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第一章① 再会は地下牢で

第一章開始します。まずはダイヤモンド王国というところから出発です。

ダイヤモンド王国のお話が終わるまで、毎日更新の予定です。

「……という経緯で、戻ってきたわけだ」


 それから十年ほどの時間が流れた。

 辺境の村に暮らす夫婦の子供として生まれ変わったクラウドは、紆余曲折ありながらも、弟子であるハッコウのもとを訪れた。

 ここに至るまで、クラウドは多くの屈辱と困難を味わったのだが、それはまた別の機会に語られるかもしれないし、語られないかもしれない。


 ちなみに、クラウドの今生の名前はアルという。

 名前の意味は「六」。夫婦の子供の中で六番目に生まれたので、そう名付けられたと言えば、彼がここまでどんな扱いをされていたのかは想像がつくだろう。


「神あの野郎、絶対にあそこに転生させたの嫌がらせだぞ。次会ったときがあいつの最後の時だ」

「やめてくださいよ……」


 クラウドが転生するに至った経緯を聞いていたハッコウは、神の殺害予告をする目の前の子供がかつて自分が師事した賢者の生まれ変わりであることを疑っていない。

 もちろん、最初は目の前の子供がクラウドの生まれ変わりだと信じはしなかったが、話を聞くにつれて転生が事実だと思い知ったのである。

 そしてこうも思った。


 生まれ変わってもこの人変わらずロクデナシだなぁ、と。


「……で、だ。神の野郎をぶっ殺す算段については後々詰めるとして」

「詰めないでください……」

「何があった?」

「魔導書のことですよね……」

「それもあるが……なんでお前、こんなところにいんだ?」


 クラウドの質問には二つの意味があった。

 魔導書を読んだ者が魔法を使えるようになるのはいいとして、なぜその魔法が弱すぎるのか。

 そして、なぜハッコウがダイヤモンド王国の地下牢に入れられているのか。


 転移魔法でハッコウのもとに飛んできた瞬間移動してきたクラウドは、自分がどこに来たのかを知ってからどれほど驚いたかわからない。

 驚愕したのはハッコウも同じだ。


 クラウドの残した魔導書のおかげで、誰もが魔法を使えるようになった。

 目の前の子供はまだ十にも満たない歳だろうが、魔導書を読みさえすれば魔法は使えるはずだ。

 しかし、クラウドほどの上級魔法となると、使える者はいない。今使われた転移魔法もその類に入る。

 いや、転移魔法自体は使えることには使えるだろう。ただし、ほんの数メートルを移動するだけの代物だ。

 そんなことをやってのけるこの子供は、間違いなくクラウドだと確信したのだ。


 それと、弟子が牢屋で鎖に繋がれているというのに、神に対して愚痴り始めて自分が転生した経緯を話したあたり、やっぱり本人だと確信していた。


「まずは魔導書のことからお答えしますね」

「うむ。見た感じ、特に問題ないように思えるが」

「結論から言うと、ボクにもわからないんです」

「は? お前舐めてんの? 一回燃え尽きとくか? 神に後で殺しに行くからよろしくって伝えといてくれ」

「ちょ、待ってください! 魔法はストップ!」


 役立たずの弟子を消し炭にしようと火の魔法の発動準備を始めたクラウドを慌てて止める。


「ここから先は言葉を選べよ。お前の命は俺に握られてることを自覚しろ」

「ホント……お変わりないようで何よりです」


 皮肉めいた言葉に、やっぱ殺すかとクラウドは思ったが、そういえばこういう奴だったと思い出して我慢する。

 パシリは必要だし。


「いちおう、何が原因かはわかっているんです」

「わかってんならそれ解決すれば終了じゃねぇか」

「それが解決できないんです、ボクには」

「……回りくどいな。どういうことだ?」

「さっきの師匠の話を聞く限り、師匠の死後にボクが何をしたか、大まかにはご存知ですよね?」


 うなずく。

 確か、魔導書を複製して世界中に頒布したはずだ。

 そうやって、来るべき魔王との戦いに備えて魔法を使える者を増やそうとした。


「その通りです。でも、複製する前にボクはあることをしました」

「あること? 魔導書に手でも加えたのか?」

「いえ……しかし、結果的には手を加えたことになるかもしれません」

「だから回りくどいっつの。死ぬか?」

「清書です! 清書をしたんです!」


 クラウドが魔法を発動しようとしたのを感じたハッコウは、即答する。


「清書……だと!?」

「はい。その際に、おそらく細かいところで写し間違いをしてしまったのではないかと」

「あー、なるほど。そういうことね。完全に理解したわ」


