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罠迷宮の管理主   作者: 久吉
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二十話 スロウとクルエル

 ジュノーから東南にある山を越えた先、そこには森が広がっている。その森の中、三人の人間と一匹のスライムが歩いていた。一組の魔物狩りに、迷宮主とスライム、とても奇妙な組み合わせである。三人と、一匹のスライムの周りには体に黒と黄色のストライプを描く魔物、大蜂の死骸で埋め尽くされている。


「おー、ぷに子。凄いな」

「♪」

「「……」」

 男が胸に抱え、撫でられ喜ぶスライムを魔物狩りの二人は唖然として見ていた。それもそのはずでこの量の大蜂をこのスライムはあっさりと倒してしまったのだ。


 確かに大蜂自体はそこまで大した魔物でもない。だが、一匹が戦い始めるとその周りにいる群れどころか、森中の大蜂が集まってくる。そして何よりも厄介なのがその毒針だ。一度でも刺されると体が硬直し、動けなくなる。その隙に大蜂に近づかれ、体中を刺され、動けないまま死んでいく……という悲惨な死に敵を迎える魔物狩りは少なくない。



 そんな大蜂の対処の仕方は近寄らせずに、魔法で倒してくのが主なのだが……このスライムは麻痺毒など気にせずにその身一つですべての大蜂を切り裂いた。確かに、このぐらいの大蜂なら金級の魔物狩りである自分達なら苦戦することはない。だが、それでも万が一という事もあるし、決して油断していい相手ではない。


 と、問題はそこではない。何故、スライムがそんな力を持っているかだ。スライムと言えば最弱の魔物、それこそスラムの子供が小遣い稼ぎに倒すような魔物である。二人にはスライムが大量の大蜂を圧倒している目の前の光景が到底信じられなかった。



 そしてもう一つの疑問、それはこの男、ナオヤが何者かというものだった。連れているスライムはどんな魔物でも倒してしまいそうなほど強い、それに加えてこの男もまたとんでもないのだ。今まで魔物に手を出してはいないが相当な魔力を持っているのが分かる。ここまで魔力を持っている者は金級には恐らくいない。それどころか白銀級にも数名いるかいないか……と言ったところだろう。人の中でも十本の指に入るのではないかと言うほどの魔力、それなのに全く知られていないのだ。

 

 一応、階級を尋ねはしたのだが……

「階級? いや、俺は魔物狩りじゃないから」

 と言われてしまった。階級を隠すメリットなど何もない。もしや、この男は魔族なのでは? ともちらりと考えた。だが、そうすると魔物を殺して、俺達を助けた意味が分からない。俺達に同行したとしても得られるようなものがあるとも思えないのだ。


 スロウとクルエルがナオヤの本意を探ろうとしている間にも、ナオヤはのほほんとぷに子と戯れている。当人としては面倒ごとに巻き込まれたなぁ、まあ帰るまでの道連れかぁ、ぐらいにしか思っていない。そしてぷに子はやった、一緒にいられる時間が伸びた! としか思っていなかったりするのだが。


 

 そんな四人は森の中をまったりと魔物を狩りながら(と言ってもほとんどがぷに子によってだが)進んでいく。そうしている内に日も暮れ、四人は野営をすることにした。




「なぁ、あんたはどうして迷宮に行こうと思ったんだ?」

 四人で火を囲む中、スロウがナオヤへと尋ねる。それはスロウがずっと気になっていた事だった。自分とクルエルは行かされたのは無理やりみたいなものだ。自分から迷宮に行こうとする……それは大抵が自分の力を過信している者、一発山を当てようとするもの、そんなものだ。実力のあるものほど迷宮に行かないのが普通になっている。それだけに何故この男が今では帰るものがいない迷宮へと向かっているのが不思議でたまらなかった。


 ナオヤはスロウの質問に口ごもる。それを見て、スロウは、

「ああ、別に話せない事なら……」

「いや、なんて言おうかと思ってな。そうだなぁ、強いて言うなら俺も何で迷宮に行ったのかが分からないな。と言うより行くつもりはなかった。でもそのお陰で今は幸せだ」

「?」

 ナオヤの言葉に二人は首を傾げる。ただ、ナオヤだけが満足そうに頷いていた。そんな不可思議なナオヤの返事の後も三人はたわいもない会話を続ける。



 しばらく会話が続いた後、眠りにつく時間が訪れる。ナオヤはまったりとした頭で考える。今は一緒に行動しているとは言え、元は知らない者同士である。普通なら俺とぷに子、そしてスロウとクルエルで交互に見張りをしようかと思ったのだが恐らく警戒されていることだろうし、お互い一人づつ見張りをするのが普通かな? と、ナオヤはそのように思っていたのだが、


