59話 平行から交差へ
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‐side 平和な世界‐
「橘」
「はい」
「交代で対応できるように指示をして、アイビーちゃんを連れてきておくれ」
「はい」
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‐side 城のある世界‐
「息子・・とは?」
「なんじゃ、息子もしらんのか。わしと王妃の間に生まれた男子のことじゃ。継承者。シンプル~」
「ですが、王太子は?」
「ああ、あれは影じゃ」
「影?」
「こいつが全ての魔術の知識を詰め込んだ影じゃな」
「・・ではこの方が本体だと?」
「むしろ影が優秀すぎてこっちが影なんじゃないかと最近は思い始めておったが」
「ちゃんと仕事はしてるだろ」
「公務は一度もこなしておらん!」
「うっ」
「こいつはのう、魔法変態なんじゃ」
「へっ・・んたい・・」
「あれは5歳の頃じゃったか、突然「父上!魔法王に僕はなる!絶対」と言い出しおってのう。こやつが生まれたとき、あまりの感動で息子の才能の邪魔をしないと誓いをたてておった親の鏡のような私は、全面的に協力することに決めた」
「・・・」
「その代わり!冒険譚を全て報告することを約束したんじゃ」
「そう・・ですか」
「なのに!ここ数年は全く報告してくれん!私はもう限界だ!」
「ち、父上・・」
「知らんもーん」
「申し訳ありませんでした」
深くかぶっていたフードを脱いで、綺麗なお辞儀で謝罪したその人は
青い涙の人で
「え・・」
私は固まってしまった。
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‐side 自分にとっての平和‐
全ての準備を整えてから、彼女の部屋をノックする。
「ドウゾ」
ここ数日でめきめきと上達していく日本語が聞こえた。
驚かさないようにそろそろとドアを開けて中に入る。
話があるとジェスチャーで示し、タブレットで地図を開く。
私とこの場所へ行ってほしいと言葉と指で説明する。
すぐに理解してくれたようで、30分後に出ることも承知してくれた。
何か持っていきたいものがあるらしいので、大きめのバッグを渡す。紙袋に近い簡素なものだけど、興味津々で広げたりしている様子に、なんだか幼児を見ているような微笑ましい気分になる。
自分の一部とはいえ、今世は始末をつけるつもりで邁進して、ケリがついた今。まだ少し本当に気を抜いていいのかわからないけれど、ほんの少しだけ肩に入っていた力は弱まっている。
本当に終わったのなら、自分にできることをし続けるだけ。
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‐side 城では‐
「許さんもーん」
「・・・」
押し問答が続いている。
えっと、青い涙の人はオルビスで、オルビスの気配はひなたさんも玲央さんもまとっていて、でも顔や姿はこの人で。
???
全然理解できない。
「お前がなんも報告せん間に影も消えたから、わしがずーっと仕事をカバーしておったのに!」
「は?影がいなかったのですか?」
「おらん」
「いつから」
「いつからじゃったかのう・・」
「反応などなかったのに」
「まあどちらにしろそろそろ王位のことも考える時期じゃ」
「・・・」
「お前、婚約者がいることも知らんじゃろ?」
「は?」
「不満や抗議は受け付けておらんわ!」
「横暴!」
「お前の態度が悪い」
親子喧嘩は収まりそうにない。王族でも私たちと同じような親子喧嘩をするのだなと妙に感心した。
だけど、オルビスの要素はない。おそらくの王子様からオルビスの素粒子みたいなものは全く感じない。
ひと通り喧嘩をして気が済んだのか、急に静かになった。
その間玲央さんがひなたさんにずっと通訳をしていたようで、
「なんか親子喧嘩って、すげーしょーもないんだなって気がついたわ」
と、ぐったりしていた。
「喧嘩できる親がいるのって羨ましかったのに、今は羨ましくない」
ひなたさんがげんなりしているのが伝わってくる。
「あの・・」
「うん?」
返事をしてくれたのはひなたさん。その優しい返事になぜか懐かしい想いがこみ上げる。
「なぜあの人はオルビスの、というか青い涙の人にそっくりなんでしょう?」
「・・似てるかな?青いやつでしょ?」
「はい」
「・・ちょっと待って、この顔と同じやつを見たってこと?」
あの好みしかない顔がズンズンと近寄ってきた。
纏う空気感みたいなものが全く違うけれど、顔は好みすぎてちょっと目が痛い。
そんな私の手をひなたさんがぎゅっと握ってきた。
それを見た玲央さんが反対側の手をそっと握ってきた。
