩前へ出る。
「主調律者、神代澪の一行です。都市の水管理責任者との面会を求めます」
門の上がざわつく。
「調律者?」
「証明を見せろ!」
澪は胸元の調律核を掲げる。
青白い光が、砂漠の夜へ浮かぶ。
城壁の古代文字が、その光に反応した。
しかし、門は開かない。
代わりに、壁の上から一人の男が現れた。
白い外套。
銀色の仮面。
都市の水紋章。
男は澪たちを見下ろした。
「主調律者殿」
声はよく通った。
「海洋ヘックスで異変を鎮めたという報告は届いている」
「なら、門を開けてください」
「できない」
即答だった。
「なぜですか」
「都市内の水配給率は、すでに最低維持線を下回っている。外部の者を入れれば、市民への配給が崩れる」
門の外の難民たちが怒鳴る。
「壁には水が流れているだろう!」
「あれは冷却用の循環水だ!」
男が答える。
「止めれば、都市下層の気温が上がり、病人と子どもから倒れる!」
澪は壁の水路を見る。
やはり、見た目ほど単純ではない。
無駄に流している水ではない。
少なくとも、男はそう主張している。
「ハディル村の地下水が、こちらへ引かれています」
澪は言った。
男の反応が一瞬止まった。
「何の話だ」
「村の井戸が枯れ、地盤が空洞化しています。地下水脈はオルドアの方向へ流れている」
「砂漠の地下水は、都市の所有物ではない」
「なら、揚水量を見せてください」
門の上に沈黙が落ちた。
澪は続ける。
「何本の深井戸を使っているのか。どれだけ汲み上げているのか。飲料、農業、工業、冷却へ、どれだけ配分しているのか。漏水率は。再利用率は。地下水位は」
男の声が少し冷たくなる。
「都市の機密だ」
「周辺の村が枯れても?」
「都市には十二万人がいる」
難民たちが静まった。
十二万人。
澪も息を呑む。
予想より多い。
「この都市が水を止めれば、十二万人が乾く」
男は言った。
「周辺村落を救うために、都市を殺せと言うのか」
「言っていません」
澪は答えた。
「でも、都市を生かすために周辺を乾かし続ければ、難民が増えます。難民が増えれば、都市の外にさらに水を求める人が集まる。最後には、都市も維持できなくなる」
男は黙った。
「今は、村と都市のどちらを救うかを選ぶ段階じゃない」
澪は言う。
「水の使い方そのものを変えないと、両方終わります」
城壁の上で、白い外套が夜風に揺れる。
やがて男は言った。
「証拠を示せ」
「証拠?」
「オルドアの揚水が、ハディル村の枯渇を引き起こしているという証拠だ。感情や推測では、十二万人の配給を変えることはできない」
それは、もっともな要求だった。
澪はミルカを見る。
ミルカは小さく頷いた。
「水脈を追えば示せる。でも、都市側の井戸構造を見ないと確定は無理」
フィリアがネレイアを抱く。
「水の流れは、確かにこの都市へ来ています」
男はフィリアを見る。
「精霊の声を、行政判断の根拠にはできない」
セラフィナが口を開く。
「ならば、調査を許可してください。都市側の記録と、現地の構造と、精霊の観測を照合します」
「都市内へは入れられない」
「それでは証明できません」
「それを証明するのが、調律者の役目ではないのか」
理不尽に近い。
だが、都市にも余裕がない。
門を開けば難民が押し寄せる恐れもある。
主調律者だからといって、特例で入れれば不満が出る。
セラフィナが低い声で言う。
「閉じた秩序ですね」
男の仮面が、わずかに動く。
「秩序がなければ、配給所は一日で奪い合いになる」
「秩序を否定してはいません。外部から検証できない秩序は、誤りを修正できないと言っています」
二人の視線がぶつかる。
秩序と秩序。
どちらも、人を守ろうとしている。
だが、守る範囲が違う。
その時だった。
城壁の奥から、低い警報音が響いた。
一度。
二度。
三度。
門の上の兵士たちが慌ただしく動き始める。
白い外套の男が振り返る。
「何事だ!」
別の兵士が走ってくる。
「第七深井戸で圧力異常! 揚水量が急上昇しています!」
「弁を閉じろ!」
「閉じません! 制御盤が反応しません!」
ミルカの顔色が変わる。
「揚水量が勝手に上がってる?」
澪の調律核が強く光った。
《オルドア都市圏:地下水異常吸引》
《第七深井戸:制御不能》
《地下水流速:急上昇》
《ハディル村地盤支持:負荷増大》
《Another Route Seed:成長率 7%》
フィリアが東側の地面へ手を向けた。
「黒いものが、水と一緒に都市の下へ入っています!」
男が澪を見る。
「何をした」
「私たちじゃない!」
澪は叫んだ。
《Another Route Seed》が地下水流に乗り、都市の深井戸へ近づいている。
あるいは、都市の異常揚水が黒い種を引き寄せている。
どちらが先かは、まだわからない。
ただ一つ確かなことがある。
このまま第七深井戸が水を吸い続ければ、ハディル村の仮設地盤支持は持たない。
