29話 魔族
次からは話が進むはず……
魔族、それは本能だけで行動する魔物とは違い、知性を持つ、人と違う姿を持つ者の事である。たとえどのような外見をしていたとしても知性があればそれは魔族と呼ばれる。人にとってそれは只の魔物と違い、はるかに脅威性が増す。今、この世界はそのような魔族と人との争いが起きている訳であるが……
人族の最北端にある国、ベスタ、そこからさらに北に向かった土地。そこには魔族の町の一つ、テプラと呼ばれる場所がある。人族にも劣らぬ……それどころか人族よりも遥かに立派な街並み。植人種、岩巨人種、竜人種……他にも様々な種族がその街で暮らしている。皆、人とは違った特徴を持つ魔族と呼ばれるものだが、その本質はさほど人と変わりない。その証拠にこの町にもわずかにだが、人間が住んでいる。それはこの町の南で行われている戦いで連れてこられたもの、人の町にいられなくなった犯罪者、行く場所が無くなりここにさまよいついた者と様々だが、この異形の町へと馴染んでいた。
賑やかな街並み、その中にある一軒の酒屋。そこで会話をする三人……周りよりひときわ大きな体格の岩巨人、背には黒色の翼をはためかせ、頭には艶やかな黒い角、何よりも目立つのは露出の大きなその衣装を纏った誘夢種、そしてもう一人は何も変哲の無い人の姿……明らかに人間である。
三者三様な三人。ただ、そこに軽蔑、侮蔑と言ったようなことはなく、平坦に、気のいい仲間と飲みあうような会話が続けられている。ただ、その会話の中身は決して周りの雰囲気と同じく、にぎやかなものではなかった。
「で、どうなんだ?」
三人にうちの一人、岩巨人が見た目とは裏腹に低く、周りを落ち着かせるようなしんみりとした声で二人へと尋ねる。
「どうもこうもないわよ。貴方だって明らかにおかしいと感じているんでしょう?」
「ああ、勿論。スレイ、どうなんだ」
「やっぱり加速しているな。それに呼応するように人族も召喚者を増やしている」
そう、三人が話しているのは魔族と人族の争いの事だった。昔から続く魔族と人族の争い……ただ、それは拮抗していた。それもそのはずで魔族は人族を滅ぼそうなど考える者は皆無、そう言っていいほどに少ないのだ。人族の多くが魔族は戦いを好む……そう思ってはいるのだが内情はほのぼのとしたものであり、そのようなものはごく一部、そして魔界にすむものぐらいである。
だというのに何故戦いが続いているか……その主な理由は酷なもので、経済を回すため、それが一番の理由と言えるだろう。はっきりいってこの世界は今、人に溢れすぎている。このままでは近いうちにこの世界は人で溢れかえってしまう、そう考えた人の王と魔族の王は話し合った末に戦う事を決めた。それは種族の結束を促すために、そして人口を減らすために。いずれ問題が解決するときまで。
そう決められていた事を魔族は皆知っている。だからこそ今の現状はおかしいのだ。魔族が優勢なのは変わりないのだが、明らかにその人族への侵攻速度は今までの比ではない。このままでは人族は滅んでしまう、そのような勢いである。そして何よりもおかしいのが……戦う魔族達の多くがそのことを疑問に思っていないのだ。まるで人が変わったかのように我先と戦いへと向かっている。
「やっぱり怪しいのはあいつ等だよなぁ……」
「ああ」
三人に心当たりが無いわけでもない。と言うよりも明らかに怪しいものがあるのだ。それは人間側で迷宮を守護していたはずの三匹の神龍。それはそこ辺りにいる竜、とは違う。原初の龍、と呼ばれるものがある。それは遥か昔、神のつかいとしてこの世に飛び降り、世界を平定したという。その内の三龍は人間側で神具を守っていたと言われていたのに龍の城へと戻る姿があちこちで目撃されたのだ。そしてその後に起きた人間への攻撃の加速。これでは誰もが疑うというものだ。
「一体……何が起きているんだろうな」
三人は顔を見合わせるのだった。




