14.半壊
「大袈裟な……。」と呟いて起き上がろうとするウミューをネーデルはとめた。
「起き上がっちゃ、めっ!なの!」
「どうか、したの?」
唐突に現われたのはバンネルだった。
外見年齢的には、ネーデルもバンネルも同じくらいに見える。バンネルの成長が長寿タイプなのか、人間と同じタイプなのか、短命タイプなのかはまだわからないが、ネーデルになんとなく仲間意識を持ったのだろう。うろたえていても怯えた様子は特に見せていない。
「これは、なんなの?」
「君は……バン……ネル?ウミューが、背中骨折しちゃったの!詳しい情報は後で話すの!だから、何か手当てできる物とか持ってきてほしいの!の!」
バンネルは、少し驚いてから頷いて、「まってて」と言うと走り去っていった。
その少し後にウンネが到着し、ウミューを安全と思われるところまで運ぶと、医療系に詳しいメンバーと交代し、坪と思われる場所を強く4箇所ほど殴った。
「これは厄介だな。」と呟くせいで何度もネーデルは泣きそうになった。
次の瞬間、バキッ!という音がして凄まじい痛みが身体中に走った。
「グァァアアアアアッ!」
「ウミュー!!」
身体を仰け反らせたり、転げ回ったりできるならしたかったが、出来るわけもなく、唇をただ噛み締めて痛みに耐えようとしていた。
「馬鹿者が。さらに傷が増えるだろ。歯を食い縛れ、歯を。あともう少し遅かったら、きさまは死んでいたぞ。治癒の早い特性が変な風に骨をつなげる前でよかったな。まぁ、全治3日ほどだろう。骨も粉砕したわけではあるまい。無茶はするなよ。」
そう告げるとどこかへ行ってしまった。
「ウンネ、ありがとう、なの。」
まだ苦しむウミューを前に、ネーデルがそう告げると、ウンネはなんてことなさそうに肩をすくめただけだった。
「あ、あれ?どこに行ったかと思えば……一応ありったけ持ってきたんだけど……。」
両手に抱えているのは手当て器具の数々だろう。木の棒のようなものまである。
「バンネル!ありがとうなの!」
ネーデルは、バンネルから受け取ると、素早くウミューの血を拭き取り、軽く包帯を巻いた。ネーデルが次の怪我人の元へ飛びだとうとしたとき、バンネルがそれをとめた。
「待って!」
「何、かな?かな?」
「僕は何をしたら良いだろう?今は何が起こってるんだろう?今までこんなことなかったのに!」
ネーデルは、少し考え込む素振りを見せると、「バンネルは、世界を襲っている変種と、それらと戦ってる劔ってお話を知ってるかな?かな?」と言った。
バンネルは、小さく、「そんな、他人事だと思ってた。僕はずっとこの村で、この世界で化け物と蔑まされて生きていくんだって……じゃあ、ここにいるのは、僕を迎えに来てくれたのは……劔なの?」と呟いて、ネーデルを見た。
ネーデルは、ニッコリと笑うと「そうだよ、ようこそバンネル。いきなり戦闘になってしまったけど、ネーデル達はバンネルの仲間で、世界の変種達と戦うことが出来る唯一の存在なんだよ。だよ。」と言った。
「だから、彼女は言ったんだ。『周りには必要でも、私には必要なんかじゃない』って。周りには必要でもって、そういうことだったんだ……。」
「バンネル!他の人たちの手当てをお願いするの!ウンネ!ネーデルとタンカ運ぶの手伝ってくれる?る?」
バンネルは、頷き、ウンネは、「はい、仰せとあらば。」と言ってネーデルについていった。ウミューは、ただ、歯を食い縛っていた。
敵を倒しおわった後、ほぼ全員が負傷していた。かすり傷程度の軽傷から、死の手前の重傷まで様々だが、相手が巨大であったために、かなりてこずったのだ。
ウミューの傷みもだんだん慣れて、浅い呼吸を繰り返しているところに、チャルコハネがハルネに寄り掛かりながらやってきた。
「へっ、ヒョロヒョロ男はもうへばってんのかよ、だらしねぇな。」
そう言うと、肩で息をしたまま口の端を持ち上げて見せた。
「チャルコハネ!よけいなエネルギーは使わないの!足だってまだ全然治ってないのに、血がにじんでるじゃない!」
ハルネはそう言うと、あちこち傷だらけの身体でチャルコハネを木に寄り掛かる用にして座らせた。
「なんてこと、ねぇよ。足は一応繋がったし、な。」
「だからって無茶していいなんて理由にならない!女の子なのに、また怪我が増えて……。」
ハルネはそっとチャルコハネの顔を撫でた。
「おい、ハルネ!ここは遊びじゃねぇんだ!傷が増えるのは当たり前だろ!だいたい、うちが無茶しようとうちの勝手だろ。」
「勝手じゃない!無茶したら、死んじゃう可能性だって高くなるんだよ!?チャルコハネは、治癒力が高くないんだから大きな怪我はしちゃだめなの!おまけに、傷つきにくい体質でもない。だから、お願いだから、無理しないで……。」
それ以降、二人は黙っていた。
ちなみに、変種の方はサンプリングをとった後、ウンネが半分ほど食べたことは言うまでもない。
今回の戦いは死者こそいなかったものの、負傷者は過去最多と言っても過言ではないほどの負傷者が出た。もちろん、ネーデルも怪我した一人に入っている。
怪我人を見付け、駆け付けたときに強風に跳ねとばされ、二本ほど木を折って民家の壁に激突したのだ。その際にネーデルの身体中に無数の小さい切り傷や擦り傷ができてしまった。
事態が治まると、村は荒野となりはてていた。
「いたぁいっ!ウンネ、痛いのー!やめてぇぇえ!」
半泣きの声でそう叫んでいるのは、ネーデルである。ウンネがネーデルの手当てをするにあたり、まず傷口をよく洗うということをしているため、ほぼ全身に傷があるネーデルにとってはかなり染みるようだった。
「暴れないでください。ああ、背中の方に細いみみず腫れが出来てますよ。あまり顔や前の方に傷がなくてよかったですね。」
「よくなぁい!痛いよぅ!」
「あなたが無茶なさるからでしょう。」
なんだかその会話が妙におかしくて、クスリとベラトランシーは笑っていた。
「よ、なんか良いことでもあったのか?」
ベラトランシーに話し掛けてきたのは、ランパイだった。
「良いことなんかないわよ、いきなり呼び戻されるし、誘導で疲れるし、おまけに腕を少し切っちゃったのよ?」
そう言ってつき出した二の腕には赤い日本の線が連なっていた。
「二の腕か、僕は足をやられたよ。ズボンがなかったら抉られてたな。」
そう言いながらベラトランシーの傷を舐めた。
「やっ!くすぐったいわよ、何するの?」
「いや、このままどっかに君と二人で消えてしまおうかと。」
「この建物半壊の中で?」
ベラトランシーはランパイを見て、クスリと笑った。ランパイは、「それも悪くはない。どうせ僕らもすぐに移動はできないしさ。」と言って少し笑った。
そのようにして消えたメンバー以外は、宿へとむかった。宿の中は、当然いろんな場所が栄えて人があふれかえっていた。




