24.作案
ウミューは何故自分が生かされたのか分からずにいた。
そしてキョウノスケの「足手まといはいらない」という発言もどうも突っかかっていたのだ。
キョウノスケは本心からウミューに言ったのではない。そもそもそれが本当にウミューに向けられた言葉であったのかすら疑わしかった。
日は暮れ、時は過ぎ、傷は多少癒えてはきたものの、ごっそりと減ったメンバーは、ネーデルが生きていた頃の半数以下の人数になってしまっていた。
バンネルも今回の負傷で大きな傷を追い、毒持ちのランパイやベラトランシーでさえ無傷とは言い難かった。
「このままでは、我々ですら変種に太刀打ちできなくなる。なんとかならないものか。」重々しく宿屋で呟いたドーシェを尻目に誰もなにも言わなかった。
いや、正式には言えなかったのである。
相次ぐ情報組の死去による圧倒的情報不足に加え、相次ぐ変種進化系の新種の発生、結局ついてきてしまった少し馬よりの話せないメンバー一人が加わったところで状況はなんら変わらない。
メンバーの一部は自暴自棄になっていたほどである。
特にここ最近のチャルコハネはもはや目の当てられないほどに精神崩壊の一途を辿っていた。
苦しげに目を伏せたドーシェに向かってウンネが口を開いた。
「全くないわけでは、ないです。」
ドーシェは重々しく顔を視線をあげ、発言主であるウンネを見た。
「その残されている方法とは……?」
「危険ですが、成功すればこの世から変種が消えます。」
「消える?それは敵が消滅するということか?」
「いいえ、完全なる抹消、そして、それは二度と蘇ることはないでしょう。」
するとドーシェは笑い出した。
「そんなことはできない、敵が抹消されるならまだしも、変種そのものの抹消など、私達がただの人間になるというのと同じことだ、それは難しいよ。ましてや、その方法では君自信も消えてしまうじゃないか。」
だが、ウンネは笑うドーシェを見て、至って真面目な顔で「はい」と返した。
ドーシェもそれには笑うのをやめ、眉一つ動かさないウンネを見た。
「つまり?」
「ですから、このメンバー全員がただの人間になり、変種特有の能力の全てを失います。そして、自分も抹消されます。自分の中に蓄積された情報を開放し自然界に特有の構築ができれば、遺伝子レベルでの変更になりますので当然簡単ではありませんが、そんなにこの世界を守りたいのであればやってみる価値はあるかと。」
「そんなことができるのか?」
「自分の体内には新種含め、ほとんどの変種の情報が蓄積されています。それの削除と構築を行うのでそのための犠牲も出るかもしれない、それにその膨大な情報削除のための時間も必要です。当然危機を感じ取った彼らも死に物狂いでこちらに向かってくるでしょう。そうまでして救う価値がこの世界にあるのですか。」
ドーシェはしばし固まった。そしてしばらくしてからこう答えた。
「そうまでして救う価値などないだろう、人間は自らで自らを破滅に追い込むこともある」
「では……」
口を開きかけたウンネを静止して続けた。
「だが、それでも、そうでなければ我々が生まれなかったのも事実だ。世界は小さい、汚く、醜いかもしれない。それでも、愛でるべき星だ、美しき世界だ、我々が守るものはそれだけでいい。」
「承知しました、戦いの準備ができたら次の戦地へ。次が最後の戦いとなるでしょう。」
そう言って背を向けるウンネにドーシェは「まってくれ!」と声をかけた。
目を半開きにしたウンネがまだ何か?とでも言いたげにドーシェを見上げた。
「君は、自分の命が助かることを第一に考える輩が最も多い中で、自分が消滅することが怖くはないのか……?」
ウンネは虚無に口の端を持ち上げると、「人間の俗世を世界と呼ぶのならば、彼女がいなくなった世界など、自分には何の意味も持ちませんよ、命も同じことだ。感情の共鳴の仕方を教えてくれた唯一の人はこの世にはいない。自分が自分の役目を全うして消滅するならば、結構ではありませんか。」とつげてそのまま振り返らずに歩いて行った。
ドーシェはそんなウンネを見送りながらふとルリクレッサを思い出していた。
ウンネがネーデルを失った日から、ルリクレッサに似てきた、と思うのである。
失ったメンバーの数を数える気力もなえるほどにここ最近では失い過ぎた。
それから別の場所に移動し、体調がほとんどの者が万全になるまで動かなかった。
馬に似た彼はすっかりメンバーのようになり、時折悲鳴のような嘶きをあげる以外はこれといって支障もなく一緒にいた。
名前は勝手に「クヘルト」と呼ばれていた。それは、一度彼が頭を横に振った時に空気がもれるような音が口から漏れたからだと言う。
喜怒哀楽の激しい性格であるらしく、子どもたちに馬面などと馬鹿にされると激しく怒ったが、その名前は存外気に入っているのか呼ばれれば反応を示す。
言葉はわからずとも、なんとなくの感情を把握しているらしく、それが言葉ではない声となって大地や自然に共鳴し、増幅され響いているのだとウンネは言っていたが、ドーシェにはしっくりと来ない説明であった。
ウンネは一般に言葉を操るメンバーよりもクヘルトの感情のほうがわかりやすいようだった。
自分も言葉が話せない時があったからこそ似た感覚を共有しているのかもしれなかった。
ウミューは静かに減ったメンバーを眺め、一人物思いにふけっていた。
全ての準備が整うまでに半年はかかった。元気なものは皆変種を倒しに出かけたが、半年たってもなんとか戦えるまでにしか回復しなかったものも多い。
それでも皆戦闘に身を投じると決意していた。
ウンネが言った変種抹消の案にこれ以上無駄な戦いを続けるべきではないという意見で全員合意したのである。
もちろん、それに対し、異議を唱える者もいた。この案がうまくいく保証などどこにもないのである。
ただ、やってみる価値はあるだろうとそれで合意にこぎつけたのである。
その説得に、リーダーであるドーシェは相当骨を折ったようだった。
ウミュー含め、ただの人間になったところでメンバーには帰るところなどないからである。
議論の間中、言葉がわからないクヘルトには混乱した様子しか見せなかったが皆が大筋合意してからは自分も引き締まった顔をしていた。
まるでそれまで意味がわからず逆ギレのように怒っていた人物と同じようには到底見えない。




