13.新しい仲間
少年は、ただ、そこに立っているだけだった。
そこでドーシェが語り掛ける。
「君の力が必要なんだ。」
少年は、初めて口を開くと、「僕の?」と呟いた。
「そう、君の。」
「出ていって!化け物だ!そう言うんじゃないの?」少年の台詞には、妙な力があり、実際にそのように言われたのだと想像できるほど最初の二言は迫力があった。
「言わない。決して言わない。私達を見てほしい。君と同じ痛みを知るものだ。君の仲間だ。」
「僕の、仲間?僕に仲間なんていないよ。学校でそう言われたんだ。僕に仲間なんていないんだよ。」
淡々としゃべるその言葉には、悲しみや憎しみ、怒りといった感情さえ、何も感じ取れなかった。少年は、それからすぐにこう付け加えた。
「僕は、いらない存在なんだ。生まれてこなければ、彼女は、幸せだったんだって。」
彼女、母親をそう呼んでいるのだろう。
「違う、君はいる存在だ。いるんだよ。我々は、世界の変種と戦うための統べとして生み出されたんだ。」
一通りの説明をドーシェがし終わると、ドーシェは手を伸ばし、「さぁ、我々と共に来てくれないか。」と言った。
少年は、「僕が何ができるかなんてわかりはしないけど、僕が何かの役に立てるなら、行く。」と頷いてメンバーに近づいてきた。
暗がりでよくわからなかった少年の顔がはっきりとしだした。
少年の顔、右半分は、獣のそれとなんら変わらず、両頬のこめかみあたりに近いところには閉じているが小さな目がついていた。額にも大きな目が一つついている。
この少年には、五つの目が存在していた。
恐らく、ディンガンローの血をかなり薄くしたものが彼なのだろう。
少年は、額の目を開いて、メンバーを見渡すと、「驚いた?」と言って少し歯を見せた。歯並びの悪い歯が、いくつも覗いていた。
「いや、昔、君と似た奴がいたよ……君は他にどんな特徴がある?君の特徴は、我々メンバー内には、必要な戦力となり、長所となるんだ。」
ドーシェは、追憶に浸るようにそう言ってから少年に微笑んだ。
「驚かないの?本当に、僕が必要?」
「もちろん。」
少年は、初めて生きている目をしてみせた。驚いた様子でこちらを見上げたのだ。
こうして小学生は、仲間入りをした。
「君の名前は?」
ドーシェが聞いたとき、少年は再び濁った目になり、「化け物。」と答えた。
珍しくもないことだった。母親に化け物呼ばわりされて育った子供は、自分の名前が化け物なのだと思い込む。そして、大きくなり、事実を知ったとき、絶望するのだ。
「わかった。君はその名前が好きか?好きじゃないなら、新しい名前を我々と考えないか?君は、なんて呼ばれたい?」
「バンネル。彼女が……一度だけ僕をそう呼んだんだ。夢の中でだけど……僕をそう呼んだんだ。本当に僕かはわからないけど。」
「わかった。バンネルだな。よろしく、バンネル。私はここのリーダーであるドーシェだ。仲間はまだたくさんいるから、後で紹介しよう。さ、我らの宿へむかうぞ。」
また、しばらくは平和な日々が……日々が、続く、はずだった。
ある明朝、村の住人の叫び声で劔メンバー一同は全員対戦用意を意義なくされた。
変種が突然、村に襲い掛かり、人間に害を与えていたのだ。
「何事だ。」
駆け付けてみればその先にいたのは、巨大な鳥のような何かだった。
頭は3つあり、右から犬、鳥、犬。体は朱色でまるで超巨大トカゲともとれる身体をしていた。足は鳥の足の形をしているが、まるで鎧を纏っているかのように鉄のような鱗が生え揃っている。羽は付け根が茶色、先端にかけて黒くなっていくという異色だった。
鳥の鳴き声とも、犬の遠吠えともとれる声が村中を一喝すると、村人達は一斉に逃げ出した。中には混乱して大根を持って逃げている人も存在すれば、どうしたらいいのかわからずにただぐるぐるとその場を回るだけの人もいた。
「情報メンバーと毒系メンバー!急いで村人達を我々の宿の地下へ避難させろ!速やかに!その他、戦えるメンバーはやるぞ!」
ドーシェの怒鳴り声の後、皆一斉にそれぞれの配置に飛び散った。
ランパイは戦えるが、弓矢だけでは効きそうもない相手に、誘導へと回った。ネーデルは大根をもった中年女性に声をかけ、ベラトランシーは、その場を回り続けている男性に声をかけた。
剣メンバーの宿はほとんどが地下になり大きな使わぬ空間が存在する。それらはこういった非難時の一時的にでもシェルターになるためだ。
一度皆同じ方向へ流れだすと、人間とは不思議なもので、何も言わずともそちらへと流れていく。
だが、自分の身可愛さに人を押し退けたり、我先にとかけこもうとしたりする人がいる。それを仲介したり、注意するのも劔の役目である。
小さな子供が転んだらしく、膝を抱えたまま泣いていた。そこへ、ネーデルがすぐに来ると、急いで手当てをして、無理やり立たそうとしている親を一度子供から離し、抱き抱えて宿の入り口まで運んだ。
かなりの力仕事なため、ネーデルは疲れてしまったが、文句も何も言わず、元の作業へと戻っていった。
一方戦闘チームは、この変種は、ブェドリガナスという種類だとして、スピード組と力組にわけ、スピード組を囮&攻撃隊とした。
敵が気をとられ、混乱している間に翼がある、あるいは力があるメンバーは脳を打破した。ブェドリガナスの頭は鳥と犬なのでディンガンローやディロンガーほど潰すのにてこずらない。
そう思っていると、ブェドリガナスはいきなり飛び上がり、翼で煽り、竜巻をつくりあげてしまった。
戦士たちは空へとまいあげられ、それぞれに投げ散らかされてしまった。
もちろん、ウミューも投げ散らかされた一人である。
強く木に打ち付けられ、背中を強打した。
「クソッ……頭が……。」
背中と共に強打したと思われる頭から血を流しながら、起き上がろうとした。だが、それはかなわない。
神経がおかしくなったのだろう。あまり背中の痛みを感じないのもおかしい。だが、意識ははっきりとしている。無理やり立たそうとしたところにほぼ叫び声が聞こえた。
「ウミュー!!?」
誘導を終えたネーデル達がかけつけてきたのだ。
「大丈夫!?大丈夫?」
「問題ない……。」
「ウミュー……ッ!?」
ネーデルはウミューの全体を見てから目を見開いた。「ウミュー!骨が、骨が折れてるのー!急ぐの!だ、誰か!タンカを!このままじゃ、ウミューの骨変な風にくっついちゃうの!!誰か、手伝って!」
そこへひょっこり現われたのはウンネだった。
「あなたの声を聞いたような気がして……。」
「ウンネ!ウンネ、助けて……!このままじゃ、ウミューが……!」
おろおろとしたままネーデルはウンネにすがりついた。
「落ち着いてください。彼の状態はかなり悪いですが、いきなり死ぬってことはもうしばらくありませんから。自分はタンカを持ってきます。あなたは、力がまだ余っていますか?」
ネーデルは、少し戸惑ったように頷いた。ウンネはそれを見て少しだけ笑うと「じゃあ、しばらくお待ちを。」と言ってどこかに走り去っていった。
「ウミュー……!」
ネーデルはウミューの手を握り締めた。




