39 お客さんたち
久しぶりの宮掃除から5日ほど経った。
急にボンダルキンが私のお屋敷を訪ねてきて、キャッシュで4億ゴレット置いていったのでビビった。
なんでも田舎で修行するらしい。
意味はわからん。
でもまあ、頑張ってくれ。
さて、ここで問題発生。
少し目を離した隙に私の退職金が忽然と姿を消してしまった。
今お屋敷にいるのは、マッキィナとビビ、それから私だけだ。
ビビが盗みを働くってのはちょっと考え難い。
それに、朝から冷凍りんごを無我夢中でペロペロする可愛らしい様をずっと私に見せつけていたから、鉄壁のアリバイがある。
よし、犯人が割れたな。
どこだ、マッキィナ?
とっちめてやる。
ジャラララララララ――ッ!!
風呂場のほうが騒がしい。
行ってみると、素っ裸のマッキィナが準備運動していた。
浴槽が黄金の輝きを放っている。
金貨だ。
金貨の湯が張られている。
もちろん、出どころは私の退職金である。
「やりやがったな、バカ弟子がぁ……!」
私のゲンコツを掻い潜って、マッキィナは金貨風呂にダイブした。
「最高だわ!」
満面の笑みであった。
「夢がひとつ叶ったわ!」
「そりゃよかったね」
「やっぱりお師様を選んだあたしの目に狂いはなかったわ! さっすがあたしね!」
そこは私を褒めろ。
どうせなので私も入浴してみた。
キンキンに冷えた金貨で奥歯がガチガチしている。
硬くて痛いし、なんにも最高じゃないな。
最悪だ。
「あんただけ一生入ってな!」
「そうするわっ!」
私は秒でコタツに戻って暖を取る。
やっぱ冬はあったけえのが一番だな。
コンコンコン――。
玄関扉が叩かれた。
お客さんみたいだ。
扉を開けると、壁みたいなのがあって驚いた。
しかし、そいつは壁ではなかった。
ゴリラだった。
もっと言うと、ゴリラの神だった。
トリプルSランク冒険者にしてギルドマスター。
リアゴラスだった。
キルティも一緒だ。
今日もキャピキャピしていて、赤いツインテとふわふわマフラーを首に巻きつけている。
髪は巻きつける必要はなくない?
「どうしたの? 二人して」
特に、リアゴラスのほうは威圧感ハンパないから、お客さんとして来てほしい人ではないんだけど。
「よォ、リンナァ。邪魔するぜェ?」
この図体で邪魔なんてされたらお屋敷が傾きそうなんだけど。
居間に通すと、リアゴラスは二人分の椅子になんとか左右のお尻を乗っけて、地鳴りみたいな声で切り出してきた。
「ちょっと見ねェうちによォ、お前よォ、国の英雄になりやがったなァ」
帝を救出したからね。
宮でもけっこう華やかにお祝いされてしまった。
本当は貴族家の名だたる騎士しかもらえないはずの名誉ある賞もいくつかもらった。
依頼の達成報酬10億ゴレットもセットだ、ウハハ。
「ギルドからもよォ、特別報酬を出すと言ったよなァ。今日はその話をしに来たんだぜェ」
そんな話もあったね。
「たしか、大幅ランクアップが報酬内容だったっけ?」
「そうだぜェ。――おい」
「は、はいぃぃ……!」
詳細について説明する役割をキルティがおっかなびっくり請け負った。
「現在、リンナさんは『暫定Aランカーの清掃員』というとっても微妙な立場です。そこで、当ギルドは正式にリンナさんを一般冒険者として登録することにしました。その上で、トリプルSランクに推挙します。リンナさんももっと高難度のダンジョンに挑戦したいでしょうからねっ!」
したくねーよ、とツッコミそうになった。
ありがた迷惑という言葉を辞書で調べてきなさい!
