第36話――死の影――
戦闘の後。
三人はギルドの応接室へと戻っていた。
重厚な木の扉が閉まり、外の喧騒が遠ざかる。
テーブルを挟んで座るのは
ホークス
ヴォルド
そしてボイド。
ヴォルドが口を開いた。
「では、改めて話をしましょう」
静かな声だった。
「現在、オルクス獣王国との戦争は終結という流れになっています」
ホークスが腕を組む。
「“流れ”ってことは、まだ確定じゃないんだな?」
ヴォルドは頷いた。
「ええ」
「終結の交渉が締結するまでは停戦状態と言った方が正確でしょう」
そして少し表情を曇らせる。
「問題は、その戦争で我が国の兵力が三割ほど失われたことです」
ボイドが眉をひそめた。
「三割か……」
かなりの損害だ。
ヴォルドは続ける。
「現在、魔界との境界線を守る兵力も厳しい状況です」
「さらに、オルクス獣王国との戦争が再び始まる可能性もある」
「つまり」
ヴォルドの視線がホークスへ向いた。
「戦力が足りないのです」
ホークスは静かに聞いていた。
「そこで」
ヴォルドは背筋を伸ばす。
「戦力の増強として新たな闇魔将を起用したいと考えています」
部屋が少し静かになる。
「さらに、ギルドのXランクを起用できればギルドとのパイプも確保できる」
ヴォルドはゆっくりと説明を続けた。
「そうなれば、魔界との境界線の防衛をギルドへ今より多く依頼しやすくなります」
「それが今回、あなたに声をかけた理由です」
話を聞いていたボイドが椅子にもたれた。
「なるほどな」
腕を組む。
ヴォルドは続けて。
「それに……これは私事ですが、武人として父の仇を討った男に興味を持たずにはいられませんでした」
「想像以上の腕前に感服しました」
爽やかな笑顔の中には武人としての顔が見え隠れする。
「それは何よりだ」
ホークスは軽く笑い話を戻す。
「確かに境界線付近を警備できるギルドメンバーは限られてる」
ボイドは指を折りながら言った。
「基本はAランク以上」
「しかも魔界にあるギルドとの同盟国にも人を回してる」
「正直余裕はねぇ」
そして少し考えたあと、口を開く。
「だが……レイナス王国との交渉次第では」
「Bランク上位の連中にパーティーを組ませて警備に回すことはできる」
ヴォルドが少し驚いた顔をした。
ホークスも頷く。
「それなら問題ないな。魔界の境界線で戦えるメンバーは確かに多くない。でも、Bランク上位を警備に回すくらいなら支障は少ないだろう」
ホークスは続ける。
「国内の魔物討伐ならCランク以上でも活躍できる奴は多い」
ボイドがニヤリと笑った。
「最悪、境界線に関しては他のXランクにも声をかける」
ヴォルドが目を少し見開く。
「……他にも」
「ホークス殿と同等のXランクがいるのですか?」
少し驚いた様子だった。
ホークスは肩をすくめる。
「分野によっては俺より強い奴なんてSランクからでも普通にいるぞ」
ヴォルドは黙って聞いている。
ホークスは続けた。
「それにXランクに関して言えば」
「一騎打ちでも確実に勝てるって言える奴は正直いないな」
その時だった
。
「それは確かに言えてるね」
突然、声がした。
ヴォルドの背後。
すぐ後ろ。
ヴォルドは一瞬で振り向いた。
だが——
誰もいない。
「……?」
ヴォルドが前を向き直る。
その瞬間。
ホークスの横に
小柄な少年が立っていた。
いつの間にか。
そこにいた。
身長は低い。
顔立ちはどこか可愛らしい。
だが口元には悪戯っぽい笑み。
少年はニヤニヤしていた。
「ホークス。久しぶりだね」
ホークスが呆れた顔をする。
「……相変わらずだな」
ヴォルドが目を細めた。
(いつからいた……?)
全く気配を感じなかった。
ホークスが軽く手を振る。
「紹介しとく。こいつはシルフ」
少年が軽く手を振る。
「どうも〜」
「Xランクでアサシンやってま〜す」
ヴォルドは驚きを隠せなかった。
ホークスが続ける。
「忍び込む技や暗殺術は」
親指でシルフを指す。
「コイツから教わった」
ヴォルドの目がわずかに見開く。
ホークスほどの実力者が。
教わった?
シルフはニヤニヤしながらホークスを見る。
「いや〜」
「弟子が有名人になると嬉しいねぇ」
ホークスが眉をひそめる。
「誰が弟子だ。そこまで言ってねぇよ」
シルフはケラケラ笑った。
ヴォルドはその様子を見ていた。
そして——
小さく微笑む。
(なるほど)
心の中で呟く。
(ギルド)
(想像以上の戦力だ)
ヴォルドは改めて確信した。
この組織は信用できる。
第36話―終