渇きの巨人が再び動く。
それだけではない。
都市の地下にも空洞が生まれる可能性がある。
「門を開けて!」
澪は叫んだ。
「今止めないと、村だけじゃなく都市の下も崩れます!」
白い外套の男は、一瞬迷った。
門の外には難民がいる。
門を開ければ、混乱が起きる。
だが、閉じたままでは調律者を中へ入れられない。
セラフィナが言う。
「小門を開けてください。私たち四人だけを入れる。難民の列は、都市兵と私の光剣防壁で保ちます」
「外部の者に都市防衛を任せろと?」
「都市が崩れれば、門の秩序も意味を失います」
男は奥歯を噛んだ。
警報音が続く。
地下から、低い振動が伝わってくる。
都市の壁を流れる水が、突然勢いを増した。
水路から水があふれ、砂の上へ落ちる。
難民たちが反射的に駆け寄ろうとする。
兵士が槍を構える。
「下がれ!」
「水だ!」
「子どもに飲ませてくれ!」
「これは冷却循環水だ! 飲用ではない!」
場が一気に崩れかける。
セラフィナが光剣を召喚した。
攻撃ではない。
難民と兵士の間に、白銀の境界を作る。
「止まってください!」
その声が、門前へ響いた。
「水路へ押し寄せれば、転倒者が出ます! 配水が必要なら、容器を並べて順番に!」
秩序。
人を閉め出す秩序ではなく、混乱の中で命を守るための秩序。
難民たちの動きが、わずかに止まる。
白い外套の男は、その光景を見た。
そして決断した。
「小門を開けろ」
兵士が驚く。
「水務卿!」
「主調律者一行のみ通す。外の列は維持。あふれた循環水は、飲用適否を検査後、配水へ回せ」
「しかし」
「今決めた!」
重い音を立てて、城門の横にある小さな扉が開き始める。
白い外套の男は、澪たちを見下ろした。
「私はオルドア水務卿、ナジーム」
「神代澪です」
「知っている」
今日二度目だった。
澪は少しだけ気まずくなる。
ナジームは続けた。
「第七深井戸を止めろ。証拠は、そのあと見せてもらう」
澪は開き始めた門を見る。
その向こうには、砂漠とは思えない巨大都市が広がっている。
水路。
冷却塔。
密集した建物。
配給所へ並ぶ人々。
地下へ続く太い揚水管。
そして都市の中心で、赤黒い光が脈打っていた。
調律核に新しい表示が浮かぶ。
《都市国家オルドア:緊急侵入》
《第一目標:第七深井戸停止》
《第二目標:地下水配分構造解析》
《第三目標:都市・農村水循環再接続》
《警告:渇きの巨人と第七深井戸が同一水脈上で共鳴》
澪は息を呑んだ。
渇きの巨人と、都市の深井戸。
村の怪物と、都市の装置。
別々の問題ではない。
同じ水脈につながっている。
「急ごう」
澪は言った。
ミルカが工具を握る。
フィリアがネレイアを抱く。
セラフィナが光剣を整える。
四人は、小門の向こうへ走り出した。
その足元で、砂漠の地下水が、異常な速さで都市へ吸い込まれていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
第14話では、《渇きの巨人》が水を奪っていたのではなく、水を失って崩れた大地が、虚無をまとって形になった可能性が示されました。
渇きの巨人の身体を構成していたのは、乾燥土壌、塩類集積層、枯死した根、崩れた地盤です。
つまり、怪物は原因であると同時に、壊れた土地の結果でもあります。
澪たちは巨人を討伐せず、ミルカの仮設地盤支持、フィリアとネレイアの感応、ライカの流動支援によって、その動きを一時的に止めました。
また、ハディル村には、かつて雨水を受け止め、地面へゆっくり戻す段々畑、浸透溝、集水槽が存在していたこともわかりました。
しかし、都市から灌漑水が届くようになったことで、それらは使われなくなりました。
便利な水路によって農業は一時的に発展しました。
けれど、一つの水源へ依存し、土地本来の保水と地下水涵養の仕組みを失った結果、水路が止まった時に村は急速に乾いていきました。
今回、澪たちは都市国家オルドアへ到着しました。
オルドアには十二万人が暮らしています。
都市の壁を流れる水も、単なる装飾や浪費ではなく、都市を冷却し、人命を守るための循環水でした。
つまり、都市の水をただ止めればよいわけではありません。
しかし、オルドアの第七深井戸は制御不能となり、地下水を異常な速度で吸い上げ始めました。
その地下水脈は、ハディル村と《渇きの巨人》にもつながっています。
次回は、オルドアの地下水施設へ入り、都市がどのように水を使い、どこで流れを失っているのかを調べる回になります。
都市を止めれば村が救われるのか。
村を見捨てなければ都市が生きられないのか。
その二択ではない道を、澪たちは探し始めます。
原案・構想:マスター
物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)




