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第16話――揺らぐ均衡――


砂煙の中、ホークスは静かに息を吐いた。

「……来るぞ」

低く呟くと同時に、魔力が脈打つ。

三体の分身が生まれる。

そのうち一体には、明らかに濃い魔力を込めた。輪郭がより鮮明で、動きも滑らかだ。

残る二体は、あえて“それらしく”見せるための偽装用。体外へ放出する魔力を強め、本体と遜色ない存在感を纏わせる。


アルクの視線が細められる。

「ほう……さっきとはまた雰囲気が違うな」

期待を隠さない声音だった。

ホークスは即座に武器を持たせて指示を与える。

偽装の一体には遺物の大斧を。

もう一体には、かつて気に入り高値で買った業物の槍を持たせる。

そして本命――魔法を担う分身には、ロングソードを拾いに行く動きを設定。

さらに大量の投げナイフを分身たちに持たせ、アルクを中心に再びマジックシールドを張り直す。

透明な足場が幾重にも空間に展開される。


アルクは口角を吊り上げた。

「今度はどう楽しませてくれる?」

次の瞬間、地を蹴る。

爆発的な踏み込み。

ホークスは即座に動く。

偽装分身二体をマジックシールドの足場へ跳躍させ、上空から投げナイフを乱射。さらに攻撃魔法も放たせる。

魔法担当の分身は体勢を低くし、ロングソードの方向へ疾走。


そしてホークス本体は――

「フレイムウィング」

炎が翼のように広がり、アルクへ襲いかかる。

だが。

アルクは炎を正面から受けながら笑った。

「はははっ! ようやく魔法か!」

炎を突っ切り、投げナイフを身体を捻って避けながら一直線に迫る。


ホークスの瞳が僅かに揺れる。

(……効いていない?)

黒い大剣を振り上げ、迎え撃つ。

鋼と鋼がぶつかる。

火花が散る。


アルクは槍で大剣を受け止めながら、視線を動かしていた。

周囲の分身、足場、魔力の流れ。

――観察している。

本能的な戦士ではない。

戦闘の最中に相手を“読む”男だ。

その背後に、槍を持った分身が地上へ降り立つ。

アルクめがけて突撃。

同時に、アルクの左頭上から大斧を振り下ろす分身。

さらに魔法担当は、ロングソードを拾わずに魔力の流れを構築しながら接近。

ホークスは分身の動きに合わせ、大剣で闘技の斬撃を二連続で放つ。

斬撃の衝撃が空気を裂く。


アルクは後方からの槍の突きを躱し、頭上の大斧を身を捻って回避。

そのまま躱しざまに大斧の分身を槍で突き、霧散させる。

同時に黒い大剣の闘技斬撃を受け止める。

鋭く重い衝撃が走る。

アルクは後ろにいる槍を持った分身を薙ぎ払おうとする。

だが――


もう一撃の闘技斬撃でアルクの動きを止める。

その瞬間。

魔法担当の分身が、右側中距離から即座に加速の魔法陣を二重に重ねる。

重なる光。

「マジックランス」

短縮詠唱。

二重魔法陣を通過し、更に加速した槍がアルクの右脇腹へ直撃。

鈍い音、肉が裂ける感触。

アルクの身体が僅かに揺れる。

だが。


「……効かぬなぁ!!」

獣の形相で笑い、アルクは槍で闘技斬撃を放つ。

その瞬間、ホークスの背筋を冷たいものが走る。

(死ぬ)

槍分身を前に配置し防御を命じ、自身は闇魔法カゲロウを発動。

立ち位置の認識を前後にずらし、後退。

しかし――

アルクの闘技斬撃は分身の持った槍ごと斬り裂き、カゲロウの残像をかき消し、ホークスの腹を裂いた。

熱い、焼けるような痛み。

視界が揺れる。

だが致命ではない。

ギリギリで逸らした、後退するホークス。

腹を押さえた瞬間、残っていた分身が消える。

アルクは脇腹を押さえ、痛みを掻き消すかのように大地を震わせるような咆哮を上げた。


互いに傷を負う、だが。

(致命傷じゃない……)

ホークスの胸に焦りが灯る。

二重魔法陣ですら、この程度。

腹の傷が脈打ち思考が乱れる。

それを誤魔化すように、ホークスは吐き捨てた。

「……お気に入りの槍、よくも斬ってくれたな」

アルクは荒い息を吐きながら笑う。

「お前の魔法での手傷と……おあいこだろう?」

ホークスは言い返そうとする。

こちらの腹の傷のことを、だが言葉が出ない。

余裕がない。

頭の中で思考が暴れる。

(威力が足りない? 速度か? 位置か? いや、魔法そのものの通りが悪い……?)

その時。


ふと、ウィンの顔が浮かんだ。

帰らなければならない。

守らなければならない。

ここで倒れれば、終わる。

(命を削らなければ……勝てない)

覚悟が、ゆっくりと腹の奥で固まる。

ホークスは顔を上げる。

瞳に迷いはまだ残っている。

だが、その奥に――

危うい光が灯り始めていた。

均衡は、崩れつつある。


 第16話――終


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