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第38話――手紙と嫉妬と勘違い――


ヴォルドとの手合わせから三日後。

ギルド本部に一通の手紙が届く。

ボイドはその手紙を手にしていた。

赤い封蝋。

王家の紋章。

「……来たか」

小さく呟く。


ギルドの受付付近に立っているボイドに軽い足音が近づいた。

「おじいちゃん?どうしたの?」

孫娘のウィンだった。

ボイドはすぐに顔を緩める。

「おぉウィン、呼び出してすまないねぇ」

「ちょっと頼みがあるんだがな」

ボイドは手紙を差し出す。

「これをホークスに届けてくれんか?」

ウィンはすぐに頷いた。

「うん、いいよ!」

ボイドは満面の笑みになる。

「ありがとうなぁ」

「本当にいい子だ」

目に入れても痛くないほど可愛い孫娘である。

ウィンは手紙を受け取りながら聞いた。

「これ、誰からの手紙なの?」

ボイドは一瞬考える。

(女王陛下からとは言えんな)

そしてニヤリとした。

「大切な女性からの手紙だそうだ」

ウィンはぴくっと反応した。

「……へぇ」

ボイドは心の中で笑う。

(ちょっとくらい意地悪してもええじゃろ)

ウィンは少しむっとしながらも宿へ向かった。


ホークスの泊まる宿。

ホークスは部屋で武器の手入れをしていた。

短剣を磨き、刀を拭き。

その後は軽く柔軟をする。

戦いに備える静かな時間。


「……」コンコン。

扉を叩く音。

「ん?」

ホークスは手入れの手を止め、そのまま扉へ向かう。

上半身裸のまま。

ガチャ。

扉を開ける。

そこに立っていたのは——

頬を少し膨らませたウィンだった。

「……手紙」

ぶっきらぼうに差し出す。

「おう、ありがと——」

受け取ろうとした、その瞬間。

ウィンの視線が止まる。

「…………」

じーっ。

「……なんで服着てないの?」

低い声。

ホークスは眉をひそめる。

「今部屋だぞ?」

「だからって!!」

一気に顔を赤くして怒る。

「普通開ける前に着るでしょ!?なんでそのまま出てくるの!?」

「いやノックされたから普通に——」

「普通じゃない!!」

ドンッと胸を押す。

「とりあえず中入って!!」

半ば押し込まれるように部屋へ戻るホークス。

「……なんなんだよ朝から」

ぶつぶつ言いながら服を取る。

ウィンは腕を組んでぷいっと横を向いている。

「……」

ちらっ。

「……」

もう一回ちらっ。

「……早く着て」

ぼそっと。

「今着てるだろ?」

「遅い!」

「無茶言うな」


ようやく服を着終える。

ホークスが振り返ると、ウィンはまだむすっとしていた。

「……で?」

「手紙届けに来ただけか?」

ウィンはわざとらしく視線を逸らす。

「別に?頼まれたから持ってきただけだし」

「そうか、ありがとうな」

ホークスが手紙を受け取る。

そのまま封を切ろうとした——が。


視線。

じーっ。

明らかに見ている。

「……なんだ?」

ウィンは少し間を置いてから言う。

「……それ」

「女の人からなんでしょ?」

少しだけ、棘のある声。

ホークスは一瞬止まる。

「……誰に聞いた?」

「おじいちゃん」

即答。

(あのジジイ……)

心の中で悪態をつく。

「多分違うぞ?仕事の手紙だと思うぞ」

ウィンは納得しない。

「“大切な女性”って言ってた」

じーっ。

「……へぇ」

腕を組む。

「心当たりないの?」

ホークスはため息。

「ない」

「ほんとに?」

「ほんとだ」

「絶対?」

「絶対だ」

「怪しい」

「なんでだよ?」

ウィンは一歩近づく。

「じゃあ見せて」

「なんでだ?」

「気になるから!」

「だから仕事の——」

「いいから見せて!」


手紙を奪おうとする。

ホークスは片手でウィンの頭を押さえる。

「落ち着け」

「落ち着いてる!」

「全然落ち着いてねぇだろ」

じたばた。

「仕事の手紙だなんて、どうせ嘘なんでしょ!?」

「嘘はついてない!、ボイドが嘘をついたんだろ!?」

「おじいちゃんは嘘つかないもん!」

ウィンはじたばたしながら言う。

(なんだと!?)