行動はそっくりだけど、握る強さが違う。
「なぜ、手を」
思わずポツリと呟くと
「「なんとなく」」2人揃って同じ答えが返ってきた。
そんな私たちを見て、王様はニヤニヤし、そっくりさんは片眉を上げる。
何だろうこの状況はと思うけれど、とりあえずこれまでの説明をしていく。
「なんと!」
王様が目をキラキラと輝かせて、話を聞いてくれた。
「そんな面白いことが起こっておったのか!そなたには今も重なっているそなたの世界が見えておるのか?」
「いえ、今は見えていません。重なって見えるのは世界樹っぽいものがある世界とこちら側でしょうか」
「世界樹!!わしも見たい!」
世界樹かどうかはわからないけれど、今は薄くなっていることを説明すると「そんなあ」と言いながら膝をついてしまった。この王様、なんて可愛いんだろう。
息子としても捨て置けない落ち込み方がだったのか
「後で再現したジオラマ見せてやるから」
「もう信じられんもーん」
また親子喧嘩が始まりそうでヒヤヒヤしたけど
「して、お嬢ちゃんはなんでこんな重世界になったと思う?」
その言葉にしょうちゃんが重なって見えた。
「今、このときに重なって会うことを選んだから、そう思いたい・・です」
「なるほどのう。向き合うことで変化したかったのかもしれんのう。しかし過去は過去、今は今。悔いのないように精一杯生きる。これが人間の美しさかもしれん」
「そう、そうですね」
見えなくなった世界樹がそよそよと揺れたような気がした。
「なのにじゃ。わしの楽しみを奪ったこやつはやはり重罪人じゃな」
「え」
「王として命ずる。今後王太子としての使命を果たせ」
「ええっ」
「影も消えたことじゃしの」
「また構成するから」
「いいや、もう時間切れじゃ」
「父上はまだまだ元気じゃありませんか!」
「その父との約束を破り、楽しみを奪い、影すら消えたんじゃ」
「今後は約束を守りますから!」
「約束を破っておいて、今後は守るという人間の何を信じろというんじゃ」
「・・確かに」
「それにの、お前の妙なプライドみたいなものが消えておる」
「はい?」
「何か、プライドをへし折られるようなことがあったんじゃろう」
「・・ありましたね」
「良き良きじゃ。ついでにズルもやめろ」
「は?」
「お前はそんな顔じゃないぞ☆」
「いいえ!元からこの顔です!」
「私の顔を否定するな!」
「飛躍してそんなところに着地しないでください!」
「じゃあわしの顔もそれに・・」
「今度の着地点は欲の沼ですよ」
「その沼にどっぷりつかっておるくせに」
「・・・」
「ふう・・」大きく息を吐いてから
「そうですね。そろそろ腹を括ります。魔術を追いかけたところで、私がこれ以上何かを成すことはないと思い始めていたところですし」
「大丈夫。その研究は民の役には立っておる。王太子としての視点から見えてくるものもあるはずじゃ」
「・・はい」
「なんか話がまとまったみたいだな」
「うん」
「と、いうわけで」
「「?」」
「わしも異世界とやらに連れてってくれ」
「おうぅ・・そう来たか」
「父上!それは私も行きたい!」
「何を言っておる。お前が国を守ってくれているからこそじゃ」
「父上、なんかかっこよく言って結局それが目的だったんでしょう」
「うん!」
「うわあ、子供みたい」
「すごい純粋な返事だ」
「ま、行けるかどうかはわかりませんけどね」
「なにか聞き捨てならない言葉が」
「残念ながら、移動できる人間とそうじゃない人がいるようですので」
「なに!?んじゃわしは行けないのか?」
「そんなほいほい行かれてたまりますか!戻ってこられないかもしれないんですよ」
「まあそれは確かに。シューバは行き来できてるけど、アイビーちゃんは無理だし」
「・・あの、池ポチャは?」
「そうそう、ここいらは池と重なってるから移動=池に落ちるだしな」
「わしは泳げる。・・たぶん?」
上目遣いって愛嬌あるんだな、いやむしろこちら側に好意があるかないかで違う?それなら確実に私の中にこの王様への好意があるということか。
「その前に、婚約者の行方不明が報告されていない件を」
「おお、そうじゃった。偽物の影に嫁げと無理を言ったのが嫌じゃったのかと思ったが、違うんじゃな?」
「向こう側の世界に迷い込んでしまい、戻れなくなっています」
「そうじゃったか」
「捜索願いなどは出されておらず、私がたまたま向こう側へ行けたことにより無事を確認いたしました」
「まあ、言い出せんだろうのう」
「説明しても理解ができないだろうと予想し、ご相談するつもりでした」
「あいつも心配しておるだろう、ここに呼んでやれ」
「御意」
「さあて移動の準備を始めるぞよ!」
「お、おおう」
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