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23.師

最初に口を開いたのはキョウノスケだった。

「なぁ、リーダー、どが……。」

「言ってやるな。」

「しかし、やつ、ついてくるのが視界にチラチラ入って鬱陶しいどが……。」

そう言い、キョウノスケは斜め後ろを振り返った。

キョウノスケと目があってから慌てて彼は木の影に隠れた、つもり、らしかった。

「頭かくして尻かくさずとは言うが、あれじゃ頭も尻もなにも隠れちゃおらんどが。」

馬鹿馬鹿しいとでも言いたげにため息をはき、キョウノスケはそれ以後一切の無視を決め込んだ。

ほとんどのメンバーがそれにならった。

だが、ウンネはまるで彼を敵視するかのように常に視野に入れていた。ウミューはそれに気づいていたが何もつげなかった。

彼の中には今も昔も「世界は腐ってやがる」という思考が根本にあるのである。以前と違うとすればそれはただひとつ、「でも、だからこそ、そんな世界を変えてやる」という1つの意志だった。17年ほど経とうとしてこの世界でようやく人との関わりを少しずつ理解してきたようであった。

一行はクエスト受領所までたどり着くと、すぐにお金を手に薬等を買いに向かった。

以前は武器等を買いに出ていたが、今はそちらが先決となっている。チャルコハネは精神的にイカれてきたらしく、何かをブツブツ呟いては一人で笑うことが増えた。

ついに自分の目もガタがきたのだなと思いながらも少女を庇いながら戦いつづけた。

少女をリーダーに押し付けるとウミューはそのまま走り抜けた。

その矢先でチャルコハネをみつけた。

彼女は狂ったように笑いながら戦い続けていた。

殺すことを狂気に刈られながらも楽しんでいるようなのである。

危険な戦い方を、と思った矢先にかじりつこうとする敵が背後から襲いかかったのを目に、ウミューは変種を殴り飛ばした。

チャルコハネは笑ったままウミューに目を向けもしない。

お前は退け、そう告げようとしたとき黒い波が襲いかかってきたのを目にウミューは思い切りチャルコハネを突き飛ばすと自分はその波を突っ切るように逃げた。

だが、間に合わず噛み千切られて負傷した手をぶら下げていた。

岩影に隠れたとき、ウミューは痛みのあまり軽く呻き声をあげてじっとしていた。

このまま動けなくなれば自分は死ぬ。

だが、片腕を見捨てれば自分はこれから先戦うたびに大きなリスクを伴い、死ぬ確率もあがる。戦えない戦闘員に生きる理由などなくなる。

ウミューは痛みで冷や汗をかいている顔をあげ、ふっと笑うと「戦士たるもの、戦って死にたい、か。」と言った。

あのジジイの言ったことが今になって少しはわかるようになるとは。

見上げた空はどこまでも澄みきった青空だった。

ウミューはほぼ360度変種に囲われ、相手が自分を探しているらしいことを認識すると「いっちょ、足掻いてみるか」と全身に力を入れた。

微かな物音で変種は次々にウミューの上に降りかかってきたので、ウミューがニヒルに笑っていたところで、突然、変種は束のまま固まりになって地面に落ちてきた。

ウミューが目を見張っていると、変種の上には靴を脱いだキョウノスケの姿があった。

キョウノスケの脚は靴を脱ぐとツタ状のため、めったに脱がないが、今回表したその脚は見事に変種を貫き、束にしていて、まるで盛り上がった土の上に生えた人間型の木のように見えた。

「なぁーにバカやってるどがか、若造」

ウミューは「うっせ」と短く吐き捨てるとキョウノスケは「助けてもらっておいてその態度どがか、お前は昔から可愛いげがない」と言った。

二人の早すぎる話でその程度の会話は成り立ったが、その会話で変種がさらにこちらに襲いかかってきたのは言うまでもなかった。

キョウノスケは片足を振り上げるとツタでウミューを蹴飛ばすように掴み、遠くへとやった。

ウミューが「何をっ!」といいかけたとき、キョウノスケは静かに笑って「足手まといはいらんどが」と告げてから、静かに「生きろ」と言った。

その声が聞き終わるより先にキョウノスケは黒い波に襲われ、悲鳴をあげる間もなく変種によって姿を消した。

それが蹴飛ばされて宙に浮きながらキョウノスケを認識した最後の姿となった。

よほど強く蹴飛ばされたのか、運ばれたのか、ウミューが木に激突し動きが停止するまでしばらくの間があった。

あたりに変種はおらず、負傷した仲間が数人近くに横たわるなり、座るなりしていた。

ウミューはただ、「くそっ、くそっ!!」と何度も呟きながら地面を殴り、自分の腕から流れ落ちている血を止めようともしないでいた。

しばらくしてごっそり減ったメンバーの中からドーシェが戻ってきて顔を出した。

「負傷はしても無事だったのだな」とその場に居合わせたメンバーに告げると、ウミューはキョウノスケが死んだことをありのままに伝えた。

ドーシェは、ウミューの顔を見ないまま、そうか、とだけ答え、ウミューもドーシェの顔を一切見ようとはしなかった。

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