31話 セントール2
「「なんでここにいるんだよ!!」」
二人は声を合わせて同じことを言う。あれからナオヤは、勇者であるリョウの知り合いであるということで、先ほどまでの渋りが嘘みたいにあっさりと通してもらい、リョウとそのお目付け役であるお爺さんに案内されて国の中の宿屋の一室へとやってきた。
その宿屋も国の中のお城に近い場所にあり、相当高級なものである。勇者であるリョウの知り合いということで ここへと通されたのである。
それにはリョウと同じく異世界者であるナオヤが味方に、セントールについてくれることを期待して……と言う打算に基づいたものでもあるのだが。
二人きりで話したい、という事でミアとヘル、そしてリョウのお目付け役である爺さんはここにはおらず、俺とリョウ、二人きりである。
ミアとヘルも俺の仲間という事でそう、邪険には扱われないだろうし、そもそも二人に手を出そうとしても二人に敵うような実力のものはほとんどいないから大丈夫であろう。
「まさかお前までこの世界にいるとはなぁ」
「それはこっちのセリフだ。しかし、どうしてここに?」
「それがな……」
リョウは自分がこの世界にきた経緯を話し出す。と言っても、そう複雑なものでもなかった。ある日の帰り道、それはナオヤがいなくなってから数日たった後の事だった。ふと見かけた、白猫。なんとなくその白猫を追いかけていたら……王様の前にいたのだ。
そのわけの分からないリョウの話にナオヤは真顔で、素の返事を返す。
「は?」
「いやいや、冗談みたいな話だろ? けど本当なんだ」
それからというもののリョウはこの世界の救世主となってくれ等と言われ、断れない状況で仕方がなく、了承したそうだ。それから今まで剣を鍛え、魔物と戦い続けているらしい。
なんというか……アホみたいな話だな。
「俺の事はどうでも……はよくないけどお前こそ、何でここにいるんだよ!!」
「ああ、ええと……それはだなぁ」
なんて説明しようか。流石に魔物と戦うために勇者として呼ばれたリョウに迷宮の管理人として呼ばれたなんて言うのは色々と不味い気がする。
いや、でもリョウだしな。ずっと一緒にいて、俺の数少ない友達の中で一番の親友と言える存在だ。
決してそれを言ったから何かが変わったりはしないだろう。そう信じて、リョウへと俺が迷宮の管理主であることを打明けることを決心する。
「実はな……」
俺がこの世界にくることになった経緯、そして迷宮の管理主を任されてからの話。そして勿論……何度も人を殺したことも。ところどころぼかしながらこっちの世界に来てからの事を話し終えた。
話を聞き終えたリョウは先程再開した時よりも驚いていた。ずっと一緒にいて、親友だったナオヤ。その彼がこのようにとんでもない生活を送っているなどとは思っていなかったのだ。
そして……自分達、人族の重要課題となっている迷宮の内の一つを管理しているという話。いや……それよりも自分と同じく、人殺しとは無縁の生活を送っていた親友がこのように何も感じずに……いや、ひょうひょうと話しているように見えるがそれなりにナオヤなりの苦労はきっとあったのだろうが、それでも人を殺しているという事に驚きを覚える。
「ナオヤ、お前が迷宮の主だと言うのであればちょうどいい。俺に、人族に協力してくれないか? いま魔族の侵攻を受けているのはお前も知っていると思う。迷宮に眠っていると言われる力さえ手に入れれば今の人の窮地もなんとかなるかもしれないんだ」
きっと、ナオヤが仲間に、手伝ってくれると確信してその言葉を発する。今ではどうしようもなくなり、このままでは人族は死を迎えるだけだった。
それも迷宮の力が手に入れば変わる。そして……ナオヤはその力を手にいられる場所にいるのだ。
だが、返事はリョウの予想していないものだった。
「は? なんで俺が協力しなければいけないんだ?」
「え……?」
「だって、俺は迷宮主として、宝を守るために呼ばれたんだぞ。お前の手助けはしてやりたいとも思わないでもないが、正直人族がどうなろうと俺の知ったことじゃない」
ナオヤの言葉に狼狽えるリョウ。ナオヤなら、長年を共にしてきた親友なら何も言わずに協力してくれると思っていたのだ。
少なくとも元の世界なら何かあればすぐに手助けをしてくれる、俺もナオヤが困った時、すぐに手助けをしていた。お互いを支えあう親友、そうだったはずだ。
「ど、どうしてなんだ?」
「迷宮の力とやらを渡したら俺の命がどうなるかも分からないんだぞ。それに俺に人族を手伝うような義理は無い」
「そうは言ってもっ! 人族の、この世界の将来がかかっているんだぞ!? それに俺達が元の世界に帰る事にだって……」
そう、この世界を救う事はリョウが元の世界に帰る事にもつながっている。この世界に来た後、リョウに告げられた言葉、それは元の世界に帰りたければこの世界を救え、というものだった。元の世界に戻りたい、帰りたいと願うリョウはこの言葉で、この世界で戦う事を決心したのだ。
ただ、そんなリョウの思いを断ち切るような言葉をナオヤは発する。
「俺は元の世界に帰りたいとも思わないしな。俺の居場所は迷宮だ」
ナオヤの言葉がリョウの頭の中を反芻する。そして、考え、結論を出す前に、事態は動いた。
「動くなっ!!」
騒々しい音と共に、扉を開け、入ってくる複数の武装した人間。その人間達は武器を構え、ナオヤを取り囲む。
「な、師匠!! これはどういう事だ!?」
「ふむ、リョウよ。悪いが話は聞かせてもらった。その迷宮の管理をしているという男……悪いが身を拘束させてもらう。例え、リョウの親友だとしてもな」
リョウは武装した連中と一緒にやってきた爺さんへと尋ねる。その様子を見てこれにリョウは関与していないようであるとナオヤは理解する。
ふむ、さて一体どうしたものだろうか。周りには武装した兵たちに明らかにとんでもない実力を持っているであろう爺さんが一人。
ただ、ナオヤに焦りは全くなかった。逃げるのはそう難しくない。なんせ俺の体にひっそりとくっついている赤色の物体……そう、ぷに子だ。
ぷに子の事だから大人しくしているわけはないとおもっていたが、まさか体にひっそりとくっついてまで、やってくるとは思わなかった。
まあ、そのおかげで今の状況がどうとでもなりそうなのだが。
取りあえずはナオヤの顔を立てて捕まっておくとしようか。大人しくしていた方が身のためだと俺は直感的に思った。セントールが俺に対して何を要求するかも少し気になるし。
ただ、問題はミアとヘルだ。あの二人ならこのぐらいの兵士に後れを取る事はないだろうが……万が一もある。
ひっそりと体へとくっついているぷに子へと話す。
(すまないが、ミアとヘルを迷宮に帰してくれないか?)
(!!)
俺の意をくみ、ひっそりと俺の体にくっつているぷに子の作った分身が部屋から出て行く。あまりにも早すぎて兵士達には近くすることができないようである。唯一師匠と呼ばれている老人は気が付いたようだったが……何もいう事はなかった。
「麻痺毒」
兵士の一人が俺へと魔法を唱え、動きを拘束しようと思ったのだろうが、生憎魔力量の多い俺には全く効かないようだ。というか、そんな事をしなくとも連行されるつもりなんだけどなぁ。
魔法が効かないことに驚かれ、だした手枷にあっさりと身を差し出すことに驚かれながら、連れていかれる。
と、そんなほのぼのとしたことを考えながら俺はセントールの城の地下にある牢屋へと連行させられるのだった。
ということでなんとか。これからはぽんぽん話が進んでいきそうな予感?