「別に見張りは俺とクルエル、そしてナオヤとそのスライムでいいぞ?」

「大丈夫なのか?」

「私達は貴方を信頼しています。それに助けてくれた貴方が今更狼藉を働くとも思いませんし」

 その言葉を受け、そりゃそうかと納得する。そんな事を考えているのであれば、わざわざあの場で助けたわけがないもんな。まあ、迷宮で結局殺すことになるとは思うんだが。



「それに……もしナオヤ達が本気を出したら俺達が敵うわけないからな」

あ、はい。正直な事で。それなら確かに片方ずつでも別々でも変わらない訳だ。納得しながら、どちらが先に見張りをするかを決める。その結果先に俺達が眠る事になった。


「じゃあ、ぷに子、先に寝ようか」

「♪」

 昨日と同じように俺の体を包み込む、ぷに子。俺の体を包み込んだことに対し、スロウとクルエルが驚いていたような気がしたが、気にしても仕方がない。俺は暖かいぷに子に包まれながらすぐに気持ちの良い眠りへとついた。



ナオヤが眠りについた後、スロウとクルエルは話し始める。

「明日には迷宮か……」

「いきなりどうしたの?」

再確認するように呟くスロウ。一体どうしたのだろうかと首を傾げながら不思議がる。私の知る彼、スロウはいつでも自信に満ち溢れていて、臆することはない。少なくとも私の前ではそうだった。その彼が今は明らかに不安そうだったのでつい、そう聞かざるを得なかった。


「やっぱりこのまま逃げ出してしまいたいなって思ってさ」

「どうしたの、いきなり?」

「不安になったんだよ。いや、元から不安だったけどさ。昨日お前が死にかけて……だけど俺は何もできなくて、本当にいなくなってしまうところで……」

 スロウは己の心情を吐露する。スロウは怯えていた。今回、迷宮にむかえと言う依頼という名の命令を聞いてから死は覚悟していた。でもそれはあくまで自分の死だ。例え自分が死んだとしてもクルエルは何としてでも守り切り、生きて帰そうと思っていた。思っていたのに……迷宮にたどり着く前にこのざまだった。



 そんなスロウの様子を見てクルエルはきょとん、と呆ける。

「そんなことを考えていたの? あははは、奇遇だね。私もだよ」

「え?」

「私もスロウさえ助かればいいと思っていたよ。例え……私が死んだとしても」


 自分と同じことを考えていた事に驚きながら、スロウはクルエルの言葉を否定する。

「駄目だっ! 俺は死んでもいいが……お前は」

「私もスロウさえ生きていればって思っていたんだけど……考えてみてよ。私ならスロウが死んで私だけが生き残ったら絶対に後を追うと思うの」

 クルエルの言葉、それを受け、スロウも考える。もし、今回の依頼から生き残った時にクルエルがいなかったら、そうしたら自分も絶対にクルエルの元へ行こうとするだろう。と、ここまで考えて彼女も同じことを考えていることに気付く。



「ははっ、なんだ。じゃあ二人とも生きなきゃいけないのか」

「そうだよ、私はスロウがいるから今も生きているんだし」

「クルエル……」


 感極まったスロウはクルエルに近づき、そして……

「っ……んん。ちょっと、ナオヤさんがいるのにっ!」

「大丈夫だろ、まだ起きないって

「あっ……んっ」

 そんな事を言うクルエルに我慢できなくなったスロウは彼女に口づけを交わし、その体へと手を伸ばし始める。それに対し、クルエルも口ではひていするが 満更でもない様子でスロウの行為を容認する。



「……」

 ただ、ぷに子に包まれながら横になるナオヤは形容しがたい顔をしていた。なかなか眠りにつくことができず、取りあえず目だけでも閉じていようと思ったら二人が会話を始める。そこまでは全然構わない、決してその内容が他の人が聞いたら赤面するようなものでもナオヤにはどうでもいいのだ。だが、その後の行為は一体何をおっぱじめてくれているんだ。



「んっ、あっ……ナオヤさんが起きちゃうって!」

「大丈夫だって」

 全然大丈夫じゃない、もう既に起きています。耳に響く嬌声、必死に抑えようとしているようだが、それは全然抑えきれていない。こういった経験のないナオヤには十分すぎるほどに刺激的なものであり、ナオヤの目は冴えて行くばかりである。


 そしてひっそりと誓う。こいつら……迷宮の中では覚えておけよと。





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