ホークスはウィンの信頼度が自分よりボイドの方が高い事に少しショックを受ける。

「離してよ!」

「離したら奪うだろ!?」

「奪う!」

「正直だな!?」

ウィンはむっとする。

「だって!」

少し声が強くなる。

「……魔界とか行ってさ」

「全然帰ってこないし」

「連絡もないし」

少しだけ、声が揺れる。

「なのに」

「久しぶりに帰ってきたのに」

「“女の人から手紙”とか言われたら」

言葉が詰まる。

ホークスは少しだけ目を細める。

「……」

ウィンは視線を逸らす。

「……気になるでしょ」

小さい声。

少しだけ、拗ねたように。


ホークスは少し間を置いてから言う。

「……魔界にいても…ウィンのことを忘れた事は一度もないぞ」

ウィンがぴたりと止まる。

「……」

顔がじわっと赤くなる。

「……なにそれ」

照れ隠しで少し強く言う。

だがすぐに思い出す。

「でも」

じーっと睨む。

「カトレアとは会ってたんだよね?」

ホークスが詰まる。

「……それは」

「何回会ったの?」

「いや」

「どれくらい話したの?」

「だから」

「楽しかった?」

詰める。

完全に詰める。

ホークスは苦し紛れに言う。

「ウィンの…様子を…聞く為に会ってたんだ」

「ほんとに?」

「ほんとだ」

「……ふーん」

疑いの目。

その時。

「へー」

「そーだったんだー?」

声。

ホークスの背筋に嫌な予感が走る。

ゆっくり振り返る。

玄関。

そこに立っていたのは——

カトレア。

腕を組み、軽く頬を膨らませている。

「ずいぶん都合のいい言い訳ね?」

ホークス、無言。

ウィンは一瞬で表情が変わる。

「カトレアぁ!!」

ぱあっと笑顔になり、駆け寄る。

「久しぶりー!」

抱きつく。

カトレアは優しく抱きしめ返す。

「ええ、元気そうで何より」

頭を撫でる。

そのままホークスを見る。

にこっ。

笑っている。

が、目は笑っていない。

ホークスは視線を逸らした。

「……」

カトレアはふっと笑う。

「こんな薄情な男、放っておいて。2人でカフェでも行きましょ?」

ウィンの手を取る。

「行く!」

即答。

ウィンの手を引いて歩き出す。

「……カトレア」

ホークスはカトレアに尋ねる。

「……用事があったんじゃないのか?」

「ウィン、悪いけど先に宿の前に出ててもらえる?この薄情な男にお話があるから」

「わかった♪早く来てね♪」


カトレアはウィンを先に外へ出す。

そして振り返る。

「どっかの馬鹿が、いつまで経っても報告しに来ないから」

腕を組む。

「死んだのかと思って宿まで来たのよ」

そして少し意地悪な笑み。

「そしたら馬鹿な会話が聞こえてきて」

「今からヤケ食いしに行くところ」

ホークスは苦笑した。

「……すまん」

カトレアはふっと笑う。

「冗談よ」

肩をすくめる。

「あなたが負けるはずないって思ってたし」

「別に気にしてないわ」

少し優しい声だった。

「様子見に来ただけ」

そしてニヤリとする。

「だけど。今度ご馳走してもらおうかしら」

ホークスは笑う。

「また今度な」

カトレアは満足そうに頷く。

「お待たせ♪行きましょウィン♪」

二人は歩いていった。

ホークスは窓からそれを見送る。


「……」

そして手紙を開いた。

内容は簡潔だった。

闇魔将の加入に関しての話を聞きたい。

手紙を持って城へ来てほしい。

ホークスは小さく息を吐く。

「今日行くか」

その日のうちに城へ向かうことを決めた。

着替えを始める。

装備を整え。

荷物を軽くまとめる。

宿を出る。

ホークスは王城へと向かった。


第38話―終


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