「ん? トリプルSランク!? それって最高位の冒険者なんじゃ」
「ギルドとしてもSランクが妥当じゃないかって結論になったんですけど、たまたまその話がボンダルキン前宰相のお耳に入りまして。帝を救った大英雄じゃぞ、これ以上の活躍があるか! とお叱りを受けまして……」
あー。
完全に宮の都合だね。
ただの清掃員に救われたとあっては帝の威信に関わる。
世間体ってやつだ。
最高位の冒険者が至高なる御君をお助けしたってほうが華があるからね。
いつの時代も英雄は煌びやかでなければならない。
そうして、尾ヒレに翼がついて神格化されたり歴史が盛られたりしていくのを私は何度も見てきた。
「私が最高位冒険者かぁ」
リアリティーが無いな。
「同じトリプルSランクのリアゴラスはこれでいいの?」
「オレはよォ、構わねえぜェ。むしろ歓迎だァ。雑魚どもには任せられねェやべえ依頼は腐るほどあっからなァ。実力者が増えるのはギルマスとしても助かるんだぜェ」
すごい怖い顔でニヤニヤしている。
私、伝説の龍を倒してこいとか言われないよね!?
「これが、リンナさんの新しい冒険者手帳です!」
じゃじゃーん、とキルティは龍革の手帳を出してきた。
表紙の裏には黄金のタグが燦然と輝いている。
金の匂いを嗅ぎつけたマッキィナが風呂場のほうから飛んできた。
裸で。
帰れ。
「それじゃァ、オレらは、おいとまするぜェ。オラァ、来いやキルティ。仕事の時間だァ」
「うう、わたし、リンナさんとゆっくりお茶したいですぅ……」
キルティはゴリ之神にかっさらわれてしまった。
可哀想に。
その後すぐ、コッコが戻ってきた。
なんだか知らないが尻尾フリフリでご機嫌上々だ。
「それがし、姉上に褒められました!」
「お姉さん、大使だったよね」
「はい。一度は門前払いされたのに、どういうわけか皇国政府側から非礼を詫びたいと申し出がありまして。使節団一同出向いてみると、なんとなんと帝御自ら出迎えをしてくれたのです」
ほほう。
えらく待遇が変わったね。
「それがしが帝救出に関わったことで、宮も態度を改めたのだろうって姉上が、えへへ……頭撫でられちゃいました」
大変だ。
コッコが溶け落ちそうなくらい赤い顔をしている。
「すべてリンナ殿のおかげです」
「みんなのおかげだよ」
私たちはパーティーだからね。
「領土問題やほかにも課題は山積していますし、使節団は来春まで皇都に滞在するようです。リンナ殿、それがし、もう少しばかり居候をしていたいのですが」
甘えるような上目遣いが絶妙にいじらしい。
いいよ。
大歓迎だ。
1日1回頭や尻尾をなでなでさせてくれるなら、いくらでも滞在してオーケーだ。
では、さっそくモフモフを献上してもらおうか。
「リンナよ、朕が遊びに来てやったぞ!」
コッコに飛びつこうとしたところで、今度は別のお客人がやってきた。
帝だ。
護衛の騎士たちがズラッと並んでいる。
……が、そんなのはどうでもいい。
金ピカ鎧がいた。
例のフレイム・リッターくんが。
なんか様子がおかしい。
金ピカ度合いが前回の比じゃない。
まるで本当の黄金のように輝いている。
そして、鎧の胸元には皇国の国章が鮮やかに描かれていた。
「この者は朕直属の騎士にしたのじゃ!」
『コォッ!!』
誇らしげに胸を張る帝に合わせて、金ピカくんも胸を膨らませている。
帝付きの騎士か。
すごいじゃないか。
私よりも大出世じゃん。
よかったな。
「で、帝。何のご用?」
「用というほどのこともない。朕は広く世を知るために、たまには外出することにしたのじゃ。リンナの屋敷にも足繁く通うつもりゆえ、りんごジュースでもてなすのじゃぞ?」
「あ、はは……」
一国の主か。
またとんでもないお客さんが来たもんだ。
というわけで、私の忙しくも賑やかな日常がこっそり幕を開けた。
明日は宮掃除の日だ。
宮じゃ掃除係を数名雇い入れたらしい。
私はその子たちの教育係を任されている。
私がいない日でもお掃除できるようにね。
宮廷掃除係係長・兼・トップランク冒険者。
それが今の私の肩書きだ。
宮を出て、1ヶ月。
1000年も代わり映えしない日常を送っていたのに、たったひと月で変わってしまうこともあるんだね。
これからもきっと新しい驚きがたくさん見つかるだろう。
それを楽しめるようなセカンドライフにしたいな。
そんなことを思った私であった。
これにて完結です!
読んでくださった皆様、ありがとうございました!
最後に下の★★★★★から『評価』をいただけると嬉しいです!
お疲れ様でした!