 前世の細かい記憶は定かではないが、魔導書をまとめ始めた時ですら老衰が始まっていたのだ。

 耳は聞こえにくくなるし、目は老眼でぼやけていた。

 しかも急いでいたからかなり文字を雑に書いてしまったかもしれない。

 確かに、誰でも読めるように清書が必要か。

 だがーー


「え? でもこれ……普通に読めるっぽくね? 写し間違いなんてない……いや、待て……あれ? ここ間違ってんじゃん! は? なんで?」


 この「なんで」は、なんで今の今まで気づかなかったのかという意味だ。

 そこで、クラウドはハッとする。

 手を加えたというのは、こういうことか。


「文章的は違和感がないのに、私が書いた内容と微妙に違っている……」


 そう、クラウドが気づけなかったのも無理はない。

 そもそも魔導書を書いたのはだいぶ昔のこと。

 書いた内容を一字一句全て覚えているなど、さすがの賢者にも不可能だ。

 ましてや、ハッコウが写した複製は、普通に読むのに違和感がない。

 だからこそ、彼は複製された魔導書を見ても写し間違いがあることに気づけなかったのだ。

 写し間違いがあると言われなければ、気づくことはなかったかもしれない。


「どうしても読めないところは意味が通るように単語を予想して写したんです……」


 なんでそんなことを、とクラウドが思っていると、ハッコウはそう言ってきた。

 どうしても読めないところ?

 弟子が何を言っているかわからず、クラウドは首を捻るが、それはともかく。


「チッ、変なことをしてくれたもんだな……だったら原本と見比べて直しゃ解決だろ」


 そう、クラウドの言う通りである。

 原本と見比べて写し間違えたところを見つければ万事解決だ。

 どこが「ボクには解決できないこと」なのか。


「無理です。何度も見返しました」

「は?」

「何度も見返したんです! 六冊分! っていうか簡単に言いますけどね、ボクだってけっこう頑張ったんですよ!? 師匠のクソ汚い字を清書したんですから!」

「いい大人が逆ギレしてんじゃねぇよ……しかも、言うに事欠いてクソ汚い字だと?」


 確かに多少雑に書いたとは思うが、人が十分読めるはずだ。

 思わぬところからの批難に、クラウドはムッとする。


「いいですか、師匠! あれは清書だとかそういうレベルじゃないです! 解読ですよ、解読! あれば文字だとわかってるボクだから何とかなりましたけど、他の人が見たら子供の落書きだと思われてもおかしくないですよ!」

「てめぇ……」

「しかもボクが本当の魔導書を隠してるとか言われて牢屋に入れられちゃうし……ホント最悪ですよ」


 どうやら、牢屋に入れられてる理由は、魔導書がらみのようだ。

 クラウドのような強力な魔法を使えるはずの魔導書なのに、それを読んでもクラウドの足元にも及ばないから、ハッコウが本物の魔導書を隠している……ないしは弱体化した魔導書を渡したと国王は思ったのだろう。

 そして牢屋に監禁して何をしたかを吐かせようとしている、と。


 自身の書いた魔導書になぜ不具合があったのかわかった賢者は、大きくため息をついた。

 こんなことで、自分は楽園を追い出されてしまったのか。しょうもないことこの上ない。


 だが、これで方針は立った。

 ハッコウが作った複製魔導書。

 それのどこに写し間違いがあるか見つけ、それを直せば万事解決だ。


 そもそもクラウドが天災や魔物の襲来に対処していたのは、クラウドしか対処できる人間がいなかったからだ。

 もちろん、魔法を使える人間はクラウド以外にもいる。

 クラウドは寿命で死んでしまったが、他の連中はまだ残っている奴もいるだろう。

 かといって、彼らが魔王に対応できるかというと、厳しいだろう。

 何せ、先の魔物の大群に手も足も出なかったのだから。


 なら、クラウド以外にも対処できる人間がいればいい。

 そうすれば、わざわざ自分が魔王と戦う必要もなくなる。

 そのためにも、ハッコウがしていたように、魔導書で魔法を使える人間を増やす。

 あとは強力な魔法を使えるようになった軍が魔王と戦ってくれるだろう。

 前回の人生では仕方なく自分が対応したが、今回は自分がやらなくてもいいようにする。

 そして、トラブルとは無縁のハーレム生活を作ってやる。


 ただ、それを実現するには、今世界中に配布されている魔導書ではダメだ。

 完璧な魔導書の複製を配らなければならない。

 そうと決まれば、善は急げ、だ。


「よし、じゃあ実際に見に行くぞ」

「え?」

「え、じゃねぇよ。フランクの作った魔導人形だってもうちょいマシなレスポンスするぞ。原因はわかったんだ。お前の写し間違いだってな。そして、お前が言うには俺の字はおおよそ人が書いたものとは思えないものらしい」

