第42話――六魔将への洗礼――
炎魔将グレンとホークスの決闘が決まると、謁見の間に再び静寂が戻った。
その沈黙を破ったのは土魔将ボンブだった。
「決闘の場は城内の訓練所を使おう」
低く落ち着いた声でそう告げる。
「女王陛下の御前で行うには少々騒がしくなろう」
そしてホークスへ視線を向けた。
「ホークス殿、先に訓練所へ向かっていただきたい」
ホークスは軽く頭を下げた。
「承知しました」
それから玉座へ向き直る。
「女王陛下」
「では、後ほど」
一礼する。
エレノアは小さく頷いた。
「ええ」
その言葉を受け、ホークスは謁見の間を後にする。
二人が扉を抜け、謁見の間から姿を消す。
そして扉が閉まった。
その瞬間。
エレノアの表情が厳しくなった。
視線は炎魔将グレンへ向けられる。
「グレン」
低く、しかしはっきりした声だった。
「先程の振る舞いは六魔将として相応しいものとは言えません」
謁見の間の空気が少し張り詰める。
グレンは頭を掻きながら顔をしかめた。
「……すみませんっす、ちょっと頭に血が上って」
ぎこちない敬語だった。
「決闘の支度もあるんで……」
「失礼します」
そう言って軽く頭を下げると、足早に謁見の間を出ていった。
扉が閉まる。
ボンブは大きく息を吐いた。
「……やれやれ」
そしてエレノアへ向き直る。
「女王陛下」
深く頭を下げた。
「どうか、グレンの至らぬ立ち居振る舞い、今は多めに見てやっていただきたい」
エレノアが目を瞬く。
ボンブは続ける。
「先代の炎魔将の事もございます。そしてあの若造は、まだ未熟、ですが――」
声に力がこもる。
「このボンブが必ず、一人前の炎魔将に育ててみせます」
深く頭を下げたままだった。
エレノアは小さく息をつく。
そして静かに言った。
「……ボンブ、顔を上げてください」
ボンブが顔を上げる。
エレノアは少し申し訳なさそうに微笑んだ。
「すべて分かっています」
「あなたがどれほどグレンの事を気にかけているかも」
「……先代炎魔将の事も。ですから、頭を下げる必要はありません」
ボンブは一瞬黙り、
そして深く頷いた。
「……ありがたきお言葉」
小さく礼を言った。
その頃。
ホークスはレギンに案内され、城の廊下を歩いていた。
しばらく無言が続いた後、
レギンが口を開いた。
「先程は……」
少し申し訳なさそうな声だった。
「グレン様の振る舞い、お見苦しい所をお見せしました」
ホークスは特に気にした様子もなく歩く。
レギンは続けた。
「グレン様は……まだ、先代炎魔将達の死を受け入れられていないのです」
「先代の炎魔将?」
「つまり、グレン様の父君様と兄君様ですが」
ホークスは少し視線を向ける。
レギンは言った。
「アルクとの戦いで亡くなりました」
廊下に足音だけが響く。
「仇を討ちたいと思っていた矢先に、ギルドメンバーであるあなたがアルクを討伐した」
「……それで、少し複雑な感情を抱いているのでしょう」
レギンは小さく頭を下げた。
「どうか、お許しいただければ」
ホークスは肩をすくめた。
「俺は気にしてない」
それから言う。
「ただな、立場が上の奴があの調子じゃ、下の奴に示しがつかないんじゃないか?」
レギンは少し困ったように笑った。
「……おっしゃる通りです。兵士の中にはグレン様に不信感を抱く者も少なからずおります」
「ですが」
そして説明する。
「先代炎魔将――」
「グレン様の兄君様であられる、バレッド様が亡くなる前。他の六魔将に頼み込んだそうです」
レギンは少しだけ目を伏せた。
「もし自分が死んだら。まだ未熟なグレンの事をどうかよろしく頼む、と」
「バレッド様は六魔将の中でも信頼厚き御仁でした」
「だから皆、グレンの未熟さを……」
少し言葉を選ぶ。
「多少、多めに見ているのです」
ホークスはそれを聞いて言った。
「それにしてもだ。今のままじゃ、そのグレンって奴の為にもならないだろ」
レギンは言葉に詰まった。
「……それは」
「皆、分かっているのですが」
それ以上は言えなかった。
ホークスは小さく息を吐く。
「皆、大変なんだな」
そして二人は歩き続ける。
やがて。
「こちらです」
レギンが足を止めた。
そこは城の訓練所だった。
広い石造りの施設。
戦闘訓練のための場所だ。
レギンは扉を開ける。
「決闘まで、こちらでお待ちください」
ホークスは中へ入る。
控え室に案内された。
「では、準備が整い次第お呼びします」
レギンが一礼する。
扉が閉まった。
静かな控え室。
ホークスは椅子に腰を下ろした。
そして呟く。
「さて、どんな戦いになるか」
未熟とはいえ炎魔将であるグレンとの決闘、炎と闇の戦いで、飲み込まれるのはどちらか。
第42話―終




