第3話 処刑を望まぬ者と望む者
※前半はコマンダー・ライカ視点です。
※後半はコマンダー・アレイシア(本作の主人公の一人)視点です。
【連合政府首都ティトシティ ヴォルド宮 最高司令室】
とある夜。連合政府を統べる男――ティワード総統に呼びだされた私は、連合政府中枢施設のヴォルド宮にいた。
[フィルド=ネストを処刑すれば、俺の計画に大きな狂いが生じる]
黒色の目立つ建物の最高司令室。今ここで、重大な会議が開かれていた。案件は、フィルド処刑の件についてだ。
「しかしながらパトフォー閣下、連合議会は多くの者がフィルド=ネストの即時処刑を望んでおります」
ティワードは立体映像の男に向かって話す。立体映像の男はパトフォーとかいうヤツらしい。私自身、彼の姿を見るのは初めてだ。
ローブで顔を含める全身をしっかりと隠し、目には細長いサングラスのような物を付け、誰だか分からないようにしている。パトフォー。その名も、偽名らしい。
[コマンダー・アレイシアを止めることは不可能か?]
「残念ながら、もはや処刑は止められません」
……このヴォルド宮で行われた事件。フィルドによる連合政府リーダー人質事件。それが連合政府リーダーたちを震え上がらせた。彼らはすぐにフィルドを処刑しろと考えている。こうなると、いくら連合政府グランド・リーダーの地位にあるティワードでも、止めることはできない。
[ならば、フィルド=ネストを奪え。そして、臨時の隠し場所としてヒーラーズ本部へと連行せよ。そして、何としてでも連合政府リーダー共を説得し、処刑を中止するのだ]
「はっ、しかし、――」
[あの女の身体は貴重な実験台だ。こんなところで死なせるワケにはいかぬ]
「……分かりました」
ティワードが承諾の返事をすると、立体映像は消えていく。
「コマンダー・ライカ」
「……アレイシアに向かい、フィルド=ネストを生きたまま連行しろ、ですね?」
「そうだ。コマンダー・アレイシアは連合政府本部よりの援軍を拒否している。わたしの代理人という名目で乗り込め」
「イエッサー」
「もし、成功すればコマンダー・アレイシアを解任し、将軍の地位をお前に与えようではないか」
「…………!」
私は跪きながら、ついニヤリと笑ってしまう。連合政府の将軍。それは、私が願望しているモノだった。私は中将。将軍はその1つ上の地位だ。長かった。やっとここまでこれた。しくじるワケにはいかない……!
「それと、アレイシア本部の状況も探って参れ」
「アレイシア本部の状況、ですか?」
「……“ビッグ・フィルド=トルーパー”の存在を確かめよ」
「イエッサー!」
私はそう返事すると、彼に背を向けて歩き出す。向かう先はヴォルド宮の出入り口だ。ふふっ、私がもうすぐ将軍……! 女1人連れて来るだけで将軍なんだから私はラッキーだな。……っと、それとビッグ・フィルド=トルーパーの存在確認も、か。
フィルド=ネスト――。コマンダー・アレイシア含む“私たち”クローン軍人のベースとなった女性だ。そこそこ強いらしい。
だが、それでも楽な仕事だ。彼女を連れて来るだけでいい。ティワードの命令と言い張り、無理やりにでも彼女を私の手に落とせば、いくらコマンダー・アレイシアでも絶対に逆らえない。逆らえば反逆者になる。
いける。ここが正念場だ、未来のコマンダー・ライカ将軍っ――!
◆◇◆
【レーフェンス州 アレイシア軍勢力圏 デスペリア支部】
私は血の臭いに満ちた、石造りの薄暗い監獄を歩いていく。辺りから上がるのは苦痛を訴える声と私への罵声。それに負けぬぐらい大きな音も上がっている。鞭打ちの音や電撃音――拷問の音だった。
「コマンダー・アレイシア……。ふふ、殺されろ……」
「私と殺し合いをしようじゃないか!」
「どうした、腰が引けたか!? 立派なのは地位と服だけだな!」
鉄の柵の向こう側には、衣服を纏わぬ裸のクローン“元”軍人たちがいる。その身体は傷だらけで、血が石の床に滴り落ちている。
日夜、拷問が続けられるここはデスペリア支部。第一級の凶悪犯罪を犯した強いクローン軍人たちが入れられる監獄だ。
「ククッ、コマンダー・アレイシアさんよォ……」
「コマンダー・デリート……」
「おお、私の名を覚えていたか。まぁ、忘れるワケねぇか」
「連合政府管理下の街で、連合政府の支配に反対する市民団体に向かって爆撃したんだったな」
「あれは連合政府のためにやったんだぞ……? バカ共をまとめて駆除しただけだろぉが。ついでに爆撃じゃない。私は毒ガスを頒布したんだ。爆撃バカは別の野郎だ」
「……それで無関係の市民が数百人死んだんだったな」
私はコマンダー・デリートのいる独房の前から立ち去る。別に彼女と話しにきたワケじゃない。
別に探しているワケではないが、無人爆撃機を使い、反対運動が起きていた街を無差別に破壊したのは、さて誰だったか。……ここにいるのは、そんな狂ったクローン軍人ばかりだ。
彼女たちがここから出る日は永遠に来ない。ただただ延々と拷問を受け、身体が限界を迎える日を待つだけ。しかも、簡単には死なせない。
「私たちのオリジナルを、処刑するのか……?」
「……コマンダー・シリカ」
牢の中から右目を失っているクローン将官――コマンダー・シリカが声をかけてくる。彼女は連合政府への反乱を企てた。ティワードやその他の連合政府リーダーを殺そうとした。だが、計画は最終段階で露見し、失敗に終わった。
「ああ、そうだ」
「ティワードは賛成していないんじゃないか?」
「たぶんな」
「……お前もここに放り込まれる日が近いぞ」
「どういう意味だ?」
「ティワードの意向に沿ってフィルドを殺せなければ、お前は連合政府リーダーたちの怒りを買い、地位剥奪。最悪、ここだ」
「…………」
「連合政府リーダーたちの命令に従ってフィルドを殺せば、ティワードとパトフォーの怒りを買って、やっぱりここだろう」
……パトフォーか。いるのか、いないのかもよく分からない連合政府の黒幕。コマンダー・シリカ曰く存在するらしいが……。その男が私を恨めば、私もこの連中のお仲間入りか。
だが、私にはどうすることも出来ない。そうならないことを祈り、フィルドを処刑するだけだ。今更、後には引けない。
「クローンなんか所詮はアイツらの奴隷だ! アレイシア、連合政府から離脱しろ! 従っていても、報われることはないぞ!」
「…………」
私はコマンダー・シリカの声を背に受けながら、彼女の独房前から去る。……本当は、コマンダー・シリカは悪いヤツじゃない。彼女の言うことは、最もなことだった。