「らしい、じゃなくてそのものですよ」

「言ったな。それを確かめるんだよ。見に行ってそこまでひどくなかったら土下座してもらうからな。ただ、本当に字が汚かったら木の下に埋めてもらっても構わねぇよ」


 この一言が生涯で最も不用意な発言だったと、クラウドは後に悔やむことになる。


「写し間違いがあるってわかった以上、あとはどこに間違いがあるかわかればいい。そのためには、原本見るのが一番だしな。仮にクソ汚かったとしても、書いた張本人が見ればどこがどう違ってるのかわかるだろ。あとは直したものを複製して配り直せば終わりだ。……で、原本はどこにあるんだ? 家か?」


 言いながら、クラウドはついでのようにハッコウを縛る鎖を魔法で破壊する。

 彼につけられていた鎖は魔法を封じる効果があるのだが、外部からの攻撃まで無効にすることはなかった。


「師匠……なんで……」


 いつぶりかに自由に動かせる腕と、師匠である賢者の顔を交互に見る。

 まさか助けてくれたのかとハッコウは思ったのだが。


「なんでって何だよ。ここにいたままだと土下座できねぇだろ」

「……そうですよね。師匠はそういう人でしたよね」

「せっかく助けてやったのにむかつく奴だな」


 クラウドは口ではそう言うが、もちろん土下座させるために助けたわけではない。

 ハッコウはとても大切な人間だった。パシリは必要だ。


 特にクラウドは、この二度目の人生では矢面に立ってトラブルを解決する気はさらさらない。

 そこで言うことを聞く弟子の存在は非常に大きな意味を持つ。

 つまり、何かあっても、ハッコウを陰から操ればいいのだ。

 自分は指示を出すだけ。実行するのは弟子。完璧なプランである。


「よし、じゃあ行くぞ。原本のある場所を教えろ」

「あの……そのことなのですが、非常に言いにくいんですが……」

「何だ?」


 ハッコウは、魔導書の原本が一箇所にあるのではなく、世界の六大国家が一冊ずつ所有していると説明する。


 大陸中央に位置するダイヤモンド王国。

 鉱山に囲まれる北のオニキス帝国。

 南に広がる砂漠地帯を治めるルビー傭兵国家。

 農耕と放牧で栄える西のパール連邦。

 森林と山の中で独特の文化が広がる東のヒスイ共和国。

 海の上の群島が一つの国家となるサファイア群島国家。


 以上の六つの国が六大国家と言われている。

 全六冊の原本を各国家が一冊ずつ所有する理由は、今後は世界が一丸となって脅威に立ち向かうことを表しているというのが公式な声明だ。


「茶番かよ……」

「あ、やっぱ師匠もそう思います?」

「体よく没収したんだろ、お前から。あとは、どこか一つの国が独占してると危険すぎるから他の国が文句言ったってのもあるだろうな」


 言いながら、それなら確かに牢屋に入れられるのも無理はないかもしれないな、とクラウドは思う。

 もしハッコウが複製した魔導書が偽物で、本物の魔導書を隠しているのだとしたら。

 それを手に入れれば世界の覇権を手にするのも同然だ。

 まぁ、それは完全なる取らぬ狸の何とやらだったわけだが……。


「まぁいい。とにかく一番近くの原本がある場所を教えろ」

「それなら……確か、国立博物館で展示されてるはずです」

「博物館か。よし、まずはそこに行くぞ」


 そう言ってクラウドは転移魔法を発動させると、国立博物館に向かい、


「何だ……このミミズののたくったような字は……」

「あなたの字ですよ、師匠」


 冒頭の場面に移るのである。

面白いのかどうか不安なので、評価や感想をいただくと嬉しいです。

ブクマは……続きを読みたいと思ってくれているということでいいのでしょうか?

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