第15話――多重の刃と一振りの槍――
両軍の兵士達は、二人の対峙を固唾を呑んで見守っていた。
「魔獣将様が……押し返された?」
「いや、まだだ! あれは様子見だ!」
「ランクXだぞ……本物の化け物同士だ……」
レイナス側からは、かすかな希望が滲む。
「止めている……本当に止めているぞ!」
「いけるかもしれない……!」
オルクス側は興奮に震える。
「魔獣将様、やっちまえ!」
「ぶち抜けぇぇ!」
戦場の空気が、熱を帯びる。
アルクは楽しそうに笑いながら、槍をゆっくりと構えた。
「いいな……やっぱりお前はいい」
低く、地を踏み締める。
「行くぞ、ホークス!」
突撃、大地が抉れ、砂塵が舞う。
ホークスは先ほど受けた一撃の重みを思い出していた。
――重い。
知っているアルクより、確実に強い。
あの頃より、さらに研ぎ澄まされている。
黒い大剣を構え、真正面から迎え撃つ。
アルクの槍が唸り放たれる横薙ぎ。
身体中に響く衝撃。
ホークスはその横薙ぎを黒い大剣で受け止めた。
腕が軋む。
「ははっ!」
アルクの目が輝く。
好敵手との戦いを、全身で楽しんでいる。
続けざまに、薙ぎ払い。
さらに薙ぎ払い。
重く、速く、角度を変えて連続で叩き込まれる。
ホークスは受け止める。いなす。だが、じりじりと後退する。
地面に靴底がめり込む。
アルクはさらに手数を増やす。
暴風のような連撃。
(まずいな)
――このままでは押し切られる。
ホークスは連撃の隙間に強引に踏み込んだ。
ホークスの体勢は崩れている。
だが構わない。
「闘技――強斬撃」
捨て身気味の一撃。
黒い大剣が唸りを上げる。
アルクは真正面から受け止めた。
黒い斬撃との衝突が大気を震わせる。
アルクの腕が、わずかに痺れる。
「……いいな」
嬉しそうに笑う。
「久しぶりに痺れた」
ホークスは肩を竦める。
「捨て身で放ったんだがな。痺れた程度か。少し自信を無くすな」
自傷気味に皮肉を込めて言う。
アルクは笑い、黒い大剣ごと弾き飛ばす。
ホークスの身体が宙へ舞う。
空中で体勢を立て直しながら、三体の分身を召喚。
同時に、遠隔で小型のマジックシールドを多数設置する。
アルクを中心に、空中へ幾つも浮かぶ透明な足場。
ホークスは分身に遺物の大鎌、遺物の小双剣、腰のロングソード、大量の投げナイフを渡す。
本体は地上へ降りる。
分身達はマジックシールドを台に、空中へ散開し留まる。
アルクは槍を肩に担ぎ、目を細めた。
「……面白ぇ」
低く笑う。
「昔から思ってた。お前の戦い方は多彩で見てて飽きねぇ」
ホークスは黒い大剣を構えながら呟く。
「真っ向勝負の化け物には、少し嫉妬していたさ。俺には出来ん」
次の瞬間、突撃。
ホークスが地を駆ける。
同時に、空中の分身達が足場を飛び回りながら投げナイフを雨のように放つ。
多方向、死角。
速度も角度もばらばら。
アルクはそれを避け、槍で弾き、身体を捻りながら対応する。
黒い大剣が振り下ろされる。
アルクは槍で受け止め、力を込めて吹き飛ばす。
ホークスが後退。
その隙に、アルクの左斜め後ろ上から大鎌を持った分身が斬りかかる。
投げナイフがさらに援護。
アルクはナイフを避けながら槍を切り返す。
振り向きざまの薙ぎ払い。
大鎌の分身が消え、大鎌も消えホークスに戻る。
同時に、小双剣の分身が地上へ降り、アルクの右下から低く斬り込む。
アルクは左足に重心を預け、体勢を変える。
アルクから放たれる凄まじい足刀横蹴り。
小双剣で受け止めるが、衝撃に耐えきれず分身が消滅、小双剣もホークスに戻る。
残るロングソードの分身が左側から斬り込む。
吹き飛ばされたホークスも体勢を整え、黒い大剣で挟み込む。
アルクは重心を戻し、身体を回転させ一閃。
ロングソードの分身ごと薙ぎ払いそのまま黒い大剣へ。
ホークスは攻撃を中断し、防御に切り替える。
勢いのついた薙ぎ払いを受け止めるが凄まじい衝撃に動けなくなる。
さらに、アルクが黒い大剣を蹴り、ホークスが後退する。
互いに距離を取る。
黒い大剣が構え直される。
槍もまた構え直される。
辺りを静寂が包む
そして周囲から爆発する歓声。
「今の見たか!?」
「分身が三体消えたぞ!」
「魔獣将様、すげぇ!」
「でもあの男も……まだ立ってる!」
アルクは息を吐き、楽しそうに笑う。
「濃いな……」
ホークスは冷静に、しかし確かな手応えを感じながら分析を続けていた。
多方向からの攻撃にも動じない精神力。
異常な反応速度。
広い視野。
――感知魔法か。
――闘技による感覚強化か。
――あるいは覚醒。
だが、完全ではない。
わずかにだが、反応の偏りがある。
踏み込みの瞬間、右側の防御が遅れる癖。
呼吸の切れ目。
今の連撃で、確かに“届きかけた”。
ホークスは確信する。
――崩せる。
これまで攻撃魔法を使わなかったのは、奥の手として隠し、奇襲性を最大まで高めるためだ。
魔法を見せれば、アルクは必ず適応する。
だからこそ温存していた。
だが今は違う。
通る。
魔法を絡めれば、勝機はある。
黒い大剣を握る力がわずかに強まる。
視線は揺れない。
次で、仕留める。
ホークスは、確かな勝ち筋を見出していた。
第15話――終




